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ヒマワリの誓い~郵便猫ルカの配達日誌~  作者: 咲晴


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9/12

ヒマワリの丘で

 私は、いつもより早起きをして、キッチンに立っていた。


 きっと、ヒマワリの丘に着くのはお昼前くらいだろう。

 ヒマワリの丘でランチも悪くない――ピクニック気分だ。

 彼の大好きな、キュウリのサンドイッチもたくさん作った。

 二人で、積もる話をしながら食べたら、どんなに楽しいだろう。

 なんだか、自然に顔が緩む。

 

 ――でも、彼はいないかもしれない。日にちも、時間も書かれてなかったからだ。

 すれ違いだったら、どうしよう。


「そしたら、サンドイッチ食べきれないな……」


 悩んでいても仕方がない。

 私は、早く出発できるように支度を急いだ。

 

 ◆


 はあ……僕って本当に段取りが悪い。


 昨日出したばかりの手紙――。

 届くかも分からない――。

 いつ届くかも分からない――。

 日にちも、時間も書かれていない内容――これは、後から気づいた。

 そして、自分の中で約束と指定したのは、翌日という始末。


 はあ……。


 もう一度大きくため息をついた。

 僕は、朝からヒマワリの丘に向かっていた。

 時間を書かなかったから、彼女がいつ来てもいいように。

 

 彼女は来ないと分かっているのに、期待しすぎだろうか。

 

 一日待って来なかったら、彼女の事は諦めよう――。



 夏も終わりだというのに、ヒマワリの丘には、まだたくさんのヒマワリが太陽に向かって顔を向けていた。

 ヒマワリの向こうには、雲ひとつない爽やかな青空が広がっていた。


 僕の心は、どんより厚い雲に覆われているのに……。


 今日は、昨日とは打って変わって、それほど暑さを感じない。

 

 僕は、近くに寝転がり、ヒマワリと一緒にぼんやりと空を見上げた。

 昨日、不安で眠れなかったからだろうか――僕は、いつの間にか眠ってしまった。


 ◆


「あっ! やっと見つけた!」


 リオは、聞き覚えのある声で目を覚ましました。

 ぼんやりとした視界には、青空の青色ではなく、ヒマワリ色が広がっていました。


 リオの目の前には、ヒマワリ色のエプロンドレスを着たミミが立っていました。


「え?……ええ!」


 リオは、とてもびっくりしている様子で、頬をパチパチと叩いていました。


「ふふっ」


 ミミは、リオを驚かせたことに満足気でした。


「元気だった?……手紙、ありがとう」

「え?……あの手紙届いたの? 昨日出した手紙が?」

「……? だからここで待っていたんじゃないの?」

「あ、いや、そうだけど。本当に届くと思わなくて」

「風見の町の人たちも、森の向こうの町の友達も――たぶん、たくさんの人たちが、あなたの手紙を届けるために動いてくれたはずよ」


 ミミは、リオの隣に座りました。


「……来てくれてありがとう」

「何か話でもあったの?それにしてもあの手紙、いつなのかさっぱり分からなかったわ。ちゃんと会えて良かった」

「ははは……僕も後から気づいたんだ」

「リオらしいわね」


 少しの間、沈黙の時間が流れました。

 サワサワと風がヒマワリを撫でていく音だけが聞こえていました。

 

「あ、あのさ……」


 俯いていたリオが、まっすぐとミミを見て話し始めました。


「僕、先生になってこの村に帰ってきたら、ミミちゃんに話そうと思ってて……。そしたらミミちゃん、引っ越していなくなってて……」

「それについては、連絡しなくてごめんなさい」


 ミミは苦笑いしました。

 リオは、話すうちに自信が逃げていってしまったのか、また俯き始めていました。

 しかし、思い直したのか顔を上げて言いました。


「ミミちゃん、結婚してください!」

「ひゃ!?」


 突然のことで、驚きのあまり、ミミは言葉にならない声を出しました。


「あ……いや、まだ仕事も新米だし、僕頼りないし……ダメだよね……」

「わ、私でよければ、お願いします」


 ミミは、頭を下げながら言いました。


「……」


 思ってもない返事に、リオは固まってしまいました。


「リオ?」

「本当に、僕でいいの?後悔しない?」

「ええ……色々と決めないといけないこともあるけれど、それは二人で決めましょう」


 ミミは、大きく頷きながら言いました。目には涙がうっすらと浮かんでいました。

 二人は、お互いに『お願いします』と言い合い、そして笑いあいました。


 ヒマワリは、相変わらず太陽の方を向いていました。

 その時だけは、二人のプロポーズに照れているようにも見えました。

 

「さあ! そうと決まれば、忙しくなるわよ。まずは、腹ごしらえね」

「え?」

「ちょっと早いけど、ランチにしましょう」


 ミミは、朝作ったサンドイッチの入ったバスケットをリオに見せました。


「お腹すいてない?」

「……実は、緊張しすぎてお腹すいちゃった」

「たくさん、食べてね。どうぞ」


 ミミは、リオにキュウリをたっぷり挟んだサンドイッチを渡しました。


「わあ、僕の大好物! 覚えててくれたんだ」

「ふふふっ、もちろん!」


 リオは、小さく『いただきます』と言って、大きな口でかぶりつきました。

 塩もみされたキュウリは、噛むたびにパリッパリッ、キュッキュッと小さな音を奏で、口の中にふわっと塩気が広がりました。

 パンに塗られたマヨネーズと、ツナの旨味が美味しさを一層引き立てます。


「ミミちゃん、美味しいよ! こんなに美味しいサンドイッチ初めてだ!」

「ふふっ……おおげさね」


 二人はランチを楽しみながら、お互いのことを話しました。

 学校を卒業してからこれまでのこと。

 そして、これからのこと。


 楽しくて、ランチが終わっても、そのまま話し込んでしまいそうな雰囲気でしたが、ミミが突然立ち上がりました。


「さあ、お腹も満たされたし、行くわよ」

「え?……どこに?」

「まずは、リオの家。そして私の家。それから――」


「――今から全部回るの?」

「もう行くって約束しちゃってるもの。あなたも一緒に行って、結婚報告しちゃいましょ」


 ミミは、リオの手を引っ張り立たせました。

 そのまま二人は、手を繋いでリオの家に向かいました。


 ヒマワリは優しく風に揺れていました。

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