第7話 親子への糾弾
私とお父様は、ペルリナとロメリアと対峙していた。
お父様の隣に私がいるという状況に、二人は目を丸めて驚いている。それは当然だ。今までそのようなことはなかったのだから。
「あなた、一体どういうことですか? その女と一緒に私達を訪ねて来るなんて……」
「お父様、もしかしてやっとお姉様が出て行くつもりになったのですか?」
二人は、対照的な反応をした。
義母ペルリナは、この状況に警戒しているようだ。彼女からしてみれば、私達が一緒に来る理由などないのだろう。
一方でロメリアは、喜んでいるようだ。彼女は、私がこの屋敷から出て行くと認識している。そのことでお父様と話し合った結果、二人でここに来たと思っているのかもしれない。
「ふん、どうもこうもあるか。このペテン師め」
「ペテン師? それは一体、誰のことを言っているのですか?」
「お前のことだ。この売女め!」
お父様は、ペルリナのことを高らかに批判した。
それは今までから考えると、信じられないことだ。それに対して、ペルリナの方は顔を歪めている。彼女の表情には、そこまでの驚きはない。
「何を言い出すのかと思ったら、あなた、一体どうしたんですか? まさか、そこにいる女に変なことでも吹き込まれたのですか?」
「ああ、レフティアは私に大切なことを教えてくれた。お前というペテン師の本性をこの娘は見抜いていたのだ」
「ほ、本性なんて……」
ペルリナは、ロメリアがお父様の子ではないことを認識している。反応から、私はそれを理解した。
一方で、その件のロメリアは困惑している。やはり彼女は、その事実に関してまったく知らなかったということだろうか。
「ふん、お前自身は当然理解しているようだな? まったく持って腹立たしい。この私を欺いていたとは……ロメリア、お前のことだ」
「わ、私? お父様、一体何を……」
「お父様だと? ふざけるな! お前のような女に父親と呼ばれる謂れはない!」
「なっ……!」
お父様の言葉に、ロメリアは母親の方に視線を向けた。
その視線から、ペルリナは目をそらす。彼女の方からかけられる言葉などは何もないようだ。
「何を言っているのですか? お父様は、私のお父様ではありませんか……父親と呼ぶことが、間違っているなんて、そんなはずはありません」
「ふん、何も知らない愚かな娘め。既に調査は終わっているんだ。お前は私の娘ではない。どこかの誰かの馬の骨だ」
「わ、私がお父様の子供ではない……そんな馬鹿な」
ロメリアは、ゆっくりと崩れ落ちていた。
ヴェリオン伯爵家の血を引いている。それは彼女の中では、支えであったのだろう。その支えを失って、心が折れてしまったようだ。
◇◇◇
お父様の意向によって、ペルリナとロメリアはヴェリオン伯爵家から追い出されることになった。
その措置は、当然だ。ペルリナはお父様を騙しており、ロメリアはヴェリオン伯爵家の血を引いていない。二人をここに置いておく理由はないといえる。
「ふん、ヴェリオン伯爵、あなたは後悔することになるでしょう」
「後悔だと?」
「あなたが一番よくわかっているはずです。わかっていないなら、とんだ間抜けですね」
ペルリナは、出て行く間際になってそのようなことを言い出した。
それを聞いたお父様は、面食らったような表情をする。なんのことか、あまりわかっていないという反応だ。
ペルリナの言葉を借りるのは癪ではあるが、お父様は間抜けそのものである。その鈍感さには、私も呆れてしまう。
「……ああ、まさか例のことを言っているのか?」
「ふ、やっとわかりましたか」
「なるほど、お前はそれをあてにしている訳か」
「ええ、それはあなたにとっては一番の打撃でしょう?」
少し遅れて理解したお父様に対して、ペルリナは笑っている。
彼女が言っているのは、ほぼ確実にバンガルさんのことだろう。彼女は、彼のことを隠蔽した件でお父様を脅そうとしているのだ。
「言いたければ言えばいい。お前のような女一人が喚いた所で、意味などはないからな」
