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勇者登場。剣の国、決着。


 ユーシアは完全防御に徹した結界数百枚重ねを、剣王の短刀が貫けなかったのを見て、ほっと安堵した。


 200枚ほどは破られているが、助かったのだから結果オーライ。全魔力量の1割を使ってしまったが、問題ない。


 問題は、前衛が全滅した事。


 剣王が歩けるようになるまでに回復出来るか?


 ユーシアは考える間もあらばこそ、即座に走行ルナを自身にかけ最速移動。ネイキッドとユリストの下へと飛んだ。


 例え剣王が動けるようになったとしても、既にこの場の地下全域は凍らせてある。いつでも、剣王を絡め取れる。ネイキッドが時間を稼いでくれたからな。



 が。


 その剣王は、なぜ全身を凍り付かせていないのだ。


 私は右腕の力を解除していない。


 なぜ、足が地面にくっついた程度なのだ?


 一体、剣王の天風はどのような・・・。




 更に短刀が飛んで来た。しかし大丈夫。新たに張り直した結界が守ってくれる。全魔力量の2割を消費したが。



ザ・・・


 ・・・!


 バカ!動くな!死ぬぞ!


 ユーシアは結界の立て直しを行いつつ、剣王の攻撃を防ぎながら徐々に味方に近寄っていたが、そのネイキッドが立ち上がったのを見て、悲鳴を上げかけた。


 剣王の追撃が来る・・・!



 ユーシアの見立ては正しかった。


 既に剣王の足は地から離れ、ネイキッドに正対。


 星剣が、抜かれようとしていた。



オ!!!


 間に合え!!


 ユーシアはネイキッドに向けて走行ルナを発動。ネイキッドをふっ飛ばしてでも剣王の間合いから遠ざけんとした。


 が、その走行ルナはネイキッドに触れるより先に剣王に斬り捨てられた。魔法を視認出来ないはずの剣王に。


 ・・・この、化け物が!


 なりふり構ってられないユーシアは、地面に触れた右腕から全力で凍結を発した。動けないネイキッドとユーシアは考えなくて良いから、効果範囲で悩む必要は無い。手加減抜きだ。


 凍れ!!



 剣王の両の足は、まだ凍ったまま。


 少なくともひざから下は、間違いなく動いていない。


 にも関わらず、ユーシアの凍結をふわりと飛んで避け、そしてネイキッドの両肩に着地した。


「お前の、女を見る目だけは確かだ。おれが保証する」


 剣王は、ネイキッドを殺す前に、そう言った。



 両足の間に、剣を下ろす。


 全力を出す必要はない。天風を使えない今のネイキッドを殺るのに、力は要らない。ユーシアの電撃スピアを軽く斬り払い、そして振り下ろした。



 ユーシアは目の前で夫が死ぬのを見届けようとしていた。


 牽制けんせいに用いた全力の電撃スピアがハエのように消し飛ばされるのを認識しつつ、それでもネイキッドへの結界を全力で強化し続けていた。これでは足りないと分かりつつ。


 冷たくなっていく心と共に、ユーシアは野望の終わりを見る。



 はずだった。




 剣王は、判断を誤らなかった。


 人類の作り出した最高の剣、星剣。


 その刀身が音も無く斬り飛ばされるのを視界の真ん中に捉えた瞬間、動かぬ足を動かして、全力でネイキッドから距離を取った。


「大丈夫?お父さん」


 小さな女の子の声。そして選剣を握った右腕ではなく、左腕がネイキッドの手を握ると。


「アニム?」


 見えなかったはずの目で、ネイキッドは突如として現れた我が子をぱちくりと見ていた。


 ネイキッドの肉体は、完全に回復していた。巨大化アズマに使った体力も、剣王に斬り刻まれた負傷も、全てが癒やされていた。


「アニム、リスティア!」


 ユリストまでが完調状態に戻り、魔剣をほったらかしにしたまま、子供達に駆け寄った。



 リスティア。


 剣王の耳は聞き逃さなかった。


 あのアニムという子の背におぶられているのが。


 孫か。



 リスティアを背負っているおんぶ紐がしっかりと結ばれているのを確認して、アニムを褒めてから、ユリストはアニムを注意した。


「・・早く帰りなさい」


 ユリストは、とにもかくにも、子らを戦場から遠ざけたかった。命が助かったのも、どうでもいい。


 子供が危険にさらされるのは、己が死より耐え難い。


 が。


「お母さん。お腹すいた」


 アニムは、素直な子だった。


「あ、ああ。そうか。おやつは冷蔵庫の中にあるから、レンジで温めて食べなさい。手前にあるやつだから、見れば分かる」


「うん」


 言うなり、アニムはその目を剣王に向けた。


ゴ!


 剣王は、本気で避けた。


 剣王の居た位置には、何も起きないが。



 アレも知っているのか。


 流石は剣王。勇者とも親交があって当然と言うべきか。


 ユーシアは1人、合点がてんしていた。


 天風、「勇者」。


 敵する者を弱化させ、味方を強化する。しかも味方には常時回復が効き、触れれば再生レベルにも到達する。


 今、剣王は勇者に視認される事によって弱化されるのを回避したのだ。


 言い飽きるほど言ったが。


 なんという怪物だ。


 ユーシアはアニムの援護によって形勢逆転した戦場で、それでも危機感が去らなかった。


 下手をすれば、この状況でも、剣王は勝つ。


 いくらなんでもアニムの戦闘経験では、太刀打ち出来ない。


 そして自分達3人は、戦力として足りていない。



「アニム。おやつは一緒に食べよう」


 ユーシアは即断した。



 勇者アニムが加わっても、まだ勝てない。




 戦闘は終わった。


 敵は消え失せ、逃げた。


 城内から剣王の戦いをじっと見ていた配下達が一斉に出て来て、後片付けを始めた。


「ショーティアらに伝えろ。守りは3倍にしろ、と」


 終わった戦場に、剣王の声が響く。


 それを聞いた伝令は、早馬に乗り勇国を目指す。



 逃げられた。


 あるいは。


 見逃してもらった?



 ドラゴンドリンクで足は回復。


 しかし。



 ユーベルは思い出していた。


 剣華刀乱にて、戦装束の中に仕込んだ「短刀を動かし」凍った脚部の動きを補う。イメージ通りの戦闘が出来ていた。修練通りの動きをこなしていた。


 だが、ギリギリであったのも事実。


 星剣をもってしても、魔王の凍結は完全には防げなかった。


 凍結速度より速く地面や空間を斬り裂き、右腕の力を伝達させない。言ってしまえばそれだけの工夫。


 魔王には剣閃は見えていなかったようだが、それでも足は凍らされた。


 あのまま乱戦に移行していれば、どうなった事か。



「ヴェルグに伝えろ。勇者は、敵となって現れた。魔王と共にな」


 剣王の伝令。信の置ける部下のみが務められる栄誉ある仕事だが、その任を受けた者であっても、怯えを隠す事は出来なかった。


 勇者が敵に回る。


 その事実は、そのまま人類の終焉を意味する。


「さて」


 剣王の戦いは終わった。


 だが、一戦が終わったに過ぎない。


 次の戦いに備え、短刀を補充、星剣に代わる大刀も選ばなければならない。



 無論。


 剣王ユーベルは、相手が勇者であろうと、負ける気など全く無かった。

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