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律国は血に染まり。

 傷を癒やしたネイキッドと、双剣を抜いたユリストが並び立つ。


「想像より遥かに強い。ユリスト。力を貸してくれるか」


「無論」


 こちらは前衛を2人に増やす。1人では、勝てない。


 あれでも、勇者の天風を失い、全盛期とは比べ物にならないほどに弱くなっているのだが。



 左右に分かれたネイキッドとユリストが、斜めから同時に襲撃する!



 右から来るネイキッドに、メイストームは無意識領域での反射のみで対応。速度は先と同じ。警戒の必要なし。


 問題は、左のユリスト。



 こいつ。


 巧い。


 この運足うんそくは、あのバカ譲りか。大地を完全に掴んでいる完璧な足運び。一瞬一秒、全てのタイミングでカウンターを取れる。にも関わらず、バカみたいに速い。



フッ


 !


 ネイキッドを斬殺するはずだった一撃は、完全に躱された。ネイキッドの足が間合いの寸前で止まった。


 そして。


ボトリ


 メイストームの左腕が落ちた。


 ユリストに斬られたのだ。


「間を置くな!!一気に畳み掛けろ!!!」


 ユーシアの声が走る。


 ユリストはその声に忠実に動く。明確な勝機。


 名剣中の名剣であろうメイストームの握っている剣でも、やはりこの二刀には敵わない。


 ネイキッドが襲われた隙に、右の振り下ろしを避けさせ、左薙ぎを的中。出来れば剣を落としたかったが、それは贅沢か。


 ヤヨイ王にはネイキッドが抑えに回っている。流石だ。爆弾でも使われれば、また振り出しに戻るかも知れない。


 ユリストは両の手に握った魔剣、動来子アニマストーム植来子プラナストームを最速で振りかざした。ユーシアからの強固ツモリイシはそのまま、走行ルナによる自己加速も成功している。


 メイストームの右腕に残っている剣には、動来子で対応。植来子で肉体をぶった斬る。



 ヤヨイは、メイストームの腕が飛ぶのを見ながら、次策のタイミングをはかっていた。


 目の前にはヴェルグの愛弟子。元勇者は片腕が落ちて圧倒的不利。敵首魁である魔王は完全な無傷のまま。


 窮地である。


 経験上、何度も遭遇した程度の。


 さて。


「ネイキッド。痛い目に合わせるのは本意じゃない。大人しくしていれば、すぐに死ねる」


 その王の言葉を聞いた時、ネイキッドは血の温度が下がったように感じ、めまいすら覚えた。


 が、持ちこたえる。


「王よ。積年の恩義に仇を持って返す事。申し訳ありません」


 真っ直ぐ目を見て、殺傷意思を伝える。


 その様に、ヤヨイは諦めと共に暖かな気持ちを持った。



 ネイキッドは、1人で立っている。


 立場を得て、それを守る意思を固めている。


 何はともあれ、独り立ちしたか。



 なら、僕もちゃんと、大人として向き合おう。




 ち。


 ダセえから水来子アクアストームだけで良いっつったツケかぁ?


 動来子アニマストーム植来子プラナストーム。良い斬れ味じゃねえか。デザインは相変わらず、ダメダメだが。


 土来子グランドストームも置いて来ちまったからなあ。守り刀にもなりゃしねえ。


 メイストームは対峙したユリストに微塵みじんの隙も甘さも見えないのを認識して、勝機逸失を完全に理解した。


 勝てねえ。


 ボタボタと流れ落ちる血を止める手段も無い。止血している隙に殺される。回復の出来るヤヨイは、ネイキッドに止められている。


 潮時だ。


「オラア!!」


ドオ !!


