↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/27

最強のコンピューターウイルス『バフォメット』爆誕!

 ヤギの視界いっぱいに、まるで異世界へ迷い込んだかのような景色が広がった。

 ヤギは低く唸り声を漏らしながら、草原を駆け抜ける。

 足を止め、周囲を見渡した。

そして、一人の少年を見つける。

 足音を立てず少年の背後へ忍び寄ると、一気に飛びかかった。

「なんだ⁉」

 少年は不意打ちに混乱し、必死にもがく。

だが、振り解くことができなかった。

やがて少年の体力ゲージが尽き、その身体は無数の光の粒子となって砕け散った。

ヤギは砕け散ったプレイヤーデータを貪るように吸い込み、再び次の獲物を探し始める。

プレイヤーを見つけるたび、躊躇いなく襲いかかった。

その姿は、獲物を求めて彷徨う飢えた猛獣そのものだった。

プレイヤーたちは次々と倒されていく。

 被害は誰にも止められぬまま、急速に拡大していった。

 その異常事態は、すぐにましろたちの耳にも届いた。

熱気に包まれていたロビーに、次第に不穏な空気が広がり始める。

ヤギに倒されたプレイヤーたちは、コンテニュー後にロビーへ戻ってきた。

自分を倒した相手を確認しようと戦闘ログを開いた瞬間――誰もが凍りつく。

「なんだ、これはぁああああ⁉」

「えっ、なんで⁉」

「……」

 ロビーでは悲鳴と怒号が飛び交い、呆然と立ち尽くすプレイヤーたちで埋め尽くされた。

 その矛先は、NPCの受付嬢へと向けられ、多くのプレイヤーが一斉に押し寄せる。

「現在、原因を調査中です。しばらくお待ちください」

 受付嬢は冷静に答え、プレイヤーたちを落ち着かせようとした。

だが、騒ぎが収まる気配はない。

 受付嬢の表情にも、次第に戸惑いの色が滲み始めた。

 ましろと輝夜は異常事態に気づき、周囲のプレイヤーに事情を尋ねる。

 そして二人は、プレイヤーたちが取り乱す理由を知った。

これまで積み上げてきたレベル、装備、所持金――。

全てのプレイヤーデータが、跡形もなく消失していたのだ。

 輝夜の目が鋭くなる。

「ほう、データを喰らう怪獣か……」

「バグかな?」

「だろうな」

 その時、ましろの耳にイリスの声が響いた。

『ましろちゃん!』

「イリス? どうしたの?」

『今、そのゲームで起こっていることは、コンピューターウイルスのせいなの!』

「コンピューターウイルス……?」

『ゲームサーバーに侵入したウイルスが、プレイヤーを襲ってデータを吸収してるの! しかも、そのたびにどんどん成長してる!』

「そういうことか……」

『それだけじゃない。奴は他のあらゆるサーバーシステムを乗っ取って、今――街中が大混乱になってる!』

「なっ――⁉」

 ましろの目が見開かれる。

 直後――。

壁の巨大スクリーンに、緊急映像が映し出された。

そこに映っていたのは、一匹の異形のヤギだった。

 周囲の視線がスクリーンに集まる。

 ヤギはプレイヤーたちへ襲いかかり、データを喰らいながら急成長していた。

さらに、ヤギが通った空間はバグのように崩壊し、漆黒の虚無へと変わっていった。

 あまりにも悲惨な光景に、誰もが息を呑む。

「あのヤギが……コンピューターウイルス……」

『このまま放置したら、手に負えなくなってしまう』

 ましろの表情が引き締まる。

「……事情は分かった。あのウイルスの暴走を止めればいいんだね?」

『うん! 転移ゲートを開くから、ちょっと待ってて』

 間もなく、ましろの目の前に円形の転移ゲートが現れた。

「よし!」

 ましろは気合を入れて一歩踏み出す。

すると、横から輝夜が割り込んだ。

不敵な笑みを浮かべている。

「あのヤギを討伐しに行くのだな。ならば、わらわも同行しよう」

「いいの?」

「無論だ」

「データを奪われるかもしれないんだよ」

「そなた、わらわが負けるとでも……?」

 ましろの口元が緩む。

「……分かった。一緒に行こう!」

 二人は頷き合い、転移ゲートへ向き直った。

そして、迷うことなく飛び込む。


 転移ゲートを通り抜けると、そこはいつもと違う世界が広がっていた。

空気は重く淀み、空間そのものが不気味に歪んでいる。

大地は裂け、森林は崩れ落ち、海は荒れ狂っていた。

