戻らぬ時の中で。
「負けたっす」
「勝った」
カン
乾杯の音は、今日一番気持ち良く聞こえた。
完全にリラックス、全く無防備なネイキッドに比べ、オウザはぶすっとした表情を隠さなかった。
知らない技で負けた。
それは良い。
けれど、知らないネイキッドの一面を隠されていたようで、それはなんとなくイヤだった。
「おれは、どうやって負けたんすか?」
「近付いて、殴った。ちょうど、竜の攻撃でお前からの死角が出来そうだったからな。隠れるのは、難しくなかった」
「隠れた?どこに」
「竜の掌。潰されるタイミングで、な」
オウザは首をかしげた。竜は、自分が手ずから操っているのだ。
カヴァードドラゴンに重りがくっついた感触など、なかったはずだが。
それに殴られた感触はあれど、ネイキッドの姿は見えなかった。不可視の術?
「こうやって」
シュウン
オウザは、目を疑った。
ネイキッドが、小さく。
ピョン
子ウサギより小さい、小さな人形になったネイキッドが、オウザの膝の上に飛び乗った。
「巨大化の転用だ。大きくなれるんなら、その逆は?という事で思い付いた」
全身行使を使えるようになってからのアイデアだ。ユリストのおかげだな。
「思い付いた、って・・・」
そんな事で新技を開発しないでほしい。化け物か。
いやそれより。
「小さくなって大丈夫なんすか。内臓とか、絶対に苦しいっすよね」
「そこらへんは、今までと同じさ。大きくなったからと言って、骨や神経が引きちぎられはしない。小さくなっても大丈夫」
の、はず。多分。他の誰と相談したり検証したわけではないので、なんとも言いにくいが。練習でユリストやユーシアに見てもらった所、内臓や骨に損傷は発見されなかったので、まあ良いんじゃないかな。
「軽いんすね」
ネイキッドを手に乗せたオウザの感想。
それはそうか。今までの通常の巨大化では、重量も増していた。小さくなれば、当然軽くなる。・・・当然?
魔法を使えるオウザとて知らない常識。
「一応。ヴェルグ戦での隠し技なんだ。内緒にしといてくれ」
「やるつもりなんすか」
「当然」
そしてネイキッドはオウザから離れ、元の大きさに戻った。
「またな」
そして、走り去って行く。
今やると。勝てないからな。
「待たせた」
「ヴェルグ師匠」
たっぷり10分後。
しばしネイキッドの去った方向を眺めていたオウザの下に、ヴェルグが来た。ハセガワへの伝を聞いたのだろう。
「・・・待っててくれたんすか?」
なんとも言いにくい質問を、オウザはストレートに聞いてみた。
「・・・まあな」
あまりにもタイミングが良すぎる。のでオウザは気になったのだ。
・・・ヴェルグの足なら、王都からここまで5分以内に着いてしまう。ハセガワさんでも、本気で飛べば、もっと早くに到着しているはずだ。
オウザが死ぬようなら、飛び出すつもりだったが。ヴェルグはオウザがネイキッドの横に寝ているのを見て、何もしなかった。2人の会話の聞こえる距離にすら、近寄らなかった。気付かれないように。
要らぬ気遣いであったかも知れない。どうやら、ネイキッドはおれの気配を察知していた。
一戦終えた後の疲労したネイキッドでは、何の抵抗も出来ず、この場で死ぬ。いかに身体が回復しようと、一度切れた集中力は、簡単には戻らない。
ヴェルグは律国の防衛を預かる身としては、やってはいけない事をした。
賊を、見逃した。
そんなヴェルグの逡巡に気付かぬ振りをしながら、オウザは口を開き。
「師匠。ネイキッドは」
しかし。その後を続ける事は、ネイキッドの心友であっても、出来なかった。
悪党じゃなかった。とは。
言えない。
律王として、ネイキッドらに殺された者達を背負っている身が、そのセリフを言わせない。
ヴェルグもまた、オウザが生存している事。そしてネイキッドが何も奪わず去って行った事実から、オウザの言葉の続きを推測出来た。が。
「・・・・ハセガワ達が頑張っている。おれ達も応援に行こう」
「ういっす」
先送りにした。
ヴェルグもまた、怖かった。
弟子を殺さなければならない現実に怯えていた。
背負いし無双の大剣が、かつてなく重い。
「オウザ!!心配したぞ・・」
幼竜に弱い拘束をかけ、見えぬオリで保護していたハセガワは、守るべき王の無事に、ほっと胸をなで下ろした。