 最後の力を振り絞って最大の攻撃魔法を仕掛ける。と言っても、最初のと同じ。水庫ロトンで固めた空間内部に電撃スピアを充満。そこに燃焼ロウガを突っ込ませ、限界まで膨張させてから、水庫ロトンを解除。


 大爆発。




 悪あがき?ユーシアはメイストームの行動をかいしかねていた。


 一度効かなかった攻撃を再度仕掛ける意味は。目潰しが有効でないのは、ネイキッドへの初撃で理解しただろうに。


 戦況を後方からじっくりと眺めているユーシア。ずっとヤヨイの動きを警戒していたのだが、ここまで順調過ぎるほど順調。


 ヴェルグの気配も感じ取れない。まだ剣国から動いていないのだ。オウザ、イルマに関しても、高速移動する物体はこの王都周辺にはない。


 当然、ユーシアは戦線を開く前に王都を囲むように監視を設置している。流石に防壁内には入っていないが、外はガッチリ固めた。そこまでマメな働きを期待してもいけないが、ヴェルグ級を見逃すわけはない。はず。・・・かつては勇者も助力を受けていたのだから大丈夫じゃないかな多分。


 そんなこんな。ユーシアはネイキッド、ユリストの2人に強固ツモリイシをかけ続け、結界を維持し続け、どうやら勝った。そう思っていた。



 だが。人類は、もう少し強かった。



オ!!!!!


 轟音。勇者大通りが破裂するかと思われるほどの大音量が突如として鳴り響いた。


オ!!!!!


ゴ!!!!!!!


 しかも、鳴り続ける。


 ユーシアらを打ち鳴らしつつ。



 火砲か。ユーシアは自らの結界に当たっては消え失せる塊の正体を察した。


 しかし、王までが参戦しているこの戦場に、躊躇ちゅうちょなく撃ち込むとは。人も、それなりに覚悟を決めているのか。


 その決心に、ユーシアは賞賛の念を持った。



 混合魔法の土埃つちぼこりが晴れる前に始まった砲撃の最中、ヤヨイとメイストームはなんとか合流していた。


「がぁっ・・」


「我慢我慢」


 そしてメイストームはヤヨイにドラゴンドリンクを飲ませてもらい(片腕が吹っ飛んでいるので開封出来ない)、左腕を復活させる。


 斬られた腕は、痛いというより、喪失感の方が大きかった。だが、治る時は執拗しつようなまでの痛みを味わう。今までは、あまり感じた事もなかったが、こんな痛みなのか。


 メイストームは顔を歪めながら、再生する左腕の痛覚に耐えていた。


 砲火を水庫ロトンの壁で防ぎながら。



「大丈夫か」


「ああ」


 ネイキッドは一時的にユリストと合流、防御に専念していた。


 いかに魔王の結界が身を守っていようと、視界は完全に死んでいる。煙で何も見えない。混戦になると、せっかく傾いている天秤がひっくり返る可能性も出て来る。ネイキッドは慎重策を取った。


「この砲撃も、長くは続かない。いくら何でも、大戦争の備えなんてない」


 ヴェルグに師事していたころ、一応律国全体の戦力についても教わっている。火砲は魔砲と共に、剣士隊が切り込む前の前哨戦でしか使用しない。重くかさばる上に、上級魔族には当たらず竜には効かない。あくまで敵を削るための砲撃だ。


 今回は、背水の陣。こちらを倒すために撃っているのだろうが。


「王とメイストームは逃げると思うか?」


 ユリストはネイキッドからの説明を受けながら、次の動きを考えていた。


 間違いなく、メイストームは腕を治している。ドラゴンドリンクか、それに類する秘薬を使用しているはずだ。


 もう一度同じ事が出来るか。


 出来る。


 もしも同じ剣を持っていたならともかく、今はこちらの得物の方が上。


 ヴェルグの居ない今しかない。あの男が来たら、どうにもならなくなる。


 今、勝つしかない。


「絶対に逃げない。住民はまだ防壁内部に残っているはずだ。外に出れば、順次魔獣のエサだからな。民が残っているなら、ヤヨイ王は絶対に逃げない。王は国民を必ず守る。そしてメイストーム師匠は、仲間を必ず守る。だから、2人は逃げない。ここで、殺れる」


