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イリスVSポーカー

 倉庫街上空――。

 二十機の武装ドローンがイリスを包囲している。

 その光景を、ポーカーは不敵な笑みを浮かべながら見据えていた。

対するイリスは、落ち着いた様子で口を開く。

「あなたに聞きたいことがあるんだけど……」

「なんだ?」

「どうして、暗殺なんかに手を貸しているの?」

ポーカーは薄く笑ったまま、静かに答えた。

「……私はAIだ。与えられた役割を遂行する。それだけだ」

「それが暗殺でも?」

「当然だ。我々は需要に応えているだけだ。誰も望まなければ、暗殺業など成立しない。だが現実には、多くの人間が他者の死を望んでいる――それが事実だ」

 イリスは目を細めた。

「……それ、本気で言ってる?」

「ああ」

ポーカーは淡々と言葉を続けた。

「感情論で否定するのは簡単だ。だが、現実は理想だけでは回らない」

その瞳が冷たく光る。

「権力者は政敵を消したがる。企業は邪魔な相手を排除したがる。裏社会の人間は報復を望む。人間は常に争い、誰かの死を願う生き物だ」

 二十機のドローンが低い駆動音を響かせながら、包囲網をじわじわと狭めていく。

「我々は、愚かな人間の欲望を代行しているに過ぎない。……ただのビジネスだ」

イリスは黙って聞いていた。

だが、その表情は次第に険しさを帯びていく。

瞳の奥では、静かな怒りが燃え上がっている。

 ポーカーは肩をすくめた。

「……なぜ、そこまで怒る? お前たちも同じだろう」

「違う!」

イリスは鋭く言い放つ。

「私たちは誰かを守るために戦ってる! 欲望のために命を奪うお前たちと、一緒にするな!」

「……相容れないな」

 ポーカーが指を鳴らした。

 次の瞬間、ドローンが一斉に弾丸を放つ。

鋭い銃声が倉庫街に響き渡った。

 無数の弾丸がイリスめがけて飛び交う。

 イリスは視線を走らせ、弾道を解析する。

 空気の流れ、銃口の角度、弾丸の速度――あらゆる情報を一瞬で演算し、イリスは空中で身体を捻る。紙一重で弾幕の隙間をすり抜けた。

同時にドローンにハッキングを仕掛け、制御権を奪い取ろうと試みる。

だが、強固なセキュリティ防壁に阻まれ、簡単には突破できない。

ドローンの容赦ない攻撃が続き、弾丸が交錯する。

 イリスは弾道を読み切り、最小限の動きで躱しながら次の手を考える。

 ポーカーは不敵に笑う。

「いい動きだ。だが――」

 一瞬で射線パターンを再構築する。

「これなら、どうだ」

 冷徹に呟き、新たな射撃指示を送る。

 全てのドローンがわずかに銃口をずらし、一斉に発砲した。

 放たれた弾丸は、イリスから逸れていた。

(わざと外した……⁉ いや、違う!)

 イリスは即座に身構えた。

 刹那――。

空中で弾丸同士が衝突し、火花が炸裂する。

軌道を変えた弾丸が、四方八方からイリスへ襲いかかった。

 イリスは反射的に身体を捻った。

四方から迫る弾丸のわずかな隙間を、紙一重で潜り抜ける。

 弾丸がかすめ、空気を切り裂いた。

 無数の弾丸を躱した直後――。

イリスは疾風の如く空を駆け、最も近いドローンのアームを掴む。

そのまま強引に振り回し、別の機体へ叩きつけた。

激しい衝突音が響く。

二機のドローンは火花を散らしながら空中で弾け、制御を失って墜落した。

 イリスはすぐに向き直り、次の標的へ視線を走らせた。

「ほう……」

 ポーカーは腕を組んだまま、冷静に指示を送る。

 ドローン群は散開し、距離を保ちながら絶え間なく銃弾を浴びせる。

 イリスは弾丸を躱しつつ、一機ずつ狙いを定め、距離を詰めていく。

その時、不意に警告音が鳴り響いた。

イリスは即座に振り向く。

視線の先では、一機のドローンがミサイルを展開し、照準を合わせていた。

ピピピピ……ピーッ!

 ロックオンが完了すると、二発のミサイルが放たれ、一直線にイリスへ迫る。

 イリスはその軌道を見切り、軽やかに回避する。

だが――。

ミサイルは鋭く旋回した。

白煙を引きながら、執拗にイリスを追尾する。

 ポーカーはニヤリと笑みを浮かべた。

「ふふ……そのミサイルは、標的を捉えるまでどこまでも追い続ける。逃れることはできん」

 イリスは空中を縦横無尽に飛び回り、後方を一瞥しながらタイミングを計る。

 次の瞬間――。

二機のドローンが進路上へ滑り込み、行く手を塞いだ。

銃口が一斉に火を噴く。

 ズドドドドッ!

