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魔王会議。

 第1回魔王会議。


 参加者名簿。


 律国代表、律王オウザ。護衛、剣客イルマ。


 剣国代表、剣王ユーベル。護衛、剣客ベリル。


 魔国代表、真魔法極代理ドロウ。護衛、魔法使いアディ。


 水国代表、水王ショーティア。護衛、水国将軍シイナ。


 魔界代表、魔王ユーシア。護衛、戦士ネイキッド。


 アドバイザー、戦士ヴェルグ。魔法王スガモ。



 午前10時。王城に宿泊していた各国代表が、続々と会議室に集まる。昨日の夕食会、今朝の食事会などで各位の気心も知れ、雰囲気は悪くない。


 几帳面に配置されたテーブルに着くと、それぞれの飲み物が配られ、会議の始まりを待つばかりとなった。


ふああ


 大あくびをかます魔法王スガモに面食らうシイナを見て、ショーティアは微笑んだ。


 あの人にとっては、この会ですらが常人のそれにしか見えないのだろうか。流石、常識の外の存在。


 魔王との同席は初めてのショーティア。少し安心。周りを見れば、ドロウやベリルも少しリラックスしているようだ。


 この場の主、水国王ショーティアは、機の熟したのを知った。そして立ち上がった。



「では。まず皆様のご健勝をお祈りし、無事この会を開けた世界の平穏へ、感謝しましょう」


 さかづき・・・お茶の入った・・・をかざし、ショーティアの号令で世界最高会議は始まった。


「第一の、そして最大の議案。こちらが解決されれば、この会は成功も同然。それは魔王ユーシア殿の処遇。そして魔界の存在について。我々はいかに対応するべきか?魔王殿の不死性を侮ったがゆえに、我らは勇者メイストーム様やヤヨイ王を失ってしまった。これらの前例を見るに、戦争は次善策止まりと言えましょう。確かに魔王殿を倒すまでは可能ですが、それ以降魔王殿を見失うようでは、災難の先送りに過ぎません。しかもその災難は、自由に移動する。よって、我らはここに会を開きました。魔王ユーシア殿との和睦わぼく。そして不可侵条約を結ぶために」


「うむ」


 現状の認識。そして確認。世界各国のそれは既に共有されているが、それでもここで再確認。そしてショーティアの説明に、父である剣王ユーベルが頷いた。剣王、剣国は同意しているという意味だ。


「魔国は皆様のご意見に同意致します。・・・恥ずかしながら、単独で魔王・・魔王殿に立ち向かう能力はこちらにはございません」


 これまた正直な意見が、魔国代表ドロウから。はっきり言えば情けない、覇気の無い意見ではあるが、この率直さこそショーティアがドロウを信ずる根拠。この男は、嘘をつかない。政治家としてはあるいは能が無いのかも知れないが、ショーティアは友としてドロウを買っていた。


「律国は、今回のアドバイザーたる戦士ヴェルグの意見を参考にしています。魔王殿との対立より、和を結んだ方が、結局は世界を守る事につながると」


 律国代表オウザも、ショーティアの話に同意。ヴェルグが属しているのだから、ある意味当然ではあるが、魔王に直接襲われた律国の発言は重い。各国も、律国王の発言を注目していた。


 そして。


 今日の日の、最大のゲスト。人類が初めて招く客人。


 魔王ユーシアの発言である。


「まず。この私に今回の機会を与えてくれた事に感謝しよう。お互いの不幸なすれ違いを乗り越え、共に平和な世界を築こうではないか」


 参加者半数の殺意のこもった目が、ユーシアを突き刺した。が、ユーシアはどこ吹く風。ヴェルグとスガモがこの会に同意している以上、危険など一切無い。無論、挑発しすぎれば消されるだろうが。ラインはわきまえているつもりだ。


「それでは。魔王殿の領土についておうかがいしたい。そして魔獣はいかに」


 いつまでもにらみ合っていても仕方ないので、ショーティアが会を進める。


「地上はそちらにゆずろう。私は地下世界だけで十分だ」


 余裕のあるユーシアは、落ち着き払って答えた。


 ネイキッド、ユリスト、アニム、リスティア。彼らには日の光が必要かも知れないが、それはこっそり摂取すれば良い。まさか監視が付くわけでもあるまい。


 そして地下の意味は大きい。剣王やヴェルグの居ない未来を狙うと決めた以上、ゆっくりと着実に戦力を増やす事が可能。ネイキッドやユリスト、アニムといった地上有数の戦力は得にくいだろうが、時の増産はそれをカバーしてくれる。


