表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/24

キルシュブリューテVSクイーン

 少し離れた倉庫の前――キルシュブリューテとクイーンは対峙していた。

 キルシュブリューテの表情は険しく、クイーンは妖艶な笑みを浮かべている。

「うふふ……小さな子猫ちゃん。私が、たっぷり可愛がってあげる」

「おばさんに可愛がられても、全然嬉しくない!」

「……“おばさん”?」

 クイーンはわずかに眉をひそめる。

 キルシュブリューテははっきりと言った。

「キルシュは怒ってるんだから! 大切な仲間が狙われて……しかも、大の大人が四人がかりで。おばさんたち、すっごく卑怯だよ!」

 クイーンは静かに目を伏せた。肩が小刻みに震える。

 キルシュブリューテは、矢継ぎ早に言い放った。

「だから――おばさんは、キルシュが絶対に倒す!」

 クイーンを見据え、魔法のステッキを構えた。

 数秒の沈黙が流れる。

やがて、クイーンが低く呟いた。

「……ねえ」

クイーンはゆっくりと顔を上げた。こめかみに青筋を浮かべ、眉間に深いしわを刻みながら睨みつける。

「さっきから……おばさん、おばさんって……」

 一歩踏み出す。

「ふざけんじゃないわよ! このちんちくりんがぁああああ!」

 クイーンの絶叫が、倉庫街に響き渡った。

「キルシュはちんちくりんじゃない!」

 キルシュブリューテは大声で言い返した。

次の瞬間――。

クイーンの鋼の鞭が鋭くしなり、空気を切り裂きながら迫る。

キルシュブリューテは素早く後方へ跳び、その一撃を躱した。

だが、間髪入れず次の一閃。さらにもう一撃と鞭が唸る。

怒りを乗せた猛攻は、途切れることなく続いた。

キルシュブリューテは軽やかに躱し、避けきれない一撃だけを魔法のステッキで弾き返す。

 ガキンッ!

 ステッキと鞭がぶつかるたび、甲高い金属音と共に火花が激しく散った。

クイーンは不敵な笑みを浮かべる。

「うふふ……いつまで耐えられるかしらね」

 キルシュブリューテは無言のままクイーンを見据え、反撃の機をうかがった。

 クイーンの鋼の鞭が、唸りを上げて振り下ろされる。

キルシュブリューテは深く踏み込み、ステッキを振り抜く。

しなる鞭を力強く弾き飛ばした。

その衝撃で、クイーンの体勢がわずかに揺らぐ。

一瞬の隙を逃さず、キルシュブリューテはステッキを構え、低く呟く。

「ザイフェン・ブラーゼン!」

 ステッキの先端から、無数のシャボン玉が放たれた。

 シャボン玉は弾丸のような速度で、クイーンへと迫る。

 クイーンは即座に鞭をしならせ、迫るシャボン玉を切り裂いた。

だが、鞭の隙間をすり抜けたシャボン玉が、クイーンを捉える。

 身体に触れた瞬間、シャボン玉が眩しく輝いた。

次の刹那――轟音と共に激しい爆発が巻き起こる。

 爆風が吹き荒れ、周囲は一瞬で煙に包まれた。

爆発が収まり、辺りに静寂が落ちる。

キルシュブリューテは気を緩めず、煙の奥をじっと見据えた。

次第に煙が薄れ、その奥に黒い影が浮かび上がる。

やがて、その全貌が露わになった。

そこに立っていたのは、傷ひとつないまま悠然と佇むクイーンだった。

 煌めくダイヤの鎧。首元には真珠のネックレスが揺れ、指には宝石の指輪が輝いていた。

クイーンは嗤いながら呟く。

「うふふ……残念だったわね」

 キルシュブリューテは目を細めた。

「……すごく派手だね、おばさん。ちょっと眩しいんだけど……」

クイーンは胸を張り、誇らしげに言った。

「美しいものは、自然と輝いて見えるものなのよ」

 そして、挑発的に言い放つ。

「あなたのようなちんちくりんには、まだ分からないわね」

「おばさん……若作りに必死なんだね」

 ブチッ!

