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再会のローネ。

「おれはともかく。ユーシアは運が悪かったな」


「そうでもない。私は魔王として生き、スガモはあくまで人の魔法使いとして生きている。遅かれ早かれ、こうなったのさ」


 ネイキッドから始終しじゅうを聞き終えたユーシアは、全てを納得し、決戦への意欲を見せた。


 戦力の充実はまだ。オウザの心を掴む時間は、少々足りなかった。


 かと言って、ネイキッドの時と同じように洗脳したとしても、やはり時間は足りなかっただろう。ネイキッドの懐柔かいじゅうも、長の年月とやり取りを介して、ようやっと実現させたのだから。もし大急ぎで適当にやってしまったら、オウザは魔法を使えなくなっているだろう。精神の集中がメチャクチャになって。


 剣王にすら勝てなかったメンバーで、より強い、現在の世界で最も強い魔法使いを相手にする。


 呆れるほどの無謀。


 だが。


「私とネイキッドが前衛。アニムには」


 回復を、と言いかけたユリストを、ユーシアが制する。


「アニムにこそ、前衛をやらせる。私が守る。だから大丈夫だ」


 ネイキッドはもくしたまま。



 戦術。


 そこいらの剣士、魔族が相手であれば、このパーティーなら何も考えず当たっても必ず勝てる。しかも無傷で。


 が、今回の相手は、スガモ。


 いかな名案を振り絞ろうと、苦戦は必至ひっし。勝率にして5割はあるまい。


 が。その勝ち目を、9割にまで引き上げる方法がある。


 勇者アニムの参戦。


 これだけで、なんとかなる。


 選剣を防ぐ手立てはこの世になく、勇者より強い戦士もまた存在しない。


 問題は、絶対に無傷で勝てるわけではないという事。


 スガモの用いる従魔に気を取られて廃滅ラドでも食らえば、それで一発アウト。アニムは死んだら復活出来ない。


 わずか2才。実戦経験、無し。初めての対戦相手が、世界最高の魔法使い。


 不安要素しかない。ユリストが心配するのも決して過保護ではない。


「剣王との接近戦を見るに、アニムの判断力は悪くない。お前やネイキッドが仕込んだ結果がちゃんと出ている。いかにスガモが人知を超えた魔法使いだとしても、その身体速度は剣王やヴェルグに明らかに劣る。我々がカバーすれば、大丈夫だ」


 大丈夫。繰り返し使っているこの言葉だが、ユーシア自身、大丈夫だとはカケラほどにも思っていなかった。


 かつての己ならともかく。今の自分やユリスト、ネイキッドで、果たして盾役になれるかどうかすら分からない。スガモとは、そこまでの怪物。


 話し合いはいつ終わるともなく続き。


 そして最後にネイキッドが口を開いた。


「勝てるかどうかは分からない。だが、勝たなければならない。スガモを殺さない事には、ユーシアは枕を高くして寝られない」


 結論は、ただ分からない。それだけ。



 だが分かった事もある。


 全てを懸けて、なおスガモに勝てるかどうかは不明のまま。


 なら。


 全て以上を出す必要もあろう。




 決戦当日。


 明るく晴れた日差しが照りつける無人の大地。鳥の影、虫の鳴き声さえ聞こえない無生物の荒野。


 変わらぬローネの姿が今もあった。


 妻を持ち、子を作り。背丈も大きくなった自分。


「・・・・・・こんな所だったか・・・?」


 その己が見る故郷は、不思議な場所だった。


 地形そのものは、今の住居である地下深くとそう変わりはしない。比較するなら、魔獣の姿すらないこの地方の異常さがより際立つにせよ。


 が、思い出の中のふるさとは、もっと。


 温かい場所だったはずだ。


 今、ネイキッドの目の前にたたずむのは。ただの岩くれと石ころと荒い川の流れ。それしかなかった。


「大丈夫か、ネイキッド?」


「ああ。全然平気だ」


 心配げなユリストにはそう返せたが。


 思っていたのと違う。ここなら自分は有利に戦えるはずだったのに。本当の我が家のはずなのに。


 おれは。


 ここで戦えるのか?



