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第十九話 ひまわり畑

金曜日なので、おまけの一話です!

お仕事に学校お疲れ様でした!


 迷惑な姫が来て、月牙が来た翌朝。


 顔を洗った俺がリビングに行くと、何か黄色いものが視界によぎった気がした。


 起きているはずがない双子たちの楽しげな笑い声が、蝉の鳴き声に満ちる庭に響いている。

 なんだか嫌な予感がして、レースのカーテンを引き去る。


 そこには、見事なひまわり畑が広がっていた。


「なんだこれー‼︎」


 俺の絶叫を聞いた双子が元気よく駆けてくる。

 

「あ、はると、おはよー!」

「起きた?起きた?」


 家の周りに広がっていた雑草畑は、一夜にしてひまわり畑へと姿を変えていた。

 

 池の方を見ると、いい仕事をした、とばかりに太郎たちが汗を拭っている。


「お前らだな!犯人は!」


 こんな突拍子もないことをしでかす犯人など、どう考えてもこの二人しかいない。実行犯は太郎たちだとしても、計画したのは双子だろう。


「凄いでしょ!」

「ひまわり沢山!おひさまの家みたいだね!」


 悪気ゼロの双子たちに、がくりと力が抜ける。


「綺麗だけどさ……。こんな目立つ事してどうするんだよ……」


 絶対目立つ……。人が来たらなんて誤魔化そう……。ただでさえ情報が早い社会なのに、こんな見事なひまわり畑、噂にならないはずがない。


 「えー、目立つかなぁ?」と二人は首を傾げている。


 目立つに決まっているだろう。なにをどうやったら、一夜にしてひまわり畑が出現するんだ。


「駄目……だった?」

「ごめんなさい」


 脱力した俺に、流石に不味いと思ったのか、しおしおと萎れる。

 この二人、反省することにはするのだが、それを1ミリも学習することはない。


 ここは心を鬼にしてちゃんと叱らなきゃいけない。俺の今後の平穏のためにも。


 そう思い、口を開きかける。だけど、ポツリと呟いたレイの言葉に、叱りつけることなどできなくなった。


「月ちゃんが喜ぶと思って……」

「……そうか」


 昨日の月牙の様子を思い出す。


 懐かしそうに、切なそうに、消えていくひまわりの花火を見つめていた月牙の姿を。


「優しいな」


 ぽんぽんと頭を撫でると、双子の顔がぱっと輝いた。その笑顔は、大輪の花を咲かせたひまわりのようで。


「月ちゃん、喜ぶかな⁉︎」

「早く起きないかなー、月ちゃん!」


 わくわくした気持ちを抑えきれていない双子は、今にも月牙とミケが寝ている和室へと突撃していきそうな勢いだ。

 

 俺たちが寝た後も、思い出話に花を咲かせていた二人はまだ起きてきていない。リビングにミケが気に入っている日本酒の殻瓶が転がっていたから、まだ起きてこないだろう。


「今日くらい、ゆっくり寝かせてやれよ」


 興奮した二人を宥めると、「はーい!」という元気な答えが返ってきた。


「ん。偉いな」


 そっと頭を撫でて、スマホでひまわりの写真を撮った。レンズを向けた先にいるはずの双子の姿は、画面には映らない。


 それでも、なにか伝わるように。


 【大輪のひまわり、咲きました】


 なんとなく、誰かに知って欲しくて。

 アトリエ妖のアカウントに投稿した。


 そして──


 とっくに太陽も高く登ったお昼過ぎ。


 しかめ面で起きてきた月牙とミケは(妖のくせに二日酔いらしい)、揃って豆鉄砲を食らったような顔をした。

 

 その数秒後、月牙が滝のような涙を流し始めたせいで、双子が大パニック。俺も月牙と双子の対応に追われ、目が回るほどの大騒ぎとなったのであった。


 ⸻⸻⸻⸻


 それから二日後のこと。

 

