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グリュンVSジャック

 倉庫の屋根の上――。

グリュンとジャックは立ち並ぶ倉庫の屋根を駆け抜けながら、激しく刃を交えていた。

 グリュンの薙刀が空気を切り裂き、ジャックの双刃剣が風車のように唸る。

刃が激突するたびに金属音が響き、火花が散った。

衝撃が屋根を深々と裂き、足場が崩れ落ちる。

二人はそのまま倉庫内へ落下した。

落ちながらも刃を交え、ほぼ同時に着地する。

互いに後方へ跳び退き、距離を取る。

束の間の静寂が訪れた。

ジャックは不敵な笑みを浮かべ、満足そうに呟いた。

「貴様の実力は、よく分かった」

 そう言うと静かに息を吐き、表情を引き締める。

 次の瞬間、ジャックが突撃した。

速い――今までとは桁違いだった。

 瞬く間に間合いを潰し、喉元を狙った直線の刺突が迫る。

 グリュンは咄嗟に後退しながら、その刺突を辛うじて躱す。

刃先が空を切った。

間髪入れず、ジャックは身体を捻り、回転の勢いを乗せた一閃を放つ。

グリュンは冷静に見切り、その斬撃を受け流した。

甲高い音が響き、衝撃が広がる。

「くっ……!」

力強く打ち込まれる剣圧に、グリュンの足元がわずかに揺らいだ。

休む間もなく、横合いから鋭い斬撃が迫る。

グリュンは身体をよじり、横薙ぎの一閃をすれすれで躱す。

刃が髪をかすめた。

 ジャックはすかさず、連続した斬撃を浴びせてきた。

斬り上げ、振り下ろし、斜め、水平――あらゆる角度から剣筋が縦横無尽に舞う。

剣の動きに迷いはなく、まるで踊るように滑らかだった。

グリュンも動きを止めない。

薙刀一本で無数の斬撃を弾き返す。

激しい連撃に押されながらも、力強く踏み込み、薙刀を振るって応戦する。

「どうした、受けるだけで精一杯か?」

 ジャックが嘲るように言った。

 グリュンは眉をひそめる。

直後――薙刀を振り抜き、双刃剣を弾いた。

その衝撃で、ジャックの体勢がわずかに崩れる。

グリュンはその一瞬の隙を逃さず懐へ滑り込み、石突きを顔面へ突き出した。

「――っと、危ねぇ!」

ジャックは咄嗟に首を曲げ、間一髪で躱すと、そのまま後方へ跳び退いた。着地と同時に体勢を立て直す。

間を置かず、グリュンは一瞬で距離を詰める。薙刀を力強く振り下ろした。

ジャックは双刃剣で受け止める。

ガキンッ!

