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20・・かぐや姫も転移者?


「あれからテオに会ってる?」


あの日以来のステラとのランチ。

本日のおすすめを二つ注文したステラが真っ直ぐに彩綾を見つめた。


言葉なく首を横に振った彩綾を見て、ステラがため息をつく。

あの日以来、一度もテオと会っていない。


テオはあの日の後、すぐに遠征に向かったらしい。

いつもなら遠征に行くからと、ライリーの執務室に顔を見せに来てくれるのに、今回は行くことを知らせる手紙がライリー宛に届いただけだった。


「テオとあの夜に何かあったの?」

向こう(元の世界)で親友だったエイミがテオの妹、エイミーであるとわかった、あの夜。

「ううん、何もないわ。エミリーとの思い出話を伝えて……ただ、それだけよ」

「変わったことは?」

「……特にないと思うけど。どうして?」


ステラが躊躇うように視線を泳がせた後、覚悟を決めたのか口を開いた。


「あのね……騎士団のお友達に聞いたのだけど……どうやらテオは遠征から王都に戻ると、休まずに次の遠征にすぐ行っているみたいなの」


どうやら、第三騎士団の中で小隊を作りかわるがわる行っている遠征に、テオはずっとついて行っているという。


……まるで王都にいたくないみたい。


エミリーをもう探す必要はなくなったはずのテオが自発的に遠征へ行く理由は……。


「私に会いたくないのかな」


考えもせずにポツリと口に出してしまった自分の言葉がしっくりきて、勝手に心が傷ついて痛くなる。


会いたくないって思われるほど、嫌われることをしてしまったのだろうか。

いつもならどんなに忙しくても会いに来てくれていたテオが、今回は連絡すらない。


「私何かしちゃったのかな?」


不安になった彩綾はステラに答えを求めてしまう。

もしかしたら、知らぬ間に地雷を踏んでしまったのかもしれない。


「それか……テオさんの妹のこと、伝えるのが遅くて怒っているのかしら」

「サアヤもエミリーと親友のエイミが同一人物って知らなかったでしょう?わざと隠していたわけではないもの。そんなことで怒るような人ではないわ」


そうかもしれないけれど……遠征に休みなく行く理由はなんだろう。

どうしても、原因が自分にあるような気がしてしょうがない。


「ね、最近の二人はどんな感じだったの?」

「どんな感じって?」

「えっと……ほら、遠乗りしたり、テオがサアヤのご飯を家によく食べに行ったりしていたじゃない。何か二人に男女的な進展があったかと思って……」


「……ええ!?何もないよ!」


レイラの言葉を反芻してようやく言いたいことがわかった。


「でも、ほら、エミリーはサアヤとテオが恋人になればいいと思っていたのでしょう?」

「よく、そんなことを覚えていたわね」


エイミはよく彩綾に『お兄ちゃんと彩綾が付き合ったらうまくいくと思うんだよね。二人が付き合ってくれたら嬉しいな』なんて口癖のように言っていた。


その時は『そんなにおすすめなら一度会いたいわ』なんて軽く返していたのに……本当に会っちゃったのよね。


「テオに会ってみてどうだった?とても二人はお似合いだと思うんだけどな」


ステラの言葉に苦笑してしまう。

「テオさんにとって私は妹みたいな立場なんだと思う。ある夜に突然訪ねてきた異世界人をほかっておくこともできなくて……優しいし責任感も強いから……面倒をみてくれたのだと思っているよ」

「テオのこと付き合いが長いからわかるわ。サアヤのことを妹だなんて思ってないわよ」


「あ!」


もしかしたら……手を繋いだり、泣いているテオを抱きしめてしまったのが、生理的に嫌だったのかも。


その話をすると、ステラが鼻で笑った。

「本当ヘタレなんだから」

「ヘタレ?」

「そ、本当に馬鹿なんだから。時間がないのに……」


ステラの言おうとするところはわからないけれど、時間がないというのはきっと彩綾が元の世界に帰る時までのことだろう。


「ここにきて、6ヶ月経ったのね。あと2ヶ月……ね、ステラ、私と仲良くなってくれてありがとう」

「……本当にここに残る気はない?」

「……一度も考えたことがないって言ったら嘘になるけど。……でも、家族が心配していると思うの。突然消えてしまったから」


この世界にすっかり居心地の良さを感じてしまっていた。

煩わしいSNSもなく、魔力が色々な動力だからか自然も豊かで空気も綺麗だ。

科学技術は発達していないけれど、それはそれで生活しやすくもある。


それでもやっぱりお父さんやお姉ちゃんが心配しているかと思うと、帰らなくては、と気持ちが急く。

テオがエイミーをずっと探していたように、二人も彩綾を探しているかもしれない。


「……そうよね。うん、わかってる。家族思いのサアヤのことも大好きよ。だから残りの時間、たくさん会っておしゃべりしましょう。ただね、エミリーが彩綾の親友だって知ってから思うことがあるの」

