第11話 テント探し
焼き鳥を2本食べてから屋台をいろいろ回ってみたけど、さすがにテントは扱ってないみたいだからお店に入ってみることにしたものの、盗難防止の為か店先に商品を並べている店が見当たらない。
日本との違いを感じながら、ガラス越しに並べられている品々を確認しつつ、それらしい店の扉を開ける。
数人の客がいたけど、ちらっとこっちを見た後ガン見されて、棚に目を戻してた。なんぞ? 農具、液体が入った瓶、木でできた器と、見ている品は様々だ。
店の奥に行くと旅人用の道具が置いてあるコーナーを見つけた。値札を確認しながら、ロープと暗い色味のマントを手に取る。
「あとは、と……」
棚の端の方にテントがあった。袋に包まれたタイプで、肩にかけて運べるらしい。
「開けてもいいかな?」
紐をほどいて中を覗く。黒いテントだから、野宿しても目立たないな。
袋の口を下げて、テントを半分出してみる。どんな構造かわからないから、組み立て方を確認したいけど、店内でそれはできない。
うんうん唸っていたらぽんと肩を叩かれた。振り返ると、腕を組んで仁王立ちするいかついおじさんが1人。
「あ、店主……」
店に入った時、レジ奥で眉間に皺を寄せて客を眺めていた人だった。
「すみません、テントを探してて、決して盗もうとなんて思ってなくてですね、あのー……」
通じないとわかっていても言い訳せずにはいられない。
もともと人と話すのは得意じゃない。近所の犬や野良猫なら自分から寄っていくけど、人となると気が引けてしまう。
しどろもどろになりながら身振り手振りで説明する。じろじろと私を見下ろしていた店主はテントに視線を移した。
「あ、これ買いたいんです。こっちも一緒に」
もう組み立て方なんてどうでもいい。自分でなんとかする。
テントとロープとマントを差し出せば、店主はじろっと私を見てから品物を受け取り、レジに戻っていった。
レジ前に立って、お金を取り出す。値札の数字らしき記号を思い出しながら紙幣を選ぶ。
屋台の時と違って金額が高いから時間がかかってしまったけど、店主は怒っているような顔をしながらも急かさずに待っていてくれた。
「すみません、お願いします」
1万円っぽい紙幣を4枚と硬貨を数枚木のトレーに置く。屋台を見ながらある程度の記号は覚えたから、これで間違いないはずだ。懐がだいぶ軽くなってしまうけど、必要な物なんだから仕方がない。と、思っていたら、お金を数えた店主が紙幣を2枚返してきた。
「え? あの、あれ?」
数え方間違えたかな? 合ってたと思うんだけど。店主が私の手にお金を握り込ませて、しっしっと追い払う仕草をした。無理に置いていこうとしたら屋台の時みたいになるかもしれないから、頭を軽く下げて巾着にしまう。
私が巾着の口をぎゅっと縛るのを確認してから、店主は値札を切った品をカウンターに置いた。マジックバッグを開けて、雑多にならないよう1つずつ丁寧に入れていく。
『、……』
最後のテントを四苦八苦しながらながらマジックバッグに入れ終えたら、店主がランプを差し出してきた。思わず目をぱちくりさせていると、節くれ立った手がランプの底を時計回りに捻る。ぱあっと明るくなって、おお、と声を出してしまった。
『、……』
明かりを消した店主が、もう一度ランプをこちらに差し出した。くれるってことかな?
受け取って、お金が入った巾着をちょっと持ち上げてみると、店主に睨まれた。どうやらそういうことらしい。
「ありがとうございます!」
嬉しくて声が大きくなった。用は済んだとばかりに手を振った店主は、新聞みたいな文字がびっしり書かれた紙で顔を隠してしまった。
扉を開けてお店を出る時、改めて店主に頭を下げる。新聞を下げてこっちを見ていた店主はまた隠れてしまった。
そっと扉を閉めて歩き出す。いい買い物ができて満足だ。
そういえば、実家の近所に住んでいた岩石みたいな顔をしたじい様も、車の通りが多いところに立っていてくれたり、転けた時に無言で絆創膏をくれたりしてたなぁ。岩じいなんて呼んでみんなでいろんな噂してたけど、今思えばなかなかに優しい人だった。
「しかめっ面の人って優しい人が多いよなぁ」
太陽が傾き始めた。すぐ暗くなるだろうから、寝る場所を探すとするか。




