考え2
通話の向こうで、隼人は一度、短く息を吐いた。
「……なるほど。そこまで考えて、そこまで怖がってるなら、正直に言おう。君は自分が安全な位置に立とうとしすぎだ」
「安全?」
「ああ。誰も壊さない。誰の人生にも責任を持たない。でも、誰からも離れない」
間を置いて、淡々と続ける。
「それは成立しない」
胸に刺さる言い方だった。
「君は逃げなかった椅子に座り続けただけって言うけどさ……それを選び続けたのは君自身だ」
「嫌なら、途中で立てたし、怖いなら距離を置けた。誰かが踏み込みすぎてると感じたなら、止められた」
少しだけ間。
「でも君は、立たなかった」
「……」
「それにさ」
隼人の声が、ほんの少しだけ厳しくなる。
「もうただの関係じゃないだろう?」
俺は、思わず息を詰めた。
「一緒に暮らしてる。生活を共有してる。身体の距離も、もう言い逃れできないところまで来てるはず」
言い方は淡々としているのに、逃げ場がない。
「それでもまだ『偶然だった』『代わりはいた』って言うのはさ、優しいようで残酷だよ」
「……どういう意味だよ」
「だってそれは」
隼人ははっきり言った。
「君が全部受け取ったものを、価値がなかったことにする言葉だから」
「選ばれた事実も、一緒に過ごした時間も、踏み込んだ関係も、全部偶然の副産物にしている。違うかい?」
声が低くなる。
「それは責任から逃げてるんじゃない。関係そのものを否定している」
少し間が空く。
「天雷。君は特別じゃないって言いたいんじゃない。特別だと認めたら、壊れる未来を想像してしまうだけだ」
一拍置いて。
「でもね…」
声が少し柔らぐ。
「もう壊れるかどうかのラインは、とっくに越えてる。君に残ってる選択肢は二つしかない。この関係を『事故だった』って言い聞かせてゆっくり腐らせるか。それとも、歪んでるって分かっててもそれでも一緒に立ち続けるか」
最後に、低く言う。
「どっちも楽じゃない。でも前者は安全で、後者は覚悟だ」
少し笑って付け加える。
「君が今怖いのはさ、壊すかもしれないことじゃない。もう後戻りできないって事実を、受け入れることだろ」
通話の向こうで、隼人は一呼吸置いた。
「……答えは急がなくていいよ。でも『偶然だった』って言葉だけは、絶対に2人の前で使わないでほしい。それは、優しさじゃない」
こうして隼人との通話は終了した。




