暗殺組織『ロイヤルフラッシュ』
二日後の朝。
都心を見下ろす高級ホテル最上階のスイートルーム――そこが、エースとクイーンの拠点だった。
深紅の絨毯、黒檀のテーブル、並べられたフルーツとワイン。金縁のソファがゆったりと配置されている。
エースは黙々とハート型の小型デバイスをいじっていた。
その表情には、狂気じみた笑みが浮かんでいる。
クイーンはソファに腰かけ、指輪の宝石を見つめながらうっとりしていた。
「はぁ~、やっぱり美しいものはいいわね。エースもそう思わない?」
「そうだね。特に赤がいい。まるで鮮血みたいだ」
二人は時折言葉を交わしつつ、暗殺の準備を進めていた。
その時。
二人の男がホテルへ足を踏み入れる。
騎士然とした男――“スペードのジャック”。
髭を蓄えた強面の男――“クローバーのキング”。
二人の首筋にも、不気味な道化師の紋章が刻まれていた。
二人はエレベーターで最上階へ上がり、そのままスイートルームへ向かった。
ドアの開く音が、わずかに室内に響く。
エースとクイーンは気配を察知し、ぴたりと手を止めた。
鋭い視線を入口へ向け、無言のまま待ち構える。
空気がわずかに張り詰めた。
ジャックとキングは平然とリビングへ進んだ。
二人の姿を見た瞬間、エースは表情を緩める。
「……なんだ」
小さく肩を落とし、手にしていたデバイスをくるりと回す。
「ジャックとキングか」
クイーンもふっと息を抜いた。
「てっきり、敵襲かと思ったわ」
部屋の緊張感は、一気にほどけた。
ジャックは二人の様子を見て、わずかに眉をひそめる。
「……聞いてないのか?」
「ん? なんのこと?」
クイーンの問いかけに、キングが答えた。
「お前たちの仕事に、わしらも参加することになった」
「――ッ⁉」
エースとクイーンの目が見開かれる。
ジャックは冷ややかに言った。
「……二日前、しくじったらしいな」
エースは表情を引き締め、冷静に答えた。
「この前の襲撃は実験だ。標的の戦闘データは十分に回収できた。失敗ではない」
「そんなことしなくても、一撃で殺せばいいだろ?」
「今回の標的は、予想以上のやり手だった。慎重に動く必要がある」
「俺なら、その場で首を落としていた」
「それはどうかな」
「なに⁉」
不穏な空気が漂い始めた、その時だった。
ジャックとキングの背後から、小型の執事型ロボットが現れる。
端正な顔立ちの彼――ポーカーは、『ロイヤルフラッシュ』のパーソナルAIである。
リビング中央に静かに浮かぶと、ポーカーは冷静に告げた。
「皆様、落ち着いてください。これは、ジョーカー様がお決めになられたことです」
その一言で、部屋の空気がわずかに変わった。
「ジョーカーが……?」
エースは低く呟く。
ポーカーは淡々と言った。
「白雪ましろの暗殺は、四人で行い――確実に仕留めろ。……とのことです」
一瞬の沈黙が流れる。
クイーンは小さく息を吐き、肩をすくめながら呟いた。
「ジョーカーちゃんが言うなら、仕方ないわね」
エースも無言で頷き、その決定を受け入れた。
キングは豪快に笑った。
「ガハハハハッ! 心配するな! 標的は、わしが叩き潰してやる!」
クイーンは呆れたように言った。
「相変わらず、野蛮で結構なこと」
少し間を置き、表情を引き締めた。
「いいわ。情報を共有しましょう」
四人はテーブルを囲み、白雪ましろ抹殺のための作戦会議を開始した。
リビングのテレビ画面に、先日の白雪ましろの戦闘映像が繰り返し流される。
その映像を見つめながら、ジャックは椅子の背もたれに寄りかかり、後頭部に手を回した。
「ジョーカーが警戒するから、どれほどの奴かと思ったが……大したことなさそうだな」
キングは腕を組んで呟く。
「小娘にしてはやるようじゃが、恐れるに足りん」
クイーンの妖艶な声が響く。
「二人とも、油断は禁物よ」
エースは冷静に告げた。
「白雪ましろは、なるべく男たちを傷つけないように立ち回っている。まだ本気を出していない」
ジャックは自信満々に言った。
「それでも、俺の敵ではない!」
ポーカーへ視線を向け、ジャックは続けて問いかけた。
「こいつは、今どこにいる?」
ポーカーは淡々と答えた。
「申し訳ありません。まだ、居場所を掴めておりません」
「そうか……見つかったらすぐに教えろ」
「かしこまりました」
数時間後――。
エースは黙々とデバイスを操作し、ジャックは双刃剣の手入れに集中していた。
クイーンはうっとりと宝石を見つめ、キングは上半身裸で力強くスクワットを繰り返している。
そこへ、ポーカーが静かに現れ、淡々と告げた。
「――皆様、ターゲットが見つかりました」
キングはスクワットを続けながら、豪快に笑う。
「ガハハ、やっと見つかったか!」
ジャックは双刃剣の手入れを続けたまま尋ねた。
「場所は?」
ポーカーが指を鳴らすと、空中にホログラムの地図が浮かび上がった。
赤い点が滑るように移動する。
「白雪ましろは現在、市街地を移動中。妖精型ロボットを伴い、人混みの中を歩いています」
エースは視線をデバイスに落としたまま言った。
「見つけるのに、少し手間取ったようだね」
ポーカーは頷いた。
「街中のカメラ網へアクセスしたところ、何者かの妨害を受けました。妨害したのはおそらく、この妖精型ロボットです。私と同等の性能を有していると推測されます」
ジャックの手が止まり、低く「ほう……」と呟いた。
キングは率直に尋ねた。
「どうやって見つけたんじゃ?」
ポーカーは答えた。
「標的の遥か上空から高性能カメラ搭載ドローンで追跡中です。ですが、すでに追跡を察知されている可能性があります」
クイーンはくすりと笑った。
「ふふ……この子、やっぱり普通の女の子じゃないわねぇ」
ポーカーは表情一つ変えずに頷いた。
「はい。相当な実力者であることは、間違いありません」
エースは手を止め、低く言った。
「相手が誰であろうと、やることは変わらない」
キングは胸の前で拳を打ち合わせた。
「ガハハ……久々に腕が鳴るわい!」
ジャックは不敵な笑みを浮かべた。
「ふっ、少しは楽しめそうだな」
クイーンはゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ、行くわよ」
ロイヤルフラッシュの五人は、ついに動き出した。
居場所を掴んだ獲物を仕留めるため――。
その瞳には、冷たい殺意が宿っていた。




