剣客万来。剣と出会うオウザ。
「うーん」
「うーんんっす」
2人はそこら中の軒先で唸っていた。悩んでいた。
良い物が無いのではない。逆だ。良い物が、多すぎる。
オウザの見ただけでも、律国では決して手に入らない極上の細剣が、山のようにある。律国自慢の剛剣でさえ、ヴェルグが使うに相応しいレベルのものがゴロゴロしている。
欲しい物を全て購入していては、破産してしまう。そのぐらいには、宝の山であった。剣客万来は。
「お客さん、剣客万来は初めてかい?」
「はい」
中でも光る物の多い店の前で見とれていると、店員から話しかけられた。こうした光景も、ここらでは珍しいものではない。客と店員の会話の声で、無数の人々の足音さえ聞こえないのだから。
物珍しげに眺めていたこちらに話しかけて来たのは、まだ年若い青年。2人より、5つほど年上だろうか。
「2人共、中々腕が立ちそうだけど、どうだい。試し切りしてみないか」
「試し切り・・」
噂には聞いていた。剣客万来では、試し切りが出来ると。
だが、何を斬るのだ。実際。
「やってみたいっす」
しかし、オウザは受けた。1人の剣客として、好奇心がうずいたのだ。ここら辺は、オウザも若い。
「さあ!ここで、まだ若い剣客の登場だ!!どうぞご覧あれ!」
いきなりの大声。店員が通りの全員に聞こえるように声を上げた。
しかし、周りの店は反応を返さない。周囲の見物客はこちらを注視している。どうやら、恒例行事ではあるらしい。
オウザは店員に招かれて、店の横の、通りからでも十分にのぞき込める場所に入って行った。
そこにあったのは、一本の丸太。
「好きな剣を選ぶんだ。それでこいつを真っ二つにする。出来るなら、タダでやるよ」
「マジっすか!?」
「マジマジ。でも、刃こぼれしたり、剣が止まったりしたら、チャレンジ失敗ね」
丸太は、大人の男の胴回りより大きい。樹齢数十年は軽く突破しているだろう。高さは50センチほどでしかないが、例え斧を用いても一刀両断は難しいだろう。
通りに面した、店と店の間のスペースに丸太は設置されている。2人がここまで来る間にも見えていたものだが、謎が解けた。なぜ木があるのか、分からなかったのだ。
「剣はどれを選んでも良いんすか?」
「もちろん。ウチで一番良いのは、こいつだけど。どうする?」
「いえ。こっちをお願いしますっす」
店員が差し示したのは、巨大な剛剣。カコウでも見た覚えがあるが、出来が全く違う。あるいは、ネイキッドの腕力にも耐えるかも知れない。
けれど、それではオウザの剣は鈍る。
オウザが選んだのは、最も目立たない剣。そして、最も細い剣。
恐らく、剣として存在出来るギリギリの細さ。その直径、1センチを切るか。
「大丈夫?それ、玄人用だよ。間違いなく」
これは店員の挑発、でなく。本当の事だ。
斬れ味は存在せず、突き込みのみに意味がある。更に言えば、少しでも突きの角度を誤れば、即、へし折れる。
誇張なく、ものの役には立たない。面白い、それだけが存在意義の、これ以上ないほどの見せかけだけの剣だ。
オウザ以外ならば。
「これで、良いっす」
オウザなら。
見物客が通りの一角を埋めた所で、店員は頃合いと判断。
「斬るか折られるか!勝負はただの一度きり!さあ、少年!見せてくれ!!」
黙って見ていたネイキッドは、少し笑った。
斬るか、折られるか?
否。
オウザは、そのどちらでもない。
細剣を引き抜き、鞘を店員に渡す。そしてオウザは、周囲の観客が接近し過ぎていない事を確認。
では、斬ろうか。
剣がすっぽ抜けないよう、しっかり握りつつも、全身には力を込めない。威力を上げ過ぎると、通り全体を破壊してしまう。捕縛されるのは、面倒だからな。
天風、貫風。オウザの体から、一陣の風が吹き抜ける。
ゴッ
「終わりましたっす」
「え?」
店員は、ほんの数瞬、見物客の反応をうかがっていた。それだけの時間に、丸太は両断、左右に分かたれていた。
オウザのした事は、実に簡単。
丸太のど真ん中を貫風をもってブチ抜き、そのまま剣を跳ね上げて、丸太を分かったのだ。
おおおおお
観客には、その全てが見えていた。ようかんのように何の抵抗も無くスライスされた丸太。しかし、細工ではない。
細工とは比べ物にならないほどの、滑らかな切り口。木の繊維など無かったかのように、完全に断ち切られた断面。何で細工しようと、こうまで綺麗には切れるまい。
剣と腕。尋常ならざる2つが出会ったのだ。見る目のある客は、すぐに気付いた。常人であっても、堅いはずの木材を一刀の元に切り捨てた腕前だけは、完全に理解させられた。
店員は観客の驚き、ざわめきをその肌で感じた。商機!