そんなハセガワに真摯に謝罪しながら、オウザも手伝いに加わった。拘束で見えぬ網を作り、誘導する。
「王都には今、イルマ1人だ。早く帰って安心させてやろう」
ヴェルグもはぐれようとする幼竜を抱きかかえ、谷に運ぶ。
3人で協力すると、10分もかからなかった。元々の数が少ない上に、幼竜は集団で谷から逃げようとしていたので、先導していた親竜も一緒に捕まえて皆でまとめて谷まで送ってやった。これならパニックも起きにくい。
作業を終えたハセガワは、オウザが自分から理由を説明しないのを見て、おおよそを察した。
ハセガワもオウザとは長い付き合いだ。彼にとっての特別な存在を知っている。
ゆえにヴェルグが口火を切るまで、問い詰めはしなかった。
結果、彼らの疑問、難問が解決されるのは、オウザ誘拐より10時間が経過した頃。
城内でのおやつタイムであった。
「私は気付けませんでした。すみません・・」
最精鋭、近衛。その生き残りであり、王守護の最深部に位置しているはずのサモンが、皆の前で平身低頭。
決して許されない失態。ありうべからず事態である。
「それはおれもだ。おれもイルマもハセガワも、誰にも分からなかった。敵が一枚上手だったのだ。気に病まず、更なる修練に励むしかない」
ヴェルグがサモンを許す。
サモンの心に、許しを与える。近衛に選抜される人間の忠誠心は、伊達ではない。放っておけば護衛任務失敗の責をとって自害するだろう。人手不足の現在、サモンは近衛でも戦士団でも任せられる貴重な人材。死なせるわけにはいかない。
そして自身の言葉通り。
ヴェルグも完全に気付いていなかった。普段のヴェルグはイルマ、ハセガワ、サモンらと共に、王宮内に詰めているというのに。ちなみに、ヴェルグの妻イセの部屋も用意されていたりする。ヴェルグを心身共に完調状態で働かせるための手段だ。
「それで。敵の陣容はどうでした?」
イルマが核心をつく。
誰もが聞きたい、聞きにくい事を。
「敵はネイキッド1人。1人で、おれの守護結界を突破し、おれをさらったんす。ついでに、一戦交えて来たっす」
「おお・・・・」
思わず、ハセガワから感嘆の声が漏れた。
王宮周辺。そしてオウザの部屋。二重に張り巡らされた結界を突破するには、ヴェルグであろうとイルマであろうと、必ず音を立てなければならない。それゆえに、力づくではどうしようもなく気付かれる。
そして実はハセガワなら、時間をかければ突破可能ではある。全ての結界に対し、浮遊を一々かけていけば良いのだ。
問題は、外部結界の内側には不寝番が居るという事。一日たりとて、切らした事はない。
ネイキッド少年は、一体いかなる手法を用いたのだ。
ハセガワは純粋に知的好奇心がうずいた。
「強かったですか?」
「負けたっす。多分、イルマさんと五分に戦えるレベルになってるっすよ」
聞きたい事を聞けたイルマは真剣な表情に努めながら、内心の喜びを抑えきれていなかった。
イルマはオウザの実力を高く買っている。何でもありなら、自身と同レベルだと。
そのオウザに勝つとは。
この世界で最も魔王襲来を待望している人間の1人であるイルマは、こっそり楽しくなっていた。
「対策案はあるか?」
「無いっす。ネイキッドを防ぐ方法が何も思い浮かばないし、防ぐ必要も恐らくないっす」
本題に入る。
オウザがずっと考えていた本題。
スガモは、人類の害なのか。
「ヴェルグ師匠。おれはスガモ様に会わなければならないっす」
そしてオウザはネイキッドとの対談内容を全て話した。
「・・・」
「恐らく、ネイキッドは嘘をついてないっす。そして魔王も」
熟考しているヴェルグらを前に、オウザは自身の感想を述べる。
魔王には魔王なりの理路が存在している。戦士ヴェルグに、勇者メイストームに、そして剣王ユーベルに殺されかけながらも人類との戦いをやめない。そこには必要性があって当然。
「おれはスガモ様にネイキッドから聞いた内容を伝えて、問題解決を図りたいっす」
「なるほどな」
ヴェルグは、自身の持っている情報を皆に伝えておくべきか一瞬思考したが。伝える事にした。
「スガモのそれは、律国も承知の事象だ。地上から魔獣を消滅させるための」
