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第三十九話 妖の見える女の子

7/5分は都合により夜投稿になります。よろしくお願いします。


「化け物屋敷のやつだ!」


 スーパーからの帰り道。双子と道を歩いていると、小学生男子だろうか。

 

 俺のことを指さして、やいのやいのと騒いでいる。


「合ってるパターンってあるんだなぁ」


 間違ってないだけに否定するのもなんだか違う。それに、小学生にムキになるのもなぁというところだ。


 こういうときはあれだ、大人の対応で無視である。


「それにしても。俺も有名になったよなぁ」


 最近では、道を歩いていても「アトリエの方ですよね」とファンらしき人たちに声をかけられることも珍しくないし、原画を売ってくれと家まで押しかけられることもある。勿論断ったが。


 俺は全く小学生たちを気にしていなかったのだが、一緒に歩いていた双子は違ったらしい。


「はるとを馬鹿にするなー!」

「くらえー!」


 自分たちの姿が見えないことを良いことに、小学生たちへと猛ダッシュし、体当たりを仕掛けている。


 体当たりされてよろめいた小学生たちは「出たー!」と叫び、転げそうになりながら走り去っていった。


「はると!やっつけたー」

「はるとを馬鹿にするやつは許さないよ!」

「かえって俺の化け物説が強まる結果なってないか?」


 ふんっと胸を張る双子の頭を撫でながらも、なんだか釈然としない気持ちになった時だった。


 つんつん、と服が引っ張られる感覚がした。


「ん?」


 下を見ると、赤いランドセルを背負った女の子が俺の裾をぎゅっと握っていた。小学校中学年くらいだろうか。


「どうした?」


 屈んで顔を覗き込むと、女の子の瞳はゆらりと揺らめいた。


「あの……」

「ん?」

「お兄さん、この子達見えるの?お友達?」


 ──おおう。お仲間か……。


 どうするべきか。女の子の様子から言って、否定する選択肢はない。勇気を持って話しかけたのか、俺の服を掴んでいる手はぷるぷると震えていた。


 どうしようかなぁと悩んでいると、解決したのはまたもや双子だった。


「ねぇねぇ、君、見えるの?」

「レイのこと、見える?」

「うん、見えるよ。でもね、お母さんが言っちゃダメって。みんなには見えないって。でも、お兄さんには見えるの?」


 ──なるほどなぁ。


 俺はああ、この子はそう言う存在なんだなとすぐに結びつけることができたから、人に言うことはなかった。けれど、この子は言ってしまったのだろう。


 まぁ俺が結び付けられたのも、当時母親が読んでくれていた絵本の中にそういう話があったからはんだけど。


 もしかしたら、親も見えてたのかもしれないなぁ。異様にそういうチョイスの絵本も多かったし。


 あれはもしかしたら親の優しさだったのかもしれないことに今更ながらに思い至った。


 いつか聞いてみよっと。


 ともあれ、今はこの子だ。


 不安そうな女の子と視線を合わせ、怖がらせないように意識しながら、優しく微笑みかけた。


「俺は見えるよ。この子たちはちゃんと居る。んー、ここじゃなんだし、うちで話す?」


 やばい。これ不味くないか?初対面の女の子を家に誘う成人男性って、だいぶヤバい気がする。


 たけど、言ってしまった言葉は引っ込められない。引くに引けなくなった俺が、高台に見えるアトリエを指さす。すると、女の子はこくんと小さく頷いた。


 ──この子、警戒心ないな。


 誘っといてなんだが、このご時世だ。心配になる。後で言い聞かせなければ──そんな余計なお世話まで浮かんだ。


 ⸻⸻⸻⸻


「ん?はると、誰だいこいつは?」

「猫ちゃんが喋った……」

「ほう。見える側の人間か。また珍しいものを拾ってきたな」


 興味を持ったのか、ミケが女の子の近くにやってきた。するりと二本の尻尾で女の子を撫でると、女の子は嬉しそうにミケの頭を撫でている。


「そこで声かけられてさ。道端で話す話でもないし、連れてきた」

「ふぅむ。では双子は我が預かろう」

「ありがとう、助かるよ」

「えー!レイも一緒にお喋りする!」

「また後でな」


 ぽんぽんと双子の頭を撫でると、双子は渋々と言った様子でミケと一緒に庭へと出ていった。


「いいんですか?」

「いいのいいの。また後で遊んであげて。俺、柏木陽翔。ここに住んで、絵描きをしてるよ。アトリエ妖って知ってる?」

「佐藤 綾っていいます。アトリエ妖知ってます!クラスでも人気で、キーホルダー買えた子たちが自慢してます!」


 少しだけ元気を取り戻した綾ちゃんが笑顔で教えてくれた。


 おうふ。まじか。小学生にまで人気あるのか。


 そろそろちゃんと商品展開を考えねば、と思い直す。


「そっか、それは光栄だね。それ描いてるの俺でさ。後であげるよ」

「いいんですか⁉︎」

「うん。誰が好き?」

「犬を飼ってるので、黒柴ちゃんが好きです」

「あー、月牙か」

「げつが?」

「あの犬の名前。今は遊びいってるけど、あいつも妖みたいなもん」

「もしかしなくても、座敷わらしちゃんって……」

「そ。あの子たち。ユウとレイだよ」


 そういうと、たちまち綾ちゃんの瞳がキラキラと輝き出す。


 女の子だもんな、好きだよなー。と微笑ましく思えた。純粋に絵を好きでいてくれて嬉しい。大人たちはどちらかというと"あやかりたい"の方だからちょっと微妙な気持ちなのだ。


