好機。
ユーシアが、ネイキッドが稼いでくれている時間。
この時に、父を殺さない程度に戦闘不能に追い詰め、アニムと共にスガモを強襲する。そうするしかない、からではない。
私のために、そうする。
父を止め、スガモを殺し。
私の家族を守るのだ。
ユリストは自らの叛意の芽生えを、ユーシアのせいだとは思っていない。きっかけはそうだったのかも知れないが。
元々、有ったものだ。
剣士としてイルマに及ばず。器量でショーティアに劣り。魔法技能も超越したものではない。
長子である。それ以外に取り柄の無い己。
いつしか、父とまともに向き合えなくなっていった。父の期待が自分には向けられていないのを知るのが怖かった。自分より優れたイルマが律国へとヴェルグを求め旅立った時、心からほっとしていた。
そんな自分が、嫌だった。
だが、そんな事さえ忘れていた。娘を守る時には。
私は、私のために。
私が初めて、自分で手に入れたもの。
誰にも渡さない。
キッ
ユリストの抜き放った両の魔剣、動来子と植来子。世に並ぶもの少き最強剣が二つ。
しかしこれだけではとても足りない。
この魔剣をもってしても、ユリストの技量ではユーベルはおろかイルマにさえ届かない。
装備する魔剣は、まだある。
キュ オ
ユリスト、リスティア、アニムの周囲に合計120本の創造魔剣を配置。一本一本が父の握る名剣と同程度の切れ味、硬度を維持。更に剣の形成と同時に、魔法刻印も済ませ、生成即攻撃可能。
剣士の反応速度で生み出した地上有数の魔法使いの魔剣は、伊達じゃない。
間違いなく。
ユリストは、一皮むけていた。
「・・・」
スガモは相変わらず魔王を釘付けにしながら、戦況を順調なものとは言えないと警戒していた。
ヴェルグがまだネイキッドを殺せていない。ユーベルがアニムとユリストを倒せていない。
どちらも戦力差は明らかでありながら、今一歩の所でトドメを刺しきれていない。
危険だ。とスガモは感じた。
こんな時に、逆転というものは起こる。
より弱いはずの相手を倒せない者は、自らの優越性から来るかさ増しされたプライドの崩壊によって、強烈な精神の動揺にさらされる。
より強いはずの敵と対等にやり合えた弱者は、自らの弱さ、相手の強さのゆえに、自信を深め、己の能力に確信すら生まれ始め、戦闘が始まる前よりも強くなっている。
さて。どうする?
ヴェルグとユーベルの戦技に疑いの余地は無い。精神、肉体ともにほぼ完璧。わざわざ私が邪魔をするまでもないか?
意外な事実だが、実は、スガモ自身には戦闘技能はほとんどない。
鍛え上げた魔力だけで全ての敵を消滅させられるから、技とやらを磨く必要が全く無かったのだ。
現在の世界。従魔を盾に使いつつの魔法だけでこの世に敵はない。ヴェルグをのぞけば。
そのヴェルグにさえ、スガモが完全な本気であるなら、絶対に勝てる。
それでも、スガモは自分に対して勝ち目のあるヴェルグを最高に評価しているし、最大に警戒もしているので、常に自分と対等に扱っている。ヴェルグに対して油断を抱いてしまったなら、負ける。そう判断している。ゆえにヴェルグにだけは決して軽んじた態度を取らない。
それはそれとして。
魔王を封じるだけにも飽きて来たスガモは、そろそろ本気を出す。
電撃を撃つ手を全くゆるめず、同時にもう一つの魔法を撃ち込む。
オ
ゆっくりと魔王に向かう球形の魔法。名を廃滅。
オ オ
その廃滅が、右から左から、斜めから上から、魔王周辺空間全てを埋め尽くすかのように、撃ち続けられる。並みの魔法使いなら、既に10回は死んでいる魔力消費量だが。
スガモはまだ、その総魔力量の1割も使ってはいない。
魔王の足止め役ですらが、魔法王スガモにとっては、片手間程度の仕事でしかなかった。
とっとと片付けて、帰りましょう。
スガモのこの思考。
王者の余裕と言っても決して誇張表現ではない。それだけの実力はあるのだから。
だが。
見方を変えればそれは、未知なる敵に対する警戒心の現れと呼んでも、差し支えはなかった。
そしてそれは当たっていた。
いかなスガモと言えども、新生魔王は初めて出会う敵。
その能力、特性を聞いてはいても、自分の目で見たり確かめたわけではない。
ヴェルグ、オウザ、ユーベルから得た情報をつなぎ合わせ、組み合わせた、実像にほど近い推測モデルを構築し、知った気になっているに過ぎないのだ。
とは言え、スガモは油断をしていたわけではない。常に魔王の結界を削り続け、同時にユーベルとヴェルグの戦況を把握しつつ、その状況での最適解をはじき出そうとしていた。
しかし。それはつまり、目の前の魔王に対しての集中力は、3分の1。いかにスガモが超越した魔法使いであっても。
キュイン
その音に、スガモは魔法を変更。電撃、廃滅を撃ち止め、走行で周囲のほこりを払い、視界を確保した。
そうしてスガモの見下ろす先には、魔王の姿は無かった。
「・・・初めまして、かしら?氷王ね、あなた」
スガモは推測ではなく、断定した。
結界ではなく、肉体にてスガモの魔法を打ち消した。そんな奴は1人しか思い当たらない。
ヒュウウ
その、人間の姿をした真っ白な雪女めいた怪物の口から漏れるのは、声ではなく、息吹。
竜の吐息であった。
空気が、凍る。
が。
相対するスガモの血液は、沸騰していた。
それもそのはず。
かつて氷王が殺した真魔法極セオドーンは、スガモの愛弟子であった。
勇者メイストーム。律王ヤヨイ。そして真魔法極セオドーン。
3人の弟子、知己を殺されたスガモの、願ってもない復讐の好機が訪れたのだ。