かつてヤヨイ、メイストームも含んでの会議を持った事がある。律国の正規会議として。
結論として、魔獣の消滅は不可能。
ただし、今の人類の生きている間は。
子々孫々の時代となれば、あるいは。それが会議の結論。
スガモが手加減抜きの花蜜をかければ、地上の魔法使い、魔力回路を持った人間ごと死滅してしまう。ゆえに、時間をかけてゆっくりとスガモの城に蓄える。数年どころではなく、数百年の時間をかけて地上の魔力を吸い上げる。その速度であれば、通常レベルの魔力回路であれば成長しにくくなるだけで魔力欠乏死にまでは至らない。
ヤヨイ、メイストーム、ヴェルグ。この三者の同意の元に、スガモはこの作業を実行しているのだ。
「じゃあ・・・」
これにはオウザも驚きを隠せなかった。
「予定調和というのかな、これは。魔獣を消そうとした試みによって、その大元である魔王が釣れた」
ヴェルグも苦笑いをするしかない。
人々の安寧、平和な暮らしを作るために実践した計画で、多大な被害を巻き起こしてしまった。
「ですが、討つべきは魔王。それは変わりないのでは?」
「それはその通りだ」
ヴェルグがイルマに首肯する。
いかな事情があろうが、こちらの試みがあちらにどのような影響を及ぼそうが、人を襲った以上、魔王には死んでもらうしかない。
魔族は敵なのだ。
地上から死滅してもらう運命に、変わりはない。
「おれとオウザで、スガモと話し合ってみる。魔王の思慮は間違っているのか、それとも考慮に値するのか」
つまり。
「話し合いで、この争乱は終わりだ」
魔王討伐の仕事だけは残るが。それも剣国と協調し、地上をくまなく探索すれば、なんとかなるだろう。
スガモとの会談の席を設ければ、少なくとも現在の魔王の歩みは止まる。あちらもわざわざ危険を冒したくはなかろう。
「一時的にではあるが、おれ達は律国を離れる。その間は、イルマ。民の避難を最優先に対処してくれ」
「了解です」
律国最強のヴェルグ不在を聞いても、イルマは爽やかな笑顔で頷いた。
願ったり叶ったり。オウザ君には悪いが。
3人の首は、もらっておこう。
律国防衛の一端を担う身として、魔王一味は始末しなければならない。そして剣客として、強者と仕合いたい。
正直、ネイキッド少年1人だけでは物足りなかったが、オウザ王の言葉によってその認識も改められた。
十分、殺すに足る。斬って面白い相手に成長している。楽しみだ。
・・・あの少年と肩を並べて戦うのも、面白かったのだろうけど。
サモン、ハセガワも律王の提案に賛同。不在時は自分達で国を守る。実力が劣っていても、イルマに加勢するぐらいは出来る。
スガモへの訪問は翌日いっぱいを予定して、会議は終了。明日はイルマらの正念場となる。
明けて当日。
イルマらの見送りは無しで、オウザらは出立。例えバレるにせよ、わざわざ喧伝してやる必要もない。さくっと行ってさっと帰って来る。
「ヴェルグ師匠。これは、皆の前では言いにくかったんすけど」
「なんだ?」
オウザの作った雲の上で、ヴェルグは半ば答えを知りながら、問いかけた。
「ネイキッドは、ヴェルグ師匠を狙ってるっす。いつ、になるのかは分からないっすけど、心構えしておいて下さいっす」
「了解だ」
驚きはない。知っていた事だ。
その様を見ていたオウザは、唇を震わせながら、何も言えなかった。
「誤解を解きさえすれば、戦う必要は・・・」
「誤解、じゃないからな」
オウザの優しい提案に、ヴェルグも穏やかに応えた。
誤解ではないのだ。本当に。
この話題はスガモの住居へ到着する合間だけ許されている。
「おれは、律国の戦士だ。律国に仇なす全てと戦い、律国を襲う全ての災いに盾する者。ローネも当然、その範疇にあった」
だが守れなかった。
1人だった。守る暇も無かった。
言い訳はある。他人がその状況に置かれていたなら仕方ないと思える程度に理由は存在する。
だがそれは、ネイキッドには関係ない。死んだ人間に、おれの言い訳は聞こえない。
「お前だけでも残った。それで僥倖。お前の家族を、故郷を守れなかったのも、おれ達だ」
本心からの言葉。
戦士たるヴェルグの矜持。
誰より強いはずだった。魔軍四天王にすら劣らぬはずだった。勇者と共に世界を闊歩出来たはずだった。
それでも守れない。
誰が悪い?
魔軍?
