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Operation PERSIMMON  作者: lemonia
PERSIMMON

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第五章 PERSIMMON 第九話 Leftover

 十七日目。


 剛は走った。


 乾いた地面を蹴る。


 前方に、半壊したコンクリートの建物がある。


 右に栗。


 左は臼。


 蜂は見えない。


 見えなくていい。


 M4を構えた。


 左腕の先に付けた射撃用のアタッチメントが、ハンドガードの下へ収まる。


 位置が決まる。


 撃つ。


 標的が倒れる。


 栗が先へ出た。


「左」


「見えてる」


「その奥」


 栗が止まった。


 一瞬だけ角度を変える。


「いた」


 二発。


 臼が前へ出る。


「待て」


 臼が止まった。


 剛が右を見る。


「蜂、右」


 返事はない。


 遠くで一発鳴った。


 右奥の標的が倒れた。


「見えてる」


 無線から声がした。


「その奥」


「もういない」


「ならいい」


「何それ」


 剛は答えなかった。


 栗が笑った。


「行くぞ」


 建物へ入った。


     *


 終わったころには、全員汗をかいていた。


 初秋の日差しはまだ強い。


 栗がBenelli M4のボルトを引き、薬室を確認した。


 黒い銃身に細かな埃が付いている。


「あと四日か」


「何が」


「ここ」


 剛が水を飲んだ。


「二十一日の予定だったろ」


「もう十分じゃろ」


 牛が言った。


 今日は訓練に参加していない。


 H&K MP5も持っていなかった。


 工場棟から出てきただけだった。


「お前、最近そればっかりだな」


 栗が言った。


「何が」


「PERSIMMON」


「仕事しとるんじゃ」


「義手は?」


「それも仕事じゃ」


「訓練は?」


「それはお前らの仕事じゃ」


「便利だな、工兵」


「わしは忙しいんじゃ」


 牛が栗を見た。


「栗、ちょっと来んさい」


「何だ」


「顔見せえ」


「毎日見てるだろ」


「ええけぇ来い」


     *


 PERSIMMONの部屋に、ノートPCが二台増えていた。


 紙も増えている。


 壁はほとんど埋まっていた。


 栗が入る。


 剛も続いた。


 蜂と臼も来た。


「何だよ」


「これ」


 牛が画面を向けた。


 二人の男。


 写真は鮮明ではなかった。


 一枚は街路。


 一枚は車から降りるところ。


 栗の顔から笑いが消えた。


「栗」


「何だ」


「あんたを嗅ぎ回りよったいう二人。こんならじゃなぁか?」


 栗が画面へ近づいた。


 数秒見た。


「……ああ」


 牛が椅子へ座り直した。


「当たりじゃ」


「何が」


「こんならぁ、猿田の犬じゃ」


 剛が画面を見た。


「GHSC?」


「根っこのとこで言やぁそうじゃ」


「猿田直属?」


「わしらから見りゃあ、そういうことじゃ」


 栗が腕を組んだ。


「アントワープまで来たのか」


「あんたを追わえてな」


「何で分かった」


「動きぃ見りゃ分かろうが」


「それだけ?」


「そいだけじゃないわ」


 牛が別の画面を出した。


「こんならぁ、あんただけ追わえとったんじゃない」


     *


 地図が出た。


 点がある。


 日付がある。


 全部ではない。


 拾えたものだけだった。


「ここ」


 牛が一つを指した。


「あんたを嗅ぎ回る前」


 次。


「これがあと」


「誰だ」


「古いGHSCの協力業者」


 次。


「こっちは?」


「倉庫じゃ」


「何の」


「昔、GHSCが使うとった」


 次。


「こいつは物流関係」


 栗が眉を寄せた。


「俺たちを探してるんじゃないのか」


「探しとる」


「じゃあ何だ」


「それだけじゃない言うとるんじゃ」


 蜂が壁を見た。


 前回の検証で残った穴。


 古いPERSIMMONと、現在のPERSIMMON。


 どうしても重ならない部分。


「ここと重なる」


 蜂が言った。


 牛が頷いた。


「そうじゃ」


 剛が地図と壁を交互に見た。


「偶然は」


「ある」


 牛が言った。


「一個じゃったらな」


 点は一個ではなかった。


     *


 午後の訓練は中止になった。


 誰も決めてはいない。


 誰も外へ出なかった。


 牛が情報を拾う。


 栗が古い記録を読む。


 蜂は地図を見る。


 臼は椅子に座っていた。


 剛は壁の前に立っていた。


「これ」


 牛が言った。


「物じゃないかもしれん」


 栗が顔を上げた。


「人?」


「分からん」


「証拠じゃなくて?」


「それも分からん」


「何が分かるんだよ」


「三年前から、時々誰かが探しとる」


「誰かを?」


「何かをじゃ」


 牛が言った。


「人かもしれん。物かもしれん。記録かもしれん」


「それじゃ何でもありだろ」


「じゃが最近、急に増えとるんよの」


 画面に日付が並んだ。


 三年前。


 途切れる。


 また出る。


 消える。


 半年。


 一年。


