考え1
「違わないだろ。メイちゃんだって、たまたま俺が登録者1号だからだし、りさだって、ゲームの通話相手が俺だったってだけだ。それなら俺じゃなくても良かっただろ」
「偶然…といえば偶然だね。でも、これはただのきっかけ。入口の話でしかないのさ」
俺が反論する前に、立て続けに隼人は話す。
「人が人に依存するのかなんて、『最初に会った』だけでは決まらないよ。『その後、どう扱われたか』。これが大事なんだ」
「どう……扱われたか?」
「ああ。例えば宵月さんの場合。登録者1号というのは配信者にとっては大事かもしれない。でも、途中で雑に扱われたり、距離を縮めてきたり、逆に距離を離そうとしたら……宵月さんはどうなるだろう?」
「……」
「君は無理に距離を詰めようとしなかったし、周りの視聴者がなんで?って思うくらいには一視聴者であり続けようとした。逆に配信を楽しませようと宵月さんを助けていた。これを誰でも出来たって簡単に言えるかい?」
「……」
「黒井さんも同じさ。通話相手が偶然君だったこと自体は否定はしないよ。でも、男性嫌いで距離感がおかしい子に対して、詮索もしなければ踏み込むことも、離れることもしない…それも誰でも出来ることはないよ」
最後の方は少し笑って言ってるように聞こえた。
「それに、本当に誰でもよかったなら、どこかのタイミングで対象が変わっているはずさ。依存というのは代替できる相手には長続きしないからね……それでも今日まで続いているのなら、それはたまたまじゃなくなった瞬間があるんだろう。僕はそう考えるよ」
隼人の言葉に、俺にしては弱々しい声で返す。
「だけど……スタートは偶然だろ。登録者一号が俺じゃなかったら、メイちゃんは俺を覚えてないし、通話した相手が俺じゃなかったら、りさは俺に寄りかからなかった」
一度、息を吐く。
「選ばれたって言われてもさ……それって先にそこにいただけじゃないのかって思う……もし別の誰かが先にいたら、メイちゃんはそいつを見て笑って、りさはそいつの声で落ち着いて、今みたいな関係になってたんじゃないか?俺じゃなくても、成立してた関係なら、それに応え続ける資格は俺なんかにあるのか?」
言い切りではなく、問いだった。
「……優しくしたから?一緒にいたから?それだけで“選ばれた”って思っていいのかよ」
俺は自嘲気味に笑う。
「正直さ、怖いんだよ。俺がいなくなったら壊れるかもしれないのも、でも俺じゃなくても代わりがいるかもしれないのも。どっちも、俺が必要って言い切れないのがさ……」
「天雷。自分が特別だって認めたくないだろう?離れたら壊れるかもしれないとか、自分の一言で左右されるとか、そういうのを背負いたくない。だから『偶然だった』って言葉に逃げているだろう?」
でも、っと隼人は続ける。
「依存される側にも残念ながら資質がある。優しさとか、鈍感さとか、踏み込まなさとか、全部含めて…ね。君は『何もしなかった』んじゃない。『間違ったことをしなかった』だけさ。それを偶然で片付けるのは君が一番、あの二人を軽く見てることになるよ……」
俺は、しばらく黙ったまま天井を見た。
通話越しでも、隼人が俺の沈黙を待っているのが分かる。
「……軽く見てるつもりはない」
ようやく口を開く。
「むしろ逆だ。重く考えすぎてるから、簡単に俺が特別だったなんて言えないんだ……」
少し言葉を選びながら続ける。
「隼人の言ってることは分かるよ。俺が雑に扱ってたら、途中で壊れてたかもしれないってのも、
誰にでも出来ることじゃないってのも……」
一度、言葉を切る。
「でもさ、それって正解を踏み外さなかったってだけじゃないのか?傷つけないようにした。踏み込まなかった。距離を間違えなかった。それってさ……選ばれた理由じゃなくて、最低限の振る舞いだろ」
自分で言っていて、胸が少し苦しくなる。
「俺は特別なことをした覚えがない。誰かを救ったとか、人生を変えたとか、そういう実感がない」
声が少し低くなる。
「それなのに、代わりがいないとか、俺じゃなきゃダメだったとか言われたら……」
短く息を吐く。
「正直、信じきれないんだよ。もし俺がいなくなったら壊れるって言われても、俺がそこに居続けた結果、そうなっただけじゃないのかって思ってしまう」
自嘲気味に笑う。
「それってさ……俺が選ばれたんじゃなくて、逃げなかった椅子に座り続けただけなんじゃないか?それを特別だって受け取るのは都合よく責任を引き受けることにも、都合よく逃げることにもなりそうで……」
最後は、ほとんど独り言だった。
「……だから俺はまだ、『偶然じゃなかった』って言い切れないんだ……」