「魔獣は退治してくれて構わん。ただ、魔法王スガモ。花蜜ニンフは遠慮して頂きたい。あれは、人にも毒だよ」


「・・・・・考慮しておくわ」


 スガモの形相は、背筋の凍り付くものだったが。それでも、今日まで、ヴェルグに何度も頭を下げられて最後には納得した以上。魔王の言を受け入れる他なかった。


「その。参考までにお伺いしたいのですが。魔獣とは、解き放つ必要のあるものなのでしょうか」


 ドロウがユーシアに聞く。ただ、ドロウの発言力というか、戦力はまるで取るに足りないものなので、かなり遠慮気味だ。


 ここでドロウがユーシアの機嫌を損ねるのは、ものすごく不味い。ヤバすぎる事態なので、綱渡りと言って過言ではない。


 それでもドロウは聞いた。


 かつて魔獣に国を滅ばされかけた身としては、聞く以外に無かった。


「必要だな。魔力が無ければ、この地上は滅びる」


 ユーシアの答えはにべもなかった。


 しかし。その発言内容は、聞き捨てならない。なぜならこの場の誰にも初耳。スガモでさえ。


 地上が滅びる?逆では?魔獣が居るから人が窮地きゅうちおちいるのではないか?


 そんな各人の疑問に、ユーシアは丁寧に答える。


「元来、この地上は魔王の導きの下、我ら魔族が治める世界だった」


 一堂に衝撃が走った。


 スガモが指先の震えを隠せていない。


「数億年。と言っても、分かるまい。魔族の中でも、私達、魔王の血統以外に知る者は居ないのだから」


 茶器が音を立てる。誰かのカップがテーブルと触れ合い、少々の騒ぎを起こした。


 ユーシアもそんな音につられてか、茶をすすり、そして話を続ける。


「気の遠くなるような昔。人の住み家、そう、現在の城塞や街など影も無かったような時代の話。それがいかなる道理の果てなのか、我らは生まれた。当時は魔族と言っても、我ら以外に地上に覇を唱える種族は居なかったからな。種族名すら無かったはずだ」


 それは当然。例えばスガモが魔法王と称されるのは、他の魔法使いが居るから。他に居なければ、単なる魔法使い。世界にただ1人の魔法使いだ。


 他に優劣を競う同種が居なかった以上、彼らは独りぼっちの最優秀生存能力保持者だった。


 世界にただ1種の高度知的生命体である彼らは、間もなく、自らの名を決めた。


 この世に溢れるエネルギーの中でも、体内と外部、どちらにも存在する物。それらを自在に使いこなせる我ら、即ち。


 魔族。


「地上にあまねく魔族が住むようになった頃。我らの中にも、出来損ないが生まれ始めた。いや。正確に言えば、育ち始めた、だな。なにせ、昔は魔力回路の無い魔族など、生存出来なかったのだから」


 真っ先にスガモが。そしてオウザが、ドロウが。それから他の者達も、間を置かず気付いた。


 魔力回路を持たない高度知的生命とは・・・・。


「一体、いつの魔王の世なのかは分からないが、その世界の中で、彼らは存在を許された。魔族にとって呼吸と同じく活用されていた花蜜ニンフの影響を受けない隔離された地域を住み家として与えられた」


 しわぶき一つ、聞こえない。誰もが聞き入っていた。誰も知らない昔話に。


「またも時は流れ。魔力を持たないはずの彼らの中からも、魔力を持った先祖返りとでも言うべき者達が現れ。そして国を起こした」


 その頃、地上地下を問わず、世界は魔族で溢れかえっていた。実に総人口、数百億を超え、現在の人類と魔獣を合わせた数よりなお多かった。そこに、魔力を持たなかった者達の子孫は流入していった。超過密都市と化した進歩的魔族の世界であっても、未熟な魔力では役割は限られていた。魔力を使うまでもない雑用、誰もやりたがらない汚れ仕事、そんな下層階級に甘んじる事によって、生きる事を許された生命。彼らは、なぜ祖先が隔離された閉鎖都市で生活をしていたのか、外に出てようやく分かった。


 もちろん、魔族側にも言い分はある。フェアな扱いをするに足りない生き物が肩を並べているのは、それは不満も溜まるというもの。現代の人類が牛馬を家畜小屋に押し込めているように、魔族もまた彼らを遠ざけておきたかった。虫けらとの同室を好き好む人間が少ないのと、まあ似たようなものだな。


