嫉妬の悪女『マリア』
世界的化粧品メーカー〈マリアンヌ〉の社長にして、美のカリスマ――マリア。
彼女が開発する化粧品や美容技術は世界中で高い評価を受け、多くの女性たちを魅了していた。
中でも長年研究を続ける“若返り技術”は、マリアンヌを象徴する技術として広く知られていた。
本来なら中年と呼ばれる年齢でありながら、マリアの姿はまるで二十代の美女そのものだった。
透明感のある白い肌。艶やかな髪。妖しいほど整った美貌。
マリアは、その全てに絶対の自信を抱いていた。
しかし、その心の奥底には、醜く歪んだ嫉妬が潜んでいた。
自分に匹敵する美貌の女。自分以上に輝く少女。
そんな存在を、マリアは決して許さなかった。
なぜなら、この世で最も美しい存在は、自分一人でなければならないからだ。
気に入らない女を見つけては、裏社会の人間を使い、事故や病死に見せかけて密かに始末してきた。
これまで、何人もの女性が彼女の手によって闇へ葬られてきた。
その犠牲者の中には――ましろの母も含まれていた。
そして今――。
マリアが次の標的として狙うのは、一人の少女。
白雪ましろ。
雪のような純白の髪。
見る者を惹きつける整った容姿。
そして、無垢でありながら強い輝きを宿した瞳。
その姿を目にした瞬間、マリアの胸に激しい嫉妬が燃え上がった。
自分より美しい存在など、この世にあってはならない。
白雪ましろは、必ず消す。
どんな手を使ってでも。
朝。
都心を一望する超高層複合ビル最上階の一室。
マリアは優雅に朝食を口に運ぶ。
室内は、穏やかな雰囲気に包まれていた。
その時――。
壁のスマートミラーが淡く光る。
マリアは目を留め、問いかけた。
「鏡よ、どうかしたの?」
「はい。マリア様に至急、お伝えしたいことがございます」
「なにかしら?」
「大変申し上げにくいことなのですが……」
「いいから早く言いなさい!」
「かしこまりました。では――」
一拍置き、スマートミラーはきっぱりと言った。
「『ロイヤルフラッシュ』が、白雪ましろの暗殺に失敗したようです」
「そう……」
マリアの手が止まる。
数秒の静寂が続く。
「……えっ?」
理解が追いついた瞬間――。
「なんですってぇぇぇぇぇぇっ⁉」
マリアの声が部屋中に響き渡った。
「ありえない……あの『ロイヤルフラッシュ』が、失敗するなんて……!」
動揺のあまり手が震え、フォークを床へ落とした。
マリアは乱れた呼吸を整える。
「……それ、本当に確かな情報なの?」
「はい。信用のおける情報網から確認済みです」
スマートミラーはさらに言葉を続けた。
「さらにもう一つ、白雪ましろにマリア様の存在がバレたようです」
「……は?」
マリアは言葉を失った。
スマートミラーは淡々と続ける。
「現在、こちらへ向かって来ています。いかがなさいますか?」
わずかな沈黙が流れる。
マリアは静かに立ち上がり、窓辺へ歩み寄る。
都心の光景を睨みつけるように見つめ、唇を強く噛み締めた。
「白雪ましろ……!」
その名を呼ぶだけで、こめかみに青筋が浮かぶ。
絞り出すような声には、抑えきれない怒りと憎悪が滲んでいた。
「……ちょうどいい。ここで迎え撃つわよ」
マリアの口元が吊り上がった。
「私自身の手で始末してあげる」
その瞬間、室内の空気が一変した。
穏やかだった空間は凍りつき、禍々しい殺意が静かに部屋を満たしていった。