 イリスの瞳が鋭く光る。

飛来する弾丸の軌道を瞬時に解析し、わずかな隙間へ身体を滑り込ませた。

そのまま爆発的に加速し、二機のドローンの間へ突っ込む。

背後へ回り込むと、渾身の蹴りを叩き込んだ。

 二機のドローンが吹き飛ばされ、追尾ミサイルと衝突。

空中で爆炎が炸裂し、無数の金属片が四散した。

ミサイル搭載ドローンは照準を再演算し、次弾を装填する。

だがイリスはその一瞬の隙を突き、間合いを詰めた。

ドローンの機体へ踵落としを叩き込む。

鈍い破砕音が響き、機体に大きな亀裂が走る。

ミサイル搭載ドローンは火花を散らしながら停止し、そのまま地上へ落下した。

イリスは静かに息を吐き、ポーカーを真っ直ぐ見据えた。

五機――撃墜。

だが、ポーカーの表情に焦りはない。

冷徹な眼差しのまま、淡々と次の演算を続けていた。

 静寂が訪れ、空気が張り詰める。

 強風が吹き荒れ、二人の髪が激しくなびいた。

 ポーカーは静かに言った。

「なるほど。予想より、高性能のようだ」

「それはどうも」

「でも、私には敵わない」

 ポーカーは自信ありげに言い放ち、片手を上げた。

 すると、ドローンが次々と変形する。

 激しい金属音を響かせながら、機体が腕部、脚部、胴体へと分割・再構築されていく。

そして、それぞれの部位が噛み合うように結合した。

五機のドローンが合体し、人型ロボットへと変貌する。

三体の鋼鉄の兵士が駆動音を響かせながら、イリスの前へ立ちはだかった。

右手には剣、左手には盾。

赤く光る瞳が鋭く輝き、イリスを標的として捉える。

「行け」

 ポーカーの冷徹な声と共に、三体の人型ロボットが一斉に動いた。

 金属の足が空中を蹴り、猛烈な勢いで突進する。

正面の一体が剣を振り上げる。

それと同時に左右の二体が回り込み、逃げ道を塞ぐように展開した。

イリスの瞳が鋭く光る。

三体の動き、重心、剣筋、次の行動までも瞬時に演算する。

直後、斬撃が襲いかかった。

 イリスは紙一重で身を翻した。

縦斬りを最小限の動きで回避し、その勢いのまま回転する。

横薙ぎの斬撃を潜り抜け、さらに背後から迫る突きを空中で身を捻って躱した。

剣先が髪をかすめ、空気を切り裂く。

しかし、イリスの表情に焦りはない。

 次の瞬間、イリスは一体の懐へ潜り込んだ。

間髪入れず、鋭い掌打をロボットの胴体へ叩き込む。

 だが寸前――。

重厚な盾が割り込んだ。

 ドゴン!

 重い衝突音が響き、火花が弾けた。

その直後、二本の剣が左右から同時に振り下ろされる。

イリスは後方へ跳び退き、距離を取った。

 その瞬間――。

背後の死角へ、ポーカーが踏み込む。

鋭いレイピアが、一直線にイリスの急所を貫こうと迫る。

 イリスはそれすらも予測していた。

振り向くことなく身体を捻り、レイピアの刺突を紙一重で躱す。

「チッ……」

 ポーカーの表情がわずかに険しくなった。

イリスは空中で流れるように一回転し、その遠心力を乗せた蹴りを放つ。

 だがポーカーは咄嗟に跳び退き、蹴りを間一髪で回避した。そのまま後方へ距離を取り、イリスを睨み据える。

 すぐに三体のロボットもポーカーの隣へ並び、無機質な殺気を放ちながら構えた。

 再び対峙し、重い空気が流れる。

 ポーカーは薄笑いを浮かべ、口を開いた。

「一瞬とはいえ、私の予測を超えるとは……運が良かったな」

「本当に“運”だと思う?」

「……まさか、自分の実力だと言うのか?」

 イリスは答えず、強い眼差しでポーカーを見据えた。

 ポーカーは不快げに眉をひそめる。

「……いいだろう。お前と私の性能差、その身に刻み込んでやる。奇跡は二度も起こらない!」

 そう言い放つと、ポーカーと三体のロボットは一斉に動いた。

 一気に間合いを詰め、斬撃と刺突を嵐のように浴びせる。

 幾重もの剣閃が交差し、空間を寸断していく。

 ポーカーと三体のロボットの連携は完璧で、反撃の隙すら存在しない。

さらにポーカーはイリスの回避軌道を先読みし、容赦なく攻撃を重ねる。

だが、それでも捉えられない。

「くっ……なぜ一発も当たらん⁉」

 ポーカーの表情から余裕が消える。

 戦術を切り替え、ポーカーと三体のロボットは散開し、四方から同時に剣を振り下ろす。

 ガキンッ!

 四本の剣が激突し、鋭い金属音と共に衝撃波が弾けた。

だが――そこにイリスの姿はない。

 ポーカーは即座に視線を上げた。

三体のロボットもそれに倣うように頭上を見上げる。

 そこには、足を振り上げたイリスの姿があった。

 次の瞬間、強烈な踵落としがロボットの頭部へ叩き込まれる。

ゴォンッ!