「さて、それはどうでしょうかね? 私は、意外にも色々な人達に顔が利くんですよ?」
「ほう?」
ペルリナの言葉は、あながち嘘という訳でもないだろう。
彼女には、それなりの力がある。それがヴェリオン伯爵家以上の力があるかはわからないが、お父様にとって厄介なことになるのは確実だ。
しかしお父様は、笑みを浮かべている。余裕といった感じだ。何か策でもあるということだろうか。
「はははっ! 思い上がった女だ。少しの期間だけ私を騙せていたことから、図に乗っているようだな。しかしお前は、ちっぽけな女に過ぎない。今にそれがわかることになる」
「なんですって?」
「お前が何をしようとしているかなんて、関係はない。それくらいで、この私は揺るがない。それがヴェリオン伯爵――貴族の力というものだ。短期間とはいえ、伯爵夫人だったお前がそれを理解していないなんて、とんだお笑いだな?」
「なっ……」
お父様は、高笑いを浮かべていた。
その勝ち誇った表情には、ペルリナも少し気圧されている。
余程自信があるということなのだろうか。お父様はペルリナが悔しそうな顔をしながら去って行くまで、ずっと笑っているのだった。
◇◇◇
ペルリナとロメリアをヴェリオン伯爵家から追い出すことができたことは、成果の一つだと言っていいだろう。
少なくとも、これでロメリアが伯爵家の実権を握り、領地の民達が苦しめられるということはない。それだけで安心できる要素ではある。
しかし最早、自体はそれだけで終わりとすることができない状況だ。もう一人、ヴェリオン伯爵家から追い出さなければならない人がいる。
「レフティア、何か欲しいものはないか?」
「欲しいもの?」
「ああ、なんでも買ってやろう。宝石でも生き物でも構わないぞ。私は今、とても機嫌がいい。お前の望みは、なんでも叶えてやりたい気分だ」
その人物とは、目の前にいるヴェリオン伯爵だ。
彼は、一応まともに伯爵を務めている訳ではあるが、危険な人物である。
根っこの部分は、彼もペルリナやロメリアと変わらない。自分の欲望のために、権力を利用する人だ。そんな人を野放しにしておく訳にはいかない。
「せっかくの提案ですが、特に欲しいものなどはありません」
「む、そうか? 遠慮しなくても良いのだぞ?」
「いいえ、本当に何もいらないのです……ああ、強いて言うならクレンド様との婚約の話は、このまま進めていただきたいと思っていますが」
「ああ、それはもちろんだとも。せっかくお前が頑張ったのだからな。無駄にはせんさ」
もちろん、お父様に対しては私怨もある。彼は今まで、私やお母様に散々ひどいことをしてきたのだ。それらを許す気になんて、到底なれない。
今こうやって、手の平を返して私に愛情を向けて来ているのも、気に入らない点の一つだ。はっきりといって、気持ちが悪い。私はこの男からの愛情など欲していないということが、改めて理解できた。
「ロメリアはどうしようもなく愚かな女であった訳だが、エヴォート侯爵家との婚約の話を出したことだけには感謝してやってもいいな。過ぎたる望みだと思っていたが、侯爵家との繋がりができるとは……」
「ええ、そうですね」
「まあ、あいつは今まで散々甘い汁を吸ってきたのだから、それくらいヴェリオン伯爵家に貢献して当然か」
お父様は、上機嫌にロメリアのことを語っていた。
その様子に私は、違和感を覚えていた。お父様の性格からして、あのようなことをされたロメリアのことを落ち着いて話したりはしないと思うのだ。
ペルリナと話している時もそうだったが、お父様はやけに落ち着いている。私はなんだか、嫌な予感がしていた。
「お父様、少し出掛けてきます」
「む? そうか。暗くなる前に帰ってくるのだぞ?」
「ええ、もちろんです」
私は、お父様の部屋から出て駆け出した。
ペルリナとロナメアが出て行ってから、まだそれ程時間は経っていない。今ならまだあの二人にも追いつけるはずだ。