「分かった」


 魔力はまだ持つ。動来子、植来子を振るう度に体がきしむ。魔力回路が全力回転しているのが分かる。


 それでも、ユーシアと共に鍛えた体は、まだ持つ。


 スガモには敵わなくとも。


 この私に残されたものを守るだけは、やってみせる。



「メイストーム。次が最後の手順だ」


「ああ」


 王城を廃墟と化し、勇者大通りを戦火で焼いた。ここまでやって、魔王は恐らく無傷。


 だが、こちらも生き残っている。あちらも無限の体力を持っているわけではない。集中力、気力は戦闘時間によって徐々に消耗して行く。根比べなら、本拠地に居る我々が有利。


「乱戦に乗じて、ユリスト君以外を始末する。兵は全て、盾、もしくは囮として用いて構わない」


 ユリストは意思があろうがなかろうが、剣国に向けて送る必要がある。それが義理というものだ。


 メイストームは、ヤヨイのその言葉から、不退転の決意をみ取った。


「カザマはどこだ?」


「魔王と正対する位置を取るよう命じてあるよ。常にこちらと連携して裏を取り続けられるように」


「分かった」


 ヴェルグ以外との連携。久しぶりだな。


 メイストームはそのケタ外れの強さのため、共闘出来る人類と出会う事自体がまれ


 カザマと、ってのは引っかかるけどな。



「砲兵、撤退しました」


「良し。続いて戦士隊、弓射。煙が晴れるまで。剣士隊は抜刀せよ。視界が開け次第突入。近衛は王の下にひた走れ。戦士隊は剣士隊に合わせての射撃、そして追撃。タイミングを逃がすなよ」


「はっ!」


 砲火は既に止んでいる。走行ルナを使われれば、すぐさまこの煙も消えるだろう。


 敵は魔王。


 この場に居る全員が死ぬのだろうか。


 出来れば、生かして帰してやりたいが。


「煙、晴れました!」


「行くぞ!!」


オオ!!


 カザマの号令に従い、戦士隊が後退、剣士隊が切り込む!



 動き回る気配。しかしユーシアは結界強度を引き上げはしなかった。


 下級竜にも劣る雑兵風情が。何万人来ようと、どうにもならんわ


 ユーシアは、メイストームとヤヨイ以外の兵を脅威とは、一切考えていなかった。


 それは間違いではないのだが。



 ネイキッドは周囲に集い来た兵を全て薙ぎ払った。ユリストの手をわずらわせるまでもない。右掌一振りで、数十人の腕利きが死んだ。


「ネイキッド。絶対に離れるな」


 ユリストは、律国側の狙いに既に気付いていた。


 乱戦。


 視界の全てが煙から兵に変わっている。ユーシアの加護は途絶えていないが、もう見えない。うかつに走行ルナを使って、こちらに弾き飛ばす事を恐れている。手加減した電撃スピアを全周囲に撃っても良いが。やはり、メイストームの姿を完全に見失ってしまう。


 恐らく、それが敵の目的。人の壁を作りながら、メイストームの一撃をこちらに届かせる。


 奇襲を食らえば、いかな魔剣であろうと意味はない。一振りで殺される。


 ネイキッドが周囲の視界を開き続けるのを、ユリストは最警戒しながら見ていた。



オ オ オ


 咆哮と共に、兵は敵首魁を狙う。同僚が同胞が、ゴミのように死に続けても、なお突っ込む。それ以外、国を、家族を守る方法が無いのだから。


 その兵らに紛れて、ヤヨイは近衛と共に魔王を目指していた。


 1対1なら、勝てるはず。魔王の脅威は右腕。そして魔力。


 なんとかなる。


「見えました!」


「良し。全員で同時にぶつかる」


 これはつまり、全員に死ねと号令をかけたのと同じ。だが、ヤヨイには寸毫すんごうのためらいもなかったし、近衛にも行動の遅れはなかった。


 戦士が国の盾であるように、近衛は王の盾。そうなれない者は、近衛には選ばれない。カザマが選抜した成績優秀かつ命令に絶対忠実な最精鋭。それを、使い潰す。


 王命なれば、近衛は動く。そのように教育されたから。そして、王までが戦場に立っている以上、王を先に死なせるわけにはいかない。



ゴ!


