第三十五話 大分旅行編 三人の貴人
【謝罪】
第三十二話を飛ばしてアップしていました……奇跡的に繋がっていました……。申し訳ありません。
差し込みで上げましたので、お読みいただけましたら幸いです。以後このようなことが無いように気をつけます。
よろしくお願いします。
「……亀?」
俺の声に返事をするように、亀の頭がごつんと動いた。なんとなく痛そうだ。石だから痛くはないのだろうけれど。
俺を見た亀は、着いてこいとでも言うように首をかすかに振った。そしてのっそりのっそり動き出した。
ここに入ってから初めて遭遇した動く存在に、少しだけ気が抜けた。それがたとえ石であったとしても。
なんだか動物園のリクガメみたいだな……。
思い浮かんだのはそんな馬鹿みたいな感想だった。
小学生の頃に親に連れられて行った動物園で見たリクガメを思い出す。のっそりと動く癖に、意外にも足が速いところまでそっくりだ。
「着いてこいってこと?」
「……うむ」
「喋るんかーい」
思わず突っ込んでしまったが、リクガメは無視して進んでいく。リクガメではなく石亀なのだが。
黙々と境内を進んでいく石亀の後ろを大人しく着いていく。何回か話しかけてみたが、完全にシカトされてしまったので諦めた。
「入れ」
本殿の入り口まで案内した石亀は、一言だけ発したあとピクリとも動かなくなった。静かに目を閉じ、眠ってしまったかのようだ。
「ありがとうございました」
「……うむ」
寝ていなかったらしい。失礼しました。
土足で入るのも気が引けて、靴を脱いで本殿に上がる。古びた床に足を乗せるとギシギシと音がした。
「大丈夫か、これ」
恐る恐る足を進めるが、床が落ちる様子はない。奥へと進んでいくと、微かに人の声がした。よく聞くと楽しげな笑い声もする。
「おじさん、すごいねぇ」
「もっとやって!もっとやって!」
「あいつら……」
聞こえてきたのは聞き覚えがありすぎる子供の声。聞き間違うはずが無いうちの子たちの声だった。
「お前らなぁ!」
きゃっきゃと声が聞こえる部屋の襖を勢いよく開けた。そこにいたのは、うちの妖たちと豪華な衣装に身を包んだおじさまが三人。
予想もしていなかった光景に、思わずその場で固まってしまった。
これはやばい。明らかにやばい。おじさま方が人ではない。なぜならば、姫と同じ気配がするから。
どうする、どうするべきだ……?一旦閉めるか。
すーっと襖を閉める。すると「これこれ、無理があろう。入ってこい」という声と共に、閉めたはずの襖が勝手に開いた。
俺が固まっていると、ちょいちょいと手招きをされると、身体が何に引っ張られるように引き寄せられた。
気づいたら礼儀正しく座っているミケや月牙の横へと座らされていた。
「どこいってたんだよ」
「我らもここにいきなり呼ばれたのじゃ。お主こそどこへ行っていた」
隣に座ったミケへこそこそ話すと、恨めしげな目をしたミケが睨んでくる。
「お主が柏木 陽翔か」
名指しで尋ねられ、思わず背筋が伸びた。従わせることに慣れている口調。神というものはこうなのかもしれない。
「はい。柏木 陽翔です。先ほどは失礼いたしました」
畳に指をついて頭を下げる。なぜかそうしなければならないと直感で思った。
「よいよい、苦しゅうないぞ。頭を上げるがよい」
姫にもはじめにそんな事を言われたな、と思い出してふっと笑みをこぼしてしまった。姫と初めて会ったのが遠い昔のようだ。
「ほう。我らを前に笑うか」
「さすが、瀬織津姫のお気に入りよ」
「肝の座っている人間だこと」
奥に座っている三人の貴人が面白そうにくつくつと笑う。
冷たい汗が背中を流れた。
──やばい、まずった。
そう思っても時すでに遅し。笑みを浮かべてしまった事実は消えて無くならない。
「失礼しました」
とりあえずもう一度頭を下げてみる。いや、そんなことでどうにかなる状況ではないのだけれど。
「我らが呼んだのじゃ。構わん」
どうやら怒ってはないようで、ほっと息を吐き出した。だが押さえつけられるような重圧は消えておらず、どう捉えていいのか迷うところだ。
「御用件を伺ってもよろしいでしょうか?」
頭を下げたまま神々に尋ねる。この場にいる神は三人。おそらくこの神社に祀られている応神天皇、仲哀天皇、神功皇后だ。来る前に調べておいて本当に良かった。
「うむ。荒らす者がおると瀬織津姫には言ったが……」
「はい。そう聞いております」
「あれは建前じゃ」
「……はい?」
思わず素が出てしまった。ぽかんとしてしまった俺の顔を見て、面白そうに神たちが笑う。
「瀬織津姫がえらく気に入っているようだったからの。我らが見極めなければと呼んだのじゃ」
「……はぁ。気に入られてはおりませんが」
「よく言う。あやつがあそこまで入れ込むのは久しぶりに見たぞ。いつもつまらなそうにしておったのに」
「おかげで最近はこっちに遊びに来ても、お主の話ばかりじゃ。つまらぬ」と手に持った扇を床にぺしぺしと打ちつける。
……姫のせいじゃねぇか。
完全にとばっちりである。俺は何もしていない。無実である。
「御用件はない……と?」
「まぁ、荒らすやつがいるのは確かじゃ。封印を解こうとしたようだが、失敗したようでな。だが、緩んではおる。人ごときに我らの神域を荒らされるのは面白くはない」
「つまり……?」
「鈍いやつじゃの。封印を見てこい、と言うておる」
……分かるかよ。ちゃんと用事は明確に話しなさいって習わなかったのか。昔から偉かったんだろ。
そう言いたい気持ちを飲み込んで、「分かりました」と頭を下げる。理不尽だ。基本的に神は理不尽なのかもしれない。お賽銭くらいでは絶対に何もしてくれないと確信してしまった。そんな相手ではない。いや、叶えてくれる神様もいるかもしれないけど。
「その封印はどちらに?」
「本殿から1キロほど歩いた場所に祀られている石がある。その横の松の木の根元じゃの」
「見てきたらいいんですかね?」
「お主なら良きに計らえるであろう」
──答えになってないじゃないか。
もちろんそんなことは言えるはずもなく、「分かりました」と返事をすると、「うむ。励むが良い、瀬織津姫のお気に入りよ」という声が聞こえた。
すぅっと感覚が遠のいた。
気づけば、先ほどまでのやり取りが嘘だったかのように、周囲はざわざわとした騒めきに包まれていた。
夢ではなかったと思えたのは、外にいるのに俺が靴を履いていなかったことと(丁寧に横に置かれていた)、俺と同じように狐につままれたような顔をしたうちの子たちが隣にいたからだった。




