流れた時間。
「ネイキッド。リスティアの相手もしないか」
「ああ。・・・アニムの相手をしないというわけじゃ、ないさ」
二児の父、ネイキッドは子供2人の相手で大忙しだった。
ユリストの差し出すリスティアを右手で受け取り、あぐらをかいた膝へと乗せる。隣のアニムと一緒に。
魔族の血統は、やはり成長が早いのか、魔王ユーシアの子、アニムは既に10才児並みの体格となっていた。ネイキッドの血も入っているはずなのだが。
「アニム。リスティアはお前の妹なのだ。面倒を見てやらないといけないぞ」
そうは言っても、大好きな父親の膝を半分こするには、リスティアは小さすぎ、弱すぎた。気を使わなければならない。なんとも面倒な事だ、とアニムは思っていた。
「アニムの強さは、私も頼もしく思う所ではあるが」
アニムの頭をなでてやるユリストである。今は席を外しているユーシアの代わりに。
そして2人の子供達の2人の母親の1人として。
そう。
剣王が第一子、ユリストは男性ではなく、女性であった。
女性であるという事実によって舐められるのを嫌ったユリストは、自ら男装し、男としての人生を歩む事を決めた。
元々、長身で骨太の肉体はどちらかと言えば男性らしかったし。剣の稽古の際、全力で発声をしていたため、声は枯れて低くなっていた。男を装うのは、そう難しくはなかった。剣王の子であるがゆえの、あらゆる特別扱いも功を奏した。
そして剣王は、娘が息子の真似事をしようと、それで動じるような神経は持っていなかった。修練を怠らなかったユリストの日頃の行いも大きいか。
それよりは、魔剣にうつつを抜かす事の方を疎んじていた。剣のキレが鈍るのではないか、と。
心配は、要らなかった。魔軍に与するのでは。
ネイキッドとユリストは、ただ2人の人間同士、そして知己としてこの魔の領域で親交を深め。契った。
幸か不幸か、素敵なラブロマンスは、無かった。
お互いの失ったものを埋めるに適当な相手だった。それだけだ。
それだけだが。
ネイキッドはユリストとリスティアとユーシアとアニムを命を懸けて守るつもりではある。
ユリストも、同じく。
「ただいま」
「お帰り」
「お帰り」
ユーシアが帰還した。最近は外出が多い。
アニムがユーシアに甘えたがるが、ユーシアはこれから夕食を作らねばならん。
ゆえにネイキッドと鍛錬をして暇を潰す。
リスティアはまたユリストの側に。
2才児のアニムだが、その実力は既にネイキッドに近いものがある。格闘術、魔法、剣術、そして勇者の天風を使いこなす英才。およそ、天才と呼んでも、親の贔屓目ではあるまい。
「1回勝負だ。おれを倒せ」
笑顔のネイキッドは、アニムを試す。
外に出して良いかを測るために。
ネイキッドを負かせるレベルになれば、常人には勝てるだろう。
剣王などに会わなければ。
構えるのは、かつてユリストが愛用していた魔剣、ルナテア。走行を刻みこんであるので、魔力を伝導するだけで剣速が数段上がり、虚を突くにも防御にも素晴らしく使い勝手が良い。剣国と魔国の本気の連携によって作られた最上級の魔剣、刀魔八剣にも選出された名剣である。
ユリストが振るった時、ルナテアは本来の振りに魔力加速がプラス。8音速までを実現可能となる。
では、アニムはどうか。
ネイキッドはアニムの姿勢をよく観察する。
重心は丁寧に分散されているか。逃げ足は残っているか。攻め時に必殺の一撃を出せる用意はあるか。
全て完璧。なんなら、去年のおれより強い。
これが、我が子の成長を見守るという事。
ゴ!!
速い!10音速を超え、それはいつぞやのヴェルグの抜き打ちの速度にも似た一撃。それをただの一振りで実現する魔力と腕力。更にそれら全てを統合、相乗効果を完全に発揮させる技量。
既に、あの頃のおれ達を超えている。
ネイキッドは色褪せぬ痛みを味わいながら、軽く受け止めた。
ス
指先。人差し指の腹でアニムの斬撃を受け流し、体勢までもを崩させる。
一瞬にも見たぬ時間に発生させた巨大化によって、ノーダメージ。
ネイキッドも、伊達に剣の国の子、そして魔王と時を過ごしていない。
修練相手に不足した時は、ただの一日たりとて無かった。
あの日。この、魔王城に来てから。
旧跡。跡地とは言え、その形骸すら残ってはいない。
勇者メイストームによって完全に更地にされた旧魔王城。その地下に建設されたのが、この新魔王城。
魔王ユーシアが土石魔法によって、1人で打ち立てた記念碑だ。
再起。前進。勝利。希望を、祈りを形にした、3人の愛の家。
その修練場の一角で、ネイキッドとアニムは死力を尽くした訓練を行っていた。来るべき、戦いの時に備え。
即ち。
地上支配の、その時に。
オウザ。
おれにはもう、お前の名を呼ぶ資格すら無いのだろう。
今のおれを、オウザ。お前はどう思う?どう感じる?どう見える?
会いたくない。けれど、おれはお前と会う。
おれが魔王の側近で、お前が次代の勇者である以上は。
おれ達の子を、誰にも殺させやしない。
オウザ。
お前であっても。
だから、オウザ。
お前も。




