第8話 見つかったのは
「これは……」
ボロボロになった馬車を見て、私は固まっていた。
どうやら既に遅かったようだ。ペルリナとロメリアの親子に対して、お父様は非情な行為を働いたのである。
「あなたはレフティア様、ですよね?」
「え、ええ……」
「なんと言葉をかけたらいいか……恐らく、野盗でしょうか。母君と妹君は連れ去られてしまったようです」
辺りにいた警官の男性は、神妙な顔をして私に話しかけてきた。
ヴェリオン伯爵家の内情は、世間に知られている訳ではない。家族の仲は、一応良好であるということになっている。
故に男性からしてみれば、家族を失った者として私は映っているのだろう。あの親子が追い出されたなんてことは知る由もないだろうし、出掛けた親子が野党に襲われたと解釈しているようだ。
「護衛などはつけていらっしゃらなかったのでしょうか? あ、いいえ、そんなはずはありませんよね。となると、一緒に連れ去れたのか逃げたのか、はたまた野盗と繋がっていたとか……」
「……」
「何れにせよ。かなり大規模な野盗がいるようですね……まさかこの大通りに現れるなんて。レフティア嬢、このような時にこんなことを言うのは不躾であることはわかっています。しかし申し訳ありませんが、ヴェリオン伯爵家の方で対処していただけませんか。このままではさらに犠牲が……」
「ええ、わかっています」
警官の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
もちろん、野盗の対処などはヴェリオン伯爵家が行うべき事柄だ。これ程の被害を出した野盗なら、そうなるのが必然である。
ただ、実際に対処するのかは、別の問題だ。今回の件は、ほぼ確実にお父様が裏で手を引いているだろうから。
「……遺体などは見つかっていないのですよね?」
「ええ、連れ去れていると考えるべきだと思います」
「売り払うつもりでしょうか? それなら、二人はまだ無事であると考えられますか?」
「そうですね。その可能性もあると思います。だからこそ、早急な対処を……」
「わかりました。すみませんが、冒険者に掛け合っていただけますか? 迅速な対処をするなら、そちらの方が話は早いでしょうから」
「わ、わかりました」
二人が生きている可能性は、充分にある。仮にお父様がすぐに始末するように企てていたとしても、依頼したのが本当に野盗であるならば、それを反故する可能性が高い。
この場に二人がいないということからも、そう考えることができる。二人を始末するなら、連れ去る必要性はないのだから。
それなら、お父様の権力が及びにくい者達で二人を救出するとしよう。お父様の非道なる行為は、止めなければならない。
◇◇◇
冒険者というのは、平たく言ってしまえば何でも屋だ。
ギルドと呼ばれる場所に依頼をすれば、その依頼をできる人が仕事をしてくれる。
ただ、貴族は滅多にそこを利用しない。権力者から最も遠いのが、冒険者達なのだ。
「それで、レフティア様は義理の母君と妹君を助けたいと」
「ええ、そうなんです」
私は、ギルドにいる冒険者達に呼びかけていた。
しかし反応は、かなり悪い。冒険者からしても、貴族というものは心証が良くないのだろう。
別に私個人は、冒険者を嫌っている訳ではない。だが、一般的なイメージとして貴族は冒険者を見下しがちだ。その影響が、このギルドにもあるのだろう。
それはもちろん、理解はしていた。
だからこそ私も、今まで冒険者を頼ったことはない。
だが、今回は彼らにしか頼めない事情がある。公的機関では対応が遅くなるし、何よりお父様の手が入る可能性があるのだ。
「……どうか皆さんの力を貸していただけないでしょうか。ことは一刻を争うのです」
「……おい、どうするよ」
「どうするって……貴族のために命をかけるなんて、俺はごめんだぜ」
「……」
冒険者達は、まったく腰を上げようとはしなかった。
山賊の討伐には、命の危機もつきものだ。躊躇う人が多いのも、当然かもしれない。
ここで断られてしまったら、最早諦めざるを得ないというのが、正直な所だ。これ以降は、お父様の意思が介入する。あの二人を助け出すのは、まず不可能だろう。
