報告
昨日は楽しくて、つい遅くまで話し込んでしまった。
私は、家を出て井戸へ向かう。
今日は、少し寒いと感じる風が吹いていた。
井戸の水が、とても冷たく感じる。
顔を洗って、水を飲む――森の水が体に沁み渡っていった。
予定はなかったが、風見の町に住む兄さんのソルを訪ねることにした。
ハチミツのパンケーキを持っていこう。
昨日、クルミが絶賛していたあのパンケーキだ。
私は、大きく伸びをしてから、出かける準備を始めた。
◆
今日は昨日とは違い、涼しい風が吹き抜けて秋の訪れを感じさせるような朝だった。
『風灯亭』は朝から大忙しだった。
グループで泊まりに来たお客さんが2組もいたのだ。
私は、慌ただしくチェックアウトのお客さんを見送り、玄関の掃き掃除を終えたところだった。
「やっぱり、いつもあるものがないってのは、寂しいねえ……」
いつもの習慣で、鳩時計のあった場所を見て、修理に出していたと改めて気づいた。
朝の掃除はこのくらいでいいだろう。
クルミさんの所へ時計を迎えに行こう。
実は、昨日から楽しみだった。
時計のこともあるが、昨日私が届けた手紙はなんだったのか、気になって仕方がなかったのだ。
ミステリー小説の途中で、お預けをくらったようなそんな気分だった。
そうだ。話のお供に、焼き立てのスコーンを持っていこう。
キッチンカウンターにある籠から、スコーンを4つ紙袋に入れた。
私はそれを抱えて、ルンルン気分でクルミさんの家に向かった。
◆
トントントン――。
「クルミさん、おはよう」
「トゥーリ、おはよう。できとるよ」
クルミは、カウンターに置いてある鳩時計を羽で指しながら答えました。
「ああ、よかった……いくらだい?」
「ふむ……3セルクもらおうかの」
「そんな安くていいのかい?」
「ええんじゃよ。簡単な修理だったしの」
トゥーリは、『ありがとう』とお礼を添えてお金を渡してから、ニヤリと笑って言いました。
「それで? 昨日の約束の話を聞かせてもらおうか。代金はこれでどうだい?」
トゥーリは、クルミに紙袋の中身を見せました。
「ほっほぉ! こりゃあ話がはかどるわい。今、お茶を淹れるから待っておれ」
「ああ、お茶は私が代わりに淹れるから、早く聞かせておくれよ」
「それじゃあ、お茶はお願いして――まず、ルカの元にヒマワリ色の手紙が届いての……」
クルミとトゥーリの時間を忘れたおしゃべり会が、始まりました。
トゥーリの驚いたり笑ったりする声や、クルミがスコーンに舌鼓を打つ声が、お昼近くまで響いていました。
◆
「ふぁぁぁ~」
ルカは、朝から大きなあくびをしました。
昨日は、ミナさんやクルミさんと話し込んでしまって、帰る頃には夜もとっぷりと更けていました。
少し寝不足のルカは、日課の朝の散策はお休みにしようと決めました。
大きく伸びをして、軽く体を動かしてから、郵便局へのんびりと向かいました。
郵便局へ着いて一番にポストを確認します。
今日は、手紙や封筒がたくさん入っていました。
モミジ色やイチョウ色――どれも昨日たくさん売れた秋色のものでした。
郵便物を1つ1つ手に取るたびルカは、楽しそうな気持ちに触れたような気がしました。
みんな楽しく手紙を書いてくれたんだな、と思うとルカも嬉しくなりました。
今日は、郵便局にお客さんが詰めかけることはありませんでした。
ルカは、丁寧に郵便魔法を使って、郵便物を届けていきます。
ときおり、ソワソワと外へ出ては町の入り口の方を見て、また郵便局へ戻っていきました。
何度も――。何度も――。
◆
リオの両親は、驚いていた。
そうだと思う。
だって、リオが帰ってきたと思ったら私がいて、唐突に『結婚します』って言うんだもの。
でも、二人ともすぐに顔が緩んで、『ミミちゃんがリオの傍にいてくれたら、心強い。おめでとう』って祝福してくれた。
私の両親も驚いていた。
そうだと思う。
私が突然帰ってきたと思ったら、リオを連れてきて、唐突に『結婚します』って言うんだもの。
二人も『リオくんなら安心だ』と許してくれた。
結婚と決まると、気が早くなるのだろうか。『式はいつ?』なんてすぐに聞いてくる。
リオは村で教師の仕事をしていて、私は森の向こうの町で、体調を崩しているオリバーさんに代わって店を切り盛りしている。
お互い、すぐに生活の拠点を移すことはできない。
まだ具体的なことは決められなかったから、『そのうち』とだけ答えておいた。
二人とも残念がったが、そろそろ村を出ないと帰りが遅くなってしまう。
『また来るね』と言って、私たちは村を後にした。
そして、手を繋いで歩き出す。
今日、最後の目的地――風見の町へ。リオと一緒に。




