今の2人。交わる時。その2。
右腕をぷらぷらさせながら、ネイキッドは左手に残る魔法の感触を愛おしく思っていた。
懐かしい。オウザの電撃。
ユリストやユーシアの方が魔力量では上。
だが、練りは負けていない。
鋭く、強く、硬い。
心が、体が、おれの全てが喜んでいる。
やはり、お前が必要だ。
ネイキッドは純粋に嬉しんでいた。
ゆえに自然体のまま、リラックスした精神とよく動く肉体で対峙出来ていた。
では、その相手のオウザは、どうか。
まだ準備が足りない。これではまだ勝てない。
走行と電撃は、破壊される前提で撃ち込んだ魔法。これによってバラ撒いた空気中の魔力に用がある。
ただでさえ濃密な竜の谷周辺の魔力をかき混ぜ、自らの魔力と混合し、自身のコントロール下に置く。スガモ師匠に習った通りの戦術。
だが、上手く行かない。
ネイキッドをその場から動かせない。
本来、魔法を避けるネイキッドを追って魔法を撃ちまくり、ここら一帯の空間を支配するはずだった。
しかし、一歩も動かず魔法を迎撃してのけるネイキッドの実力により、その作戦は未然に防がれている。
いつの間に、こんなに強くなったんだろう・・・。
師、スガモから教わった強者との戦いの際に有効な戦術はいくつかある。
第一の作戦である逃走は、今回は出来ない。ネイキッドからは離れたくない。
第二の作戦、より強い味方を連れて行く。これも難しい。ヴェルグやイルマをこの場で待つのは無意味。
そして残るは、最後の第三の作戦。当たって砕けろ。
・・・作戦?
だがそれしかない。
そもそも、自分より強い者との戦いになっている時点で、敗北と同義。ゆえに全力を出して当たるしか無い。もしかしたら敵は体調を崩しているかも知れない。もしかしたら女にフラレて生の活力を失っているかも知れない。勝ち目は、あるかも知れない。
全ては、やってみなければ分からない事だ。
キ
ネイキッドは目を見張った。
腰に差した水来子はそのままに、オウザは共振頼を抜いた。仕込み杖である共振頼は剣としても用いる事が出来るが、その実、かの雷王の骨で構成された杖本体が魔力タンクとして機能する。オウザの魔力を常時増強している。
本命は、どちらだ?
二度目の貫風でこちらの左腕を奪うか。単純だが有効。両の腕を失えば、流石に厳しい。
それとも剣は見せるだけ。貫風を回避する瞬間を魔法で狙うか。
だが悩む必要はない。ネイキッドは答えを知っていた。
オ!!
両方!!
電撃に走行。光り輝く空圧砲が無数に来る!
それと同時、オウザも!魔法を迎撃していてはオウザの秘剣を食らう!
しかし。オウザは、この全ての攻撃をフェイントとして使っていた。
初見ならばともかく、ネイキッドの目はこの攻撃パターンを目撃、記憶している。それも、今日。ついさっき。
だから必ず引っかかる。
おれの全身全霊、受けてもらおうか!!
オ オ
巨大化、威力を抑え速度を引き上げ鋭い動きを意識。はっきり言って通常魔法レベルなら、巨大化使用時のネイキッドなら触るだけで消し去れる。
それだけで全ての魔法を迎撃し、最後のオウザの突きにも対応。
バキン
二度は食らわない。オウザの貫風は一直線にしか発動しない。
魔法を潰しがてら、剣を手刀で打ち、へし折る。それだけでオウザの全攻撃を無効化。
楽しい時だったが。
終わらせようか。
廃滅を待ち構えていたネイキッドは、どうやら来ないと判断。防御から反撃に転じる。
オ
ゴ!!
ネイキッドはオウザ本体に攻撃を仕掛けるその寸前、全速力で逃げ出した。
何か、居る。
かなりデカい存在感。
それを背に感じたネイキッドは、オウザとその何かを同じ方向に捉えられるよう、立ち位置を変えた。
オ オ
竜。それも見覚えのない竜。それがオウザと並び立っている。
身の丈、100メートル超。200はないか。4足で接地、頭部をこちらに向け、オウザを全く敵視していない。従魔か。
数十メートル以上の距離をとったというのに、まだ間近に居るような存在感。
すごいな。
魔王ユーシアと生活をしているおれでも、こんなものは見た事がない。
だが、分かる気がする。
「本当に。お前と戦えて、おれは嬉しい」
「出来ればその期待、裏切りたくないっすね」
ネイキッドは心底楽しそうに。オウザは疲労の影と緊張をにじませながら。
2人は動いた。
ゴオオオオオ!!
竜の口が開き、吐息がネイキッドを襲う!
