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特別編 僕たちが魚を好きなわけ

特別編 双子のユウ視点です。

よろしくお願いします。


 ぬくぬくのお布団。お腹いっぱいのご飯。みんなの笑い声が響くお部屋。


 全部全部、はるとが来てから。


「ねぇ、ユウ?」

「なぁに?レイ」


 話しかけてきたレイが、隣の布団から潜り込んできた。

 

 ぴとっとくっついてくるレイは、ほかほかとしていてあったかい。春の陽だまりみたいな匂いがする。


「どうしたの?レイ」

「なんにもないよ。幸せだねぇ」

「そうだねぇ。幸せだねぇ」


 二人でくすくすと笑う。


 僕とレイ、二人だけの世界だった場所。そこに、いつの間にかミケがやって来て、はるとが来てくれた。はるとが来てからは、おうちがどんどん賑やかになっていく。


「明日もたくさん遊ぼうね」

「うん。明日のご飯は何かなぁ?」


 むにゃむにゃと眠りに落ちていくレイを見て、僕も目を閉じた。


 久しぶりに見た夢は、とても懐かしくて。


 少しだけ寂しくなる夢だった。


 ⸻⸻⸻⸻


「ゆうれいちゃーん?どこにいるのー?」


 お姉さんが呼んでいる。んーん、もうお姉さんじゃないね。きっともうすぐいなくなっちゃう。


「ご飯、ここ置いとくからね」


 ことん、と神棚の前に置かれたおにぎり。二人分にしては少ないけれど、いつもレイと分け合って食べる。


 あの人がくれた名前。

 僕らの大切な名前。


 彼女が僕たちを見てくれることはないけれど、少しだけ気配を感じてくれる彼女は、とても特別で。


「レイ、ご飯だって」

「んー?ユウ、食べていいよ」


 ゆらゆらとレイを揺らすと、眠そうなレイがゆっくり目を開けた。だけど、またすぐに閉じていく。


「いらないの?」

「うん……ユウ、食べて……」


 また眠りに落ちていくレイ。

 

 レイの笑う声が聞きたいな。お腹いっぱいだね、って嬉しそうに笑うレイの顔が好き。


 置かれていたおにぎりを少しずつ齧る。


 やっぱりレイに残しておこう。きっと、お腹を空かせて目を覚ますはずだから。


 ⸻⸻⸻⸻

 

「ゆうれいちゃん?」


 もうすぐいっちゃうんだ──ってなんとなく分かっちゃうのは、きっと僕たちがこの家の座敷わらしだから。


「そこにいるの?」


 普段なら絶対に出ていかないのに、そのときはなぜか行かなきゃ──そう思ったんだ。


「ユウ?」


 レイの手を引っ張って、お姉さんの方へ足を進めた僕にレイが不思議そうな顔をする。


「お礼、言いに行こう」

「……うん」


 ゆっくり、ゆっくり、驚かせないように。


 布団に寝ているお姉さんの横に座り込んだ。

 

 そっと手に触れると、綺麗だった手はしわくちゃで。だけどとってもあたたかい。


「ゆうれいちゃん?」


 お姉さんがこっちを見た。今まで目が合うことは一度もなかったのに、絶対絶対目が合った。


「ゆうれいちゃんは、二人だったのねぇ」


 嬉しそうに目を細めたお姉さんの目尻から、涙がつーっと流れた。

 僕は、その涙をそっと拭ってあげた。


「僕が、ユウだよ」

「私がレイだよ」

「そうねぇ。ユウちゃんとレイちゃんね」


 優しい笑みを浮かべたお姉さんは、僕たちの頭を震える手で撫でてくれた。


「せっかく会えたのに、お別れねぇ」

「また、会えるよ」

「ここで待ってるね」

「そうねぇ、待っててね」


 ガラッと玄関の戸が開く音がして、お姉さんの子供が帰って来たのがわかった。


「またね」

「ばいばい」

「またね、元気にするんよ。ありがとう」


 お姉さんに手を振って、僕たちは天井裏に戻った。


 二人でそっと寄り添って、天井の隙間からお姉さんのことをじっと見つめた。


 暫くしたら、お姉さんの子供が入って来て、バタバタと慌ただしくなった。


「いっちゃったねぇ」

「そうだねぇ」


 会えてよかったな。話せてよかったな。


 また、会えたらいいな。


 ゆらゆらと二人で揺れていたら、なんだか眠くなってきて、僕たちはいつの間にか寝てたんだ。


 ⸻⸻⸻⸻


「ユウ、ユウ、大丈夫か?」


 目を開けたら、心配そうなはるとの顔があった。はるとの横には、僕を覗き込んでいるレイがいた。


「僕の名前は、ユウだよ」

「ん?分かってるよ。当たり前だろ?どうした?怖い夢でも見たか?」

「なんで?」

「お前、泣いてるぞ?」


 はるとの大きい手が、そっとほっぺに触れた。僕の目尻を拭ったはるとの指は濡れていて、僕は泣いてたんだ、って気がついた。


「大丈夫か?」

「昔の夢をみたの」


 それだけでレイには通じたみたい。


「お姉さんの夢?」

「そう」


 こくんと頷くと、はるとが不思議そうな顔をした。


「昔住んでたお姉さん。僕たちに名前をくれたの」

「……あの人か。会えたのか?」

「うん、久しぶりに会えた」

「そっか。よかったな」


 はるとの大きな手がゆっくり頭を撫でてくれた。


「お前たちがそんなに懐くってことは、優しい人だったんだろうなぁ」

「うん。おにぎりくれたよ。たまにお魚も」

「だからお前たち、魚が好きなのか」


 なるほど、とはるとが頷いてる。


 だけど、違うんだ。いつか教えてあげようかな。


 もともとお魚は好きだったけど、初めて人と食べたお魚が、はるとと食べたお魚で。


 はるとが僕たちに一生懸命焼いてくれるから、僕たちはお魚が大好きになったんだよって。


「ふふっ」

「……なんだよ?」


 笑っちゃった僕に、はるとが首を傾げた。


「なーいしょ」

「なんだよそれ。ほら、朝ごはん食べるぞ」

「朝ごはん何?」

「ししゃも。好きだろ?」

「「やったー!お魚ー!」」


 跳ね起きた僕を見て、はるとが嬉しそうに笑った。「顔洗ってこいよー」と言って、はるとが台所へ歩いていく。


 やっぱり、はるとは最高だ。


 お姉さんがくれた名前も。

 お姉さんと過ごした時間も。

 ぜんぶぜんぶ大切だけど。


 今は、はるとといる毎日が好き。


 ずっと一緒にいれたらいいな。


 ね?レイ?

お読みいただき、ありがとうございます。


はじめはこちらを1000pt記念に書いたのですが、少ししんみりになったので『猫ねこ探検隊!』に差し替えました。

せっかく書いたので、こちらもどうぞ。


たくさんの方に読んでいただけて、とても嬉しいです。

ブックマークや評価、コメントの一つひとつが執筆の大きな力になっています。


現在は第二章を執筆中で、ストックは12万文字を超えました。

これからも楽しんでいただけるよう精進してまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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