 それでも魔王その人が許容した生き物を排斥はいせきするわけにも行かず。社会の片隅にて、か弱き生き物はうごめいていた。


 だが。


 いかなる生き物であれ、感情を押し殺して生きるなど、出来ん。弱き者と仕方なく共存していた魔族は不満を漏らし。弱き者と見くびられ、劣悪な扱いを受けた者達も鬱憤うっぷんを溜め。


 魔界は、うねった。


 魔力を持たぬ、つまり能力の足りぬ彼らは、次第に道具を扱うにけるようになった。走行ルナが使えぬ以上、自分達の腕力だけで雑用をこなさなければならず、そのためにあらゆる手先の器用さが要求され、生存のために応え続け。無力な者達のための産業までが生まれた。強固ツモリイシが使えないから、家畜を友とし、それらの利用法も食物だけでなく、移動、農業、その他へと広がっていった。


 当時、魔族は生命の頂点にあった。そして寿命も長く、世に贅沢は溢れ、魔王ある今、敵は無く。停滞と腐敗、熟成の時を向かえていた。


 その中の一部のたわけた魔族らは、魔力持たぬ無価値な生き物らの足掻あがきとでも言うべき徒労を見て楽しむ趣味を覚えた。後の競馬や闘鶏とうけいのようなものだ。当時も賭け事の場、あるいは社交場としての闘技場は存在したので、趣味の悪い、とは思われても、不器用な生き物に肩入れする魔族が居ても、差別されたりはしなかった。


 いつしか、魔族の領域の中にも、彼らの生活拠点は育ち始めた。


「剣や弓といった武具を使い始めたのも、我らではない。この私が使わないようにな」


 そう。生まれた瞬間から魔力を使いこなし、またそうあるべく教育される魔族らにとって、道具を使うのは下位魔族の証。これはより強い魔族を鍛え上げるための方便の類だったのだが、いつからかそのままの意味で伝わっていた。いわゆる伝統というやつだ。


 だが工業は発展していた。魔族とて、家は必要。きらびやかな住居。飾り気いっぱいの橋。楽しげな遊技場。走行ルナ水庫ロトン強固ツモリイシ。各種魔法の使い手が技を磨き、腕を振るい、絢爛豪華けんらんごうかみやこ文化が隆盛りゅうせいを誇り、花咲いていた。


 だからこそ、下働きの者達にも居場所は生まれた。あまりにも細やかな箇所の補修、修正、加工。それらはどうしようもなく手作業を要するが、そこまでやる魔族は少ない。凝り性の趣味人と、高位魔族の依頼を受けた職人ぐらいだ。そしてそこで、手先の器用さが生きて来た。


 魔力の少ない。つまり通常より労働力として期待出来ない彼らだったが、そもそも細部修正程度の働きしか任されていなかったのだ。そこで期待以上の仕事をして見せれば、親方も予想外に使えると見直す。いや、新たな使い方を見出した。


 ヤスリ、飾りナイフ、刷毛はけ。それにそれらを片付ける掃除用品。親方魔族の許可の下、様々な道具が開発され、それは高位魔族界隈でも話題に上って行った。


 どうやら、無能共にも能があったらしい。奴らは家畜を操り、道具を操る。自前の貧相な魔力と引き換えに、下位生物の王となったようだ。


 下世話な笑い話である。


 そんな時代にも、彼らを大事に扱おうという勢力も存在した。他ならぬ、魔王の血統、その一族である。


 なぜかは分からないが、ひいひいひいひい爺さんの時代、彼の者らは生かされた。ならばそこには理由があるのだろう。


 牧歌的な平和思想、もしくは迷信深さを持った権力者一族の力添えもあり、無力な者達の勢力は、徐々に力を持って行った。


 いわく、あの下働きの者は非常に細やかな作業を得意とする。高値でも雇いたい。いわく、留守時の魔獣の世話を頼みたい。無魔力協会に依頼して、ペット調教師の派遣を。いわく、無力都市に新居の家具を注文したい。あそこは安くて丁寧、発送もやってくれるからね。


 彼らは、個人から集団、そして国へと変貌へんぼうしていた。魔力回路を持っていない故郷の同胞も、これら地に足の着いた作業にあたっては同等の仲間。魔族からの依頼さえ受けられれば、倍以上の労働力で立ち向かえる。


