第9話 得られた証言
「遅くなってすまなかったな、レフティア嬢」
「いいえ、早すぎるくらいです」
クレンド様は、シェリームさん達が出発してから三日後に駆けつけてくれた。
当然のことながら、それは遅いなんてことはない。別に急ぐ義理があるという訳でもないことから考えると、迅速以上の対応だ。
「事態は大体把握しているつもりだ。それで、ペルリナとロメリアの二人は?」
「助け出しましたよ。アタシがね」
「……まさか」
クレンド様は、シェリームさんと顔を合わせて目を丸めていた。
シェリームさんの方も、苦笑いを浮かべている。その反応からして、二人は知り合いということだろうか。
「シェリームさん、まさかあなたとこんな所で会うとは……」
「アタシも驚いていますよ。まさかレフティア様と懇意にしているのがあなただったとは。しかし、随分と立派になられましたね。見違えましたよ」
「シェリームさんの方は、相変わらずですね。以前は助けていただき、ありがとうございました。バルケインさんやドルトさんはお元気ですか?」
「バルケインの爺さんは隠居しました。ドルトの方は、そちらにいますよ」
シェリームさんの仲間の一人であるドルトさんは、クレンド様に対して手を振っていた。
どうやら仲間単位で、知り合いであるらしい。ただ、かなり長い間会ってはいなかったような会話だ。
「レフティア嬢、シェリームさん達には子供の頃に助けてもらったことがあるのだ。俺が悪い輩に連れ去られた時、兄上が父上にも内密に依頼を出してな」
「あ、そうだったんですか。ということは……」
私はシェリームさんが言っていた命をかけてもいいと思えるもう一つの貴族が、誰であるかを理解した。
それはつまり、ギーゼル様だったということだろう。弟のために、冒険者に依頼した彼をシェリームさんが好ましく思ったことは想像できる。
「しかしあなた達があの親子を助けに行ったということは……」
「ああ、それについては当然、犠牲も出さずに連れ戻しましたよ。といっても、相手は下らない山賊一味でしたからね。あんなのは、後百人いても勝てましたよ」
「……どうやらお父様は、山賊すら見る目がなかったようです」
シェリームさん達は、出かけてから二日で戻って来た。
ペルリナとロメリアも、少なくとも命には別状がない状態だ。
シェリームさん達は、見事に依頼をこなしたのだ。もっとも、当の本人はどこか不満げではあるのだが。
「レフティア様から話を聞きましたが、胸糞悪い話ですよ、まったく。助けた二人も相当な悪女みたいですけど、それ以上にヴェリオン伯爵が許せません」
「なるほど、その辺りについては俺に任せてください。シェリームさん達が好むような結末をお見せしますから」
「上から目線で言うのはよくないのかもしれませんが、お手並み拝見といった所でしょうか?」
「ええ、存分に見ていてください」
シェリームさんの言葉に、クレンド様は自信ありげに答えていた。
どうやら彼の方も、何か掴んではいるようだ。これはもしかしたら、お父様に一泡吹かせることができるかもしれない。
◇◇◇
「……これで恩を売ったつもりですか?」
私とクレンド様の前で、ペルリナはそのような言葉を口にした。
彼女の表情には、あまり力がない。それは隣のベッドで眠っているロメリアのことが、気になっているからだろう。
事件によるショックが大きかったからか、ロメリアは正気ではない。ずっと恐怖に震えて、少しの物音でも叫びをあげるのだ。
悪女としか言いようがないペルリナではあるが、流石に娘に対しては愛情があるということだろうか。道具としか思っていない可能性もあると思っていたのだが。
「ペルリナさん、私は別にあなたに恩を売ったつもりはありません。人命を尊重するのは当たり前のことですからね」
「人命……あの人がなんであんなに余裕だったか、やっとわかったわ」
「ええ、ですがお父様は間抜けでしたね。杜撰な山賊に依頼したばかりに、こうしてあなた達をみすみす取り逃がしました」
「ふふ、笑えてしまうわね……」
「まったく持って、その通りです」