否。
魔軍を殲滅出来なかった、己ら。
おれ達は守るために鍛えて来たはずなのに。
それでも、オウザは人に残ってくれた。人の側に付いてくれた。
「守る守るって。ヴェルグ師匠は、勇者より強いつもりっすか」
オウザは先ほどまでの心配そうな顔から一変。無表情でヴェルグを詰めた。
歴代の勇者でも、魔王討伐だけは適わなかった。当然、魔軍から全ての人を守るなど不可能。殺したり殺されたりしながら、人と魔族はやって来た。
その歴史の歩みを、ヴェルグは否定しかけていた。
自分なら守れるのだと。
勇者にも出来なかった事を。
が。
「可能か不可能かの話ではない。おれは律国のメシを食い、律国に生きている戦士。土地も建物も財産も植物も動物も人も、全てはおれ達が守る。そして。イセの居る世界は。おれが守る。イセを守っている律国の戦士団も、イセの使っている店も、イセの踏みしめる道も、イセの呼吸する空気も。全ては、おれが守るものだ」
途中まで真面目に聞いていたオウザも、最後には先ほどまでとは別の意味での無表情になっていた。
だが分かった。
戦士ヴェルグを最強の戦士たらしめているのは、この自負。
律国全土を守るために早い足が必要で、全ての敵を倒すために強い力が必要。それらを求め続けた果てが、ヴェルグという男。
「それで。ネイキッドと立ち会ったら、どうするんすか。殺すんすか」
オウザは努力して感情を込めずに言った。
もしネイキッドへの同情が混ざれば、それはヴェルグに要らぬ気遣いをさせる事につながる。
一般人ならともかく、律王の我が身が発して良い甘さではない。
ネイキッドは律国民を、王を、勇者を殺した怨敵なのだ。
助命など、有り得ん。
「分からん。会って、戦ってから決める」
「・・・それが、戦士らしさってもんすか?」
戦士ヴェルグと戦士ネイキッド。そういうものなのだろうか。
「さてな」
ヴェルグは答えなかった。
己が手ずから育てた弟子を殺す。
いかな歴戦の勇士と言えど、初めての体験。
出来るのか。おれに。
そうこうする内、オウザの雲はスガモの城に到着してしまった。
天空の大地。
スガモはいつものように出迎えてくれた。
久しぶり、と言ってもオウザの律王就任式以来だから、そう間も空いてはいない。挨拶を交わした後、ヴェルグは本題に入る。
「スガモ。地上からの魔力回収を一時的に止めてもらいたい」
「それは良いけど」
相変わらずの空に浮かんでいるテーブル席で、スガモはオウザの入れたコーヒーを飲みながら、ヴェルグとの対話を楽しんでいる。
オウザはくちばしを挟まない。流石にこの2人の会話に割って入るには、もうちょっと足りない。
「もしネイキッドを殺したくないのなら、私が助けてあげるわよ」
「断る」
断固として、ヴェルグは一考だにしなかった。
オウザは話の流れに付いていけてない。助けて、いや、自分は言えない。
「実験材料にするだけよ」
なるほど。オウザはヴェルグの返答の意味を完全に理解した。
「オウザ、お前も気を付けろ。うっかりしていると、スガモの研究材料になるぞ」
「う、ういっす」
「失礼ね」
オウザは律国存亡の危機を避けるため、両者の顔色を全力で伺っていたが。
2人共、和気あいあいとしている。どうやら、これは普通の茶飲み話らしい。・・・帰りたい。心臓に悪い。
「ま、話は分かったわ。ヴェルグ。あんたの最盛期は、間もなく終わる。待てるのは、それまでよ」
「ああ」
少しの寂しさと共に。ヴェルグは、スガモに告げられた現実を受け入れる。
ヴェルグも、既に40を越えた。肉体はこれから衰える一方。ネイキッドが20代の内にはもう、追い抜かれているだろう。
そうなれば、魔王との対峙をオウザ1人に任せるハメになる。・・・イルマは剣王になっているだろうから。
「おれが止めるっす。ネイキッドは、おれが。・・・それはそれとして、剣王様もまだ全然健在っすよ。ヴェルグ師匠だって、あと10年は現役行けるんじゃないすか」
「ユーベルと比べるな」
ヴェルグは笑いながら、オウザの言葉を否定した。
「あれは剣王だ。恐らく、死の直前まで強い。だが、おれは一介の戦士に過ぎない。肉体のピークを過ぎた今、弱くなるだけさ」
誇張なく、剣王ユーベルは今も強くなり続けている。ひょっとしたら、来年には追い越されているかも。
