↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Operation PERSIMMON  作者: lemonia
PERSIMMON

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/41

第五章 PERSIMMON 第七話 蟹の爪

 九日目の朝、旋盤の音が止まった。


 剛は顔を上げた。


 工場棟の奥から、牛が出てきた。


「剛」


「できた?」


「最初の一個じゃ」


 牛が顎をしゃくった。


「来い」


 作業台の上に、金属の塊が置かれていた。


 義手には見えなかった。


 少なくとも、剛が三年間使ってきたものとは違った。


 五本の指はない。


 手のひらもない。


 手首もない。


 短い金属のフレームの先に、黒い樹脂と金属で組まれた部品がついている。


 剛は持ち上げた。


「……義手に見えないな」


「義手じゃ思うからおかしゅうなるんじゃ」


「義手だろ」


「何でも一本でやろうとするから無理が出るんじゃ」


 牛が剛の左腕を指した。


「手は一本だぞ」


「先っぽは替えられるじゃろ」


 剛は作業台を見た。


 そこには別の部品も並んでいた。


「全部作るのか」


「全部は作らん。要るもんだけ作る」


 牛が一つを取った。


「まず、これじゃ」


     *


 剛のM4は、昨日までと少しだけ姿を変えていた。


 黒いカービン。


 伸縮式ストック。


 光学照準器。


 ハンドガードの下面に、小さな部品が追加されている。


 知らなければ見落とす程度だった。


「銃までいじったのか」


「ちょっとだけじゃ」


 牛が射撃用のアタッチメントを剛の左腕へつけた。


「構えてみい」


 剛はM4を右手で持ち上げた。


 左腕をハンドガードの下へ入れる。


 金属同士が触れた。


 小さな音がした。


 M4が決まった位置で止まった。


 剛は左腕を少し動かした。


 銃がついてくる。


「……固定されてる」


「軽うにな」


 剛が銃口を左右へ振った。


 左手で握ってはいない。


 だが、ハンドガードは左腕から簡単には離れない。


 右手の負担が減っている。


「磁石?」


「それだけじゃない」


 牛がM4側の小さな部品を指で叩いた。


「位置が決まるようにしとる。外そう思やぁすぐ外れるで」


 剛は何度か構え直した。


 以前の義手では、五本の指をハンドガードへ当て、形を合わせて支えていた。


 今は違う。


 左腕を所定の位置へ持っていくだけでいい。


「これ、お前がいじったM4専用か」


「専用はこっちの仕掛けだけじゃ」


「銃なくしたら?」


「そのへんのM4拾え」


「付かないだろ」


「付かんでも載る」


 牛が別のM4を持ってきた。


 何も追加されていない、普通のハンドガードだった。


「やってみい」


 剛が構える。


 固定はされない。


 だが、射撃用アタッチメントの上面がハンドガードを受けた。


 そのまま支えられる。


「専用の仕掛けがありゃ楽になる。なくても撃てる」


「最初から考えてたのか」


「お前、戦場で自分の銃なくしたら帰るんか?」


「帰れたら帰る」


「ほうか」


「帰れないから拾うけど」


「ほいじゃ、それでええ」


 剛は自分のM4へ戻した。


 もう一度構える。


「でも、指があったほうが」


「何に使うんじゃ」


「何って」


 牛が剛を見た。


「あんたぁ、ドンパチしながらピアノ弾くんじゃなかろう?」


「弾かねえよ」


「M4撃つんじゃろ」


「そうだけど」


「ほいじゃM4が持てりゃええ」


 牛は作業台へ戻った。


「人間の手を作る必要はないんじゃ」


     *


 射場へ出た。


 蜂と栗と臼が待っていた。


「新作?」


 栗が訊いた。


「らしい」


「見せろ」


「撃ってからな」


 剛は射線へ入った。


 M4を構える。


 左腕を入れる。


 軽く固定される。


 撃った。


 反動。