義母には色々と恨みがあるが、ことこの瞬間において、私は彼女に共感していた。
お父様は、どこまでも愚かな人間である。結局の所、彼はいつも中途半端だ。貴族であるというのに、人を使うのが下手であるし、何より人を見る目がない。
「さてペルリナさん、私が何を望んでいるのか、わかるかと思います。はっきりと言っておきましょう。私はヴェリオン伯爵家に興味はありません。あの家が断絶しても領地の人々が健やかに暮らせるなら、それでいいと思っています」
「……クレンド侯爵令息も、グルだったという訳ね」
「あなたには犯した罪と向き合ってもらう。ヴェリオン伯爵を追い詰めるためには、あなたの証言があった方がいい。当然、あなたの減刑も考えよう」
「私は罪なんて……」
クレンド様の言葉に、ペルリナは少し苦い顔をした。
当然のことながら、過去の罪を認めてしまったら、罰を受けることになる。普通に考えたら、認めるはずはないだろう。彼女は罪悪感を覚えるような人ではないだろうし、猶更だ。
ただ今回は、そんな彼女を言いくるめられる状況にある。彼女は私達に従わざるを得ない状況なのだ。
「ペルリナさん、あなたが私達に従わないというのは勝手です。しかしヴェリオン伯爵が健在である限り、あなた達二人は命を狙われることになります。それをご理解ください」
「……なるほど、私は従わざるを得ないということですか」
私の言葉に、ペルリナは項垂れていた。
状況が理解できたのだろう。彼女は諦めたような表情を見せるのだった。
「単刀直入にお聞きします。あなたはバンガルさんの死に関わっていますね?」
「……」
「沈黙などしても、良いことはありませんよ?」
「……ええ、そうかもしれませんね。わかっていますとも。あなたが想像している通りです」
ペルリナは、少し声を荒げながら答えた。
彼女は、不機嫌そうにこちらを睨みつけてくる。ただ、その表情はすぐに和らいだ。私達を協力しなければ命がないことを思い出したのだろう。
彼女の体は、恐怖で震えている。山賊に連れ去れた時のことを思い出しているのかもしれない。
「あなたがバンガルさんを殺したのですか?」
「実行犯、ということでしょうか? それなら、あの人が雇った人ですよ。暗殺者、とでもいうのでしょうかね?」
「なるほど、ただ発端はあなたなのでしょう?」
「……ええ、そうですとも」
ペルリナの素直な頷きに、私は少しだけ面食らってしまう。
ただ、話にきちんと応じてくれるつもりになったのは、こちらにとってはありがたいことだ。それ程時間がある訳でもないので、できれば話は早く進めたい。
「動機は一体、なんですか?」
「それについては表と裏があります。あの人に伝えたのは、ストーカーに付きまとわれているということです」
「本当はそうではなかった?」
「ええ、バンガルと私は共謀していました……ただ、私にとって彼は邪魔者でしかなかった。だってそうでしょう? 彼の存在はリスクなのですから」
ペルリナの言葉に、私は言葉を詰まらせていた。
この人は、やはりどこまでいっても最低な人間でしかない。それを思い出すことになった。
しかしお父様を陥れるには彼女の協力が不可欠であるため、私はペルリナの言葉を聞き流す。
「ロメリアはバンガルさんとの子なんですか?」
「さて、どうでしょうね? まあ、彼はそう思っていたみたいです。それで二人でヴェリオン伯爵家に取り入ろうと話し合って、私は彼を伯爵に始末させた。それがことの全てです。あなたが邪魔さえしなければ、全て上手くいっていたのですけれど、ね……」
言葉を発した後、ペルリナはゆっくりと項垂れていた。
減刑されるとはいえ、どの道彼女も裁きを受けることになる。それがわかっているからこそ、この状況をまったく喜べないのだろう。
人一人を殺めている以上、彼女が牢屋に入ることは確実だ。その中で反省するかは知らないが、今まで自由を謳歌してきた彼女にとって、かなり苦しい結果といえるだろう。
とはいえ、最悪という訳でもない。少なくとも山賊に売り飛ばされるよりは、マシだといえるだろう。




