決着
数分前――。
イリスは低く呟いた。
「管理システム……奪取完了」
ましろを見据え、声をかける。
「ましろちゃん!」
ましろは頷くと、地を蹴った。
残るフロアを一気に駆け抜け、最上階へ飛び出した。
その奥にある重厚な扉へ鋭い視線を向けた。
少し遅れて追いついたイリスが、ましろへ告げる。
「あの扉の向こうにいるよ」
ましろは表情を引き締めた。
イリスと共に重厚な扉の前へ進む。
深く息を吐いた。
次の瞬間――。
強烈な蹴りが扉へ叩き込まれた。
重厚な扉は爆音と共に吹き飛び、破片が室内へ飛び散った。
その先には、マリアの姿があった。
振り返ったマリアの瞳が大きく見開かれる。
その表情には、明らかな驚愕が浮かんでいた。
ましろとイリスは部屋へ足を踏み入れた。
広い室内に静寂が満ちた。
ついに――白雪ましろとマリアが相対した。
先に口を開いたのは、ましろだった。
「やっと……辿り着いた」
ましろは腰の白姫を抜き放つ。
白銀の刃が室内の光を反射した。
剣先をマリアへ突き付ける。
「もう逃がさない!」
わずかな沈黙が流れる。
マリアの表情が緩む。
「……“もう逃がさない”? 一体何のことを言っているのかしら?」
マリアはなおも余裕を装っていた。
だが、イリスが逃がさない。
「無駄だよ。お前がこれまで行ってきた悪事の証拠は、全て復元した」
空中にホログラムが展開された。
そこには被害者リストや、暗殺組織とのやり取りの記録が映し出されていた。
「なっ――⁉」
マリアの表情が凍りついた。
イリスは追い打ちをかけるように言い放った。
「もう言い逃れはできない」
マリアは静かに目を伏せた。
「ふふ……あはははは……!」
狂ったように笑いながら、ましろを睨みつけた。
「忌々しい小娘が……その顔で、私を見つめるな!」
感情を抑えきれず叫ぶ。
「世界一美しいのは、私だ! お前なんかじゃない!」
その言葉を聞いた瞬間、ましろの表情が険しくなる。
だが、なんとか平静を装いつつ口を開いた。
「……その醜い嫉妬心で、お前は私の両親を……」
ましろの声は震え、拳を握りしめた。
マリアは静かに答えた。
「……お前の母親は美しかった。この私が見惚れてしまうほどに」
マリアの表情が狂気に歪む。
「だから――消したのよ!」
マリアは恍惚とした表情で両腕を広げた。
「美しい者が消えれば、私が頂点になれる! 私は世界で一番美しくなければならないのよ!」
部屋に叫び声が響き渡った。
「ゆえに――お前もこの世から消えなければならない!」
マリアはポケットから毒入りの注射器を抜き、ましろへ襲いかかった。
ましろは静かに目を閉じた。
そして再び目を開く。
その瞳には静かな怒りが宿っていた。
マリアが注射器を突き出し、間合いへ踏み込んだ――その瞬間。
「白雪流――白刃一閃!」
ましろは刀を反転させ、峰をマリアの胴へ叩き込んだ。
「がっ……!」
強烈な衝撃に、マリアの身体が吹き飛んだ。
手から注射器が宙を舞った。
マリアは壁に激突し、そのまま崩れ落ちた。
宙を舞っていた注射器が落下する。
マリアの頬にぶつかった瞬間――。
パキン。
毒入りの薬液が、マリアの顔にかかる。
「あ……!」
その瞬間だった。
マリアの肌に異変が走る。
頬からみるみる血色が失われていく。
張りのあった肌は萎み、艶やかな髪は白く色褪せていく。
「な……なによ……これ……」
マリアは震える手で頬に触れた。
指先に触れた皮膚は乾ききり、深い皺が刻まれている。
「いや……いやぁぁぁぁぁっ!」
マリアは悲鳴を上げた。
若さも、美貌も、誇りも――全てが崩れ落ちていく。
腕は痩せ細り、髪は真っ白になり、顔には無数の皺が刻まれていく。
ほんの数秒で、マリアは老婆のような姿へ変わり果てていた。
「私の……美しさが……」
マリアの声は震えていた。
その瞳にあったのは、死への恐怖ではない。自らの美しさを失った絶望だった。
「嫌……嫌よ……私は……世界で一番……美しく――」
言葉は最後まで続かなかった。
マリアの身体から力が抜ける。
膝が崩れ、ゆっくりと床へ倒れ込んだ。
もはや立ち上がることもできない。
その瞳から生気が失われた。
沈黙が流れた。
ましろは変わり果てたマリアを見下ろした。
その瞳にあったのは怒りではない。
ただ、哀れみだけだった。
やがて、〈フリーデン〉の回収班が到着した。
彼らに事後処理を任せ、ましろはイリスと共にその場を後にした。
数日後――。
世界的化粧品メーカー〈マリアンヌ〉は、マリアの社長辞任を発表した。
理由は「健康上の問題」と説明されたが、その詳細は明かされなかった。
社員たちも、世間も真実を知らない。
そしてマリアは、そのまま表舞台から姿を消した。
こうして、白雪ましろとマリアの長きにわたる因縁が決着した。
だが――。
ましろの戦いは終わらない。
国の治安を守る〈フリーデン〉の一員として。
今日もまた、仲間たちと共に新たな任務へ向かう。
その先にどんな敵が待ち受けていようとも――。
白雪ましろは、歩みを止めない。