 次。


 次。


 銃を下ろす。


 上げる。


 撃つ。


 立射。


 膝射。


 伏射。


 身体の向きを変える。


 銃口を振る。


 固定が邪魔になるほど強くはない。


 外そうとすれば外れる。


 戻せば、また同じ位置へ収まる。


 栗が後ろから見ていた。


「前より楽そうだな」


「ちょっとな」


「ちょっと?」


「かなり」


「素直でよろしい」


 蜂がM4を受け取った。


 追加された部品を見る。


「小さい」


「大きゅうする意味がないけぇの」


 牛が答えた。


 蜂は剛の左腕も見た。


「普通のM4でも使える?」


「さっき試した」


 剛が言った。


「固定はできない。支えるだけなら問題ない」


「ならいい」


 蜂はM4を返した。


 それだけだった。


     *


 射撃用は上手くいった。


 だから次も上手くいくと思った。


 剛は作業台に置かれたKA-BARを見た。


 黒い革製の柄。


 クリップポイントの刃。


 第2話で五人分揃えたものだった。


「これもやるんだろ」


「やってみぃ」


 牛が別のアタッチメントを出した。


 刃物を保持するための試作品だった。


 KA-BARを固定する。


 剛の左腕へつける。


 刃が前へ出た。


「悪くない」


 栗が横から見た。


「映画ならな」


「やってみろよ」


 訓練用の模擬刃へ交換した。


 栗が前に立つ。


「来い」


 剛が踏み込んだ。


 左腕を出す。


 栗が半歩ずれた。


 剛は身体ごと向きを変えた。


 もう一度。


 栗が腕を払う。


 剛は刃を返そうとした。


 返らない。


 手首がない。


 身体を回す。


 遅い。


 栗が剛の右肩へ触れた。


「死んだ」


「もう一回」


 やる。


 同じだった。


 突く。


 外れる。


 角度を変える。


 身体全体を動かす。


 遅れる。


 相手へ引っ掛ければ、今度は抜くのに身体を使う。


 数分で剛は止めた。


「使えねえ」


「お前が使えんのじゃ」


「作ったのお前だろ」


「作れ言うたんお前じゃろ」


「使えるように作れよ」


「何でも機械のせいにすんな」


「お前ら」


 臼だった。


 壁際から見ていた。


「刃物を使おうとするからだ」


 剛が振り向いた。


「何?」


 臼が近づいた。


 剛の左腕を見る。


「お前には肘がない」


「分かってる」


「手首もない」


「それも分かってる」


「分かってない」


 臼は剛の模擬刃を指した。


「なら、肘がある人間の動きを真似するな」


 剛は黙った。


     *


「外せ」


 臼が言った。


 剛は刃物用アタッチメントを外した。


「じゃあ何使うんだ」


「何も使うな」


「戦えないだろ」


「右手がある」


 臼が剛の前へ立った。


 百九十センチを超える身体。


 百二十キロを超える体重。


「来い」


「素手で?」


「来い」


 剛が踏み込んだ。


 右を出す。


 臼が止める。


 左腕を当てる。


 押す。


 動かない。


「もう一回」


 剛が入る。


 今度は右手で臼の服を掴んだ。


 左腕を身体へ当てる。


 臼が剛の右手を外した。


 終わる。


「右手を使ったら、右手が塞がる」


 臼が言った。


「当たり前だろ」


「右手で何をする」


 剛は答えなかった。


「撃つ。殴る。刃物を使う」


「そうだな」


「なら右手を空けろ」


 臼が自分の胸元を指した。


「左で止めろ」


「どうやって」


「それを考えろ」


 もう一度。


 剛は左腕を臼へ当てた。


 押す。


 違う。


 引っ掛けようとする。


 できない。


 腕が終わっている。


「何が欲しい」


 臼が訊いた。


「手」


「違う」


 剛は臼を見た。


「何がしたい」


 しばらく考えた。


「……掴む」


「そのあと」


「止める」


「そのあと」


「離さない」


