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激突!

「今、ヴェルグ、オウザ、イルマの3名がそろって剣国に居る。律国はガラ空きだ」


 ある日。朝食を終えたユーシアが、そう言った。


 ネイキッドとユリストは、一瞬で覚悟を決めた。


 ネイキッドはアニムにリスティアを見ているように言うと、アニムらの食事の準備を始めた。遅くなった時のために。



 律国、オウザの生まれた村付近の海岸。現魔城周辺に流入する海水からのルートを逆にたどり、ユーシアの案内で地上に出た。


 ネイキッドとユリストは、実に数年ぶりの表の世界の光景だ。


 季節は秋。柿の実がなり、木々の葉っぱは枯れようとしている。


「急ぐぞ。ヴェルグらが帰って来る前にケリを付けたい」


 ユーシアが2人の手を引いて、3人全員に浮遊ハカイをかけ、走行ルナで一気に飛ぶ。


 数百キロの距離を数分で詰めた。



 懐かしい。


 律国王都、激突門。その正面に下り立ったネイキッドは、初めての気持ちで母国を眺めていた。


 もはや、異国。おれの居場所ではない。


ガシャン!!


 王都門が閉じた。警戒されているようだ。


 どうやら、兵の練度は全く落ちていない。むしろ向上しているのではないか。


 そして王都には結界が張られている。飛んでは行けない。ユーシアなら楽に破れるだろうが。


「ユーシア。ユリスト。力を温存していてくれ」


 先頭を歩くネイキッドは、目を見開き、攻略対象に意識を働かせた。


 見知った兵の顔を見た。激突門の上で、こちらを戸惑いの表情で見ている。おれを呼ぶ声も聞こえる。ヤヨイ王への知らせも走った。


「ネイキッド!!!オウザも、すぐに帰る!!こちらに来い!!!」



 オウザの名を聞いて、なおネイキッドは止まらなかった。



 すまない、とは言わない。許せとも思わない。



 ただ、死ね。


 おれと、おれの家族のために。




「王!ネイキッド少年は謀反むほん!魔王と思しき女性、それにユリスト様も一緒です!」


 近衛が、走り来た兵からの情報を伝えてくれる。


 ヤヨイは池のコイに餌をあげながら、答えを返した。


「全兵を引き上げさせ、王城への道を開けなさい。ヴェルグの居ない今、彼らを止める事は出来ない。無駄死にさせて良い兵は、この国には居ないからね」


 そして続くであろう魔獣、魔族への警戒を。民間人を守れ、と命令は下った。将軍カザマには手順通りに、と。


 近衛は、歯を噛み締めながらも、頷いた。



ゴ!!!


 世界が崩れ落ちるような轟音。王都激突門は、跡形もなく砕け散った。


 無人の勇者大通りを一直線に進んだ3人は、更に王城までも抵抗なく歩み続けた。


 ネイキッドの巨大化アズマで、固く閉鎖されていたはずの通路も、こじ開けられた。


 残るは、王の間のみ。


 ネイキッドが扉を開く。


 ここまで全く兵が出て来なかった。抵抗したのは王都正門の警備兵らのみ。数十人を殺した段階で、全兵が引き上げるのが見えた。


 完全に統率された動き。ヤヨイ王の指揮が生きている。狙いは何か。被害者を少なくしたかった、それはそうだろうが。


 無論。


 ヤヨイは、その程度の思考で、勇者の仲間だったわけではない。


ギイ


 いよいよ、王の間だ。


 王をこの手にかける。その逡巡しゅんじゅんを押し殺していたネイキッドは、だからその者に気付くのが遅れた。



「やっと、顔を出しやがったか。ネイキッド」



 その声、その姿に、ネイキッドは驚きを隠せなかった。


 紅を引いた唇。女より美しい容姿。それでいて、圧倒的な存在感。


 ヤヨイ王の隣に、かつての勇者、メイストームが。


「メイストーム。兵は引かせた。遠慮は要らないよ」


 ネイキッドは作戦の失敗を悟った。が。



 既に戦いの真っ最中だった。




ヴァ ア !!!!




