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ユリスト。

 天風「勇者」は効果を発揮している。剣王の速度、剣圧、共に常時の1割ほど。それが証拠に、アニムは無傷のまま。


 オカシイのは、剣王もまた無傷のままである事。


 アニムの選剣が。


 当たらない。


 当たらなければ、必殺の剣であろうと、意味は無い。



 ユリストは指一本動かしていない自分を認識しながら、それでも動けなかった。


 背負ったリスティアを守っているから。


 それはそうなのだが。


 先日の父との立ち会い。


 あれが、ユリストの足を止める。


 あの戦いの記憶が、ユリストの無力感を増し続ける。



 父には、勝てない。



 剣王は義理の孫の超越した剣撃を余裕を持って躱しつつ、のんびりとした気持ちになっていた。


 懐かしい。


 確かに「あのガキ」もこんな剣を振るっていた。血筋ではなかろうが、そっくりだ。天風は争えんな。


 ユーベルは弱化された肉体ながら、まるで自然体のように流麗な動きを見せていた。足取り、剣の振り、体捌たいさばき。全てによどみが無い。



 今も。


 アニムの全力で振り切った選剣は大地を砕き、地層を露出させてはいたが。


「筋は良いが」


 ユーベルには、かすめもしていなかった。


「未熟」


ズ・・・


 逆に選剣の横腹を突かれ、無双の聖剣がアニムの手から滑り落ちそうに。


 なると同時、ユーベルはアニムの首筋を攻撃範囲に収めていた。そして。


 天風「剣華刀乱」発動。



 ユーシアはスガモの攻撃魔法をしのぎ続けている。ネイキッドはヴェルグとの対峙から離れられない。


 結果。勇者アニムは、ここで死ぬ。



キン



 ユーベルは斬り捨てた対象から距離を取り、自身の剣をあらためた。無傷。


 だが。


「ふむ」


 その一言に込められた感情は、勝利の喜びではなかった。



「アニム。一旦、引きなさい」


「・・・良いの?」


「ああ。私のそばに」


 アニムの「良いの?」は、自分が下がってユリストのそばに居れば、リスティアが巻き込まれるのではないか?という意味だ。


 それを分かっているユリストだが、それでも引かせた。



 次も守れるかどうかは、分からない。



 スガモは電撃スピアを撃ちながら、ちらりとユーベルの戦況を見た。手助けは要るかどうか。


 剣王やヴェルグのレベルになると、援護が要らない状況での補助は、かえって足手まといとなる可能性もある。現在は強固ツモリイシでの強化だけに留め、直接的援護はしていない。


 勇者アニムと剣王の娘ユリスト。そのコンビは、剣王を上回れるか?


 否。


 しかし、ユーベルと言えど危険性は多少ある。なにせ勇者の剣は、防御不能。ユリストが父親の動きの癖を知っている可能性はかなり高い。


 先に消すか。


 スガモはここまでの思考を一瞬で完了。


 魔王の足止めを全くゆるめず、同時にユリストへと電撃スピアを撃ち込んだ。


 それは魔王ユーシアが本気で防御しなくては消し炭になる一撃。


 ユリストでは、防御不能。



バチ、イ


「・・・ふう。アニム、リスティアは無事か?」


 ユリストは背負っていて自分では見えないリスティアの様子をアニムに聞いた。


「大丈夫。ぐっすり眠ってる」


 アニムは自分と同じ、2才のリスティアがよだれを垂らして寝入りこけているのを確認。ちゃんと生きている。



 これで二度目。偶然ではない。


 ユーベルは今度こそ、本気で笑顔を作った。


「面白い」


 その声が届いたユリストは、恐怖と歓喜に背筋を震わせた。



 先のトドメの攻撃を邪魔し、スガモの電撃スピアをさえ逸らしたユリストの「魔剣」。


 ユーベルは初めて見た娘の創意工夫に、遠慮なく嬉しんだ。

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