 長い空白。


 そして最近。


 間隔が短くなっている。


「向こうも見つけかけてる?」


 剛が訊いた。


「そうかもしれん」


「それとも」


 蜂が言った。


「向こうが探していたものが動いた」


 牛が蜂を見る。


「ほうじゃの」


 剛は壁を見た。


 古い名前が並んでいる。


「米丸は?」


 牛が剛を見た。


「三年前から消息なしじゃ」


「死んでる?」


「知らん」


「猿田が探してるのは」


「決めつけんな」


 牛が言った。


「分からんもんを、分かったことにすんな」


 剛は黙った。


     *


 夕方。


 また一つ増えた。


 今度は人ではなかった。


 車両だった。


 GHSCが現地で契約した四輪駆動車。


 数台。


 さらに輸送車両。


 人員。


 装備。


 短期の現地契約。


 それぞれなら珍しくない。


 同じ場所へ向かっていた。


「ここ」


 牛が地図を拡大した。


 ジョージア国内。


 現在いる訓練施設からは離れている。


 古い施設だった。


 GHSCが恒久的に保有している拠点ではない。


 必要なときだけ借りる。


 人と物を置く。


 終われば引く。


「何人」


 栗が訊いた。


「分からん」


「だいたい」


「二十はおりそうじゃの」


「上は」


「五十・・・まではいかんじゃろ」


「ずいぶん幅があるな」


「名簿配ってくれりゃあ数えたるわい」


 栗が黙った。


 牛がもう一度数えた。


「三十ちょいじゃろうな」


「全部、猿田の部下?」


 剛が訊いた。


「うんにゃ」


 牛が言った。


「普通のGHSC要員も混じっとる。警備、運転、通信、補給。仕事言われて来とるだけの奴もおるじゃろ」


「猿田直属は」


「分からん」


「アントワープの二人は?」


「入っとる」


 栗が画面を見る。


「なら、猿田の仕事ではある」


「そうじゃな」


     *


 日が落ちた。


 工場の中が暗くなる。


 牛が照明を点けた。


 誰も夕食へ行かなかった。


「……おい」


 牛が言った。


 声が違った。


 蜂が先に立った。


「何」


「これ」


 画面に車両の記録があった。


 それだけだった。


 別の手配記録。


 警備。


 宿泊。


 通信機材。


 日付。


 蜂が見た。


「猿田が来る」


「たぶんな」


 牛が答えた。


 剛が画面を見る。


 猿田伸吾という名前はない。


「どこに書いてある」


「書いてない」


「じゃあ何で」


「この組み方じゃ」


 牛が画面を指した。


「こいつと、こいつ。あとこの車」


 別の記録。


「猿田が動く時に、よう一緒に動いとる」


「護衛?」


「それもおる。手配する側もおる」


 栗が訊いた。


「確率は」


「賭けろいうんなら、来るほうに賭ける」


「何しに」


 牛は答えなかった。


 別の短い記録を開いた。


 数行しかない。


 その中に、一つだけ英語があった。


 LEFTOVER。


「何だ、それ」


 剛が訊いた。


「知らん」


「残り物?」


「そうじゃ」


 蜂が画面を見ている。


「これを取りに来る?」


「取りにか、消しにか」


 牛が言った。


「それも分からん」


「猿田自身が?」


「そこまでせにゃいけんもんなんじゃろ」


 部屋が静かになった。


     *


 臼が立った。


 剛を見る。


「剛」


「何」


「どうする」


 剛は臼を見た。


 昔なら、その質問は誠に向いた。


 その次なら猿田だった。


 今は自分に向いている。


 剛はすぐには答えなかった。


 壁を見た。


 PERSIMMON。


 父親が育てたもの。


 猿田が奪ったもの。


 それでも残った何か。


 画面を見る。


 LEFTOVER。


「行く」


 栗は何も言わなかった。


 蜂も。


 臼も。


「猿田がいるからか」


 臼が訊いた。


「それもある」


「ほかは」


「猿田が何を消そうとしてるのか見る」


「そのあと?」


 剛は少し考えた。


「残ってたら拾う」


 臼が頷いた。


     *


「距離が欲しい」


 蜂が言った。


「中の図面」


 栗が言った。


「車は」


 臼が言った。


「ちょい待てぇや」


 牛が両手を上げた。


 全員が牛を見る。


「順番に言うてくれ」


「忙しいんだろ」


 栗が言った。


「じゃけぇじゃ!」


 誰も、行くかどうかを話さなかった。


 誰も、参加するとは言わなかった。


 蜂は射線の話をした。


 栗は建物の話をした。


 臼は入口の話をした。


 牛は車両と人員の話をした。


 剛は全体を見ていた。


 それで決まった。


     *


 夜は遅くなった。


 予定表が壁に残っていた。


 二十一日。


 あと四日。


 もう意味はなかった。


 栗がそれを見た。


「明日もやるか」


「いや」


 牛が言った。


「終わりじゃ」


「何が」


 牛は画面を見た。


 人。


 車。


 施設。


 猿田。


 LEFTOVER。


「見つけた」

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