「……まったく、だらしのない奴らだ」
そんなことを思っていると、辺りに低い女性の声が響いた。
それを発したのは、ギルドの端の方にいる筋骨隆々な大柄な女性であるだろう。彼女は、ゆっくりと私の方に歩み寄って来て、隣に並んだ。
「この町の冒険者は腰抜けばかりだ。こんなお嬢さんの頼み一つ聞き入れられないなんて」
「な、なんだよ、藪から棒に」
「山賊なんかにびびって、よく冒険者なんてやれるね。信じられないよ」
「別に俺達は、山賊にビビっている訳じゃあ……」
「それじゃあ何かい? 自由を主とする冒険者が、貴族だからとか下らないことに囚われているって訳かい。アタシはそんなの気に食わないね」
大柄の女性は、辺りの男達に対して一喝していた。
その言葉に、他の冒険者たちは萎縮している。たった一人に大勢が気圧されているようだ。
「レフティア様で、良かったですかね? アタシは、シェリームって言います」
「シェリームさん、ですか」
「あなたがどのような事情を抱えているかはわからないが、力を貸して欲しいんでしょう? それなら、アタシとアタシの仲間が力を貸します。もちろん、報酬は弾んでもらいますよ?」
「ええ、もちろんです。どうか私の義母と義妹を助けてください」
シェリームさんが差し出した手を、私は力強く握った。
よくわからないが、強い味方を得られたような気がする。これならあの二人を無事に取り戻すことができるかもしれない。
◇◇◇
シェリームさんとその仲間達によって、山賊の討伐が始まろうとしていた。
彼女の言葉に感化されたのか、ギルドにいた他の冒険者も数名参加してくている。
そんな中私は、クレンド様に連絡をしていた。仮に取り戻せても、ペルリナとロメリアがお父様に捕まってしまったら、何の意味もないからだ。
「シェリームさん、実際の所、勝算はあるのですか?」
「レフティア様、心配はいりませんよ。アタシ達はこれでも手練れですから」
「その……今回の依頼、実は少々入り組んだ事情があるんです。もしかしたら、相手はただの山賊という訳ではないかもしれません」
私は、シェリームさんに対して今回の事件のことを説明することにした。
彼女は信頼できる人だ。この短い間でも、それがわかった。
それなら私も、信頼できる雇用主であるべきだろう。命がかかっているのだから、隠し事なんてなしだ。
「心得ていますよ。レフティア様にも、何か事情があるのですよね?」
「え?」
「隠していたつもりかもしれませんが、隠し切れていませんよ。申し訳なそうにしているのが伝わってきました。あなたは人が良いんでしょう」
シェリームさんの言葉に、私は少し面食らってしまった。
まさかそこまで見抜かれているなんて、思っていなかったからだ。
しかし、考えてみれば当然なのかもしれない。シェリームさんは、どう考えたって一流の戦士だ。洞察力や思考能力も、かなり高いのだろう。
「冒険者なんてのは、金さえ積めば何でもやる奴らです。報酬さえ弾んでくれるなら、アタシは隠し事の一つや二つくらい気にしませんよ」
「……今回の件の裏には、私の父が関与しています」
「……話しちゃうんですか?」
「もちろんです。情報を出し渋った結果、シェリームさんが帰って来られなかったら、申し訳ありませんからね」
シェリームさんは、私が何も話さずともことに当たってくれただろう。
だがそういう人だからこそ、私は益々話したくなった。話さない以外の選択肢など、ないとさえ思えた。
「切り抜けられないというなら、アタシらがその程度の人間だったというだけなんですがね……」
「私としても、救出が失敗したら困るんです。成功する可能性はあげておかないと」
「なるほど、それは確かに道理だ。情報を隠す奴が多すぎて忘れていましたが」
「そういう方々が馬鹿なのでしょう?」
「レフティア様、アタシはあなたのためになら命を賭けてもいいって、今心から思えましたよ。そんな風に思えた貴族は、あなたで二人目です」
シェリームさんは、私に対して豪快な笑みを見せてくれた。
彼女が帰って来た時に、もう一度その笑みを見たいものである。そんな風に思いながら、私は彼女を送り出すことになったのだった。




