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新国誕生。

 久方ぶりに血を吸った剣の手入れをしたいイルマは、兄らの馬車に乗せてもらっていた。


 鞘と剣をよく洗った上で、専門家に見せる。


「芯は無事だが、一度ちゃんと研いだ方が良いな」


 そう言って、第4王子ライゴウが剣を研ぎ始めた。


「ありがとうございます、ライゴウ兄上」


「今回はお前だけを働かせたからな。これぐらいはさせてもらおう」


 兄弟の中で最も剣の整備の上手いライゴウが、可愛い妹の愛刀を手入れする。微笑ましい光景であった。



 勇国王都は落ちた。


 王城は無抵抗で陥落かんらく。決死の抵抗を訴える王らは、剣の一族によってもろくも捕縛され、虜囚りょしゅうき目に合っていた。


 そして次の王と、国が決まる。



 魔国。剣国。律国。勇国以外の3国の代表が話し合いを持ち、次なる世界のかなめを打つ。


「戦士ヴェルグ殿を推薦する。無論、今の律国にあの方が必要だというのは重々承知。だが、オウザ殿の護衛ならば我らを頼ってもらって構わないのだ。友を守る剣。剣国にはいくらでもある」


 剣国代表ショーティアが語る。彼はこの場に、剣王代理として来ている。彼の語る言葉は全て剣王の言葉。


 そしてその内容は刺激的だが、意外でもなければ、論外でもない。むしろ、これ以上なく妥当。


 現代世界における偉人の1人、戦士ヴェルグ。彼に国1つ与えるのは、慮外りょがいでは決してない。その程度の功績は積んでいる。


 更にヴェルグを律国から離れさせてはならない理由。律王の守護。流石にヴェルグには遅れを取るが、剣の一族から誰かを派遣しても良い。オウザと馬が合う剣の子も、それなりに多い。


「律国は、剣国王族のどなたかを推薦します。律国、そして魔国ともに人を出せる余裕はなく、そして剣国から最も離れた勇国にて剣の一族が強大な影響力を振るう事も難しかろう、と。律王は世界全体を見渡して、そう考えています」


 律国代表、剣客イルマが語る。


 自らの兄弟の事を語るのも不思議なものではあるが。勇国の今後を考えての戦争に来た以上、当然オウザや律国議会、そしてヴェルグの意向が律国内部でまとめられてから、イルマが来ている。


 剣の一族の威光が強化され過ぎるのではないかとの懸念は、魔国に対してのみの発言ではない。どちらかというと、剣国に向けての言葉だ。


 いかな剣の国だろうと、剣国の権勢をただただ強化するだけの戦略には乗れない。


 4ヶ国での協調、足並みをそろえての発展こそ肝要。


 勇国をいたずらに消し飛ばさないのには、理由があるのだ。


「魔国も律国と同意見です。次なる新国の王には、ショーティア殿を推薦します」


 魔国代表ドロウが語る。


「ショーティア殿の秀でた人格、知性、統率力。全て、王の器に相応しいものであると認識しました。ぜひとも、ショーティア殿の治める新国と国交を温めたい」


 魔国の窮地を救われた経緯からの理解。


 ショーティアには、上に立つ度量がある。


 他国との交渉が出来、常人と会話が成り立つ。噂に聞く剣の一族とは裏腹の常識人。そして、単独でも強い。


 王に望まれる全ての条件を満たしている。


 無論、ドロウの思い描く将来の魔国が協力し合える人材として最も相応しい、というのが一番の条件だ。



 各国三者三様の意見が出揃でそろった。


 本来、ここに勇国の意見も加わるわけではあるが、今回は言うまでもなく見送り。


 そして、この3つの意見をまとめる必要がある。


 では、どうやって?


 各国を引っ張って行くリーダー国は存在しない。あえて言えば、かつての律国、勇者メイストームをようしていた頃の律国ならばともかく。


 剣王ユーベルですらが、言ってしまえば一国の代表でしかない。4ヶ国を1人の手にまとめ上げるなど、人間の手には余る。


 ゆえにケリは試合で付ける。万人の目にはっきり分かるように。


 国王自身の実力が必要なのは、このためだ。もちろん、この場に剣王代理としてショーティアが来ているように、律王代理としてイルマが来ているように、代理を打ち立てる事も可能ではある。名が売れていなければ、必然的に王のカリスマは薄まるが。



 場所を勇国王城中庭に移す。護衛兵もここには居ない。


「やれやれ。楽は出来ないものだね」


「我々は兄上を推しているのですから。その信の重みは感じて頂きませんと」


 ショーティアとイルマのほのぼの会話。ベリルらも試合場を取り囲んで、審判役に余念がない。


「私としてはイルマ殿にお任せしたいものです。斬られるのは好きではないので」


 ドロウは謙遜ではなく、大真面目にショーティアとの試合を望んでいない。


 が、それはショーティアもそこまで変わりはしない。にっこり笑って言った。


「私も、魔法の的になるのは趣味ではありませんよ」


 魔国と律国は同意見なので、ドロウ、イルマの2人がかりでショーティアと戦う事になる。これは1対1を2回でも、2対1の形でもどちらを取っても良い。


 2対1。


 いかなショーティアと言えど、厳しい数字だ。


 しかもその1人が、今も笑みを絶やさずウキウキで剣のグリップを確認している、現時点でも世界で上から数えたほうが早い実力者、イルマとあれば。


 困るなあ。



 イルマと同じように、ショーティアも剣を握り締める。


 その所作しょさで、イルマの雰囲気も変わる。勇国兵1000名以上を単独で相手取ってまるで意に介さなかったイルマの目が、変わる。


 周囲の剣の子らも、他の見物人に被害が及ばないよう気を引き締める。


 両者、得物は木刀。殺し合いではないので。


 ただ、この2人が持った木刀は鉄を容易く両断するので、意味があるのかどうかはあれだが。


「審判は、剣国第3王子、ベリルが務める!開始!!」


 何はともあれ始まった決定戦。


 剣国。そして律国、魔国。どちらも、死んでも推さねばならないというほどの熱意でもない。出来ればこの路線で、程度だ。だからこの試合は死合にはならない。安心していて良い。


 はずなのだが。


ギン!