炎が世界を焼く。しかしネイキッドは無傷。本気の巨大化によって、左腕を肥大化、全身を防御。熱いとすら感じていない。
が、ヤバいとは感じていた。
空気が、無くなる。
周辺一帯を炎が舐めているせいで、ネイキッドの生存可能領域はガンガン減って行く。しかもここは竜の谷。元々、酸素たっぷりの地帯ではないのだ。
時間をかけると、不味い。
だが防御に回ってしまったおかげで、巨大化を解除出来ない。とっとと抜け出しておけば良かったか。
それでもこれを味わわずに戦いを終えるなど、絶対に出来ん。
炎王、なのだろう?オウザ。
オ オ
吹き上げる炎風が結界をあぶる。自身の生み出した竜の炎を防ぎながら、オウザは上空で戦いを見守っていた。
結晶にて創造した従魔。その力は創造主である魔法使いの力量に依存する。例えばスガモが本気で作ったなら、戦士ヴェルグにほど近いレベルの従魔を数百という単位で生み出し、従魔軍団を結成する事すら可能だろう。この世界ごと、一瞬で崩壊させられる。
現時点のオウザでは、流石にそこまでは無理だ。
攻撃しながらこのエリア一帯に網の目のように散布した自分の魔力を丁寧に竜の形に構築。そして形が組み上がったなら、一気に肉を付ける。物質化するまで密度を高めた魔力で再現した炎王の肉体は、一般の魔法を一切受け付けず、物理攻撃すら受け流す。見た目は生物でも、その実は編み上げられた魔力ロープの塊なのだ。殴り付けた所で、どうにもならない。
この操作を、ネイキッドとの接近戦をこなしながら行っていたので、オウザも十分に化け物の領域に踏み込んでいる。オウザ自身はネイキッドとの差に悩んでいても。
そして竜はちゃんと機能している。体内に形成した燃焼発動機関(オウザの自作した魔力結晶を組み込む事によって成形。そして従魔全ての性質として、主人からの外部コントロールが効く)も確実に作動している。
ネイキッドも楽しんでくれているようだ。
オウザの狙いは、この竜との共闘。盾役を使いつつ、自身は魔法砲台と化す。
つまり。以前なら、ネイキッドがやってくれていたポジションなのだ。竜は。
そしてこれほどの巨大な従魔の製作は、鍛え上げられた現在のオウザの魔法技術をもってしても、なお厳しい。
オウザは現在、全魔力量の半分超を失っている。5割をそのまま従魔に注ぎ込んだために。走行や電撃は慣れている事もあって、あれだけ撃っても1割しか消費していない。これからもまだまだ撃てる。当たらなければ、どうしようもないがな。
が。
なんとか、なりそうだ。
竜はネイキッドを封じている。
炎王をモチーフに、スガモ師匠やヴェルグ師匠に教えてもらった魔法使いと戦士の関係から導き出した、最強の従魔。
現在のオウザの出せる、最高戦力だ。
これを作るために、廃滅などの高消費魔法は使えなかった。無駄遣いをする余裕は無い。
相手はネイキッド。
廃滅がそのまま当たるわけがない。オウザは最初から、その選択を消していた。
同じく教えを受けた魔法王スガモから、口を酸っぱくして教わったのだ。
カウンター魔法一発で、戦局はひっくり返る。そして魔法使いにはそれが出来る。ネイキッドも、いや、ネイキッドこそ、それを血肉に染み込ませられるようにして習い、覚えたのだ。
ネイキッドが走行や電撃に気を取られているなら、使う隙もあろうが。今の巨大化一発でかき消される状況では、絶対に当たらない。
従魔に前衛を任せ、ネイキッドの体力を削る。そんな基本的な戦術を愚直に実行する。
戦いのレベルが高くなるほど、奇策の通用するような甘さは消えて行く。
ゆえにこの単純な作戦こそ、対戦士戦術の極み。
そしてネイキッドはまだ動かない。
体力の3割を消耗した。まだオウザに一打も与えていない状況で。
流石だ。
出来れば、もっと楽しみたい。
オウザの技をこの五体に刻みたい。
オウザの今までの年月を知りたい。
鍛えた魔法の練度を、剣舞の鋭さを、戦略の巧さを。
炎のブレスを受けるたびに、お前を感じる。
そろそろ、頃合い。
おれとお前の今を交える時。
だから、死ぬな。
おれの本気でも。
生きろ。オウザ。
オ
前触れは無かった。何も感じなかった。
ゆえにオウザは一瞬、自分の目がおかしくなったのかと思った。
人など比べ物にもならない巨躯を誇るはずの竜と、ネイキッドが五分に組み合っている。
これが本気。
巨大化、全身行使。
グ オ
がっぷりと組み合う、竜と人。
竜の腕力。オウザのコントロールによる身体構築魔力ロープの引き絞りから生み出されるソレは、モチーフである本来の炎王をすら上回る。従魔はその身体構造の全てを術者の操作に依存している。魔法の多大な出力があればそれで完成、ではないのだ。裏を返せばいくらでも複雑化、強化も出来る。
伊達にオウザの全魔力量の5割が投入されているわけではない。魔力ロープ一本を作成するにあたり、より細かな魔力線から生み出しているため、見かけ以上の魔力密度と剛性を誇る。1ミリにも満たぬ細さの魔力線をロープになるまで編み上げ、束ねる。そこから竜の身体を模した形状を作り出し、攻撃と防御に適した生物学上地上最強の戦闘スタイルを選択。想像も出来ぬほどの手間暇をかけて生まれた、これがオウザのとっておき。
名をカヴァードドラゴン。
スガモ。そしてヴェルグか剣王でもなければ、これを倒せる個人は地上に存在しない。剣は通らず、魔法を弾く。
その程度の自負のある秘技を、オウザはネイキッドにぶつけた。
のに。
ゴ オ オ
押されている。人の百倍の大きさを、比較にならないはずの戦力を、ネイキッド1人に押し込まれている。
カヴァードドラゴンが、力負けする?一本で数百トンからの荷物を引っ張れる魔力ロープ数億本を用いたカヴァードドラゴンが。
涙を溜めながら、オウザは胸を押さえた。
ときめいていた。
人の身でありながら、超常の怪物と五分に組み合い、決して逃げない。
ネイキッドの姿こそ、いつかオウザが夢見た勇者そのもの。
魔法攻撃も忘れて、オウザはネイキッドの戦いを見詰めていた。
なぜ、おれは。
ネイキッドの隣に居ない?
空の上でただ1人。
オウザは静かに泣いていた。