「すいませーん」


 アトリエにしている一室で、仕事をしているときのこと。この家に、初めての来客があった。


「……誰だ?」


 宅配が来る予定はない。そして、尋ねてくる人に心当たりがあるはずなく、思わず眉を顰めてしまう。


「誰?はるとの友達?」

「レイのバカ!はるとに友達なんかいるわけないじゃん!」

 

「おい。俺だって友達くらいいるわ」

「でも、来たことないよ?」


 俺の繊細な心臓に鋭い棘が飛んできた。

 

 こんな遠くまで訪ねてくれる友達がいないだけだ。地元にはいる……はず。俺は友達だと思ってる。


「すみませーーーん、お留守ですか⁇」

「あ!すみません!居ます!今行きます!」


 ついつい双子に突っ込んでいたら、来客の存在がすっぽ抜けてしまった。慌てて玄関に向かおうとしたら、立てかけていた書きかけの絵を蹴飛ばしとしまう。


「わぁーーーん!ひまわりの絵がぁぁぁ」

「はるとのばかぁぁ!!」

「あーー!もう!また描けばいいんだろ描けば!」

「「よろしくー」」


「すいませーーーん」

「今行きまーーす!」


 辛抱のないやつだな、と散々放置した自分のことは棚に上げて、急いで玄関へと向かう。


 ガラガラと玄関ドアを開けると、そこに人の姿はなく……。


「ん?あれ?」


 ──まさかの妖?


「あ、ここです!ここでーす!」


 なぜか、門扉のところで大きく手を振っている男女二人組がいた。


「あれ?なんでそんなところに?どうぞどうぞ」


 俺が声をかけると、

 

「あ、あれ?入れる?お邪魔します」

「失礼します」


 頭を傾げた様子の二人が、門扉を開け、玄関に向かって歩いてくる。

 

 「さっきまであんなに開かなかったのになぁ。俺らのやり方が悪かったのかな?」と聞こえてくる声に、状況を察してしまった。

 

 後で犯人を特定しなければ。だけど、一旦はおもてなしだ。なんて言っても、初の来客。アポ無しだけど、来客は来客。

 

「どうかしましたか?」

「あ、いえ。なんにもないんですよ」


 とりあえずとぼけてみると、あまり疑われてはないらしい。首を振った男の人が頭を下げてきた。


「突然すみません。私、こういうものです」

「都市ブランド課……?役所の方ですか?」

「そうなんです。こちらのひまわり畑を市の広報アカウントに載せさせていただきたくて」

「どうぞどうぞ!というより、僕も勝手に植えてしまって申し訳ありません」

「あ、ここ周辺は市の土地だったので気にしないでいいですよ。耕作放棄地みたいなものなので」


 ……まじか。知らんかった。

 え?だから俺の近所人住んでないの?


「最近ここに引っ越したんですけど……もしかして、ここの土地不味かったりしますか?」

「いえいえ!決してそんなことは!以前の所有者の方がお持ちになられてただけで、()()()()市に寄付される方が多かっただけと伺っています」


 たまたま、ねぇ……。


 なんだか嫌な予感しかしないが、


「あの!すみません!」

「……はい?」

「握手してもらえますか⁉︎」


 そう言った女の人を、焦った様子の宮野さん(名刺に書いてあった)が止めに入る。

 

「ちょっとお前!着いてくるだけって言っただろ!」

「だってぇ……」


 どうやら女性の方は宮野さんにくっついて来たらしい。俺と宮野さんが話している間もそわそわしているな、と思っていたら、どうやら俺のことを知っているようだ。


「アトリエ妖の方ですよねっ!」


 女性の言葉に、俺はピシリと固まった。

 読んでくださりありがとうございます!


 可愛い!癒される!と思っていただけましたら、ブクマや⭐︎を点滅させて貰えたら嬉しいです。

 応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
そりゃあねぇ、塀にデカデカと『アトリエ妖』と書いてたでしょうに。
迷い家みたいになっとる、でもアトリエ妖とバレとるがな。 現代の大妖怪・SNSには敵いませんな。
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