 ユーシアは人波の収まらないのを辛抱強く耐えていた。ネイキッド、ユリストへの結界は届いている。視界からは消えていても。なら、大丈夫だ。


「覚悟!!」


 声を上げて突っ込んで来る人類。1人ずつ燃焼ロウガで始末するのも、もう飽きた所だ。それでも電撃スピアの雨を降らせると、視界は更に悪くなる。効果範囲を絞らなければ、視界が狭まるのは同じなのだ。飛びさえすれば、その面倒もなくなるのだが。それでは、ネイキッドらから離れすぎてしまう。


 人間共の悪あがき。とは言え、それはユーシアをちょっと手こずらせていた。


 警戒心と集中力を、わずかに削り取る程度には。


 ずっと続く兵の特攻と全く同じリズムで、近衛も突っ込む。だがユーシアからはそれが違う兵だとは認識出来ない。強すぎるがゆえに、そして剣士としての力量はないために、兵の質に気付けない。


 ?


 燃え、ない?


 燃焼ロウガちりになるはずの兵が、直撃を受けてなお接近して来ている。


 ここでユーシアは少し焦った。結界は常人に破れるほどの脆弱ぜいじゃくさではない。だが、人の壁が積み重なると、メイストームの動きに気付けなくなる。


 仕方ない。


バ!!


 走行ルナ、全方位放射。ネイキッドらの結界を叩く事にもなるが、我慢してもらおう。


 が。


 兵らは身を丸めるようにして防御しつつ、更に接近。


ガン!


 ついには、ユーシアの結界を叩くまでに。



 ユーシアは再度の世界侵攻にあたり、世界中の人類について調べている。


 だが、世界の地理については氷土以外あまり知らない。


 ましてや律国の僻地へきち、竜の谷など。炎王の居ない今、ユーシアが興味をひかれるものではなかった。


 だが、人類は調べ続けていた。


 そのため、モズクなる竜を新発見。そして研究。魔法を吸収するその身体組織を利用した防具を作る程度には。



 勇者以外の人類では、魔王には勝てない。


 それでも人は歩みを止めない。


 だから、いつかは魔王を苦しめるぐらい、出来るようになるのだ。



あみを!!」


バッ!!


 後衛に配置された近衛4人がかりの大網が、一斉に魔王へと放り投げられた。


 走行ルナ退しりぞけようとするユーシアだが、それは鎧の上に縫い付けたモズクの繊維と全く同じもの。魔法を吸うのだ。


 見事にユーシアは罠にかかった。


 こうなれば、もはや電撃スピアも意味を成さない。文字通り、袋のネズミだ。


「右腕に注意!!残り全部位を貫け!!」


 例えどれだけユーシアの肉体を傷付けようと、魔王は簡単には死なない。かつてメイストームが実証してみせたように、首を落として頭部を消滅させてさえ、生きているのだ。


 だが、完全不死ではありえない。それならあの時、魔王が逃げる必要はなかった。


 頭を消しただけでは死なないが、全身を消されれば、流石に死ぬのだろう。だからメイストームから必死で逃げた。


 ゆえに治る前提で、兵は魔王を串刺し、ヤヨイかメイストームに消滅させてもらうまで、この死地に留まるのだ。



ビキ


 ユーシアを串刺しにするまで、ヴェルグとイルマの訓練を受けた最上級兵10名が氷漬けになった。が。


ゾ!!


