氷土にて。終わり。あるいは始まり。
魔王ユーシアは、現れた絶望の象徴に、数十秒ほど呼吸を忘れていた。
カ、カ、カ
自分の歯が震えて音を立てている事にも気付かない。
勇者メイストーム。
それは人類と魔族と竜とを合わせた全ての世界での、最強。
現時点のユーシアでは、死んでも勝てない。
「すまんな」
「良いって事よ」
いつの間にか。メイストームがヴェルグの肩に手を置いただけで、ヴェルグの両腕は完治していた。
ユーシアがボロボロになりながら掴んだ勝機は、既にこの世から消え失せていた。
これ以上は、無理だ。
撤退を決意したユーシアは、ネイキッドの現在位置を把握。一緒に逃げる。
「させると。思ってんのか?」
自身に走行をかけての高速移動を試みようとしたユーシアは、気が付いた時には、全身を黒焦げにしていた。
勇者の電撃が直撃。
全身全部位を同時に狙った電撃である以上、右腕のみが無傷でも、どうにもならなかった。
「が、あ」
声にならぬ声を発しながら、しかしユーシアは諦めてはいなかった。頭部からつま先まで、痛まない箇所が無くとも、明確に己を超えている化け物2匹が相手でも、ユーシアに諦める選択だけは無かった。
だが。
相手が、悪すぎた。
ス
その剣を見る者は、そう居ない。
その剣を振るうべき敵もまた、そうは居ない。
勇者のみが振るう事を許される、地上最強の剣。
名を、選剣。
斬れぬものは、この世にない。
そのきらめく刃が、ユーシアの首に添えられていた。
「遺言があれば、聞いてやる」
勇者の言葉に、体温は無かった。先のユーシアの言葉の数々より、なお冷たかった。
友を傷付けた敵にかける情けなど、メイストームの中には一滴たりとて無かった。
「・・・・お前こそ、悪魔だ」
ザン
魔王ユーシアの首は、飛んだ。
「どうする?ヤヨイに清めてもらうか?」
「いや。律国に持って帰るのは怖い。おれが消すさ」
そうか、とヴェルグは魔王の処理をメイストームに任せ、ネイキッドの回収に向かった。
そしてメイストームは、魔王の首を拾い上げ、胴体に近寄った。
「散々面倒をかけやがって」
勇者の手の中で、魔王ユーシアの首から上は、消滅して行った。魔力と塵、この世の自然へと変換された。
次は首から下だ。
ギ!
だが、死んだはずのユーシアの右腕が動き、メイストームを襲った!
「・・・この、間抜けが!」
ゴン!!
しかし。勇者はただ殴り付けるだけで、その右腕を吹っ飛ばした。
「あっ」
と同時に、敵の真意に気付き、珍しく間抜けな声を発した。
右腕は殴られた勢いを使って、全速力で体ごと逃げた。氷土を打ち割り、氷層下に潜り。
既にメイストームの感覚からも逃げ去っていた。
結果。
「・・・・予想より強かったとか、そういう事にしとこう」
勇者は、友に伝える言い訳を作成していた。
選剣で氷土を割ってしまうと、恐らく魔国や勇国にまで影響を及ぼしてしまう。単純に洪水程度ならともかく、深く断ち割ってしまって、大地が氷土に引き釣られ、沈み始めると、ちょっと不味い。律国に属する人間としては。
結果、手を出せない。
しかし、ヴェルグもまた。
上手くは、行っていなかった。
「ネイキッド!!!!!!」
ありったけの大声を上げる。氷土の全てに響き渡るように。
さっき吹き飛ばした地点は覚えている。なのに、見付けられない。
一体、どこへ?
最強の勇者と戦士をもってしても。
その愛弟子は、見当たらなかった。
魔王とさらわれた弟子、その双方の消失をみすみす防げなかった。
こうして、新たな魔王の出現は、各国へと通知された。
その右腕の脅威と共に。
数年後。
オウザが律国王の信を受け、全権大使となった頃。
世界は、少し変わっていた。
勇者メイストームは隠居。勇者の称号を返上し、遊び人メイストームとしての名を欲しいままにしていた。
戦士ヴェルグは律国戦士団特別顧問と剣国友剣士を兼任。相変わらずの強さで若手を指導していた。
魔法王スガモの詳細は誰も知らない。たまにメイストームが遊びに行っているので、相変わらずなのだろう。
剣王はその後継者を見定める期間に移行。全盛期を迎えているイルマを含む子供達を見極めんとしている。
魔国は少しだけ回復していた。少しずつではあるが、凍結も解除、魔法使いも増えて来た。
勇国は更に盛んな産業を誇り、その影響は律国にまで及び始めた。
そして剣王の第一子、ユリストは、行方をくらませていた。
ネイキッドと同じように。