 迷いを抱いたネイキッド。リスティアを背負いアニムのサポートに回るユリスト。恐れも迷いもなく、選剣を軽く握るアニム。そして全身を紫紺の装束に身を包んだユーシア。


「相手に引きづられるなよ。ちゃんと作戦通りに」


 ユーシアの指示に皆が頷きを返す。


 と。


 来た。



 敵は空から。



フ、ワ


「こんにちわ。そちらの方が数は多いのね」


「そうだな」


 いつも通りのスガモ。それに冷静に答えるユーシア。


 だがユーシアは、内心の動揺を抑えるので手一杯だった。



 確かに数はこちらが5。あちらが3。ではあるが。



「久しぶりだな」


 腰に差したるは名剣タチグモ。背負いしは剛剣、八多折はたおり。そして全身に隠し持った幾多の短刀。振るうは、世界最高の剣士。


 剣王ユーベル。



「どうやら元気そうだ」


 腰に差したるは剛剣バジー。背負いし無双の大剣は、不抜ふばつの暗黒剣。そして地上最強の肉体を自在に動かす男。


 戦士ヴェルグ。



 この2人が、スガモと共にやって来た。



 スガモの作りし船・・・本当に空を飛んで来た。見た目はカヌーを大型化したものに見えるが・・・から飛び降りた2人は気力、体力ともに充実して、万全の状態に見える。



「か弱い魔法使いの私は、今日だけの助っ人を用意させてもらったわ。悪く思わないで頂けるかしら?」


 余裕しゃくしゃくのスガモの発言。しかし。


「構わんよ。弱者なりの精一杯の抵抗。私は許そう」


ピキ


 スガモは自分から挑発しておきながら、それをユーシアに丁寧に返されてブチ切れていた。


 その心意を読めているヴェルグは、この女は相変わらずメイストームと馬が合うな、と思っていた。つまり、ワガママだなと。



 そんな敵方の思惑はさておき。


 アニム以外の味方は全員、つばを飲み込み、震えようとする手足を抑え付けていた。


 スガモだけでも勝てるかどうか分からないのに、そこに最強の剣士と最高の戦士が護衛として現れた。


 もはやこれに勝てるのは、かつての魔王か、もしくはその魔王に勝った勇者パーティーのみ。


 ネイキッドとユリストは戦う前から負けていた。逃げの算段以外、考えられなかった。


「大丈夫だよ」


 ゆえに、娘の言葉に励まされるハメになった。


「私が皆、斬るから。大丈夫だよ」


 そうつぶやく2才児。



 ヴェルグは若い頃のメイストームを思い出していた。ユーベルは幼い頃のイルマを思い出していた。


 そしてスガモの眼力は、アニムのおおよその能力を見抜いていた。


 強い。全盛期のメイストームの半分ほどの実力が既に身に付いている。しゃくさわるが、魔王の教育能力はそれなりに高いか。


 選剣も体に馴染んでいる。おそらく、あの剣だけは全力発揮可能なのだろう。


 かなり手強い。



 だが。



ニタアア



 スガモは笑みを殺しきれなかった。



 魔王の装備があの頃と同じ。魔力を固めて作った魔装。しかし、今の魔力総量なら、私の方が遥かに上回っている。


 そして他の者の装備にも目新しいものは無い。



 勝った。



 このスガモの余裕。あるいは慢心。


 しかしながら、消せる者も居なかった。


 奇襲に忙しかったので。


「今だ!!」


ゴ!!


 手はず通り!ユーシアの合図によって、ネイキッドとアニムが突っ込んだ!!



 決戦は明後日。そう聞いて、本当に明後日ノコノコ来るバカは居ない。


 ユーシアはネイキッドから話を聞いたその日の間に、ローネ全域の地下を凍らせておいた。スガモにバレないよう、表層を除いて。


 そして今。ヴェルグとユーベルの足は凍り付いている。ユーシアが本気で冷気を放った以上、例えスガモでも止められない。


 まず、護衛を潰す!