 残り10本の刃が、魔王を大地に縫い付けた。


「こらえろ!!!」


 滅多には聞かぬ、ヤヨイの切羽詰まった声。その声に、近衛は自らをも大地に縫い止めた一本の杭と化し、魔王討伐のいしずえとならんとした。


 近衛の後ろでタイミングを待ち構えていたヤヨイは、清めの儀式を始めた。


 かつて魔将ツメクサに行ったもの。その儀式を倍加して行う。


 なおも意識を保っている魔王には、あの時と同じ要領では上手く行かない。ゆえに、強引に行かせてもらう。


ドボドボ


「・・・」


 歯を食いしばりもしない。その様子に、ヤヨイは敵ながら感嘆した。


 突き刺した剣を通して魔力減退効果のある薬湯を流し込んでいるのに。


 これで魔力を消耗した魔王より、ドラゴンドリンクを所持しているヤヨイの方が、一時的に総魔力量で上回る事になる。


 ヤヨイは自らの身体にドラゴンドリンクを振りかけて、魔力をつないだ。次に魔王の肉体にドラゴンドリンクを文様を描くように振りまく。


 ここからが、律師の本領だ。


 つないだ魔力を通して、魔王の魔力回路をふさぎ、残った全身の魔力を空に解き放つ。さすれば残るのは、魔王の死骸のみ。


 魔力回路を持った全生物は、魔力無しには生きられない。



「おれの妻から離れてもらおうか」



 威圧感があったわけでもないその声に、ヤヨイは寒気を禁じ得なかった。


 ・・・ネイキッドはメイストームが止めているはず。


 なのにネイキッドの声が聞こえるという事は。


「勇者メイストームなら。あちらで死骸になっている。私達は死体には興味がない。墓を作ってやると良い」


 ユリストまで。


 魔王を止めている近衛らは、行動を決めかねていた。ヤヨイ王を守らねばならない。だが、動けば魔王を自由にしてしまう。


「ふん」


ゾ オッ !


 魔王は指一本動かす事なく、残りの近衛全員を皆殺しにしてみせた。地面に置いた右腕を通し、大地から氷槍を突き出して。


 更に右腕をモズク網に触れさせるだけで、網は完全凍結。そして。


パリン


 砕け散った。


 律国の生み出した最新魔力防御機構は、魔王の前では紙きれほどの厚みも無かった。


「損な役回りをさせて、すまなかったな」


「何ほどの事でもない。案ずるな」


 ユーシアはネイキッドの心配に、優しく笑って見せた。



「お逃げ下さい!!」


 ここで戦士隊総勢を引き連れたカザマが飛び出して来た。


 カザマの目には、完全に勝機が消え失せたようにしか見えなかった。ゆえに、律国を生かす次善策を取る。


 即ち、王の救命を。


 メイストームが破れた以上、もはや剣国に落ち延びるしかない。ヴェルグに合流出来ればなんとかなる。



「ユリスト。王を頼む」


 そう言って、ネイキッドはカザマの前に立った。


ギャ!!


 戦士隊を一瞬で全滅させながら。


 肉塊と化した戦士達が潰れる音は、生き物のそれではなかった。ただひたすらに硬い何かが、それよりもっと硬いものに潰された音だった。


「・・・!」


 一合いちごうで、カザマはネイキッドのおおよその力量を把握した。


 勝てない。


 だが!


オ!


 ネイキッドの攻撃を受けながら、カザマは生きている。そして反撃まで。


 握った剣は、ヴェルグのそれにも匹敵するほどの大剣。名のある名剣ではないが、長の時を持ち主と共に、ずっと律国を守り続けて来た、由緒正しい剛剣だ。


 ゆえに鉄壁のカザマ。律国ではそう呼ばれるほどの男だ。


ギッ


 ネイキッドが巨大化アズマをかけている、その右手と互角に打ち合う。流石はカザマ。



 昔のネイキッドになら、十分に時間稼ぎが務まったろう。



 右の手がカザマの剛剣を打つ。カザマの肉体が反動に備え、一瞬硬直した。


ギュッ


 その一瞬に、ネイキッドの左手はカザマの全身を握り締めていた。巨大化アズマ中の手は、数メートルにまで肥大化。剛剣もろとも、手の中に包んでいた。


グチャリ


 握り締めた手の隙間から、おびただしい血液が流れる。


 カザマが全身の骨を折り、内蔵を潰され、死んだのだ。ネイキッドは完全に息の根を止めるため、拳をきっちりと握り込んだ。頭部を含め、原型を留めている部位は存在しない。


「ネイキッド」


 巨大化アズマを解除しカザマの残骸を地面に捨てたネイキッドに、ユリストが水筒を差し出す。手を洗うために。


「助かる」


 ユリストのかたむける水筒に手を差し出し、両手を洗う。そしてポケットからハンカチを取り、綺麗に拭く。


 そして笑い合う。家族の親愛の微笑みを向け合い。



 ヤヨイは死を覚悟した。この期に及んで、もはや何も出来ない。


 だが、メイストームがこうもあっさりと負けるとは。


 ヤヨイは、現実感を失いかけていた。


 この世で最も強い男の死に。

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