第二十二話 付喪神
東京編に入る前に、少しだけのんびり回です。
夜に東京編がスタートします!お楽しみに!
八月末。なんの変哲もないある日。
買い物に出かけようと靴を履いたときだった。
ふと違和感を感じて、玄関を見渡した。
「なんだ?」
きょろきょろしている俺を、一緒に出かけようとしていた双子が不思議そうに見上げてくる。
「どうしたの、はると?」
「なんかあった?」
「……いや、なんか違和感があって」
だけど、なにかが分からない。もう一度ぐるりと玄関を見渡す。
すると、その違和感の正体と目があった。
「……は?」
玄関に飾られた一枚の絵。
一番初めに俺が描いた双子の絵だ。
手を繋いで、にこにこと笑う二人の座敷童を描いたはずだった。それなのに、絵の中の二人はこちらに向かって元気いっぱいに手を振っている。
ゴシゴシと目を擦ってみても変わらない。
「なぁ……」
「なに?」
「どうしたの?はると」
俺がよっぽど酷い顔をしているのか、心配そうな二人が服の裾をぎゅっと掴んでくる。
「この絵、変わってないか?」
「僕たちの絵?ほんとだ!」
「バイバイしてる!」
だよなぁ。やっぱり変わってるよな。
「絵、掛け替えたりしたか?」
「僕たちが?そんなわけないじゃん」
「かえてないよー」
……となると、ミケか?
するとそこへ、玄関の騒ぎを聞きつけたミケがリビングから出てきた。
「どうしたんじゃ、騒々しい」
「あ、ミケ。この絵、掛け替えたりした?」
俺が指差した絵をミケが一瞥すると「そんな面倒なことするわけがなかろう」という答えが返ってくる。
そうだよね。知ってた。
「……付喪神じゃな」
「はい……?」
「その絵、神が憑いておるぞ」
「神様が?分かるの?」
「我は猫又じゃ。当たり前じゃろう」
まじまじと絵を見つめると、絵の中のレイがウインクをした。
「今、動いたぞ?」
「だから付喪神だと言っておろう。差し詰め、この家の守り神ってところじゃ」
「絵に宿ったりもするんだ」
右から見ても左から見ても、ただの絵にしか見えない。まぁ、俺が描いた絵なんだから当たり前なんだけど。
「付喪神って長く使ってた物に宿るんだよね?そんなに時間経ってないけど?」
「それはお主のせいじゃな」
「俺……?」
この絵に神様が宿ることになったのは俺のせいらしい。完全に双子のせいだと思っていたが、どうやら違うようだ。
「お主の絵には元より力が宿っておる。それにこの家の霊気じゃ。普通なら百年かかるものでも、ずっと早く神が降りることもある」
「……俺、凄くない?」
つまりはなんだ?
俺が神様を呼んだっていうこと?
「これって他の絵も憑いたりする?」
「降りてきたい神がいればな」
ますますこの家が普通の家から外れていくな。
「まずい?」
「いいことであろう。気にするな。害はない」
その言葉にまじまじと絵を見ると、絵の中の双子があっかんべーをしてきた。
「こいつら、二人にそっくりだな」
「それはお主がそういうふうに描いたのじゃろ」
「俺天才じゃん」
自画自賛していると、「よく言うわ」と呆れた声でミケが笑う。
「えー。次何描こうかな?」
「我でも良いぞ」
「ミケって結構描いてないっけ?」
そんな会話をしながら、床に置いてた鞄を持ち直す。
俺って結構順応性が高いよな……。
そう思いながら、絵の中の双子へと視線を向けると、二人はこちらなど見向きもせず、鞠で遊んでいた。
「……自由かよ」
──俺が気づいたから、好き勝手し始めたな。
描いたモデルが自由奔放だと、それに宿る神も自由らしい。
「はるとー、はやくいこー」
「まだー?」
「はいはい、すぐ行くー」
先に庭に出て遊んでいた双子に促され、俺はドアに手をかけた。
「行ってくるわ」
「気をつけていけ」
ミケの声に見送られ、一歩踏み出す。
玄関から一歩外へと足を踏み出すと、真夏の暑さが襲ってくる。真上に浮かぶ太陽がジリジリ肌を焼いた。
真夏のある日。
我が家の守り神は、少しだけ賑やかになった。
沢山読んでいただきありがとうございます。
とても嬉しいです。
これからも応援よろしくお願いします!