 何かが切れたような音が響いた。

その場の空気が凍りつく。

わずかな沈黙が流れた。

直後、クイーンは声を荒げた。

「何も知らないただの小娘が……調子に乗るなぁああああ!」

 鞭が空気を裂き、唸りを上げながら迫る。

キルシュブリューテは地面を蹴り、横へ跳ぶ。

 だが、休む間もなく次の一撃。

先ほどよりも速く、鋭い一閃が次々と襲いかかる。

 キルシュブリューテはその軌道を見切り、軽快なステップで躱し続けた。

わずかな隙を突き、シャボン玉を放つ。

しかし――。

クイーンは避ける素振りすら見せず、胸を張って真正面からシャボン玉を受け止めた。

シャボン玉が着弾し、連鎖的に炸裂する――だが、クイーンはビクともしない。

ダイヤの鎧が衝撃を弾き、まるで通じなかった。

「ふふ……その程度の攻撃、避けるまでもないわ」

 再び、鞭の猛攻が容赦なく襲いかかる。

「あなたの攻撃なんて、私には全然効かない。無駄な抵抗はやめて――さっさと死になさい」

 キルシュブリューテはしなやかに躱しながら、冷静に次の手を考えた。

(シャボン玉が効かない……それなら――)

 瞬時に戦術を切り替え、迷いなくクイーンへ踏み込んだ。

 ステッキにエネルギーを溜めつつ、全力で距離を詰める。

鋭い鞭が肩を裂き、鮮血が舞う。さらに横腹を打たれ、全身を揺さぶるような激痛が走る。

それでも、キルシュブリューテは怯まず前へと駆け抜けた。

致命傷だけを避け、一気に距離を詰めていく。

「チッ……!」

 初めて、クイーンの表情に焦りが走った。

 間合いに踏み込むと、キルシュブリューテはステッキを振り被った。

 だが――その瞬間、クイーンの口元がわずかに吊り上がった。

 後退しながら指輪を宙にばら撒く。

刹那、指輪の宝石が閃き――一斉に爆ぜた。

花火のような閃光と爆音が宙に咲き乱れ、たちまち煙が辺りを包み込む。

クイーンは後ろに跳び、その爆発から逃れた。勝利を確信したように煙の奥を見据える。

「ふふふ……」

 しかし、その笑みが、一瞬で驚きに変わる。

煙を突き破り、キルシュブリューテが飛び出した。

ステッキを構えたまま一直線に突撃する。

衣服は焼け焦げ、煤にまみれている。だが、その瞳だけは少しも揺らいでいなかった。

「なっ――⁉」

 クイーンは目を見開き、慌てて身構えた。

 だが、もう遅い。

 キルシュブリューテは懐に滑り込み、ステッキの先端を向ける。

 クイーンは鼻で笑った。

「至近距離でも無駄よ。この鎧が全て弾き返す」

「それはどうかな」

 キルシュブリューテは低く呟く。

「ヴィントクラフト!」

 ステッキの先端から、凄まじい衝撃波が放たれ、ゼロ距離でクイーンの胸を撃ち抜いた。

 その反動で、キルシュブリューテ自身も吹き飛ばされ、地面を転がる。

クイーンも地面を滑りながら後退する。だが、途中で踏み止まり、余裕の笑みを浮かべて胸を張った。

再び防がれた――かに見えた。

しかし。

一瞬の静寂の後、ダイヤの鎧に深いひびが走った。

ピキ――ピキ。

ひび割れる音が、戦場に重く響いた。

「ぐふっ……!」

クイーンの口から血が流れ、片膝をつく。

乱れた息を整えながら、キルシュブリューテを睨みつける。

「小賢しい真似をしてくれるじゃない……」

口元の血を拭い、ゆっくりと立ち上がる。ひび割れた鎧にそっと指を触れた。

 キルシュブリューテは身を起こし、挑発的に言い放つ。

「あれ? キルシュの攻撃、効かなかったんじゃないの?」

 クイーンは拳を握りしめ、その目に燃えるような殺意を宿しながら、視線をキルシュブリューテに戻す。低い声で、唇を噛みしめながら言った。

「……殺す」

低く絞り出されたその一言に、再び戦場の空気が凍りついた。

先ほどまでの余裕も妖艶な笑みも消え失せている。

 クイーンは怒りに任せて踏み込み、鋼の鞭を振り下ろした。

 キルシュブリューテは魔法のステッキで迎え撃つ。

 鋼の鞭がしなやかにしなり、全方位からキルシュブリューテを襲う。

 一撃を躱した瞬間、鞭の軌道が鋭く変化する。

鞭はまるで意思を持つかのように曲がり、執拗に追いすがる。

キルシュブリューテは防戦一方になっていた。

しかし、鞭をいなしながら、次の手を巡らせる。

(もう一度『ヴィントクラフト』を当てれば倒せる……でも、その隙はもうない。なら――『あれ』で終わらせる!)

