表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/63

剣王。そしてユリスト。

 流石に、いかな質実剛健を実践する剣国と言えど。


 王都ともなれば、モノが違う。



 剣廊けんろう。外から見た王都の城塞は、正にそれだ。


 通常の、つまり律国あたりの壁面は、堅牢な壁面と結界との合わせ技。


 ところが、剣国王都の壁は、ただの見張り台としての用途しかない。そこに見張りの剣士が居て、敵を見付ければ応援の剣士を呼び寄せ、一気呵成いっきかせいの攻撃に移る。


 これは、防御壁ではないのだ。


 カウンターのための、逆撃門とでも言うべきか。


 そんな逆撃城塞入り口は、しかし開け放たれている。兵は居る。居るが、重装で出陣体勢というわけでもない。


 魔軍の倒れた今とは言え。良いのか・・?



 2人の不安をよそに、王都は次々と人々を受け入れている。


 とりあえず、2人も馬車を進ませた。



「止まれ!」


「え?はい」


 止められた。武装しているから・・・では、絶対にない。武装していない旅人が絶無である以上。ちなみに、2人の前に止められた人や馬車も無い。


 止めた兵士も、殺気立っているわけでもないが。


「馬車を剣場へ進ませろ」


「はい」


 オウザは素直に従った。逆らう理由も無いし。


 最悪は、脱出出来る自信もあったし。



 兵数名と一緒に、剣場へ。・・・王都の中に進んでいるが、大丈夫なのか。


 オウザとネイキッドが戸惑っている間に、兵の後ろを進んでいる馬車は、とうとう王城にまで来てしまった。


「あ、あのー」


 たまりかねて、オウザが聞いてみた。


「なんだ」


 先導している兵が答えてくれたが。


「どこに向かっているんすか?」


「剣王様の前だ」


 2人は驚きに、互いの顔を見合った。


「あの。怪しい者を、御前ごぜんに参上させて、構わないんですか?」


 ネイキッドもたずねた。そりゃそうだ。


「?」


 今度は、兵が首をかしげた。


 そして、こう言った。


「従魔に引かせた2階建ての馬車。オウザとネイキッドだろう?」


「はいっす。・・よくご存知で」


「おいおい。フイナであれだけ大暴れしておいて、まさか素通り出来ると思ったんじゃあるまいな」


「えー・・・」


 オウザは答えにきゅうした。


 暴れては、ない。そう言い返したかった。


 が、まあ。数十名を相手に一方的に勝利して、言い訳も無いか。


 それに。


 剣国も、そう考えなしでもない。


 あの場に居た剣士、もしくは兵の中に、王都まで走った人間が居る。オウザらの到着より早く。


 問題は、早さではない。馬車はゆっくりとした速度だった。若者が急げば、誰であろうと、さきんずる事は出来た。


 要点は、オウザらのフイナへの来訪が偶然でしかなかった事。何日に訪れる、などと誰とも約束はしていない。なのに、フイナから情報が伝達された。


 つまり、常時、兵が走る体勢が整えられてる。剣国は、今も健在だと、そういう事だな。



 そして2人は、馬車ごと剣場にたどり着いた。


 場所は王城の中。中庭にまで入ってしまった。


 その中庭。どうも、王族が使うものではないらしい。場は荒れ放題に荒れ、小石や剣の破片までが散らばっている。フイナや、これまでの街で見た剣場は、どれも綺麗に掃除されていたのに。