「良い腕だ!若いのに、一体どれだけの修行を積んだ武芸者なんだい!?今日、この日の出会い、おれは定めと思う!!約束通り!この剣はやろう!」
おおお
観客は、先の剣撃の興奮冷めやらぬ中での店員の煽りに、気分良く乗った。見事な斬撃を見せてくれた若き剣客が、その腕に相応しい剣を得たのだ。
ぱちぱちぱちぱち
万雷の拍手が鳴り止まぬは、当然と言えよう。
ネイキッドもまた、客と同じように拍手をしていた。オウザが、オウザの腕前が認められるのは、素直に嬉しい。剣の国で、ともなれば尚更だ。律国のみでしか通用しない腕前ではない。オウザは、剣国で生きている人間にも、認められたのだ。ネイキッドは、我が事のように誇らしかった。
おれの兄弟弟子は。すごいんだぞ。と。
通りに居合わせた見物客の半数以上は、その店での買い物を選択。どうやら今日一杯の客足は、途絶えそうにない。
見事な剣の商売人よ。
軒を連ねるライバル(他店店主達)も、負けじとばかりに声を張り上げ、精を出す。
剣国は、今日も元気だった。
「ありがとうございます!でも、本当に良いんすか?」
「良いって良いって。おれも、良い商売が出来たしね」
あの見世物が終わった後の、オウザと店員の会話である。客でごった返している店先での立ち話だから、ちょっと居場所に困る。
「君達、どっから来たの?剣国の人じゃないよね。多分」
「律国から来ましたっす。ここに来れば良い剣に会えると、剣国出身の方にも聞いたんで、かなり期待してたっすけど。期待以上の剣でしたっす」
鞘に戻した剣をかざす。小さく細く、鋭い。律国では決してお目にかかれないだろう刀剣。
「剣王様も使われた実績のある、名剣と言っても良い剣。でも、剣王様ですら数度の試し切りで破損させてしまわれた。まあ、剣王様の実力を引き出せない以上、剣が悪いんだけどね。だから、君がこの剣を振るってくれるのは、とても嬉しいんだ」
「ありがとうございますっす!」
オウザは丁寧に頭を下げた。店員の言葉に心がこもっていたから。
ネイキッドは、剣王でさえ剣を操りきれぬ事があるのかと、内心驚いていた。もちろん、剣王の力量に剣がついて行けなかった、という話なのだろうが。
ここでネイキッドは無意識に更なる思考を進める。
剣を持っていない剣王になら、勝負になるか?
恐らく、勝率に換算して0パーセントが、0,01パーセントぐらいには増えているはずだ。
剣を持たずとも、剣王の身体能力はネイキッドより上。巨大化を使ったとして、五分に持ち込めるかどうか。
剣王が風呂場に居る時など、素っ裸で得物を帯びていない状態を狙うしかない。短刀1つでも持っていれば、ネイキッドはナマスにされてしまう。なぜなら、剣王の天風が発動するからな。
ネイキッドは剣王の真価を知らぬ。けれど、その天風が剣力を増すものであろう事は考えるまでもない。
ナイフ一本でネイキッドの巨大化を正面から斬り払うだろう実力を、どう突破する?
ネイキッドは店を去った後もなお、考え続けていた。
それほどまでに、剣王の衝撃は大きかった。
師、ヴェルグや勇者メイストーム級の強者。そして世界の四ヶ国は同等の実力を持っているはず。今代の勇者、メイストームが属している律国が頭一つ抜けているものの、剣客イルマなどは本来剣国の戦士。どこの国にも、そうした数多くの強者が属しているだろう。ほとんど実力を失った魔国の真魔法極も剣王レベルであったはずだ。
魔王を倒した人類は当然、魔軍より強い。それだけの、単なる事実を、改めて思い知る。
魔獣より。魔将より。魔王より。
今生き残っている人間は、強いのだ。
「・・・本当に、良い剣っす」
剣客万来を歩んでいると、ふとオウザがつぶやいた。
オウザは先の細剣を、既に帯刀している。オウザの腰を占められるのは、それなりの名誉と言って良いだろう。勇者の弟子なのでな。
「これなら。もしかしたら、師匠にも一泡吹かせれるかも知れないっす」
「へええ。そこまでのものか。すごいな」
色気すら感じる、オウザの声色。真に剣に惚れ込んだようだ。
そのオウザの真剣さを感じ取ったネイキッドも、闘志をかき立てられた。
水来子に細剣。2つの力を使いこなせるようになった時、オウザは間違いなく、自分を超えているはずだ。
負けられない。
置いて行かれたくない。
もっと、強くならなくては。
オウザは自らの真横を歩むネイキッドの意気の高まりを感じ、頼もしく思った。
仮に、この剣国で剣を見付けられなかったとして。
ネイキッドならば、気にも留めず、平気で条理を無視して強くなるだろう。
あるいは、二刀を手にした自分より。
使いこなせなければ、名刀だろうと棒きれと変わる所は無い。
剣を振り、魔法を高め、そして強く。
勇者として。
ネイキッドと共にあるために。
2人の心友は、同じ道を歩きながら、同じ心を抱いていた。
剣客万来には無数の剣があったが、結局ネイキッドの得物は見付からなかった。
これは、と思う武器が無かったのではない。あるいはネイキッドが振れそうなのも幾つかはあった。
だが、高価過ぎた。手持ちの金銭ではとても足りない。
今回は、オウザの武器が得られただけで、幸運としておくべきか。
駐車場に停めておいた馬車に戻り、2人は魔国を目指す。
ユリストからのアドバイスに従い、念入りな冬支度を整え馬車に満載し、用意は完璧。
魔族との戦いを経て全ての戦力を消耗しきった国というものを見る。
力が足りなかったら、どうなるのか。
ネイキッドとオウザは、将来の人類の守護者として、それを見ておいた方が良い。




