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第98話 解決策

ご閲覧、評価、ブックマークありがとうございます。

 見覚えのある景色。木の高さとか、雑草の茂り具合が違うけど、ラタナさんが生まれたメナ湖だ。

 湖面からラタナさんが体を出してる。その正面に、司祭さんっぽい人と同じ服を着た男の人がいる。何か喋ってるけど聞こえない。無音だ。

 微笑んだラタナさんが、男の人に何か手渡した。両手で受け取った男の人が、膝をついて頭を下げる。

 私の親指ぐらいの大きさの、楕円形の種だった。




 ▷▷▷▷▷▷




「ニャオ、ニャオ。大丈夫かの?」


 ハッと気づいた時には、私自身が膝をついていた。教会の床に、アーガスさん達に囲まれて。

 立ち上がって土を払ってから、イニャトさんを見た。


「イニャトさん、この教会にメナ湖の精霊から授かった種があるはずです。確認してもらっていいですか?」

「種とにゃ? うむ、ちと待っておれ」


 そう言って、イニャトさんはシスターさん達がいる方に駆けていった。


「ニャオー、だいじょーぶー?」


 緑織が脚にしがみつきながら聞いてきた。大丈夫よー、と返して頭を撫でる。イニャトさんが戻ってきた。


「ニャオよ。ここを任されておるアレン司祭に話を聞いたところ、アシュラン王国建国の際にこの町に来た司祭が精霊から授かり物をしたと伝わっておるらしい。今取りに行ってくれとるよ」


 イニャトさんに言われてシスターさん達の方を見たら、確かにあの男の人がいない。やっぱり司祭だったか。

 そう経たない内に、アレン司祭は戻ってきた。手には綺麗な装飾が施された小箱を持ってる。私の目の前に来て蓋を開けてくれた。中には夢で見たのと同じ種が入っていた、けど……。


「これ……」

「うむ……。元気がないのう……」


 見た感じは普通の種だけど、どうにも生命力を感じられない。勘違いかもと思ったけど、樹木魔法を使えるイニャトさんが頷いたから間違いじゃない。


「なんでこんな状態になったんでしょう?」


 教会なら、精霊からの授かり物をぞんざいに扱うとは思えない。なのに種の命は消えかかってる。どういうこと?

 イニャトさんがアレン司祭に聞くと、悔しそうな顔で説明してきた。ニャルクさんが翻訳してくれる。


「この種はきちんと奉られていたみたいですが、神々が見守った戦争が起こった時に、当時の司祭が安全にゃ場所に隠したそうです。だけどその司祭は戦争に巻き込まれて亡くにゃってしまった。後から教会を任された司祭も、シスター達も、種の隠し場所を見つけられにゃかったと言っています。つい最近、地下室の石壁から出てきたみたいです」


 そうだったのか。400年間閉じ込められてたら、いくら種でもきびしいかも。長期保存が利く種ならまだしも。


「ニャオよ、林檎はまだ残っとるかの?」


 イニャトさんに聞かれた。


「林檎? ええ、まだ2玉ありますけど……」

「1玉出してもらえんか?」


 はいはい、ちょっと待ってね。


「はいどうぞ」

「うむ。そのまま右手に持っておいてくれんか? アレン司祭よ、この種にちと試してみたいことがある。預かってもよいか?」


 イニャトさんが言えば、アレン司祭は少し迷った後、箱を差し出した。ちっちゃい右の前足が種だけ掴む。


「すまんのう。ではニャオよ、儂が種を持っておくから、左手で包んでくれんかの?」

「包む? こうですか?」


 左手で、イニャトさんの肉球の上にある種を前足ごと握り締める。逆に、イニャトさんは左前足を私が持つ林檎に当てた。


「どうするんです?」

「この林檎には、ニャオが注いだ水神様の気と儂の魔力が宿っておる。この生命力を種に移してみようと思ってのう」

「そんなことできるんですか?」


 何それ凄い。


「わからん。試したことがにゃい故、うまくいくかわからん。じゃがこの種が事を解決する鍵にゃら試さんわけにはいかんじゃろう?」


 ごもっともです。


「イニャト、僕も加勢します。僕が魔力の波が乱れにゃいように手伝います」

「おお兄よ、頼んだぞ」


 私達の隣に来たニャルクさんが、イニャトさんよりも小さな前足を、私の右手首とイニャトさんの左前足に添えた。小学生か、中学生の頃に習った電気回路っぽいな、この格好。


「では始めるぞ」


 イニャトさんに言われて、ニャルクさんと一緒に頷く。エルドレッド隊の人達が真剣な顔をしてるのが視界の端に見えた。親や司祭達も固唾を飲んで見守ってる。

 ちょっとやり辛いな、なんて思ってたら、林檎を持つ右手からイニャトさんの魔力が流れ込んでくる感覚があった。全身がぞわぞわする。右手から入ってきたそれは私の体の中を一周すると、左手に抜けていった。

 種に魔力が注がれていくのがわかる。左掌がじんわりと温かくなる。

 その感覚を覚えておこうと目を瞑った。


〖これ、まだ残ってたのね〗


 ラタナさんの声が聞こえた。近くにいる?


〖いいえ、湖から話しかけてるの。他の人には聞こえてないから、あなたも声に出さなくていいわ〗


 そうなんですね。この種、ラタナさんがこの町の司祭さんに授けた物ですよね?


〖ええ、そうよ。戦争以来波動を感じなかったから、焼けたり潰されたりしたのかと思ってた。残っててよかった〗


 これがあれば、子ども達は助かりますか?


〖……それはユクシュという古代樹の種。あの人間には、普段から祈りを続けて、いざという時に埋めれば力になると伝えはしたけど……〗


 この状態だと、無理でしょうか?


〖その種は無理ね。祈りを溜めて、溜めに溜めて力を発揮する樹だもの。そのまま埋めてもただの珍しい樹にしかならない。だからそっちの実を使うわ〗


 実? 林檎ですか?


〖あなたの力、異世界の水神様の力が宿った実。それがあれば助けられる。私の力をわけるから、その実を水路に埋めて〗


 アタナヤの卵が流れてきてる、あの水路ですね?


〖そうよ。そして埋める前に、神の繭に実を託してね〗


 清ちゃんに? あ、腰に下げたままなの忘れてた。


〖その仔は特別。あなたと一緒にいるべき仔の1人。頼ってね〗


 はい。うちの仔ですから。


〖よかった。じゃあ力をわけるわ。後をお願いね〗


 全身を包まれてたような、不思議な感覚が遠退いていく。入れ代わりに冷気に包まれた。クェントさんだ。

 目を開けたら、種が光り出した。周りから驚きの声が聞こえてくる。

 しばらくすると、私とイニャトさんの体内を廻る魔力が止まった。林檎を見れば、〈水神の掌紋〉と同じ紋様が、赤い実に浮かび上がっていた。

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