 微笑ましく綾ちゃんを眺めていると、当初の目的を思い出したのか「人に見えないのが見えるって、大変ですか?」と綾ちゃんが訊ねてきた。


「んー。大変ではないかな。どっちかっていうと、寂しい……かな?」

「寂しい……?」

「そう。あいつら可愛いだろ。一生懸命だし、人間と変わらないだろ?」

「そうですね」

「それを他の人たちは知らないって、寂しくない?」


 俺の言葉に、「そんなふうに考えたことなかったです」と女の子はじーっと考え込んでしまった。


 しばらく待っていると、女の子が顔を上げる。


「でも、ここの妖たちはいい子達ばかりですよね?」

「そうだなぁ。皆いい子だよ」

「いい子たちばかりだったらいいのに」

「ん?綾ちゃんの周りは違うの?」

「んー。意地悪してきたり、驚かせてきたり」

「そっかぁ」


 困ったように視線を逸らした綾ちゃんに、俺は思案する。それは困るだろう。綾ちゃんは見えてしまう分、惹きつけてしまうのかもしれない。俺みたいに自衛手段がないし。


 ミケたちが聞いたら「お主のどこが自衛してるんだ」と言われそうではあるが、俺的には自衛している。


 筆を持ち歩いたり、力を込めたイラストを持ち歩いたり……。っとそうだ。


「ちょっと待っててな?」


 少しくらいは、いいだろう。

 せっかく頼ってきてくれたんだ。


 先日書いた月牙のイラストを、アクリルキーホルダーの中に嵌め込んでお守りにする。


「これでよしっと」


 月牙には、悪いものを祓う力がある。


 小さいから大物相手は難しいだろうが、綾ちゃんにちょっかいを出すような嫌な奴なら近寄れないはずだ。


 それでも寄ってくるのなら、悪い妖ではない。ただ単に綾ちゃんと遊びたいだけなのだろう。

 

「おまたせ」


 リビングに戻ると、双子たちがわいわいと綾ちゃんと遊んでいた。


「あ、はると!おかえりー」

「綾ちゃんまた遊びに来てくれるって!」


 嬉しそうに笑った双子に、困ったように笑った綾ちゃんが「お邪魔してもいいですか?」と首を傾げてきた。


「もちろん!双子と遊んでやって!今度は月牙にも会えたらいいな」

「綾ちゃん、月牙が好きなの?負けたー」

「月牙人気だよねぇ、一番最後に来たくせに」


 ぶーぶーと文句を言う双子に笑いながら「綾ちゃん、はいこれ」と月牙のキーホルダーを差し出した。


「え⁉︎ いいんですか⁉︎ しかもこれ、本当の絵じゃないんですか⁉︎」

「内緒だよー」

「えええぇ」


 慌てる綾ちゃんに、「ええー!月牙のなのー?」「じゃ、アクリルキーホルダーは僕たちねー」とぽいぽいと綾ちゃんのランドセルに双子がグッズを放り込む。


 滅多にない機会に、ミケまですっとグッズを忍ばせているのを見て思わず笑ってしまった。


「こう言ってるから。貰ってやって。悪い妖も来ないと思うし」

「なんかすみません……今度お菓子買ってきます」


 礼儀正しく頭を下げる綾ちゃんに「いやいや、いいよ」と言おうとした瞬間、「お菓子⁉︎やったー!」「僕クッキーがいいな!」とキラキラした目で双子が綾ちゃんを見つめる。


「……らしいです。ごめんね?」

「クッキーですね!分かりました!」


 しばらく双子たちと遊んだ綾ちゃんは、暗くなる前に家へと帰っていった。


 どうやら綾ちゃんと出会ったあの道は、小学校からの帰り道だったらしい。


「帰りが遅くなって、親御さんは心配してない?」と聞くと、「親は仕事なので、もうすぐ帰ってくる頃です」と綾ちゃんは笑っていた。


 道理でしっかりしているわけである。


「綾ちゃん、また来てくれるかな?」

「遊びたいなー」

「また来てくれるだろ?ほら、俺らも飯にするぞ!」


 それからというもの、綾ちゃんは放課後になると度々顔を出し、双子たちと賑やかに遊ぶようになった。

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