 少々の下位魔族をのぞいては、誰もが幸せな世界であった。


 だから、そこで止まっていれば、今も魔族の世は続いていたのかも知れない。


「私は強大な魔力を持って生まれた。魔王になるべくしてなった。スガモ。あなたもそうだろう。ヴェルグ。君は魔力こそ持ってはいないが、その強靭な肉体は、生まれ持ったもの。誰もが持てるものではない」


 ユーシアの雑談のような言葉に、スガモとヴェルグはそれぞれ頷いた。


 己の努力のみで得られるものなら、スガモもヴェルグも、それぞれ世界最強の称号など持っていない。誰でも到達出来るという事なのだから。


 唯一無二の才能を持って生まれた上で人類最大の鍛錬をこなし続ける。そこまでやって、やっとヴェルグやスガモになった。


 才覚がなければ、そもそもお話にならない。残酷な話だが。


 そして高位魔族ほどの魔力を持たずに生まれ、かと言って無力でもないがために、「無能」共と生活を同じくする事も出来ず。圧迫感にさいなまれた者達は、必然的に下層いじめに走った。


 口実は簡単に作れた。弱者に生ぬるい対応をしていては、彼らはいつまでたっても強くなれない。それは魔王様のご意向にもそぐわぬ、と。これは鍛錬であり、仲間に対する愛のむちなのだと。


 まあ、このような対応には慣れていた下層民だ。ちょっと良い目を見ていたが、現実はこんなものさ。いじけた神経は現実的な解釈をもたらしたが、それだけでは終わらなかった。時折、死者まで出るようになっては。


 工員を殺されるのは困る。そんなクレームも目立つようになり、荷物お届けの邪魔をされたと激高した高位魔族に消される下位魔族も現れた。そしてその下位魔族の属していた別の高位魔族のグループと対立。


 魔界の治安は、少々悪化していた。


 ところが魔王は動かない。


 当然だが、その食い合い、弱肉強食の果てにより強い魔族が生まれるのであれば、戦争大いに結構。なんなら、自分を襲っても良いぞ。それが魔王の思想であった。


 ゆえに、世界は大戦争の様相を呈した。


 無魔力協会を擁護ようごする陣営。純粋な魔族のみを重用するべきとする陣営。


 そのどちらもが魔王の容認を得て、正々堂々、殺戮さつりくを広げた。


 そこから、強固ツモリイシをかけた武具の使い方など、現代にも通じる魔法の活用法が山ほど生まれた。同時に、魔力を込めるだけで魔法を発動可能な刻印具。つまり、魔剣なども製造されるようになった。今までは魔法炊飯器や魔法レンジ、魔法洗濯機ぐらいしか無かったから、これは大幅な進歩だ。


 戦争は全ての技術を発展させ、膨大なしかばねの上により強大な高位魔族を作り出し、魔王の思い描く通りに全ての事が動いていた。


「その頃だ。使徒が現れたのは」


 そうだ。


 スガモはずっと気になっていた。


 選剣が。5大魔剣の名が、今まで全く出て来なかった。対魔最強剣である選剣が。魔族にとって畏れの象徴であるはずの勇者のための武器が、全くクローズアップされない。


 使徒は魔族より新しい生き物なのか?


 魔王、そして魔族全盛の時代に、どのようにして勇者は生まれた?


 スガモはこっそりと、しかし子供のように心をおどらせながら、ユーシアの話に聞き入っていた。


「初めは、不思議な生き物が居る。それだけだった。言葉を解する魔獣の類とだけ思われていた。なにせ、奴らは頭が悪く、要領も悪い。そんな者だけで構成された民族だからな」


 自身も世話になっておきながら、ユーシアの使徒評価は散々だった。


「いつ、どこから来た?残念ながら、私達も知らない。ただ一つ分かっているのは、地上をうろうろしていた使徒を受け入れたのが無力都市の住民だという事」


 自然発生した魔獣か。それとも突然変異に生まれた魔族か。そのどちらとも理解しかねる奇怪な生き物でも、無力都市ではエサが与えられた。かつての己らの姿がかぶったのもあるし、ここでは魔力など必要ない。戦争で減った分の労働力を確保するためにも、使徒は生かされた。


