表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/63

今の2人。交わる時。

 剣王ユーベルが魔王と戦った。敵構成は魔王、ユーベルの娘ユリスト、ヴェルグの弟子ネイキッド、そして勇者アニムという少女。


 このニュースは、それなりに世界の要人をにぎわせた。



 魔国は剣国、そして新国水国との共同訓練の頻度ひんどを高める。単独では立ち向かえない。それを理解しているがゆえに。


 そしてドロウは、後継者を育てる。まだまだ魔法使いとしては現役のドロウだが、政治家としての魔国の顔を作らなければならない。他国と上手くやっていける、強いだけではない魔法使いを、ドロウ勢力の新たな代表に据える。


 でなければ、魔国の一般人と魔法使いのみぞは埋まらない。


 勇国の暴走により、勇国との融和勢力は完全に力を失った。剣国、律国からの工作員を取り込んだドロウ勢力が勢いを盛り返し、魔国はまた魔法使いの天下になるだろう。


 そして問題は先送りに・・・はさせない。


 自分の代で片を付ける。


 魔国の氷を解かし尽くす。同時に、国民の心も打ち解けさせねばなるまい。


 ドロウの背負ったものは、それなりに大きいものであった。



 水国では、ショーティアを守護する近衛の増加が行われた。と言っても、水国に残る兄弟の数を増やしただけだが。


 魔国、剣国、そして律国との貿易も以前のように活発化し、かつての勇国を上回る繁栄を取り戻せそうだ。


 幸いな事に、やはりショーティアの聞く耳は政治に向いていた。平民の、武官の、技術者の声を聞き、そして反映させる。


 力を持った王であるショーティアは、強引にでも自らの思う所を推し進める事が出来、その上で反対勢力の意見も聞く事が出来た。


 力づくのやり方で高速政治を取りつつ、不満不安不平を聞き逃したりはしなかった。


 水王は、なんとかやっていけそうだ。



 剣国は王城を襲われたにも関わらず、更なるにぎわいを見せていた。


 剣王の発した、新たな名剣の発表会。見事合格した者は、剣国直々の取り引き相手として昇格出来る。


 剣客万来もその余勢を駆って明日の名剣を探し求める人々でいっぱいだった。


 魔王の次なる襲来に備え、剣王の修練もまた熱が入る。剣の子らも同じく。


 剣国はますますその実力をたくわえ、磨き上げる。



 律国は勇者大通りや商店などの被害地も順次復旧が進んで行く。剣国からの労働者がよく働いてくれ、また彼らの消費行動で、失われた兵らの分の経済も回るようになってくれた。


 本質的に律国が回復するには数十年の月日が必要だろうが、人々の平穏な生活を包むだけの落ち着きは、そう遠くないだろう。


 そして律王はただ1人、心友と対峙していた。




 暑い。


 それがまだ眠っていた律王の第一印象だった。


 今は冬だぞ・・・。暖房が効きすぎている。壊れてしまったとかで、朝まで付けっぱなしにしているのか?


 それに固い。お布団の感触じゃない。床に居るのか、おれは。


ゴロン


 感覚的にまだまだ早い時間。オウザは寝返りをうって二度寝に入ろうとしていた。


 まるで修行時代のようだ。師匠にぶっ飛ばされて寝入っていた(気絶していた)地面を思い出す。


「朝ごはんなら、あるぞ」


 ?