あれもスガモと同じく、人間の外の生き物にしか思えん。
スガモとの会談は平和裏に終わった。会話一つで、全世界を巻き込んだ戦いの原因が解決。あっけないほど簡単に。
「そう言えば。剣王様が、また剣城の強化を依頼したいと」
「なんで?言っとくけど、私の強固はまだ効いているわよ」
「そうなんすか?でも、魔王の魔法を直撃で受けたらしいっすよ」
「・・・ちっ」
舌打ち。オウザはスガモのその子供みたいな態度に、しかし安堵した。
いかにスガモの強化した城郭と言えど、やはり劣化はするのだ。良かった。まだ人間だ。
「分かったわよ。明日にでも行きましょう」
「明日!?剣王様の予定は・・・」
「私に合わせれば、それで良いでしょ」
オウザはヴェルグに顔を向けるも、ヴェルグは何も言わなかった。いや。
「確かに。早い方が良いな」
「ええ・・・」
困惑するオウザを尻目に、むしろ賛同した。
これはオウザにとってはスガモは単なる師匠で、剣王は今でも敬意の対象であるがゆえの対応の違い。
だが現実は違う。
剣王ユーベルは間違いなく偉人であり、現代社会の要人トップ3に入る超重要人物。
が、スガモはトップだ。スガモこそが、剣王すら足蹴に出来る世界ナンバーワンなのだ。
ヴェルグにとってもスガモは師匠だが、それと同時、絶対に安易な扱いが出来ない超危険人物でもあるのだ。
そのスガモが剣国の補助に乗り気なら、邪魔するべきではない。
長い付き合いの中で、ヴェルグはスガモの扱い方をなんとなく分かっていた。
これで、長かった魔王戦も終わる。民間人がこれ以上巻き込まれる心配は少なくなったか。
お土産をもらったオウザとヴェルグはスガモの住居をお暇。律国へと帰る。ハセガワらを安心させてやらなくては。
オウザらが去ってから、きっちり10分後。
「もう、出て来ても良いんじゃない?」
茶器を片付け終わったスガモが独り言をつぶやく。
「ご無沙汰しています。スガモ師匠」
「元気そうね」
誰も居なかったはずの空の国に現れたのは、無論、ネイキッド。
「その技。便利ね」
当然のように、スガモはネイキッドの巨大化の新たな使用法を認識していた。
「ありがとうございます。オウザにも勝てたので、自慢したかった所です」
にこやかに。ネイキッドは言ってのけた。
戦士ヴェルグの感覚をすらすり抜けた業。
オウザをさらった時と同様、巨大化によって小さくなり、オウザの防刃ローブのポケットに隠れてここまで来たのだ。そしてヴェルグらがお土産を手に取るタイミングで、この地に1人居残った。
ヴェルグとの対決の瞬間を待っていたら、秘密会議に参加していた。
「ネイキッド。私をあんたを殺したくても殺せない。分かるわね?」
「はい」
スガモは言ってしまった。待つ、と。
ネイキッドの事はヴェルグに一任してしまった。
他人の言動ならいざ知らず、己の発した言葉を撤回するのは、プライドが許さない。
「スガモ師匠。迷惑ついでに、お聞きしたい。使徒は、機嫌を損ねないでしょうか?」
「・・・魔王も、口が軽いものね。あんたレベルに教えたの」
珍しく。スガモが困った表情をしている。
「逆ですよ。おれレベルだからこそ、大勢には影響しない」
「それも、そうか。確かに」
スガモはネイキッドの発言に頷いた。
「なら魔王に伝えなさい。地上の魔族全てを滅ぼされたくなかったら、ローネに来い、と。時は明後日」
「了解しました」
ネイキッドはちゃんと理解した。
大丈夫らしい。
それがスガモの実力によるものなのか、それともそもそも使徒本来の役割と反しないのか。そこまでは分からなかったが。
そしてスガモは、やると言ったらやる。
魔国民やその他魔力を持った人類全てを道連れにしてでも、魔族を消滅させるだろう。
そしてそれは魔王ユーシアも理解している。ゆえに、決戦は行われる。
「ありがとうございます」
そしてネイキッドは帰って行った。ただ一礼して。
空を飛べぬはずのネイキッドがどうやって帰還するのか。スガモはそんな疑問すら抱かなかった。ネイキッドが巨大化を使えば、地上に落ちたとて生き残る。問題があるとすれば、その落ちた箇所から家までの方向が分かるかどうかか。
愚にもつかない事を考えながら。
スガモは、メイストームが顔を見せに来ない今日という日を噛み締めていた。