 完全に崩壊した王城の中。いや、中空にて、ネイキッドは己の無事の不思議を思った。だが、その疑問はすぐさま解消された。ユーシアに、腕を掴まれていたから。


「守ってくれたのか」


「妻が夫に尽くすのは当然」


 平気な顔をして、ユーシアが笑った。


 勝てる。この程度なら。その自信が、ユーシアに余裕を持たせていた。



「ちっ」


 メイストームは奇襲の燃焼ロウガ電撃スピア水庫ロトンによる混合爆発が、敵に全くダメージを与えていない事を知った。同じく空で、ヤヨイの手を引きながら。


「やっぱり魔王は強いねえ」


「余裕ぶっこいてんじゃねえ!今はヴェルグが居ねえんだぞ!」


「あはは」


 こ、こいつ・・・。


 確かに命を救ってやったはずのヤヨイが余裕たっぷりなので、メイストームは少々キレていた。


 ・・・律国魔研の魔法使いが全速力でヴェルグの下へ飛んだとして、剣国まで数時間はかかるだろう。


 その時間をどう稼ぐ?


 今の自分では、魔王に勝ったとしても、相討ちが精一杯。ヤヨイまでは守り切れない。


 どうする。


 元勇者。


 人々の希望よ。



 ヤヨイは、それでもゆとりがあった。


 あの頃に比べれば、どうって事はない。


 確かに策は破れた。王城そのものをトラップとするため、兵を引き上げつつ使用人、議員、役人まで撤退させた。その手順をずっと練っていた。魔王の現れた、あの日から。メイストームに遊びほうけているフリをさせながら、側に居てもらいつつ。


 城の崩壊に巻き込んで、魔法攻撃と物理攻撃の両方で確実なダメージ蓄積を狙ったのだが。


 流石は魔王。魔法ではかなわないか。


「前衛は誰になると思う?」


「・・・ネイキッドしか、居ねえだろ」


「そっかー」


 惜しい。魔王なら、殺る自信があった。


 3人の敵が存在する状況でネイキッドを清めている暇は、多分ない。


 池の周囲、王の間付近に準備していた道具は全て回収した。それでも、3人はキツい。ユリストも出来れば生かして捕えたい。


 考えている間に、2人は勇者大通りに下り立っていた。ここが最も広く、人が少ない。


 向こう側も下りるようだ。


「飛んだまま狙い撃ちはして来ないようだね」


「あちらは攻撃魔法を使うつもりがない。強固ツモリイシと回復に専念するはずだ。今のおれらになら、それで勝てるつもりだろうよ」


 ネイキッドが近寄る以上は、間違いないだろう。


 同士討ちで怖いのは、肉体的なダメージではなく、心理的な影響だ。魔王はネイキッドを使い捨てにする気は、まだ無いようだ。動き回るネイキッドを避けて攻撃魔法を撃ち込むのは、いかな魔王でも不可能。スガモならともかく。


「メイストーム。魔王の他のもう1人。あれが、ユリスト君だ。出来れば殺さないでほしいな」


「この不利な状況で、よく言ってくれるぜ」


「そうかい?」


 その、ヤヨイの不敵な笑みに。メイストームさえつられて笑顔を見せた。同じく、敵を知らぬ笑みを。


 一応、メイストームはユリストと面識がある。が、手加減するつもりはあまりなかった。しかし、ヤヨイに念を押されては仕方ない。


 こちらの命を狙う敵3名の内、2人を殺さず止める。


 なんて頭の悪い仕事だ。



 なんて、おれ向き。


 言ってくれるぜ。ヤヨイ。



「ネイキッドを頼んで良いか」


「構わないよ」


「なら、2人ぐらいは任せろ!」


オ!


 3人が向かって来る前に、メイストームが飛び出した!!




「油断はするな。勝てる戦いだが、相手は仮にも元勇者。何をしてくるか分からん」


「十分に分かってるよ」


 ユーシアの真剣な忠告だが、そんな事は身にしみて分かっている。メイストーム師匠が人類の規格外であるのは、オウザと共に、十二分に理解している。


 あれは、勇者だから強いのではない。


 メイストームという男だから、ヤバいのだ。



 ヤヨイ王を置いて1人突っ込んで来たメイストームに、ネイキッドは正対する。どのような策があろうと、敵は2人。雑兵はなぜか消え失せている。邪魔ぐらいは出来るだろうに。


ヴァ!