 イルマの間合いに踏み込んだショーティアの肌が、弾ける。木刀を握っていた右腕が打たれた。見えない速度で。


「痛い。もう少し手加減してくれ。イルマ」


 確かに直撃したにも関わらず、ショーティアは足を止めない。打たれた腕をかばいさえしない。



 イルマはお喋りには応じず後退。悠々と接近して来るショーティアから距離を取る。


ザ オ !!


 そしてイルマの無数の斬撃が、ショーティアを左右から斬り刻む!!


「すごいな。全く見えない」


 それでも。


 ショーティアを止める事は出来ない。



 我が兄ながら。


 これは、王に足る器。


 推した甲斐がある!



 イルマは抜き打ちの形で、木刀を地面に押し付け、鞘代わりとした。加速のための足場だ。


 本気を出す。


「おいおい。私でも死ぬぞ」


 数瞬前に滅多打めったうちにされたはずのショーティアは、苦笑をたたえながら、まるで変わらぬ足取りでイルマに近付く。


オ!!!!!


 木刀が走る!!


 振り抜いた腕さえ見えぬ速度でイルマの抜き打ちが横一文字にショーティアの体を捉える。


 イルマの斬撃は例え棒きれを用いた所で、鋼鉄程度では止められない。しかも今は天風をもって更なる加速を実現。いかな化け物でも、無傷ではいられない。


 が。


バキンッ


「あ、っと。これは私の負けかな?ベリル」


「ああ。この勝負、剣客イルマの勝ち!よって、律国、魔国の意思が尊重される!!この決定戦は剣の一族が確かに見届けた!」


「魔国魔法使いドロウ、異存無し」


「剣国代表ショーティア、承諾した」


「律国代表イルマ、ありがとうございます」


 無事に終了。


 イルマの剣が、ショーティアが盾代わりとして差し出した木刀を木っ端微塵に破壊したために。


 ゆえに、イルマのプライドは傷付けられた。


 速度で己に遥かに劣るはずの兄に、攻撃を完全に防がれたため。


「兄上。もう一勝負」


「ダメダメ。もう私の体はボロボロなのだから」


 珍しく子供じみた事を言い始めたイルマを、兄は優しくなだめる。


 嘘ではなく本当に体が痛かったショーティアは、本気でこれ以上は勘弁、と思っていた。


 傍目はためには、化け物であるイルマの斬撃を受けて余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の、もう1人の化け物にしか映らなかったが。


 なぜなら、イルマが粉砕した木刀の破片は、間違いなくショーティアに直撃していた。時速数百キロで突っ込む数千の木っ端がショーティアの肌に突き立・・・たなかった。眼球すら、まぶたを閉じただけで完全防御とし、顔と服を払うだけで何事もなかったように。


 ちなみにショーティアに当たらなかった残りの破片は、剣の一族が斬り払って、観衆を守っていた。


 ただ。


「はっくしょん!」


 鼻から入った微細な破片が、ショーティアのくしゃみを誘発。


 確かに。これ以上は、ショーティアの身が危険なようだ。くしゃみが止まらなくなってしまう。



 全く。これは治るのに二日はかかるだろうな。


 打撲だぼくの痛みを味わいながら、鼻をかみながらショーティアは思った。


 ユリスト姉上の居ない今、やはり剣国を継ぐのはイルマしかない。


 ・・・同じ攻撃を何度も続けて食らえば、一度ぐらいは止められる。しかも実戦ではないので、イルマの狙う箇所は当てやすく死ににくい場所に限られる。眼球やのどは考えなくて良い。更には地面を加速の引き金とした振り切りである以上、真正面以外には有り得ない。


 ここまで条件がそろっていれば、流石にな。


 最後に一度だけ、兄としての面目を保てたかな?と胸をなで下ろしたショーティアであった。



 決闘終了後。一堂は場所を先ほどまでの議場に変え、次の新国の名と役割について話し合う。


「和国。和を重んじ、調和を尊ぶ国」


 ドロウの案。ショーティアの人柄を反映させたような国号だ。


「豪国。勇国が忘れていた豪胆さを取り戻し、かつての勇猛な勇国を思い返させる」


 イルマの案。ショーティアの戦い方を反映させたような国号だ。


「水国。名は体を表すという。勇国民の誇るべきは、水と共に生きて来た己らの心の有り様であって、それは魔軍に屈するためのものでない事を思い出してもらう」


 ショーティアの案。次の誘惑に乗らせない事を目的とした国号だ。なにせ、次の反乱時に飛ぶ首は、自分のなので。それは真剣にもなる。



 今度は決闘を用いる事もなく、和やかな雰囲気のまま会議は続き、最後にはショーティアの案が採用された。どれも良い案であったが、結局は当事者の意向が最優先される事となった。


 新たな国は、水国。そして名は。



「水国ヤナセ」



 今ここに、魔国ルオボ、剣国ディオソア、律国リトリオ、水国ヤナセ。


 4ヶ国が復活。新生した。


 魔王に立ち向かう準備は十全。もはや、人の裏切りは発生しない。

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