 ましろと輝夜は上空から周囲を見渡した。

 遠くの荒廃した大地で、ヤギが空間のデータを貪っている。

「いた!」

 ましろは鋭く見据え、背中の大剣を引き抜く。

「くっくっく……まだ、わらわたちに気づいていないようだな」

 輝夜はニヤリと笑みを浮かべる。

「先制攻撃じゃ!」

 そう言うと、魔法の杖を掲げた。

 頭上に巨大な魔法陣が展開される。

次の瞬間――轟音と共に、巨大な雷光が天から降り注いだ。

 雷光が直撃し、ヤギの身体に激しい電流が走る。

 ヤギは振り返り、二人の存在に気づく。

直後、ましろと輝夜の耳に通知音が響く。

視界の端にメッセージウィンドウが表示された。

二人はメッセージを開く。

『あそぶ?』

 送り主は、コンピューターウイルスだった。

 ましろは大剣を握りしめ、ヤギを鋭く見据える。

「悪いけど、あんたの遊びに付き合うつもりはない」

 大剣を構え直し、冷徹に言い放った。

「今ここで――倒す!」

 ましろと輝夜、そして世界を蝕むコンピューターウイルス。

 三者はついに激突しようとしていた。

 その戦いは、コンピューターウイルスによって全世界へリアルタイム配信されていた。

 世界中の人々が画面越しに注目し、戦いの行く末を見守っている。

 ましろは空を蹴り、疾風のような勢いでヤギへ突進した。

間合いへ踏み込み、大剣を振り下ろす。

「はあぁぁぁッ!」

 大剣の斬撃が閃き、ヤギの角と激突する。

 鋭い音と共に火花が散り、足元が大きく沈み込んだ。

 ましろは押し切るように大剣を振り抜く。

ヤギの身体は吹き飛ばされ、地面を何度も跳ねながら転がり、巨大な岩へ激突した。

間髪入れず――。

「次は、わらわの番だ!」

 輝夜が杖を掲げる。

 無数の魔法陣が空中に展開され、そこから大量の光る竹槍が撃ち放たれた。

 光の雨がヤギへ降り注ぐ。

 轟音と共に次々と炸裂し、衝撃波が広がった。

 周囲一帯が爆炎に包まれ、大地が砕け散る。

 ましろは大剣を肩に担ぎ、輝夜も余裕の笑みを浮かべた。

「くっくっく……案外あっけないな」

しかし――。

 空気が一変し、二人の表情が引き締まる。

 二人は武器を構え直し、煙の奥を鋭く見据えた。

 煙の奥に、不気味なシルエットが浮かび上がる。

 四足だった身体が、不気味な音を立てながらゆっくりと起き上がる。

 やがて、煙の中から現れたのは――。

 巨大な角を持つヤギ頭の人型怪獣だった。

全身は黒い装甲のような毛皮に覆われ、瞳は妖しく輝いていた。

「進化した……!」

 ましろは息を呑む。

「ほう……」

 輝夜も目を細めた。

人型ヤギは首を鳴らしながら、ましろを鋭く見据えた。

次の刹那、爆発的な勢いで突撃する。

 一瞬で距離を詰め、拳をましろへ叩き込んだ。

「速いっ!」

ましろは咄嗟に大剣で受け止めた。

凄まじい衝撃が炸裂する。

「くっ……!」

地面が爆砕し、ましろの身体が後方へ弾き飛ばされる。

ましろは剣を地面に突き立て、激しく削りながら後退を抑えた。

踏みとどまるや否や視線を上げ、大剣を構え直す。

 その時だった。

輝夜は杖を振るい、横合いから巨大な雷撃を放つ。

だが――。

 人型ヤギは静かに片手を突き出した。

 半透明のバリアが瞬時に展開され、雷撃を真正面から受け止めた。

「なにっ⁉」

 輝夜の目が見開かれる。

 猛烈な衝撃と共にバリアが霧散した。

間を置かず、人型ヤギの掌へ灼熱の炎が収束していく。

 次の瞬間、巨大な火球が撃ち放たれた。

「この炎……ザットンの技か!」

 輝夜は空中で身体を捻り、火球を躱した。

即座に向き直り、目を細める。

「こいつ……怪獣の技が使えるようだな」

「そうみたいだね」

「だが――わらわたちの敵ではない!」

 輝夜は再び杖を構える。

 先端から閃光が一直線に放たれ、空気を切り裂いた。

 人型ヤギは跳び退いて躱す。

 閃光が地面を穿ち、円形の穴が空いた。

 ヤギが軽やかに着地した瞬間、ましろは懐へ踏み込み、大剣を振るう。

 人型ヤギは反射的に身を翻し、紙一重でその一閃を躱した。

 間髪入れず、ましろは怒涛の連撃を叩き込む。

鋭い斬撃が装甲のような毛皮を裂き、赤黒い血飛沫を散らした。

人型ヤギの表情が初めて苦痛に歪む。

輝夜も杖を突き出し、追撃を放った。

 無数の光弾が放たれ、空中で弧を描きながらヤギの身体を撃ち抜く。