「念のために言っておくけど」


「ああ」


「あの子はもう、戻らない。手加減無用よ」


「ああ」


「・・・」


 本当に、分かってる?スガモの目でも分からなかった。


 ヴェルグの真意は。


ブン!


 風圧がスガモの髪を揺らす。ヴェルグの髪は汗で肌に張り付き、そよぎもしない。


「さて。おれももう少し動こう」


 休憩を終えたヴェルグは、スガモの作った練習場に戻った。1人素振りを繰り返していた剣王の下へと。


 2人の修練は、それこそ一振りごとに命を散らすに十分な、真剣勝負であった。


 ただそれを見るスガモは、落ち着き払っていた。どちらも死なないと分かっているので。


 スガモが頼みとしているのは、現状の地上最強とその二番手。決戦が明日である以上、この2人が今日怪我をする道理は存在しない。


 更にスガモの作ったお手製装備品まで用意してある。


「どう?」


 シャワーを浴びて汗を落とした2人に、新品の靴と衣服を渡す。


「悪くない。それに魔力防御は心配していない。が、強度はどうなのだ」


 剣王の感想は悪くない。


「一応、あんたらが引っ張っても破けない程度には加工してある。本気なら破けるから、いざとなれば破っても構わないわ」


 敵に引っ張られた時など。緊急時には、スガモの顔色を伺わなくても良い。


「敵の初手は、間違いなく氷漬け。それさえ防げれば、問題なく勝てるわ」


「いつも思う事だが。魔法とは不思議なものだな。こんな布切れで、アレが防げるのか」


 実際にその身に受けたヴェルグは、半信半疑。いかにスガモの実力を知っていても。


 ここら辺、完全に受け入れた剣王とは少し違う。


「込めてるのは、私の燃焼ロウガ。例えあんたら2人が凍らされても、この服と靴だけは凍らない」


「そうならない事を祈ろう」


 やはり不敵な笑みを浮かべた剣王とは裏腹に、ヴェルグは苦笑いでスガモの言葉を受け取った。



 昨日の出来事だ。




「今よ」


 スガモの声は普通のトーンだったので、2人には届いていなかった。


 戦闘状態の2人には。



ゴッ!!オ!!!フ!


 岩場を蹴立てて剣を振り相手を退かせ、更に動き視線を定めさせない。対勇者戦術を地道に遂行するは、剣王ユーベル。


 勇者アニムの剣撃は、全て躱されていた。



 険しく顔をゆがめたユリストが言う。


「ユーシア。リスティアを預かっていてくれ。アニムの動きが完全に読まれている」


 戦い始まって5秒。


 5秒でユリストはアニムの敗北を予期した。


 勇者でも、父には敵わない。いまだ完成していないアニムでは。


「ダメだ。お前が行けば、スガモが動く」


 そう。ユーシアの言う通り、魔法王スガモは、まだ動きを見せない。


 スガモなら、今すぐこの場の敵全員を消せるはずなのに。



 作戦破れたユーシアは、それを唯一の勝機と考えた。


 おそらく、リスティア。剣王からスガモへと、助命嘆願が伝わっているな。


 使えるものは、なんでも使わせてもらおう。



 一方その頃。


 やっと再会した師弟の方はどうか。



「・・・背の剣を抜け」


「これは飾りなんだ。これぐらい大きいのを持っていると、誰もがおれを強そうに買ってくれるからな」


「嘘を言うな!!」


 あまり良好な展開とは言えなかった。


 本気のヴェルグを殺すつもりのネイキッドと、本気を出せないヴェルグ。


「それに」


 いとも簡単に。まるで最初からそうだったように、ヴェルグは抜刀していた。


「今のお前でも。これで足りるしな」


 ネイキッドは表情では目をむいて怒りつつ。心の奥底では、確かにと納得していた。


 ま。それはそれとして。


フッ


「なるほど」


 ヴェルグは思わずつぶやいた。


「少しは、本気を出してくれるか」


 ネイキッドはただ、真剣に。


「ああ。強いな」


 不意に振り抜いたヴェルグの斬撃を、ネイキッドは余裕を持って躱した。避けたネイキッドの後ろの岩肌が切れ目を作り滑り落ちていくが。そんなものを気にする者は、この場には1人も居なかった。