 ・・・他人の気配など、感じなかった。


 それに守衛の声じゃない。ヴェルグ師匠でもない。


 だけど知っている。


「久しぶりっすね」


「ああ」


 ふわわ、とあくびをしながらオウザは起き上がった。


 目の前には懐かしい炎獄が広がっていた。



 律国王都より遥か彼方。


 竜の谷と呼ばれる地域。


 吹き上がる熱波を感じ、そよそよと流れる竜の鳴き声を聞きながら。


 同席するは、古馴染み。



 しばし温暖な気候を楽しんでから、オウザは相席の相方に話しかけた。


 峡谷きょうこくを眺めている相手と同じく、眺望ちょうぼうを楽しみながら。


「・・そっちからの呼び出しなんすから。もうちょっと喋ってくれても良いんじゃないっすか?」


「ああ」


 眠っていた所を誘拐されたオウザとしては、文句の1つも言いたいだろう。


 起きたら竜の谷に居て、近くには数年前に失った友が居た。


 しょうがないので、ネイキッドの食べていたチョコに手を出す。2人の間に置かれた皿の上、2センチほどのブロックチョコだ。この熱帯でも溶けないとは。新製品か。


「!?」


「最近作ったおやつだ」


「・・・」


 オウザは顔半分を引きつらせながら、半分を苦笑いに歪ませた。


 辛い、甘い。なぜ、混ぜた。


 辛み甘みを同時に味わいつつ、オウザは深遠にでも到達しかねない問いを胸に抱きながら、用意されていたコップを取り、中身も見ずに飲み干した。


「・・・ふう」


 美味しい。


「悪くないだろ?」


「結果論すよ」


 笑い合いながら。


 互いの心意を読み合う。



 霧茶を肺腑はいふに染み渡らせたオウザは、ネイキッドへの心理的抵抗が薄れているのに気付いていた。


 ネイキッドを味方だと、自分の心底は想っている。その気持ちを揺り起こされている。


 この菓子と茶は、そのための小道具。


 だというのに。そうと分かっていても、この時を失いたくない。


 ずっとこのままでいたい。


 ネイキッドの掌の上で転がされている。


 オウザは既に焦っていた。


 ネイキッドを求める心、待ち望んでいた心を完璧にくすぐられている。


 それすら、心地良い。


 このままでは、負ける。



 と、オウザは思っているのかな。


 そうネイキッドは読んでいた。


 オウザが怒り出すか、ほっと和むか。五分五分と見ていた。浅知恵をとがめられるか、それとも素直に喜んでくれるか。


 天秤てんびんはこちらに傾いた。


 わざわざ、顔を知られていないアニムに霧茶を買って来てくれるようお使いを頼んだ甲斐があった。これはアニムのためにもなったので、一挙両得だったな。


 そうだ。アニムのお団子を買ってやらなければ。あれを食べずにアサギリに行ったとは言えない。


 おれもオウザと食べた・・・。


「な、なんで泣くんすか!?・・・泣きたいのは、こっちっすよ・・・」


「ああ」


 そんな意識はなかった。


 泣いている?おれが?


 ネイキッドは、失くした時を目の前に、思わず自失していた。

 


 そしてオウザは戸惑っていた。


 こんなにあっさり話せる。馴染んだ感覚。



 なのに、離れた。


 おれを置いて行った。



オ オ



 土地の熱気だけではない熱量が、地に溢れる。


 ネイキッドは皿を袋にしまい、リュックサックの中に入れた。水筒、コップも。


 オウザは準備運動を始めた。同時に魔力回路も加速。負荷をかけ始め、魔法の射出速度を上げておく。


 そして武具を身に付ける。


「手加減は、しないっす」


「ああ」


 片付けを終えたネイキッドは指先の感覚を確かめていた。


 本気でなければ勝てない。


 全力でなければ捕えられない。


 そして強くなければ、オウザを得られない。


 

 やっとお前に会えた。


 そしておれはお前の顔を正面から見れた。


 その瞳から、逃れずに。



 はっきりと言える。


 お前が欲しい。


 オウザ。



 オウザはネイキッドの本気を知覚していた。


 肌が静かに波打つ。皮膚と肉が強者に震えている。魔力回路が生存のためのフル回転を始めている。


 ご丁寧にも武装は全てそろっている。水来子アクアストームに細剣、そして共振頼ともふりのらい。更には短刀を仕込んだ防刃ローブまで。

 

 意図は分からぬ。


 だが、この場を用意したのがネイキッドである事だけは、己の全てで承知した。


 だからネイキッドの本気にも気が付いたし、自分の殺意もぶつけて良いと理解した。



 2人の闘気は、満ちた。



「・・・師匠を!!殺したのかぁっ!!!!!」


「お前はおれのものだ!!!」



ゴ!!!


