ライの考え
二人の言葉が、俺の頭の中に響いてくる。
メイちゃんは裏ごと見せるから、判断しろと。
りさは信じなくていい、でも消さないでくれと。
2人の言葉に、俺はしばらく何も言えなかった。
胸の奥が、ざわついている。
……違和感があった。
あの時と、何かが違う。
昔の俺は、好意を向けられている「最中」に、疑い始めたわけじゃない。
信じて、好意を受け取って、そして裏を見てしまったあとに壊れた。
だから学習したんだ。
信じなければ壊れない。
踏み込まなければ安全だ。
でも今は違う。
メイちゃんは最初から言っている。
「裏がある」と。
りさは、最初から怯えている。
「疑われるかもしれない」と。
この時点で俺はまだ裏切られていない。
まだ、あの目を見ていない。
それなのに俺は未来の裏切りだけを理由に、今を否定しようとしている……その事実に、気づいてしまった。
あの時の俺は何も知らなかった。
信じて疑わなかった。
だから……壊れた。
でも今の俺は違う。
人には裏があるかもしれないと知っている。
好意が必ず安全じゃないと知っている。
それでもなお、目の前の二人は選択を差し出している。
それを――「偶然」という言葉で片付けるのは……守ることじゃない。
ただの、先延ばしだ。
胸の奥にじわっと痛みが広がる。
怖さは全然消えていない。
でもそれは、あの時の突然の恐怖とは違う。
これは……分かっていて、それでも立つかどうかを問われる怖さだ。
2人の言葉で俺は、気づいてしまった。
あの時と今の違いに。
あの時、俺は何も選ばなかった。ただ、信じていただけだ。
でも今は違う。
選ばないという選択を、俺が自分でしている。
だからもし、ここから壊れるとしたら……。
それはもう、「騙された」からじゃない。
俺が分かった上で立ち続けた結果だ。
……それでも。
それでも、二人は俺の前に立っている。
逃げずに。裏を隠さず。否定される覚悟を持って。
喉の奥が、少しだけ詰まる。
「……」
まだ、答えは出ない。
でも。
もう一度、隼人も言ったように、「全部偶然だった」なんて言葉を使えば……それはあの時の俺より、ずっと卑怯だ。
一度、息を吸う。
「俺はまだ、君たちの好意を全部信じられるほど強くない」
メイが何か言いかけたのを、手で制する。
「でも……」
言葉を探す。
「今気づいた。俺は今まで裏切られるかもしれない未来を理由に、もう起きてる現実を否定してた。でもそれは、守ってるつもりで関係を殺してただけだ」
視線を落とし、また上げる。
「だから、これだけは言うよ。君たちが俺を好きになったことを、偶然だったとは言わない」
少しだけ、声が揺れる。
「代わりがいたとも、思わない……ただ」
拳を握る。
「俺はまだどう応えればいいか分からない。でも、分かった上で立つことからはもう逃げない。逃げたくなったら黙って偶然に押し込めるんじゃなくて、ちゃんとそう言う」
少し、間。
「それで……それでも一緒にいるって言うなら」
視線を逸らさず、続ける。
「俺はこの関係を事故にはしない。歪んでてもいい。
不器用でもいい、少なくともなかったことにはしない」
言い終わってから、
胸の奥が、静かに震えているのを感じた。
これは正解じゃない。
でも――
初めて、
逃げ道じゃない場所に立った気がした