 殺すつもりはない。とは言え、防御すれば腕がちぎれかけるだろう威力を込めた。それをあっさり回避した。


 本当に、お前だったんだな。



 お前がメイストームを殺したんだな。



「ネイキッド。1秒で構わない。本気で防御してくれ」


「?・・・!!!!!!」


 今度は見えなかった。


 いつ振ったのかすら分からない一撃が、ネイキッドのガードに差し出した両腕を断ち切り、胸元で上半身を分かっていた。


 空気を斬り裂く音さえ無かった。ユーシアもネイキッドも、そしてスガモさえも捉えられない。これがヴェルグの本気。


 天風「果敢」。効果時間は1秒。威力は千倍。ヴェルグの剛力の千倍で振り切った、普通の斬撃。


 それだけで、ネイキッドは致命傷を負った。心臓、動脈静脈、天風「巨大化アズマ」を本気でかけていた両腕、全てが切断されていた。


 魔王ユーシアが本気でかけた結界は、気休めにもならなかった。


ゴ!!


 議論もせず、ユーシアは飛んだ。ネイキッドが死ぬまで、あと30秒。30秒以内に血管を創り、脳と心臓をつなげなくてはならない。脳の血液が無くなったら終わりだ。まず心臓を再生せねばならず、肺やその他臓器も全て再接続が必要。


 ヴェルグは、その妨害をしなかった。


 スガモが動くだろうから。


ズガンッ!!


 音速を超えて高速移動していたユーシアだが、スガモの電撃スピア一つで完全に止められた。


 もうユーシアは飛べない。本気で防御に徹しなければ、次撃で消し炭になる。


「健気な事だけど。せっかくヴェルグが本気を出してくれたんだもの」


 勝ち誇った笑みを見せ付けながら。


 スガモはユーシアの結界を削り続けていた。



 強すぎる。


 夫の死から逃避するように、ユリストはヴェルグの強さだけを思っていた。


 剣王との戦いをさえ生き残ったネイキッドが、一合で殺られた。これが最強の戦士なのか。


 こんな生き物が、実在するのか。


 こんな化け物と、お前は戦うつもりだったのか。



 バカ。



 ユリストは我知らず、涙を流していた。


 だから、ネイキッドは助かった。



「死んだかと思った。助かったアニム。けど、お前は大丈夫か?」


「うん」


 アニムは父に褒められ、頭をなでられ、ご機嫌だった。



 味方ならこの上もなく便利だが、敵に回るとこうも厄介か。


 スガモは顔をしかめながら、完全復活したネイキッドの様子を観察した。


 確かに分割された肉体が、完璧にくっついている。流出した血液も壊れた細胞も、全てが復元されている。


 天風「勇者」。その再生能力は知っていた。それでも、既知のスガモでも、驚きを禁じ得ない。


 今まさに死のふちに立っていたはずのネイキッドが、息を吹き返し、あまつさえ戦いに戻った。



「すまん、逃げられた」


「仕方ない。相手は勇者だ。これからもああいう真似をされると想定しておいた方が良い」


 ユーベルの謝罪を受け取り、ヴェルグは冷静に返す。


 一番近くでメイストームを見て来た自信がある。から、勇者アニムの実力は知らなくとも、おそるべき相手だというのは確信が持てる。


 先ほども、アニムは剣王との死合の真っ最中に横目で母の涙を見、そして瞬間移動。ユーベルの動体視力でもヴェルグの反射神経でも、気付けぬ間に。


 間違いない。


 メイストームと同じ力。同じ天風だ。


「使うか?」


「いや・・・・。素手で十分だ」


「・・・そうか」


 剣王が差し出したのは、剛剣八多折。ヴェルグの腕力にも耐えうるだろう名剣だが。


 愛刀を失っても、ヴェルグには不要であった。



「ネイキッド。気持ちは分かるが、「あの剣」を抜かせるな」


「すまない」


 真っ二つにぶった斬られた胸部にも、失ったはずの両腕にも、違和感を感じない。これが愛娘の、勇者の天風。かつてはヴェルグもメイストーム師匠によって味わっていたのだろうか。