 ある日。正確には、数百万年前頃。


 使徒はある魔剣業者に、特異な魔剣の作り方を教えた。当時流行していた魔法刻印を仕込んだ魔剣ではなく、魔力結晶そのものを剣と化する方法を。


 通常、このような手法は取れない。魔力結晶とは、文字通り、魔力のかたまり。テーブルにぶつけただけで粉々に砕け散る、もろい物質だ。


 ゆえに使徒の伝えるそれは、常識を遥かに超えていた。


 まず極小の魔力結晶を用意する。どんぐりほどの大きさで構わない。それに刻印を施し・・・使用魔法は不明だ。強固ツモリイシだと思われるが、それだけでは説明が出来ない・・・「その外側に魔力結晶を生み出す」。物質変換ティアで(意外かも知れないが、物質変換ティアは魔族発祥からそう間もなく生まれていた。よほど楽をしたいと考えた怠け者の高位魔族が居たのだろう。物質変換ティアは大量の魔力を消耗する大魔法。それを魔族誕生からすぐに作り出すとは)。その後は、同じ事の繰り返しだ。刻印を刻み、魔力結晶でカバー。そして刻印を刻む。これで、途方も無いほどの過剰な同時魔法行使が可能となる。およそ、並の魔族では一度の使用で死に至るほどの。そこまでの細工をかけた甲斐はあり、地上最高の硬度を誇りつつ、魔力を注ぎ込む度に切れ味も形も復元する、無敵の魔剣が誕生したのだ。元が魔力結晶であるがゆえに、無尽蔵な魔力を必要とする代わり、無限の耐久性を実現した。


 更に使徒は、保険をかけた。


 これが「敵」の手に渡ると面倒な事になる。特に魔王に握られた瞬間、「こちら」の勝ち目は消え失せる。


 ゆえにこの魔剣を握る資格ある者は、無力都市の住民、その血統に限る。魔剣の完成寸前、最後の工程にて使徒はそんな呪いをかけた。


 これが動来子アニマストームなど、4大魔剣の生まれである。


 そしてこれら魔剣を振るう先祖返りの歩兵は、次々と魔族を打ち倒し、どんどん領土を広げて行った。血で血を洗う事を推奨される魔界であったのも幸いし、魔剣使いはその実力をいや増し続け、ついには魔将級に到達した者さえ居た。


 彼らはついに魔王に認められるまでになり、新たな種族名をたまわった。


 魔を持たぬがゆえに創意工夫する種族。かつての魔王の温情を見事に活かした弱き者。


 名を、選民。魔王直々に選び抜かれた民という意味だ。



 現代では、人類と呼ばれている。



フウ


 スガモの深いため息は、思ったより室内に響いた。それだけ静まり返っていたという事でもある。


「お疲れの方も居るようだ。休憩と行こう」


「はい。そうですね」


 ユーシアの提案に即答出来たショーティアは褒められても良い。その口調は、まるで師に対するそれであったが。


 ショーティアの合図によって部屋の外からメイドが集まり、飲み物と菓子、果物などが用意された。


 ユーシアの隣に影のように位置しているネイキッドも、適当に飲み物を選びのどを潤す。実は、ネイキッドもここまで詳細には聞いていなかった。おぼろげに概要だけは知っていたが、それでも驚きだった。


 自分達が、まさか魔族から派生した種族だったとは。道理で人類と似ているわけだ。自分とユーシアの間に子を設けられたのも、当然だったわけだ。同じ種であれば。


 その驚きと困惑、そしてどこからか湧いて来る興奮。知らないものを知れた発見の喜び。ネイキッドだけでなく、オウザや年若い者達はもちろん、ヴェルグや剣王でさえ溢れる感情におぼれそうだった。


 皆の茶器はどんどんと空き、メイドの仕事は忙しかった。



「それで」


 皆が一息ついたところで、スガモが何気なく話を始めた。


「結局、なんで魔力が必要なのかは分からないわけね。昔からそうだったから、ってだけで」


「平たく言えば、そうだ」


 ユーシアは気を悪くした素振そぶりもなく、普通に答えた。


 実際にその通りだったので。


 ユーシアでさえ、魔力の無い地上世界を見た事がない。だから確実な事は言えない。ただただ、父祖から受け継いた世界がそうだったから。それだけだ。


 唯一絶対に言い切れる事は、魔族は魔力の中から生まれた。その魔族から枝分かれした人類も、その範疇はんちゅうにあると思われる。


 スガモのやっていた地上からの魔力収拾は確かに魔族だけを消滅させられるのかも知れないが、ユーシアは危険だと思った。


 魔王の血統にあるユーシアの肉体が、そう反応した。


 ならば、そうのだ。


 ユーシアは己を信じている。

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