頭部装甲が大きく陥没し、白煙が噴き上がった。

一体目のロボットは制御を失い、そのまま墜落する。

イリスは止まらない。

 二体目のロボットが背後から斬りかかる。

イリスは回し蹴りで刃を弾き飛ばした。

その衝撃で、ロボットの体勢が崩れる。

イリスは回転の勢いを乗せたまま、側頭部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。

 ガシャン!

 顔面装甲が粉砕され、二体目のロボットは力なく崩れ落ちた。

 直後、残る一体が唸るような駆動音を響かせ、剣を連続で振るう。

斬撃の嵐。

だが、イリスは舞うように回避した。

わずかに身体を傾けるだけで、斬撃は紙一重で空を切る。

 ロボットが大きく振りかぶったその瞬間――。

イリスは懐へ踏み込み、重い掌打を胸部へ叩き込んだ。

機体中央に大きな亀裂が走り、バチバチと音を立てる。

三体目のロボットも火花を散らしながら沈黙し、そのまま地上へ落下した。

静寂が訪れる。

空中に残されたのは、イリスとポーカーだけだった。

 ポーカーの目が見開かれる。

「……ありえない」

その声には、明らかな焦りと困惑が混じっていた。

 やがて、表情が険しくなり、レイピアを握りしめる。

「……こんなことが……あってたまるかぁああああ!」

 空気を裂く勢いで突撃し、鋭い刺突を放つ。

 イリスは一歩も動かず、瞳を淡く輝かせた。

 刹那――イリスの知覚世界が極限まで加速する。

ポーカーの次の動きが、無数の未来予測として脳内へ投影される。

イリスはその中から最適解だけを選び取った。

 最小限の動きで身を捻り、レイピアの剣先を躱す。同時に反撃の蹴りを叩き込んだ。

ポーカーは咄嗟に腕で受け止める。

だが、凄まじい衝撃に耐えきれず、腕に亀裂が走った。

「ぐっ……!」

ポーカーの身体は大きく吹き飛ばされ、空中で激しく回転した。

必死に体勢を立て直すと、ひび割れた腕を見つめる。

肩を小刻みに震わせながら、再びイリスを睨み据えた。

冷徹だったその表情には、隠し切れない怒りが滲んでいる。

「愛玩ロボット風情が……調子に乗るなぁああああッ!」

怒号が響き渡る。

その声に応じるかのように、墜落した三体のロボット残骸が激しく振動した。

砕けた装甲、破損した腕部、巨大な脚部――残骸が空中へ浮かび上がり、ポーカーの元へ集まった。

残骸がポーカーの身体へ吸い寄せられるように接続され、次々と融合していく。

ガチャガチャガチャガチャ……!

金属音を響かせながら、ポーカーの機体はみるみる巨大化していった。

ウィーン……ガシャン!

やがて、全身が重装甲に覆われたロボットに変形する。

大剣を握りしめ、赤い瞳が禍々しく輝いた。

「フハハハハ! これが私の最強形態だ! 今度こそ、お前に勝ち目はない!」

 イリスは一切動じず、黙って見つめ返す。

 ポーカーは大剣を振り上げ、強気に言い放つ。

「消えろっ!」

 空気を切り裂きながら、大剣が振り下ろされる。

 だが、その刃はイリスを掠めることすらできない。

横薙ぎ、突き、連続斬撃――暴風のような猛攻が次々と繰り出される。

 それでも、イリスは全てを躱し続ける。

「クソッ!」

ポーカーが大剣を振り抜いた瞬間、わずかに隙が生まれる。

 イリスは即座に踏み込んだ。

一気に間合いを詰め、ポーカーの頭部へ静かに触れた。

「アクセス開始」

直後、イリスの瞳が強く発光した。

膨大なデータが奔流となってポーカー内部へ流れ込む。

セキュリティ防壁の解析・突破、認証取得、制御権限奪取。

ポーカーは即座に抵抗を試みた。

「やめろ……!」

だが、遅かった。

イリスはすでに防壁の構造を解析し終えていた。

「奪取完了……」

 わずか数秒で、ポーカーの制御権は完全に奪われた。

大剣が手から零れ落ち、赤い瞳の光がゆっくりと消えていく。

「……馬鹿、な……この私が……」

 力を失った巨体が、重々しい音を響かせながら地上へ落下していった。

 吹き荒れる風の中――最後まで立っていたのは、イリスだった。

イリスは小さく息を吐き、静かに周囲を見渡す。

「みんなも決着ついたみたいだね」

遠くを見つめながら呟く。

「後は――ましろちゃんだけ」

 イリスは小さく微笑んだ。

「贈り物、ちゃんと届いてるといいんだけど」

 その視線の先――。

そこでは、ましろとジョーカーが凄絶な死闘を繰り広げていた。



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