 かろうじて、相打ちに持ち込んだ相手の名剣、バジー。ネイキッドの肉体を、ユーシアの結界を斬り裂く際、全力を出し終えたのだろう。ヴェルグが振り抜いたその直後、バジーは崩壊した。


 ネイキッドの肉体が、ヴェルグの剣技にまさったのだ。


 無論、アニムの助力なくしては生き残れなかったのも事実だが。


 そしてヴェルグが剣を失うという事実はそのまま、背の大剣、無敵の黒剣を引き抜かせる事につながる。


 勇者であろうが、魔王であろうが、食らえば終わる最終剣。


 かつてのユーシアはヴェルグの攻勢を奪い、メイストームへの援護のみに集中させていた。そうやって封じるしかなかった。


 だが。


 今のヴェルグを止める手段、こちらには無い。


 剣王ユーベルとの同士討ちを恐れさせる以外には。



 ゆえにユーシア陣営の勝ち方は、たった一つしか許されていない。


 ユーベルを戦闘不能にさせず常にヴェルグと近い距離に位置させつつ、スガモのみを殺す。


 恐らく。ヴェルグか剣王、どちらかを倒した時点で、スガモは本気になる。


 ヴェルグを殺した相手に、もう手加減はしないだろう。いかに剣王の懇願こんがんがあろうとも。


 そして剣王を倒した場合は、その懇願の意味が無くなる。誰も困らなくなるので、リスティアもろとも皆殺しになるだろう。


 最強クラスの護衛が居る今、スガモに本気を出されては、勝ち目など絶無。


 こちらを舐めている間に、先制するしかない。


 たった一つの勝機だが。あるだけマシだ。


 あちらに本気を出されていたなら、この戦いは既に終わっているのだから。


「行けるか?」


「全く問題ない」


 戦闘継続可能か?というユーシアからの問いかけに、ネイキッドは完調状態で答えた。


 恐怖すら、無い。


 むしろ楽しんでいた。


 ネイキッドは、家族に見せる穏やかな顔とは違う。


 子供のような笑みを浮かべ、嬉々としていた。



 初めて。


 ヴェルグの本気を味わった。


 心臓を真っ二つにされる感触。己の胸から上が下と切り離される感覚。巨大化アズマがまるで無力に感じるほどの、圧倒的な力。



 すごい!


 強い!!


 これが!


 最強の!


 戦士!!


 おれの!


 師匠!!



 涙さえこぼした。


 初めて見る師の本気に。



 ネイキッドは、嬉しくて仕方がなかった。かつてのようにただ憧憬どうけいに身をひたしていた。



 その様を見ていた(敵方の様子を注視していた)ユーベルは、ふとつぶやいた。


「おれの娘も。男を見る目は悪くなかったようだ」


「それは」


 嬉しい。そう言いかけたヴェルグだが。


 少しばかり、素直になれなかった。


 そんな剣友の態度にユーベルもまた珍しく、穏やかな含み笑いをこぼすのみ。


 親としては少々先輩の剣王だ。だから分かる。


 我が子を人前で素直に褒めるのは、難しかろうよ。



 だからとて。


 変わるものもない。



「勇者の方は見極めた。先に殺しておく」


「ああ。では、その次にネイキッドを」



 1対1。


 以前は4対1で、剣王は勝つつもりだったのだ。


 勇者1人。それも前回から大幅なレベルアップもしていない。


 負けるわけがない。



 人類による勇者殺害の例は少ない。


 が、無いわけではない。


 勇者が人類に反旗をひるがえしたケース。人類が勇者をうとんだケース。少ないながらも、そうした事例は伝承されている。同じてつを踏まぬために。


 そして最も重要な問題。


 勇者の死は人にとって、致命傷か?


 答えは否。


 近い例として、メイストームが死んでも人類全体にはなんら問題とならなかった。


 よって、問題は無いのだ。


 ここで、ネイキッドの娘アニムを殺害しても。



「さて。斬るか」


 ヴェルグの目でも。


 剣王は、必ず勇者に勝つ。

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