七色の守護者
深夜、マンションの寝室。
ましろが眠りについた後、イリスは自身のデータを転送し、ホログラムの身体を構築して〈フリーデン〉本部に現れた。
ホログラムの身体でふわりと宙を漂いながらロビーを抜け、そのまま奥へと進む。
会議室の前で止まると、静かにドアをすり抜けた。
会議室には、すでに指揮官とましろの仲間が集まっていた。
忍者のシュバルツ、発明家のリラ、縦ロールのお嬢様オランジェ、喧嘩番長ロート、凄腕スナイパーのブラオ、温厚な薙刀使いグリュン、そして小柄で可憐な魔法少女キルシュブリューテ――実に個性豊かな面々が揃っていた。
指揮官と七人は円卓を囲んでいる。
シュバルツは影のように静かに腕を組み、リラは手元の装置をいじりながら、「イヒヒ」と笑い、オランジェは優雅に紅茶を飲んでいた。
ロートは足を組んで椅子の背もたれに深く寄りかかり、ブラオはスナイパーライフルを無言で手入れし、グリュンは穏やかに微笑み、そしてキルシュブリューテは魔法のステッキを軽く振っていた。
イリスの姿を確認すると、指揮官は低く呟く。
「来たか……」
その言葉を受けて、七人は姿勢を正した。
「みんな、集まってくれてありがとう」
イリスは礼を言うと、空席の上に静かに浮かんだ。
指揮官は真剣な表情を浮かべ、ゆっくりと口を開く。
「まずは、きみたちに見てもらいたいものがある」
そう言うと、事前にイリスから受け取っていた蜂型ロボットの残骸を机の中央へ置いた。
全員の視線が、その残骸へ集まる。
リラの瞳が好奇心に満ちて輝いた。
キルシュブリューテは、目を丸くして言った。
「なにこれ?」
指揮官は淡々と答える。
「これは、今日の昼、ヴァイスを襲った蜂型ロボットの残骸だ。毒針が仕込まれ、間違いなくヴァイスの命を狙っていた」
ブラオは真剣な表情を浮かべ、小さく呟く。
「ヴァイスを狙う新手の刺客か……」
オランジェは呆れたように言った。
「まだ諦めていなかったのですね……」
ロートは苛立ちを隠せなかった。
「チッ……こんな小せぇもん使って、こそこそ狙いやがって!」
シュバルツは無言で腕を組んだまま反応せず、グリュンは冷静に問いかけた。
「……このロボットが、どうかしたのですか?」
指揮官はイリスに目を向けた。
イリスは無言で頷き、指を鳴らす。
円卓の中央にホログラムが浮かび上がり、静かに回転し始めた。
それは、不気味な道化師の紋章だった。
七人は目を凝らし、それを見つめる。
「これは……『ロイヤルフラッシュ』の紋章だ」
指揮官がその名を口にした瞬間、会議室の空気が凍りつくように張り詰めた。
「ロイヤルフラッシュ……?」
ロートは怪訝そうに眉をひそめた。
指揮官は続けて詳細を説明する。
「ロイヤルフラッシュは、世界中で暗躍する暗殺組織だ。依頼主と顔を合わせることなく契約し、痕跡も残さず任務を遂行する。正体を知る者は誰もいない。年齢も性別も不明だ。だが、構成人数だけは判明している」
一拍間を置き、続けて言った。
「ハートのエース、スペードのジャック、ダイヤのクイーン、クローバーのキング、そして――ジョーカー」
七人は息を呑みながら、静かに説明を聞いた。
指揮官はさらに続ける。
「これまで、彼らが起こした事件はいくつもある」
その言葉と共に、円卓の中央に複数のホログラム記事が浮かび上がった。
過去に世界各地で起こった未解決事件の記事だ。
身体を切り刻まれた者、全身の血液を抜き取られた者、無数の痣を残したまま絶命した者――どれも凄惨極まりない事件ばかりだった。
記事に目を通した仲間たちの表情が次第に険しくなる。
