回想
「語るって言っても、大した理由じゃないんだけどな」
と前置きして俺は話した。
「中学生の頃にさ、付き合ってた人がいたんだ。同じ学年のやつだったんだけどね」
「聞かせてください」
2人とも興味深そうな顔をして続きを促した。
「俺は人生で初めての彼女だったからか、そいつのことが好きでさ。そいつも俺の前では好意を向けていたはずなんだ」
「俺の前では?」
「ちょっと引っかかる言い方ですね……」
「あいつは俺の前では優しかった。口下手だった俺のつまんない語りもさ、興味深そうに聞いてくんの。クラスは被ったことがなかったから、たまにあった時は嬉しそうな顔をしてた………なんていうか、いい子ってやつだった」
「だから疑わなかったんだ」
と、俺は一息ついてさらに語る。
「でもさ、ある日に知ったんだ。そいつは俺がいるって思わなかったんだろうな。友達への態度とかさ、邪魔になる人の扱いとかさ……笑いながら人を傷つけてんだ………もちろん最初は見間違いだと思った」
そう信じていた。
「だけど、俺といない時のそいつの様子を気になって探ったんだ。当時から謎の行動力を持っていた隼人の力を借りて」
誰にでも裏はあるって、ずっと自分に言い聞かせた。
「でも、そいつの裏の顔は最悪だった。隼人から教えてもらった情報は、どれもこれも最悪で、虐められた人には口止めをしていたんだと。『俺に言ったりしたらもっと酷くなる』って。だからか、たまに俺を怯えた表情で見るやつがいたのかって不思議だったんだ」
そして俺はそいつに聞いた。
「これは本当?」
って。
「その瞬間の顔が、今でも頭に残ってる。そいつは怒りも取り繕いもしなかった。ただ……俺を見る目が、すっと変わったんだ。
冷たくて、値踏みするみたいで……なんだか「気付いたなら、もういい」って言われてる気がした」
その姿を見た時の俺は……そいつが怖くなった。
「裏切られたっていうより、今まで見てたものが、全部表だったって気付いた。そしてそれから……何もかも分からなくなった。あの好意も、あの言葉も全部本物だったのかどうか」
そして俺は改めて2人をみた。
「人の好意って、見せたい顔の一部なんじゃないかって思ったんだ。俺が見てるのは、たまたま演じてる側なだけで、見えないところでは、別の顔をしてる……そう思うようになった。だから今は、誰かが俺に向けてくる好意は偶然で一時的な感情だって。
錯覚だって」
そう思っていれば、二度とあんなことを思い出さなくて済む。
「でもさ、無意識に優しいらしい。否定しないし、距離の取り方も曖昧で、ネットリテラシーもない。気にしてしまう。だからメイちゃんも、りさも、俺に好意を持ってしまったんだって……思う。
だけどさ、これは、俺が特別だからじゃない。ただ、タイミングと環境と、偶然が重なっただけだ。
もしこれを本気の好意だって認めたら、また、あの顔を見ることになるかもしれない」
だから怖いんだ。