 臼が牛を見た。


 牛も見ていた。


「できるか」


 牛が少し考えた。


「ほうならできるで」


「何を」


「手じゃないもんじゃ」


     *


 午後、旋盤が回った。


 グラインダーが鳴った。


 ときどき溶接の白い光が工場の奥で瞬いた。


 剛は射場へ戻った。


 蜂と撃った。


 栗と動いた。


 臼と組んだ。


 夕方、牛が呼んだ。


「剛」


 作業台の上に、それはあった。


 人間の手には見えなかった。


 二つの顎。


 無骨な金属。


 開く。


 閉じる。


 物を挟む。


 それだけの形だった。


 剛はしばらく見た。


「……マンガか」


「実用じゃ」


「蟹の爪じゃねえか」


「クランプじゃ」


 栗が後ろから覗き込んだ。


「蟹澤だしな」


「黙れ」


「似合ってるぞ」


「黙れ」


 牛がクランプを持ち上げた。


「握ろう思うな」


 剛へ渡す。


「挟め」


     *


 最初は上手くいかなかった。


 剛はクランプを左手として使おうとした。


 臼の服を掴もうとする。


 位置を合わせる。


 追う。


 臼が動く。


 外れる。


「また手にしてる」


 臼が言った。


「手じゃない」


「分かってる」


「さっきも聞いた」


 剛は息を吐いた。


 もう一度。


 臼が前へ出る。


 今度は掴もうとしなかった。


 左腕を入れる。


 クランプを当てる。


 挟む。


 臼の訓練用ベストを捉えた。


 閉じる。


 止まった。


「……入った」


「動くぞ」


 臼が身体を引いた。


 剛の身体ごと持っていかれた。


「重い!」


「知ってる」


 栗が笑った。


 臼がさらに動く。


 剛は踏ん張る。


 勝てない。


 百二十キロを超える人間を片腕で止められるわけがない。


 だが、離れなかった。


 剛の右手が空いている。


 腰の模擬ナイフを抜いた。


 臼の脇へ入れる。


 臼の右手が落ちた。


 剛の手首を掴む。


 止めた。


「今のだ」


「負けてるだろ」


「勝つ話はしてない」


 臼がクランプを外した。


「もう一回」


     *


 翌日から、剛の動きが変わった。


 射撃用。


 クランプ。


 日常用。


 必要に応じて替える。


 一本の左腕で、全部をやろうとしない。


 訓練では五人で動いた。


 栗が前へ入る。


 臼が中央を押す。


 蜂が距離を取る。


 剛は右へ動いた。


 標的が出る。


 撃つ。


 次。


 栗が前へ出る。


「栗、そこ空いてる」


 栗が止まった。


 右を見る。


 死角。


 位置を変える。


 標的。


 撃つ。


 次。


「蜂、右」


 蜂が振る。


 撃つ。


「臼、待て」


 臼が止まる。


 一秒後、その前を栗が横切った。


 臼が動く。


 訓練が終わった。


 栗は水を飲みながら、剛を見ていた。


「何だよ」


「別に」


「なら見るな」


「蜂みたいなこと言うな」


 少し離れたところで臼が装備を外していた。


 栗がそちらへ歩いた。


「あいつ、前からああだったか?」


「何が」


「自分の前より、他人の前見てる」


 臼は剛を見た。


 剛は牛と射撃用アタッチメントの話をしている。


「昔から少し」


「そうか」


 栗はそれ以上言わなかった。


     *


 夕方。


 訓練が終わった。


 剛は工場の作業台の前に立っていた。


 射撃用の部品。


 刃物用の失敗作。


 クランプ。


 その横に、日常用の五本指の義手が置いてある。


 剛は日常用を装着した。


 五本の指が戻った。


 作業台の上には、クランプが残った。


 五本の指はなかった。


 手首もなかった。


 人間の手には見えなかった。


 剛はそれを見た。


 左手の代わりではない。


 だから、使えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。