「なあに?」

「サアヤがここに来たのって、偶然じゃなくてエミリーの想いが叶えられたのかしらって」

「……エミリーの想い?」

「ええ、エミリーがサアヤとテオを会わせたかったんじゃないかって思うの」


断言するようなステラの言葉に、返す言葉が見つからなかった。



§



「手紙のやりとりの仕組みについてもう一度教えてくれないかしら?」

「手紙のやりとり?」


ライリーが書類から顔を上げて彩綾を見つめる。


「ええ、魔力で送る先を念じて飛ばすっていうのはわかったわ。例えば……顔も知らなくて、どこにいるのかも知らなくて、名前だけ知っている人に飛ばすことはできるの?」

「それはできないな。顔も居場所もわからなくてもいい。でも、送り先の相手が誰かは明確にわからないと駄目だ」

「例えば遠征中のテオさんがどこにいるのかわからなくても、手紙は届くでしょう?それはどうしてなの?」

「アースナル国の第三騎士団長のテオ、と細かく分かれば完璧だ」


首を傾げたままのサアヤにさらに説明を続ける。


「詳細を知っている相手であればあるほど居場所は関係ない」

「私、そこまでちゃんと念じていなかったのに、届いたわ」

「送る時にテオをちゃんと思い浮かべただろう。無意識にテオがどこの誰かと言うことを選別できているからだ」

「よく知っている相手であれば、どこそこの誰、と具体的に念じなくても届くってこと?」

「そう言うこと」


……難しい……感覚に頼るところがあるのね。


「ここからは相談なんだけど……私の世界にいるエミリーに手紙を送ることはできると思う?」


飄々としていたライリーの顔つきが一気に研究者のものに変わる。


「エミリーか……。理論からだけならいけるかもな」

「そうなの?」

「ああ、でも、僕達からは無理だ」

「どうして?」

「僕もテオも何度も試した。何度やっても届かないんだ。でもサアヤからならいけるかもしれない」

「私からならいけるっていうのはどうして?」

「僕たちが知っているのはアースナル国のエミリーだ。でも、今はエイミとしてサアヤの国で生きている。だから届かなかったのかもしれない」


それならば……


「試してみてもいいかな?」



彩綾はエイミに何を書こうか迷う。

届くのか届かないのかわからないから、ただ一言。


『エイミのお兄ちゃんに会ったよ。彩綾』


これが向こうの字かと興味津々で覗き込んでいたライリーに、何を書いたのかを説明すると意味ありげに笑った。


「手紙をこの世界の人へ送るのと同じ要領だ」


ライリーの助言をもらってから、彩綾はエイミを強く想いながら手の上の手紙に魔力を注ぐ。



……手元が光るだけで手紙が消えない、つまり飛んでいかないってことだ。


何度も繰り返し魔力を込めてみる。

「なんで?住所だってわかってるのに」


もしかしたらって期待していた分、期待を裏切られたようで落胆が大きい。


「理論上は行けるはずなんだけど、異世界だとやっぱりダメか」

ライリーもため息まじりに答えた。


「ねえ……なんで月が関係があるのかしら」

「突然どうした?」

「月のことを元々神秘的に思っていたから、二つの月が重なる夜に異世界同士が通じるって話に納得しちゃったんだけど……なんでかな?とふと思って」


彩綾の質問に、しばらく黙っていたライリーが口を開いた。


「月には何かを引き寄せる力があるのかもしれないな。文献を読むとかなり昔から……それこそ何百年も前から月に関係した異世界人の話があるんだ。もう昔すぎて、昔話なのか本当の話なのかがわからないんだけどね」

「昔話……月に関係したのなら、向こうの世界でもあるわ」


かぐや姫も月に関係していた。


「どんな話?」


竹取物語のストーリーをかいつまんでライリーに伝える。


「どうして、かぐや姫が月に戻ったのかっていう理由は色々な考察があるけれど正解はわからないの。ただ、竹の中で光って発見されたかぐや姫は、かぐや姫は満月の日に元の世界へ戻ってるってこと。何か似てるわよね」

「……本当だな」

「ねぇ……何回でも行って帰って来れるのかしら?」

「どう言うこと?」

「こちらとあちらを自由に行き来できないのかなって」


最近気になっていた疑問をライリーにぶつけた。

彩綾が文献をどれだけ読みこんでも、行き来したり、もう一度戻ってきた迷い人はいなかった。


「……例えば、向こうに戻った私は、またここに帰って来れるのかしら」


驚いたように目を瞬いているライリーを彩綾は真っ直ぐに見つめた。

「そんなことできると思う?」



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