 そう決意し、キルシュブリューテは表情を引き締めた。

 ステッキをわずかに傾ける。先端が微かに桜色へと瞬いた。

その瞬間、目に見えない微細な粒子がふわりと拡散する。

ナノミストは風に紛れて上空へ昇り、小さな雷雲の種を蒔いていく。

やがて空の一角に薄い靄が滲み、ゆっくりと雷雲へと姿を変えていった。

だが、クイーンは気づかない。

目の前の獲物を追い詰めることしか見えていなかった。

「どうしたの? 逃げてばかりじゃ、私には勝てないわよ!」

 クイーンは嗤いながら、さらに鞭の速度を上げる。

鞭が唸り、次々と容赦なく襲いかかる。

キルシュブリューテはそれを、ひたすら回避する。

地面を滑るように身体を捻り、軌道を見切る。

鋭い一閃が頬をかすめ、血が滴る。

それでも動じない。歯を食いしばり、痛みを飲み込んで耐える。

(まだ……もう少し……!)

上空では、雷雲が徐々に膨らんでいく。空気が震え、静電気が走る。

 しかし、その時だった。

わずかな踏み込みの遅れ。

 キルシュブリューテの足首に、鋼の鞭が絡みついた。

「――捕まえた」

 クイーンの唇が、不気味に歪む。

「しまっ――!」

言い終わるより早く、クイーンの鞭がしなる。

キルシュブリューテの身体が、勢いよく宙へと引き上げられた。

凄まじい速度で宙を舞い、そのまま地面へ叩きつけられる。

ドォンッ!

瓦礫が空中に舞い上がり、地面に亀裂が走った。

だが――。

キルシュブリューテは咄嗟にステッキを振り、風を操る。

身体と地面の間に空気の層が生まれ、衝撃をわずかに逃がした。

しかし――クイーンの攻撃は終わらない。

「あはははははっ! まだ終わらないわよ!」

 間髪入れず、鞭をしならせる。

 キルシュブリューテは再び引き上げられ、今度は逆方向へ叩きつけられる。

三度、四度――何度も地面へ叩きつけられた。

骨が軋み、視界が揺れる。

風で衝撃を和らげているが、そのダメージは確実に蓄積していた。

やがて、ピタリと鞭の動きが止まった。

クイーンは息を整えながら、地に伏すキルシュブリューテを見下ろした。

「……そろそろ限界のようね」

 唇がゆっくりと吊り上がる。

「こいつを殺したら、次はあの小娘ね……ふふ、楽しみだわ」

 その言葉を聞き、キルシュブリューテの表情が険しくなる。

ゆっくりと立ち上がり、クイーンを睨み据えた。

その瞳には静かな怒りが宿っていた。

 クイーンは挑発的に言った。

「あら……まだ意識があったの?」

 キルシュブリューテは痛みを堪えながら、不敵に微笑んだ。

「おばさんを倒すまで、キルシュは倒れないよ」

 クイーンは眉をひそめ、冷徹に言い放つ。

「……いいわ。次で終わらせてあげる」

 再びキルシュブリューテを振り回そうと、鞭を強く引く。だが、鞭はピンと張りつめたまま、びくとも動かない。

「なに――⁉」

 キルシュブリューテはその場に全力で踏ん張り、鞭に引かれながらも一歩も動かなかった。

「そうだね……これで終わりだよ、おばさん」

 キルシュブリューテはステッキを天へと掲げた。

 上空の雷雲がゴロゴロと唸りを上げる。

 その異音に、クイーンは反射的に空を見上げた。

目を見開き、その顔から余裕が消えた。

「なっ……なによ、あれ⁉」

 一瞬――時が止まったかのようだった。

 キルシュブリューテは叫びながら、ステッキを振り下ろす。

「ドンナー・シュラーク!」

次の瞬間――。

天を裂く轟音が響いた。

極太の雷光が、天から一直線に落下する。

 白く焼ける閃光が、クイーンの全身を包み込んだ。

 ドォォォォンッ!

 大地が揺れ、空気が震える。

 キルシュブリューテは、衝撃に耐えながら必死に踏ん張った。

 やがて衝撃が収まり、静けさが辺りを包み込む。

キルシュブリューテは肩で息をしながら、煙の奥を見据えた。

 煙が、ゆっくりと晴れていく。

 そこには、黒焦げになったクイーンが、かろうじて立っていた。

 髪はチリチリに焼け、全身から煙が立ち昇る。ダイヤの鎧も粉々に砕け散っている。

「ま、まさか……この私が……こんな、ちんちくりんに……!」

 クイーンは力なく膝を折った。

そして、そのまま地面へ崩れ落ちる。

 キルシュブリューテは深く息を吐き、重圧から解放されたように微笑んだ。

「よし……これで、任務完了!」

 肩の力を抜き、その場にへたり込む。

全身の痛みが一気に押し寄せてきた。

それでも、キルシュブリューテの口元には安堵の笑みが浮かんでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