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若き勇者達の物語。

 午前11時過ぎ。少し早いが、皆の気がゆるんでいる今こそと、ショーティアは昼食の用意をさせた。食堂には無理をさせるが、頑張ってもらおう。


 場所はいつもと同じ、大会議場だ。通常議会なら席は決まっているものだが、この魔王会議の最中は違う。各々、自由席が与えられ、自由に会話が出来る。ユーシアは昨日は水王ショーティアと、今朝は剣王ユーベルと相席していた。


 本日は。


「・・・」


「・・・」


 ごくりごくりと、スープを飲み干すオウザ。蒸し焼きの魚を丁寧に解体するユーシア。


 涼しげな顔でサラダをつついているイルマは我関せず食事を楽しんでいたが、同じく同席しているネイキッドは気が気ではなかった。


 この4人がけテーブル席で楽しげなのは、イルマだけ。いやユーシアも内心ではそうなのかも知れないが。


 ネイキッドには、オウザの胸中が少しだけ読めていた。場を壊す事は出来ない。雰囲気を悪くもしたくない。だが、一度でもチャンスがあるなら、目の前の仇を殺したい。そんな感じだ。


 ユーシアが和平を決めた以上、自分もそれに従う。その世界の中で、ネイキッドはオウザを傷付けたくない。


 殺し合いは大好きだが、オウザを敵にはしたくない。あくまで、友として戦いたい。万が一にもこの場でオウザが決起してしまったら、オウザは全世界を1人で敵に回す事になる。もちろん、その前にイルマが止めてくれるだろうが。


 ネイキッドは、ひたすらに不安であった。


 すると。


「・・・これは、律国産の柿っす。良ければどうぞ」


 オウザは、果物の類が綺麗に盛り付けられた皿をユーシアの方に回した。


「頂こう。・・・美味いな」


「どもっす」


 ?


 なんか。そこまで険悪なムードでも、ない?


 ネイキッドは聴覚からの情報を全力解析しながら、目の前の危機は思っているほど不味くもないのかも、と思い直した。



 ・・・。こんな所か。


 オウザは天ぷらを食べながら、ネイキッドのほっとした雰囲気を感じ取り、少しだけ満足していた。


 演技、ではない。事実、ユーシアへの抑えきれないいきどおりはある。


 が。


 おろおろするネイキッドの表情を見て、ちょっと気持ちがほころんだ。


 ま、良いか。


 オウザは魚を食べ終えたユーシアのために、スペアグラスを取り、黒ワインを注いでやる。


チン


 水国の製造技術で作られた透鉄グラスを打ち合わせる。堅くて綺麗。元勇国の新製品であり、現水国の目玉である家庭用品産業の傑作だ。


「美味い。これは?」


「剣国産のスパークリングワインっすね。一般的なものと同じっちゃ同じなんすけど、見た目濃いのに飲むとあっさりなんで、意外性がウケてる飲み物っす」


 肉や魚など、脂っこいものに合う飲み物だ。もちろん、普通に飲んでも美味しい。見れば、剣王がこちらを見て笑んでいる。


 あちらはユーベル、ベリルの親子。そこにヴェルグ、スガモが相席。この場で最高の戦力が集結してしまっていて、ちょっと怖い。


 もう一方を見れば、ショーティア、シイナの水国組にドロウ、アディの魔国組。こちらは国同士の連携談が盛り上がっている。と言っても、水国の装備を魔力強化するのではない。それでは律国と同じ。


 水国ならではの強みである科学の力を強化するのだ。そのために、魔国の魔法理論を習う。それは科学で再現出来るのか。科学では及びもつかないのであれば別のやり方を考える必要があるし、科学でより高みを目指せるのであれば、それこそ水国の狙い目。


 魔国にとっても実は同じ。水国とかち合わないためにも、魔法ならではの強みを知るために、水国の科学を知る。敵を知り己を知れば百戦危うからずというやつだ。


 お互いのために、お互いの協力が必要だった。そして水国、魔国とも、事情は違えど戦災にってしまった同士、援助し合う。水国では食料などは豊富にあるが、科学技術を発展させるための鉱山や森林が足りない。既に大量消費してしまっている。反対に魔国では人手があまりにも足りないので、手付かずの資源が大量に存在する。そして人手が足りないために、食料も余裕はない。ここでも、両国の連携には価値があった。


 この状況。律国や剣国としては、のんびり構えていられない。元々、産業立国として名高い水国が本腰を入れて来るのであれば、どうにも手強い相手となるのは必定ひつじょう


 それでも、どちらの国もその邪魔をしない。どころか、更なる援助まで行う。


 もう人間同士で争う必要はない。し、その火種を生み出すのもゴメンだ。なので、オウザもユーベルも、全世界の成長、発展を第一に考え動いている。


 でなければ、次の魔王に対抗出来ない。


 オウザはもちろん、ユーベルも魔王を完全に信じているわけではない。


 なるほど、魔王とは不可侵条約を結ぶ。それは大いに結構。


 だが、そのきっかけはヴェルグの一言。地上最強の戦士が言ったからだ。


 ヴェルグが、そしてもしもスガモが居なくなってしまえば、魔王側のリスクは最小限に抑えられる。ユーベルでさえ、次も絶対に勝てる、とは言い切れない。


 人間同士で相争うような真似は、魔王に利するのみ。全ての国の王が、それは理解出来ていた。



 昼食は和やかな内に終わった。先日からの連続した会食のおかげで、お互いの気心もなんとなく知れた。このままなら、あるいは本当に世界は平和になるのかも知れない。


 午後からの魔王会議も平和裏に終わり、一堂はその後一週間の逗留とうりゅうて解散した。




 そして時は過ぎる。




 戦士ヴェルグが背の大剣を下ろし。剣王ユーベルが王位をゆずり。


 静かに世界が変わっていく中、2人の若者が旅立とうとしていた。


「お姉ちゃん早く!早く早く早く!!」


 1人は元気いっぱいの少女。一見するとただの女の子だが、背負った剣の重みを感じさせない体力は尋常ではない。


「急がなくても、何も無くならないから。慌てないでリスティア」


 こちらは落ち着いた女性。一見すると先の女の子より年上に見えるが、実は同い年。こちらもただ見ただけでは麗人にしか思われないだろうが、やはり腰に差した剣は並の業物わざものではない。


「でもでもでも!私達の最初の一歩なんだよ!!」


 地団駄踏じだんだふむ。いや、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねて出立をうながす妹を背に、アニムは両親に挨拶をする。


「じゃあ、行って来ます」


 2人の女の子の親は、成長した子に微笑みながら、応えを返した。


「ああ。楽しんで来い」


 少し年を重ねたネイキッドが言う。


「世界の広さを味わって来なさい」


 すっかり母親が板についたユリストが言う。


「行ってらっしゃい」


 慈愛の笑みを浮かべるユーシアが言う。



 新魔王城を出た2人は、勝手知ったる我が家の庭である魔界を歩きながら、地上を目指す。


「なんで飛ばないの?」


「せっかくだから歩くって、あなたも賛同したじゃない。飛べばすぐに帰って来ちゃう、って」


「そうだっけ?」


 首をかしげるリスティアにため息をつきながら勇者アニムは地上を目指す。


 自分達の親が居た世界を。自分達の祖先が生まれて生きた世界を。


 自分達が生きている世界を、目指す。



 若き勇者達の物語が、今、始まる。






 若き勇者達の物語。完。

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