 先制の電撃スピア。ネイキッドがカウンターを取る、そのギリギリ手前で、目潰しを狙った一撃。広範囲攻撃だが、威力はほとんどない。


 が。


「ま、対策済みか」


 メイストームは前進をストップ。ネイキッドの間合いには踏み込まない。


 ネイキッドは、両の目をしっかと開けて、こちらの動きを見極めんとしていた。



 これが、魔王級の結界。ネイキッドはその効果を初めて体感していた。


 視覚に一切の問題がない。無意識反射で発動する、危機に対してだけ反応する結界との説明は受けていたが、これは便利なものだな。


 そしてメイストーム師匠が止まった。


 この事実。


 勝てる、とそう思ってしまったネイキッドは、ゆえに不用意とまで言わずとも無作為に歩を進めてしまった。


 それはつまり、地上最高の戦士とずっと一緒に戦っていた男の間合いに無造作に踏み込んだという事。


「しばらく会わない内に。おれが誰だか、忘れたのか?」


 やけに静かな声。だが、ネイキッドは黙殺。チャンスを失うわけにはいかない。


 ユーシア、ユリストの2人から強固ツモリイシをかけてもらい、巨大化アズマでフル加速した右の拳を、しかし。


「おせえ」


ブシャア


 躱されざま、両脇を一瞬で斬られた。大量出血した血管は元より、切断寸前の両腕はもう役に立たない。


 メイストームの抜き打ちが、瞬時にネイキッドを無力化した。1秒で、ネイキッドは戦力から外された。


「さて。てめえに会えるのをずっと待ってたぜ。時代遅れの魔王さんよ」


 抜き放った律国宝剣を惜しげもなくさらし、勇者は立つ。


 静かに。


 熱くなる事もなく、メイストームは魔王への純粋な殺意のみを鋭く放っていた。



 強い。


 今のは、勇者の能力ではない。メイストーム本来の実力のはず。


 素で、ここまでの化け物だったのか。


 ユーシアは改めて、勇者のなんたるかを知った。



 だが。



「大丈夫か。ネイキッド」


「ああ」


 先ほど千切られる寸前まで行った両の腕が、もう回復している。物質変換ティアで、失くした血管壁を修復、血液を新調、皮膚細胞を新造、筋肉組織を完全再生させた。



 メイストームは顔色を変えず、しかし内心で舌打ちをした。


 出来れば今、ネイキッドを蹴り飛ばして、ヤヨイの方へ飛ばしてやりたかった。清めた上でドラゴンドリンクでも飲ませりゃ何とかなるだろ、の精神で。


 だが予想より、魔法の発動が早い。


 そしてユリストも、ネイキッドを斬ると同時にこちらに来ていた。うかつな動きが出来ない。


 前回会った時より、強くなっている。


 いや。奴らのチームワークか。


 まるで、熟練のパーティーのような。



 ・・・。


 メイストームは、心に生じた考えを無理矢理飲み込んだ。


 有り得ねえ。


 ヴェルグの弟子が、裏切るなんて。



 有り得ねえっつってんだろ!!!!



 メイストームは己の脳を叱り付けた。ネイキッドの様子から一切の精神操作を感じ取れなかったのは己の気のせいだと、無理にでも決め付けた。


「どうやら、ネイキッドは自由意志であちら側に付いているようだね」


「うるせえ!!」


 まるで空気を読まないヤヨイに、メイストームは怒鳴り散らすしか出来なかった。


「仕方ない。一度は失ったものだ。僕が殺そう」


「・・・・」


 ヤヨイは敵になったネイキッドを即座に保護対象から殺害対象に切り替えた。


 メイストームは、口を開きかけたが、それも数瞬の事。最後にはその判断に従った。


「・・・お前が前に出たら、奴らは容赦なく魔法を使うぞ。殺るなら。おれが、殺る」


 メイストームだから、乱戦となる前提なのだ。敵は。


 ヤヨイの身体能力では、一方的にネイキッドに負ける。技量の問題ではなく、純粋な運動能力で振り回されるだろう。奴は、ヴェルグが手塩にかけて育てた弟子。体力で遅れを取るわけがない。


 メイストームは自前の魔力で対抗が出来るが、ヤヨイでは魔法の直撃を受けるだろう。



 ヴェルグには合わせる顔がないが。


 ネイキッドの首をねる。

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