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Operation PERSIMMON  作者: lemonia
蜂

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第三章 蜂 第一話 再会

「持っていかないのか」


 主任が言った。


 剛はM4をラックへ戻した。


 弾倉も返した。


「国境を二つ越える」


「賢明だな」


 主任は端末へ返却記録を入れた。


 剛は机の上に残っていた私物をバッグへ放り込んだ。


 着替え。


 充電器。


 洗面道具。


 それだけだった。


「戻るのか」


「分からない」


「仕事は?」


「しばらくいい」


「金は」


「少しある」


「少しか」


「なくなったら働く」


 主任は端末から顔を上げた。


「十九歳の言うことじゃないな」


「十九だから言えるんだろ」


「そうかもな」


 剛はバッグを肩へ掛けた。


 主任が言った。


「死ぬなよ」


「二年間、死ななかった素人だからな」


 主任が笑った。


「覚えてたか」


 それが別れだった。


          *


 飛行機を二本乗り継いだ。


 空港から列車に乗った。


 国境を越えた。


 また列車に乗った。


 武器を持っていないのが落ち着かなかった。


 駅で警官を見るたびに安心するのではなく、自分の腰が軽いことを思い出した。


 二年間で身についた習慣だった。


 窓の外を畑が流れた。


 町が流れた。


 また畑になった。


 剛は端末を開いた。


 表示されている名前を見る。


 何度見ても読みにくかった。


 Brzîeřa Řehořczyk.


 ブズィエジャ・ジェホルチック。


 蜂。


 最後に会ったのは三年前だった。


 正確には、会ったというほどでもない。


 同じ場所にいた。


 同じ仕事をしていた。


 それだけだ。


 あの夜から先は知らない。


 生きていることだけは分かった。


 調べるのに二日かかった。


 さらに居場所を絞るのに三日。


 確実ではない。


 だが、これ以上は現地へ行くしかなかった。


          *


 ゲルリッツは薄曇りだった。


 古い町だった。


 石造りの建物。


 狭い道。


 濡れた石畳。


 橋を渡ればポーランドだった。


 剛は駅を出た。


 蜂がここにいる理由は知らない。


 仕事かもしれない。


 住んでいるのかもしれない。


 もう銃を持っていない可能性だってある。


 最後の可能性だけは、あまり想像できなかった。


 剛は住所を頼りに歩いた。


 一軒目。


 外れ。


 二軒目。


 知らないと言われた。


 三軒目で、ようやく名前を知る男に当たった。


 住所は知らなかった。


 男は郊外を指した。


 射撃施設。


 やはりまだ銃を持っていた。


          *


 施設は町外れにあった。


 古い工場を改装したような建物だった。


 受付で名前を出した。


 通じなかった。


 フルネームを端末で見せた。


 受付の男は画面を見た。


 首を振った。


「ここにいるはずなんだけど」


 もう一度見せた。


 男は肩をすくめた。


 客のことは教えられない。


 だいたいそんな意味だった。


 剛は外へ出た。


 待った。


 二十分。


 三十分。


 長いケースを持った男が出てきた。


 違う。


 女が一人出てきた。


 違う。


 また男。


 違う。


 剛は壁にもたれた。


 来なかったらどうする。


 明日また来る。


 それだけだった。


 さらに待った。


 扉が開いた。


 女が出てきた。


 剛は動かなかった。


 髪は低い位置で一つにまとめてある。


 薄曇りの光の下で、プラチナブロンドは銀色に近く見えた。


 背が高い。


 細い。


 だが弱くは見えない。


 歩き方が変わっていなかった。


 蜂だった。


 剛は声を掛けなかった。


 蜂はそのまま歩いていく。


 剛も歩いた。


 十メートルほど後ろ。


 角を一つ曲がった。


 まだ声を掛けなかった。


 自分でも何をしているのか分からなかった。


 もう一つ角を曲がる。


「……蜂?」


 女が止まった。


 ゆっくり振り返る。


 剛を見る。


 顔。


 左腕。


 もう一度、顔。


「……剛?」


「ああ」


 蜂は何も言わなかった。


 剛も言わなかった。


 三年だった。


 十六歳のころから大人びていた。


 二十四歳のころに、ようやく歳相応に見え始めた。


 いまは二十七歳。


 年齢を聞かなければ、正確には当てにくい。


 目鼻立ちは整いすぎるほど整っている。


 そのせいで冷たい印象さえ与える顔だった。


 笑わなければ、なおさら。


 美人なのも変わっていない。


 剛にとっては、それも昔から知っていることだった。


 蜂は金髪だった。


 蜂は射撃が上手かった。


 蜂は美人だった。


 その程度のことだ。


「生きてたのね」


 蜂が言った。


「そっちも」


「腕」


「ああ」


 蜂はそれ以上聞かなかった。


「どうしてここが分かったの」


「探した」


「誰に聞いたの」


「何人か」


「会社?」


「違う」


 蜂の目が少し細くなった。


「会社には聞いてない?」


「聞くと思うか」


「思わない」


 蜂は射撃施設の方を見る。


「少し待って」


「まだ撃つのか」


「片づけるだけ」


「何撃ってた」


「SSG 08」


「まだ使ってるんだな」


「ええ」


 蜂は施設へ戻った。


          *


 十分ほどして出てきた。


 長いケースを持っている。


「それ?」


「そう」


「重くない?」


「あなたよりは軽い」


「俺と比べるな」


 蜂は初めて少し笑った。


 それも昔と変わらなかった。


 笑うと急に年齢が下がる。


「それで」


 蜂が言った。


「何の用?」


 剛は周囲を見る。


 受付。


 人がいる。


 外にもいる。


「ここじゃないほうがいい」


 蜂の表情が戻った。


「何の話?」


「PERSIMMON」


 蜂が止まった。


 数秒。


「どこでその名前を聞いたの」


「見つけた」


「何を」


「PERSIMMONを」


 蜂は剛を見る。


 今度は左腕ではなかった。


 目を見た。


「ここでは話せない」


「ああ」


「車がある」


「助かる」


 蜂は歩き出した。


 剛も続いた。


 三年ぶりだった。


 昔と同じように、蜂は振り返らなかった。


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