祝福
ミミは、村から湖を抜けて風見の町へ、あっという間に着いたように思いました。
リオとずっとおしゃべりが絶えず、時間を忘れていたからかもしれません。
風見の町へ着くと、ちょうどクルミの家からトゥーリが出てくるのが見えました。
ミミは、それを見て悪戯めいた顔をリオに見せました。
「ああ、楽しかった。クルミさんありがとう」
「いやいや、わしも楽しかったわい。スコーンも絶品じゃった。ありがとう」
「こんな時間まで話し込んでしまって悪かったね」
「トゥーリこそ、宿屋は大丈夫かい?」
「ああ、なんとかなるさ。気になったままの方が仕事にならないからね。じゃあ――ワァッ!」
「わっ!!!」
トゥーリが帰ろうと振り返るタイミングで、ミミがトゥーリを驚かせました。
「ミミ! ミミじゃないか! びっくりしすぎて時計を落とすところだったよ」
「トゥーリさん、ただいま」
「ほほっぉ! ミミ、おかえり。みんな待っとったよ」
「クルミさん、ただいま」
トゥーリは、キョロキョロと何かを探し始めました。
「おや?見ない顔だね。ちょうどいい、ちょっとこれ持っていてくれないか?」
「え……?」
リオが返事を返さないうちに、トゥーリは、半ば強引に大事な鳩時計を彼に託しました。
そして、ミミを優しく、強く抱きしめました。
「ダメじゃないか……何も言わずに出ていっては」
「……ごめんなさい」
「今ちょうど、あんたが帰ってくるってクルミさんから聞いたとこだったんだ……元気そうで良かった」
「うん……」
二人は笑い合っていましたが、二人の目にはうっすらと涙が光っていました。
「あ、あの……」
「ああ、悪かったね。急に持たせてしまって……ところで、どなただい?」
トゥーリは、時計を貰いながらミミに尋ねました。
「それは――みんながいるところで紹介するよ」
なんだか、ミミは照れくさそうに言いました。
◆
ルカは、机に向かって書類の整理をしていました。
接客に忙しかった昨日の分まであるので、かなりの量でした。
静かな郵便局で、書類に目を通していると、外から賑やかな声が聞こえてきました。
その声を聞いて、ルカは郵便局を飛び出しました。
ドアを開けると、鳩時計を持ったトゥーリとクルミ、そしてミミと昨日見かけたウサギの青年が、通りかかりました。
「……ミミさん!」
「ルカくん!久しぶり」
ミミはルカに駆け寄りました。
そして、ルカの両手を手に取り言いました。
「手紙、届けてくれてありがとう」
「いえ、僕一人では届けることができませんでした。届いたのは、みんなのおかげです」
ルカは、再度手紙が無事に届いたことに安堵しました。
「君がルカ君だね? 僕からもありがとう。彼らから聞いたんだ、手紙が届いた経緯を――君が動いてくれたから、僕の手紙が彼女に届いた。だから、僕たち再会できたんだ。本当に感謝しているよ。ありがとう」
丁寧に頭を下げてお礼を言うリオに、ルカは『こちらこそ、ありがとうございます』と言って、お辞儀をしました。
ルカは、自分だけの成果ではなかったので、戸惑いもありましたが、手紙を届けることの重みを実感しました。
その様子を微笑ましく見ていたミミが言いました。
「あのね、みんなに報告があるの。ルカ君も広場に来てくれる?」
「……わかりました。じゃあ、僕先に行ってみんなに知らせてきますね」
ルカは、楽しそうに広場へ駆けていきました。
◆
四人が着く頃には、広場にはたくさんの住人が詰めかけていました。
みんな、ミミを見つけると口々に『おかえり』と声をかけます。
ミミは笑いながら――でも泣きそうな顔で、『ただいま』と返しました。
ミミは、みんなが見える場所へ移動すると話し始めました。
「みんな、何も言わずに引っ越してしまってごめんね。今、森の向こうの町にある花屋さんで働いています。ずっと働いてみたかったお店なの……。それでね、彼は幼馴染みのリオ――彼と……結婚します!」
少し、静まり返った後、大きな拍手と『おめでとう』の合唱が巻き起こりました。
たくさんの祝福に、ミミは幸せそうよりも、恥ずかしそうでした。
一緒に聞いていたルカとトゥーリは、驚いた顔でお互いの反応を見ると、一緒に笑いだし、大きな拍手を送りました。
その後ろでクルミは、顎をさすりながら大きく頷いていました。
祝福の嵐の中、ミミの元にやって来たのはミナでした。
「ミナさん!」
「ミミ、おめでとう」
ミナは『この若い二人に祝福の風が吹き続けますよう……』と言いながら、ミミにシロツメクサのブーケを渡しました。
白いシロツメクサの花は、ミミのヒマワリ色のエプロンドレスによく映えました。
ミミは、ミナを抱きしめて、何度も『ありがとう』と伝えました。
町のみんなの祝福は、風に乗り、町の隅々まで届きました。