指揮官は静かに言った。
「ここに載っている事件は、『ロイヤルフラッシュ』の犯行によるものだ。全ての現場に、この紋章が残されていた。FBIやCIAの捜査官すら犠牲になっている」
指揮官は拳を握り締め、険しい表情で言葉を続けた。
「狙った獲物は必ず仕留める。世界中の捜査機関が総力を挙げて追ってなお、その正体すら掴めていない。最悪クラスの暗殺組織だ。ヴァイスであっても決して油断できる相手ではない」
厳粛な静けさが会議室を包み込んだ。
少しの沈黙の後、オランジェは確認するように言った。
「つまり、わたくしたちはヴァイスさんの護衛に当たればよろしいのですね?」
指揮官は深く頷いた。
「ヴァイスさんには、そのことを伝えていますの?」
オランジェの問いかけに、イリスは首を横に振って答えた。
「ううん。敵にこっちの動きを読まれるかもしれないから、まだ伝えていない。ヴァイスちゃん、隠し事が苦手だし……それに、無駄に警戒させたくないんだ」
「それもそうですわね」
オランジェは真剣な表情で頷いた。
ロートは拳を突き合わせ、気合を入れるように言った。
「そんな奴らが、ヴァイスの命を狙ってんのか! ……上等じゃねぇか!」
ブラオは冷静に言った。
「バカか! 仲間が狙われてるんだぞ」
「なんだ? お前、ビビってんのか?」
「は? そんなわけないだろ」
「心配すんな。俺が全員ぶっ飛ばす。お前の出番はねぇよ」
「お前こそ出しゃばるな。俺ひとりで十分だ」
「邪魔すんじゃねぇ!」
「お前が邪魔だ!」
二人は睨み合い、火花を散らした。
「まあまあ……落ち着いて、二人とも……」
グリュンが冷静になだめようとしていたが、一触即発の緊張感をさらに煽るように、シュバルツは静かに呟いた。
「ヴァイスは俺が護る――お前たちは必要ない」
その言葉に、ロートとブラオは同時に顔をしかめた。
「ああ?」
二人は声を揃え、シュバルツを睨みつける。
その時、キルシュブリューテの無邪気な声が響いた。
「もーっ! 喧嘩しちゃダメだよ!」
指揮官はすかさず言った。
「キルシュの言う通りだ。落ち着け」
ロートとブラオは「ふん!」と顔を背け、シュバルツは静かに息を吐き、やがて落ち着きを取り戻した。
「ふふ……皆さん、頼もしいですわね」
オランジェは微笑み、リラは「イヒヒ……!」と小さく笑った。
「オホン!」
指揮官は軽く咳払いをし、再び全員の視線を集めた。
「とにかく、『ロイヤルフラッシュ』はプロの暗殺組織だ。一筋縄ではいかないだろう」
キリっとした眼差しで見渡しながら、さらに言い放つ。
「――だが、きみたちもまた国を背負う精鋭だ。私はきみたちを信じている」
「当たり前だ!」
ロートは自信満々に言った。
ブラオは「ふん!」と鼻を鳴らし、シュバルツは無言で頷いた。
指揮官は全員を見渡し、警護体制を告げた。
「シュバルツ・オランジェ・ブラオの小隊と、ロート・リラ・グリュン・キルシュブリューテの小隊に分かれて警護に当たってくれ」
「承知しましたわ」
オランジェは優雅に頷く。その瞳には静かな闘志が宿っていた。
キルシュブリューテは拳を固め、小声で「頑張る!」と意気込み、リラは「イヒヒ!」と興奮気味に笑った。
グリュンは拳を胸に当て、真面目に宣言する。
「期待に応えてみせます」
指揮官は鼓舞するように言った。
「仲間が狙われている以上、黙って見過ごすわけにはいかない! 必ず護り抜くぞ!」
「了解!」
七人は声を揃えた。
イリスは頼もしい仲間たちを見渡しながら、表情を引き締めた。
必ずましろを護り抜く――その決意を胸に。