 両者の信じたものがぶつかり合った。


 オウザの細剣は砕け散り、ネイキッドの右拳は無傷。


 だが。


「ま。小手調べは、こんなもんすか」


「ああ」


 ネイキッドの右腕は、動かなくなっていた。


 細剣に込められた「貫風ぬきかぜ」が、右肘関節まで衝撃を通し、破壊した。


 この戦いの間には、治らない。



 しかしながら、武器と腕を相殺した両者。


 共に退く気はなかった。



 ネイキッドはそんな事より、オウザの速度に驚いていた。


 細剣が伸びる前、貫風が宿っていようがなんだろうが勢いに乗る前の剣を砕けるつもりだった。修練を積んで来た己なら。


 巨大化アズマを瞬間的に用いる事で、オウザの目がこちらの速さに慣れる前の速攻をものにしたはずなのに。


 流石はオウザ。


 王位についたと聞いたが、まるでにぶっていない。


 いや、あの頃より遥かに強くなっている。



 ダメージは入ったのか、否か?


 オウザは余裕の笑みを見せつつ、ネイキッドとの力量差に驚愕していた。


 剣国で求めた最高の細剣が一合で砕かれた。本気で天風を込めていたのに。


 しかもネイキッドの動きは、強固ツモリイシで強化した視覚でなければ、絶対に捉えきれない。


 明らかに自分より強い。


 流石はネイキッド。


 おれが全権大使や王位について安穏としていた時に、修練を怠っていなかったようだ。


 「このまま」では、勝てないか。



「ネイキッド。魔王は、ネイキッドが死んでも復活させられるんすか?」


「分からない。魔王自身は、ほぼ不死身だが、おれ達は普通に死ぬんじゃないかな」


「そうっすか」


 オウザは悩んだ。


 全力を出さねば勝てない。


 けれど全力を出すと、ネイキッドは死ぬ。


 オウザは自身の考えを全く表に出していなかったが、ネイキッドはなんとなくオウザの考えている事が分かった。


「おれは。お前に殺されるのは、イヤじゃない」


「・・・やりにくいっす。そう言われると」


「仕方がない。本気だからな」


 その笑みは。


 笑いながら言うネイキッドの顔は、オウザのよく知っている表情だった。



 なら。


 受け止めてもらおうか。



「ネイキッド。本気を出してほしいっす。でなきゃ、おれが辛い想いをしちゃうんで」


「ああ」


 にこやかに、ネイキッドはオウザのわがままを受け入れた。


 廃滅ラドであろうと。


 お前の全ては、おれがもらう。


 戦力が足りない、とユーシアが言ってくれたのは本当に助かった。


 これ以上ない言い訳が出来た。


 また、2人で歩もう。


 オウザ。



 完全に自由意志で、人類の敵になっている。


 オウザは、そんなネイキッドを目の前にしても落ち着いている自分に驚いていた。


 てっきり慌てふためいて、会話もろくに出来ないと思っていたのに。


 好都合、と言ってしまうと違うが。


 いい加減、魔軍の良いようにされるのも飽きていた。


 全て吐いてもらう。


 勝利すれば、ネイキッドは大人しく従ってくれるはずだ。


 全て話してほしい。


 メイストーム師匠を殺したその思いを。ヤヨイ王を手にかけた意味を。


 心が知りたい。


 友よ。


 おれとあなたなら、分かり合えるはず。そうっすよね?




 オウザから吹き荒れる魔力の奔流ほんりゅうに、ネイキッドは笑みを深める。


 空気が変わった。魔力を感知出来ぬはずの己が身が震える。


 恐怖している。畏怖している。


 だから、お前が要る。


 本気のお前を倒して、もらって行くぞ。



オ オ !


 放つは走行ルナ。威力は通常。岩石を一撃で粉砕する程度。ネイキッドなら、巨大化アズマすら使わずしのげる。


 が、一斉射で千を超える走行ルナがネイキッドの全周囲から襲った!!逃げ場など無い!


オ!!


