第12話 愛すべきマイペース
閑話でオードの自己紹介文を変更しました。
村の端の方まで行くと大きな川があった。もともと持っていた地図にも描かれていたから、レッドドラゴンに喰われたワニの住み処の上流だろうな。
川原には冒険者が10組ほどテントを張って寝る準備をしている。見張りみたいな人はいないから、自分もここを使わせてもらおう。
冒険者達から近からず遠からずのところに荷物を置いて、テントを取り出す。支えを立てて組み立てる三角形の物を想像してたけど、広げてみたら長方形だった。
「あ、魔法陣がある」
長方形の端に描かれた魔法陣に触れてみると、テントそのものがふわっと光って膨れ始めた。驚いている間にもテントは膨れ続けて、カマボコ形になって止まる。
「凄いな」
魔法陣が描かれた側の断面が入口らしい。捲ってみると中は外見以上の広さがあって、3人で寝ても余裕がありそうだ。
靴を脱いでテントに入って、マジックバッグを置く。入口にはチャックじゃなくてフックがあったからそれで閉じる。
ランプを点けたら充分明るくなった。地面部分は低反発マットレスに近い柔らかさだ。
「これ絶対高いと思うんだけど……」
店主のおじさん、ありがとう。
▷▷▷▷▷▷
思っていた以上に疲れてたのか、いつの間にか眠ってしまっていた。
テントから出ると日は暮れていて、そこここで冒険者達が夕食を食べている。
「あれ食べてみようかな」
平たい石に腰かけて、マジックバッグから携帯食料を取り出して一齧り。
屋台を見て回って、一番日保ちしそうと思って買った乾パンみたいな物。味はあんまりしないけど、腹持ちはよさそう。
口の中でもごもごもぐもぐ。水分を取られるから竹筒をごくり。
10個ずつ入ってる袋をお試しで1袋買っただけだから、明日買い足そうかな。
それにしても、なぜか見られる。
冒険者達は若い面々だ。たぶん駆け出しかそれに近い人達で、宿泊代を節約してるんだろうけど、食べてる間そのほとんどからちら見された。
「なんで見てくるんだろう?」
「そりゃあお前さんが妙ちくりんにゃ格好をしとるからじゃろ」
「ああ~なるほどぉ。……ぉお?」
真横から聞こえてきた、しばらく聞いてなかった意味がわかる言葉。目をやれば、ずんぐりむっくりした猫が自分と同じように石に腰かけてもぐもぐしていた。
「身にゃりも毛並みも珍しいもんがそれにゃりのテントを広げて粗末にゃ携帯食料を齧っとれば大抵のもんは気ににゃるものよ。お前さん、鶏の中にアヒルがおったら振り返るじゃろう? それと同じよ」
「ああ、まぁ、はい」
「しっかしこれは不味いのう。不味過ぎる。栄養が取れるからといって味を落とすのはいただけん。買う価値にゃしじゃ」
……あんたが食べてるの私の携帯食料だよね。しかも2個目まで取っちゃって。
普通の猫よりは少し大きめ。足はもっふもふの毛のせいで短く見える。なんだっけこの動物。前にテレビで見たんだけど……あ。
「マヌルネコ……?」
「ん? マヌルとにゃ? 猫違いじゃよ。儂の名はイニャトじゃ」
よろしくの、と前足を出されたから反射で握手してしまった。肉球ぷにぷに。
「イニャト! 勝手に離れにゃいでください!」
二足歩行で駆け寄ってきたのは、なんともまあスレンダーな美猫。アビシニアンに近い。魔法陣つきのリュックを背負ってるけど、マジックバッグかな?
「そう騒ぐでにゃいわニャルクよ。今この同胞に食事を恵んでもらっておったのじゃが、不味くて食えたもんじゃにゃい」
「勝手に食べたんじゃにゃいでしょうね?」
「にゃほほほほほほほ」
「コラッ!」
両前足を腰に当てて怒っていたニャルクさんがこっちを向いた。
「申し訳ございません、弟が迷惑かけてしまって」
あ、兄弟猫なのね。
「代金は支払います。お幾らでしたか?」
「ああ、気にしなくていいですよ。高い物じゃなかったんで」
「お~い、ニャルク~」
少し離れたところからイニャトさんの声が聞こえて振り返ると、なんとテントの中に入っていた。
「にゃかにゃか居心地よさそうじゃぞ~。早う入らんか~」
「駄目ですよイニャト! 早く出にゃさい!」
「いやいや、大丈夫です大丈夫です」
私がそう言うと、ニャルクさんは申し訳なさそうに耳を下げた。
「本当にすみません、僕達今日ここに泊まろうと思って来たんですが、あいにく貸出し用のテントが全て出払ってしまっていて……」
へぇ、そんなのあったんだ。
「あの、よかったら今日一晩私のテントを使ってください」
「え? ですが……」
「中は結構広いんですよ。全員で寝転んでも問題ないです。ただ、その代わりといってはなんなんですが、ちょっといろいろお話を伺いたくて」
「話、ですか?」
目をぱちくりさせるニャルクさんの耳に近づいて、声を落とす。
「私、言葉が通じないんです。あなた達が初めてで」
「……わけあり、ということですね?」
「まぁ、はい」
ふむ、とニャルクさんは前足を口に当てた。
「妙にゃ服を着ているとは思いましたが、それも関係ありそうですね」
そんなに変かな? フードつきパーカーとジャージ。
「わかりました。では一晩寝場所をいただく代わりに、あにゃたの質問に答えましょう。僕のわかる範囲にはにゃりますが」
「ありがとうございます! 助かります!」
人間相手は苦手だけど、猫ならむしろ大歓迎だ。隙あらばもふもふしたい。
マジックバッグに荷物をしまってテントに入る。イニャトさんはヘソ天しながらお腹をボリボリ掻いていた。
あんたはもうちょい遠慮すべきだよ……。許すけど。
にゃんこ達の台詞の漢字に入る「な」は心の中で「にゃ」に変換お願いします。
例1、中に→にゃかに
例2、離れにゃいで→はにゃれにゃいで