二人は息の合った連携で攻め立てた。

ましろが接近戦で動きを封じ、輝夜が高火力魔法を叩き込む。

 徐々に、人型ヤギは押され始めていた。

 ダメージは与えているが、まだ余裕がある。

 まるで何かを待っているようだった。

「バァァァァァァァァ!!」

人型ヤギが怒りと苦痛の入り混じった咆哮を轟かせる。

その衝撃波に押し返され、ましろは後方へ跳び退いた。

輝夜は得意げに言い放つ。

「これで終わりだ!」

 杖を掲げると、頭上に超巨大魔法陣が展開された。

大気が震え、膨大な光の魔力が収束していく。

「天上の輝きよ――今ここに顕現せよ!」

その瞬間、人型ヤギの瞳が妖しく輝いた。

 刹那――。

 ヤギの姿が掻き消える。

 それは、ボス怪獣が持つ瞬間移動能力だった。

 気づけば、ヤギは輝夜の背後へ回り込んでいた。

 手を突き出し、掌に黒いエネルギーが収束していく。

 ましろは一瞬早く気配を察知し、咄嗟に叫んだ。

「後ろだよ!」

 輝夜は反射的に振り向く。

 だが、その時にはすでに遅かった。

ヤギの掌から容赦なく黒い光弾が放たれる。

「しまっ――」

 詠唱中だった輝夜は回避が遅れた。

 黒い光弾が炸裂し、輝夜の身体が爆炎に飲み込まれる。

「シャインナイト!」

ましろが叫んだその瞬間――。

 人型ヤギはニヤリと嗤った。

その隙を逃さず、ましろの背後へ瞬時に回り込む。

掌を突き出し、黒い光弾を放った。

「――っ⁉」

 光弾がましろに直撃する。

爆煙が一気に膨れ上がり、ましろの姿を完全に飲み込んだ。

人型ヤギは喉を震わせ、不気味に笑う。

 やがて空間に黒い裂け目が走り、円形の転移ゲートが出現した。

 人型ヤギは嘲笑うようにましろたちを見つめると、ゆっくりゲートへ踏み出す。

 そのまま闇の中へ消えていった。

 数秒後――。

 ましろと輝夜は武器を振るい、衝撃波で周囲の煙を吹き飛ばした。

「よくもやってくれたな!」

 輝夜は杖を構えたが、すでに人型ヤギの姿はない。

 ましろは周囲を見渡した後、静かに息を吐いた。

「逃げた、か……」

 輝夜は悔しげに眉をひそめた。

「くっ……!」

 ましろは即座にイリスへ連絡を入れる。

「ごめん、イリス……逃げられちゃった」

『気にしないで。すぐに居場所を特定するから、それまで少し休んで』

「……分かった」

 ましろと輝夜は転移ゲートを開き、ロビーへと戻る。

 先ほどまでの喧騒が嘘のように、ロビーに人影はなく、重い静寂だけが広がっていた。

 ゲームの管理者により、プレイヤーたちは強制的にログアウトさせられ、広いロビーに残されたのは――ましろと輝夜だけだった。

 二人は腰を下ろし、しばし休憩を取る。

 輝夜は申し訳なさそうに口を開いた。

「すまぬ……わらわが油断したせいで、ヤツを逃がしてしまった」

「シャインナイトのせいじゃないよ。私も攻めきれなかったし……」

 少し沈んだ空気を吹き飛ばすように、ましろは明るい声で続けた。

「大丈夫! 次、頑張ろう!」

「……そうだな」

 輝夜の表情がわずかに緩んだ。

 しばらくすると、ロビー内に通知音が響く。

世界中から、膨大な数のメッセージが二人の元へ届いていた。

 輝夜はメニューを開き、届いたメッセージを表示する。

 空中に多くのメッセージが浮かび上がった。

 興奮気味の称賛、冷静な分析、無責任な中傷――様々なメッセージが次々と流れていく。

『面白かった!』

『二対一なのに、負けるなんてダサすぎる』

『俺なら勝てた!』

『二人ともよくやった!』

『結婚したい』

 輝夜はメッセージを乱暴に閉じ、唇を噛みしめた。

「好き勝手なことを言いおって……!」

握りしめた拳が、悔しさを堪えるように小刻みに震えている。

 その時、不意にイリスの声がましろの耳に響いた。

『ましろちゃん!』

「イリス! もう見つかったの?」

『いや、まだ居場所は掴めてないんだけど……あのコンピューターウイルスの呼称が決まったよ』

 一瞬の沈黙の後、イリスは静かに告げた。

『――バフォメット。それが、コンピューターウイルスの名前』

「バフォメット……」

 ましろは険しい表情で、その名を繰り返した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。