その衝撃は重く、ジャックの足元が深く沈み込んだ。

地面が裂け、剣が軋む。

「……っ!」

 ジャックは歯を食いしばった。

 グリュンの斬撃は止まらない。

 薙刀を自在に振るい、連撃が雨のように容赦なく降り注ぐ。

 ジャックは徐々に押し込まれ、ついに堪えきれず後方へ跳び退いた。

それでも、口元には不敵な笑みが浮かんでいる。

「なかなかいい動きだ。だが――」

双刃剣を水平に持ち直す。その中央を捻った。

金属音を響かせながら刃が左右へ分離し、一本だった武器は二振りの剣へと姿を変えた。

ジャックは二本の剣を構え直した。

「遊びは終わりだ」

雰囲気が一変し、鋭い視線から殺気が滲み出る。

 グリュンはその殺気を感じ取り、目を細めた。

「二刀流か……」

 薙刀を握る手に、自然と力がこもる。

頬を伝った汗が床へ落ちた――その瞬間。

ジャックは地面を蹴り、爆発的な加速で間合いを詰めた。

空気を切り裂く音と共に、二本の剣が同時に振り下ろされる。

グリュンは反射的に薙刀を掲げ、交差する刃を受け止めた。

 凄まじい衝撃が腕に走った。

「ぐっ……!」

ジャックは間髪入れず、左右から鋭い横薙ぎを叩き込む。

グリュンは一歩踏み込み、薙刀を大きく旋回させて二本の剣を弾いた。

その勢いのまま、すかさず石突きを突き出す。

だが、ジャックは素早く身を沈めて突きを躱した。

直後、低い姿勢のまま跳ね上がるように二本の剣を振り上げ、グリュンの横腹へ二連撃を叩き込む。

グリュンは薙刀の柄で受け止めた。

だが衝撃に押し込まれ、後方へ吹き飛ばされる。

地面を滑りながらも踏みとどまり、即座に構え直した。

ジャックは止まらない。

瞬時に接近し、二本の剣で絶え間なく斬撃を繰り出す。

速いだけではない。

一撃の重さも、鋭さも先ほどとは別物だった。

グリュンは薙刀を操り、その全てを受け、いなし、弾く。

互いに一歩も引かない。

斬撃が交錯し、風が唸る。

倉庫の壁は無数の斬痕が刻まれ、今にも崩れ落ちそうに軋んでいた。

ジャックは愉悦を滲ませて笑う。

「俺の本気について来られるとは。ふふ……もっと俺を楽しませろ!」

 ジャックの剣速が、さらに上がる。

「――ッ!」

 グリュンの反応が、ほんのわずかに遅れる。

 鋭い一閃が肩口をかすめた。布が裂け、鮮血が細く走る。

ジャックの口元が歪んだ。

連撃が加速する。

グリュンは必死に食らいつく。薙刀を振るい、迫る刃を弾き続けた。

だが、次第に追い詰められ、一歩、また一歩と後退していく。

足元のコンクリートが砕け、後退の軌跡が刻まれていった。

ジャックの剣が唸るたび、空気が引き裂かれる。

防ぐだけで精一杯、反撃の余裕すらない。

「まだまだぁ!」

 ジャックはさらに勢いを増し、猛攻を浴びせる。

 無数の斬撃がグリュンへ襲いかかった。

 胸、大腿、上腕、頬――少しずつ、だが確実に傷を刻んでいく。

 グリュンは一度距離を取るが、その動きすら読まれている。

ジャックは間を置かず踏み込み、再び間合いを詰めた。

獲物を逃がすまいと執拗に追いすがる。

 ジャックの渾身の一撃が炸裂した。

 グリュンの身体は薙刀ごと吹き飛ばされる。激しく壁に叩きつけられ、崩れ落ちた瓦礫に埋もれた。

ジャックは余裕の笑みを浮かべた。

「勝負はついたな。貴様はもう限界だ。潔く負けを認めろ。一瞬で楽にしてやる」

 グリュンは伏せたまま沈黙する。

 ジャックは勝利を確信したように呟いた。

「こいつを始末した後は、あの小娘だな。次は、確実に仕留めてやる」

 その言葉を聞いた瞬間、グリュンは顔をしかめた。

「……今、なんて言った」

 瓦礫を押し退け、ゆっくりと立ち上がる。

 無造作に瓦礫を払い、鋭い眼光でジャックを睨みつけた。

「……雰囲気が変わったな」

 ジャックは警戒心を高めた。

グリュンは低い声で言った。

「調子に乗るなよ、三下」

「なんだと」

 ジャックは顔を歪め、こめかみに青筋を浮かべた。

 グリュンは静かに息を吐き、薙刀を構えて言い放つ。

「お前は僕を怒らせた。もう許さない」

「はっ! 許さないからどうした?」

 次の瞬間――。

 グリュンの姿が掻き消えた。

ジャックが目を見開く。

すでに眼前には薙刀が迫っていた。

 ジャックは咄嗟に剣を交差させ、紙一重で受け止めた。

 ガキンッ!

 凄まじい衝撃が広がる。

 グリュンは即座に薙刀を返し、石突きをジャックの脇腹へ深々とめり込ませた。

「グハッ!」

 ジャックは吹き飛ばされ、倉庫の壁を突き破る。

破片を撒き散らしながら外へ投げ出され、地面を何度も転がった。

 グリュンは外へ飛び出し、伏せるジャックをじっと見据えた。

やがて、ジャックの不気味な笑い声が耳に刺さるように響き渡る。

「ふふ……あははは!」

 ジャックは立ち上がり、興奮気味に叫んだ。

「いいぞ! ようやく本気になったか! それでこそ、殺し甲斐がある!」

 剣を交差させ、腰を落とし、鋭く見据えた。

 わずかな沈黙が流れ、空気が張り詰める。

 倉庫の壁が崩れ落ちた、その瞬間――。

二人は同時に地を蹴り、激突した。

刃がぶつかり合い、閃光が走る。

グリュンは薙刀を振るい、ジャックも二本の剣を交互に閃かせて斬り返す。

斬撃、受け、突き、弾き――熾烈な攻防が続いた。

刃と刃が交錯するたび、二人の身体に新たな傷が刻まれていく。

ジャックは薙刀の切っ先を潜り抜けると同時に、脇腹を狙って突く。

だが、グリュンは薙刀を鋭く回転させ、剣の軌道を弾いた。

「――ッ!」

すかさずジャックはもう一振りの剣を横薙ぎに振る。

グリュンはそれも弾き、即座に反撃の一撃を振り下ろす。

ジャックは後ろに跳び、その一撃をギリギリで回避した。

二人とも肩を上下させ、荒い息を吐く。

その身には幾筋もの傷が走り、血が滲んでいた。

ジャックは口元の血を拭い、不敵に笑う。

「その傷……もう立っているのもやっとのはずだ。いい加減諦めろ」

「……こんなかすり傷、大したことはない」

「ふっ、強がりやがって……まあいい。次の一撃で、貴様を確実に斬り伏せる!」

二人は互いをじっと見据えながら、ゆっくりと呼吸を整える。

薙刀と剣を握る手に力を込めた。

風が吹き抜ける。

刹那――同時に地を蹴った。

 一瞬で間合いが詰まる。

ジャックの剣が閃く。

右手の剣を鋭く縦に振り下ろし、左手の剣を横薙ぎに振る。

だが――。

 グリュンはその斬撃をあえて避けなかった。

瞬間、全身の筋肉を一気に引き締める。

剣が左肩と右脇腹へ深々と食い込んだ。

血飛沫が舞う。

だが――。

刃はそれ以上進まなかった。

筋肉が強引に挟み込み、剣を固定していた。

「なっ――動かねぇ⁉」

 ジャックは目を見開き、慌てて剣を動かそうとするが、ビクともしない。

 その瞬間、ジャックの背筋に悪寒が走る。

すぐに身を引こうとしたが、すでに遅かった。

「これで……終わりだ!」

 グリュンは冷徹に言い放つ。

次の刹那、薙刀が一直線に振り下ろされた。

 白い軌跡が、ジャックの身体を深々と斬り裂く。

「グハッ……!」

 ジャックの口元から血が噴き出す。傷口から血が溢れ、顔が痛みに歪む。必死に踏みとどまろうとするが、膝に力が入らない。

「……クソ……この俺が……負けるだと……」

 ジャックは悔しげに呟き、そのまま力尽きて倒れた。

 見届けた後、グリュンは痛みを堪え、体に突き刺さった二本の剣を引き抜いた。

そして、深く息を吐きながら、溢れ出る血を必死に抑え込む。

「……これで、少しは役に立てたかな」

 グリュンはその場に腰を下ろした。

荒い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと目を閉じた。



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