 直撃。手応えあり。


 立ち会いが始まってから、ずっとここらの空間に溜め込んでいた魔力。それを一斉に発動させたために、放射数を大幅に増加出来た。


 これはネイキッドがこちらの成長を甘く見た結果とも言える。


 相手をスガモ並みと想定していたなら、決して溜めさせなどしなかっただろうから。



 ユーシアもユリストも居ない戦場。結界を構築出来ないネイキッドは、ただただ波動を受け止めていた。一発で人体が消し飛ぶ攻撃を、数百という単位で。


 だが。



「お互い。準備運動は終わったな」


「そうっすね」


 ネイキッドは、完全な無傷。


 タネは簡単。


 千にも達する走行ルナの砲弾の全てを、らし、弾き、砕き、受け止めていた。


 少し、意外ではあった。


 きっと廃滅ラドや他の魔法が混ざって来ると覚悟していたのに。


 何の工夫もなく、走行ルナのみ。


 オウザにしては珍しい。



 いぶかしげなネイキッドの心意をオウザはきっちりと読んでいた。


 大丈夫。


 既に策略の内だから。


 安心してほしいな。



ゴ!!


 ノーモーションでオウザが消えた!


 運動能力を鍛えに鍛えているネイキッドからすると、完全な不意打ち!その動きには、筋肉の挙動が見えない!


 身体に走行ルナをかけただけの、魔法使いの基本移動。だが、ネイキッドからすればそれは見慣れない機動。


 一手、先を・・・。



 本気のスピードを出して最速で背後を取った。


 そのつもりだったオウザは、ネイキッドと目を合わせながら、自らの見極めの甘さを呪っていた。


 ネイキッドを侮辱してしまった。



 ?


 ネイキッドはオウザの心意が読めなくなっていた。


 ここまで全てフェイントであって可笑しくない。オウザなら。


 だが、それなら。


 なぜオウザの意気が消沈しょうちんしているのだ。


 これも引っ掛け?いや。そんな回りくどい事はしないだろう。


 どうした。


 まさか、さっきのチョコが・・・。



 無論。


 ユリストやユーシアとの訓練を常時行っているネイキッドにとって、走行ルナ行使移動は見慣れたものでしかなかった。


 素の動きと動体視力のみで、オウザと正対していた。



 ネイキッドが食あたりを心配していた頃。


 オウザはネイキッドの想定戦闘レベルを引き上げた。


 ヴェルグ級にまで。


 周囲の人間で今のスピードについて来れるのは、イルマだけだった。


 多分、これでも、過大評価じゃない。今のネイキッドは、それだけ強くなっている。


 幾年いくねんの月日の重みが、オウザにのしかかっていた。



 大丈夫か。


 なんなら、勝負はまた後日でも良いが。勝負は時の運、とは言え腹の痛い相手に勝っても、どうしようもない。


 ネイキッドはオウザの目の中の意思を見て、どうやら続けられそうだと認識した。



「行くっす」


「来い」


オ!!!


 今度こそ、欠片かけらほどの手加減も無かった。


 走ったのは電撃スピア。しかも、先ほどの走行ルナと同じくネイキッドの全周囲を取り囲みつつ同時発動。


 絶対に避け切れない、魔獣を一撃で粉々にする光輝がネイキッドを襲う!


ゴシャ


 まさかこれで倒せるとは、オウザも思っていなかった。


 だが。


「怖かった。腕を上げたな。オウザ」


「まだまだ。これからっすよ」


 言いつつ。笑みを向けてくれるネイキッドに同じく笑みを返しつつ、嫌でもオウザは力量差を感じずにいられなかった。


 強すぎる。


 巨大化アズマを使ったのは分かる。一瞬、ネイキッドの姿がブレた。


 だがそこまで。それだけでオウザの発した数百の電撃スピアはかき消され、無力化。ネイキッドの肌には焦げ跡の一つも見受けられない。



 これはもう、弟子のレベルじゃない。


 明確に、師匠達の領域に踏み込んでいる。




 再びのネイキッドとの巡り合い。


 それは止まったままだったオウザの時を進めるには十分な衝撃を伴っていた。



 今までの子供のケンカの意識を、オウザは初めて捨てる。


 殺傷意識をもって、ネイキッドとの勝負に挑む。



 ようやく会えた2人。


 噛み合う時は、彼らに前進以外を許さない。



 果たして、どちらの今が時代に選ばれるのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