 ここはもしや、罪人の刑場とか、そういうあれだろうか。


 ちょっと、怖くなって来た。



ゾ、ワ


 馬車から降り、剣場をぼうっと見ていたオウザとネイキッドは、見知らぬ気配に鳥肌を立てた。


 王城の中。それもかなり奥に居るはずのその気配。それ即ち。



「これが、剣王か」


「うわあ・・・。汗かいて来たっす」


 ネイキッドもだ。手の摩擦を上げるため、格闘戦に素早く移行出来るよう、体が汗を。更に言えば、発熱によって身体性能をスムーズに発揮出来るようにも。


 つまり、2人の肉体は、まだ剣王がその姿を見せていないにも関わらず、危機感を最大に働かせていた。


 見れば、案内してくれた剣士達も、皆同じ方向を向いている。オウザらだけでなく、全員が感じ取っているらしい。



 プレッシャーが、近付いて来る。ここが王城でなければ、逃げ出している所だ。



「あの。平伏しておいた方が良いでしょうか」


 一応、ネイキッドは礼儀作法について聞いてみた。


「いや。そのままで構わん」


 兵はそう言ってくれたが。本当に、良いんだろうな。怖いぞ。


 と言うか、2人は武装も解いていない。どれだけ自負があるのか知らんが。



ギイイ


 城の窓が開いた。メイドが掃除でもしているのか。



ドオン



 違った。


 ネイキッドが見上げるような大男が、その窓から飛び降りて来た。



「中々。ヴェルグも、まあまあの教師になったもんだ」


 目の前の馬鹿が何かを喋った。


 ネイキッド、オウザに、格別の隔意かくいは無い。無いが。


 貴人、高位剣士が何十ダースと居るはずの城内で、ふんどし一丁の男に話しかけられては、そう認識するより他あるまい。


「剣王様は、師匠を知っているのですか」


 ネイキッドは、目の前の男が師を知っている事に驚かなかった。むしろ、知っていなければおかしい。ただ、自分は剣王の事を詳しく知らない。なぜ、おれの事を知っている?


「お前の歩き方を見れば、誰に教わったかぐらい分かる。ヴェルグの歩法のまんまじゃねえか」


 い、いや。正確には違うはずだ。ネイキッドは素手。ヴェルグは大剣。得物が違う以上、間合いが違い、絶対に歩法も違うはずなのだ。


 そのネイキッドの要領を得ない顔を見てか、剣王は言葉を付け足してくれた。


「そんな、ちっぽけな話じゃなくてな。お前の歩みは、ヴェルグのそれだ。見れば分かる」


 言いつつ、剣王はオウザの方も見た。


「お前は?」


「自分はオウザと言うっす。メイストーム師匠から教わってるっす」


 オウザも圧倒されつつも、堂々と答えた。


 その振る舞いを、剣王は気に入った。



「じゃあ、やるか」


 ゆえに、剣場に踏み込んだ。素足で。


 剣や石が転がっている場所に。



 まず、ネイキッドが後に続いた。オウザは見学。



 身長2メートル以上。ヴェルグ師匠よりデカい。縦にも横にも。全身に無数の傷跡が見える。古いのが多いが、つい最近付いたようなのも。この男を斬れる者が、剣国には居るのか。


 年の頃、50を迎えているのではないか。顔に深く刻まれたしわは確かに歴戦を感じさせる。それでいて、その足取りは、あるいはネイキッドよりもかろやかか。少なくとも、老体という言葉とは縁が無さそうだ。



 剣王と向き合ったネイキッドは、腰のものを捨てた。


 この化け物が相手では、自分の剣など、重りでしかない。


 剣王の武装は、兵から手渡された木刀一本。今のネイキッドの目からすると、あらゆる名剣よりヤバい威圧感を感じる代物しろものだが。



 剣場の荒れは、巨大化アズマを使えるネイキッドには問題にならない。両の足にちょいとかけてやれば、岩くれくらい、どうって事はない。


 それを素でやる剣王との実力差は、明白、だが。


 勉強させてもらおうか!



 オウザはここまでの話の流れが一切分かっていない。


 なぜ、剣王は自分達を招いたのか。なぜ、戦う事になったのか。さっぱり分からない。


 分からないが、剣王の機嫌を損ねないようにするのが得策。


 ここはとりあえず、ネイキッドに任せよう。


 オウザが本気を出すという事は、魔法を使うという事。それはあまり見せない方が良かろう。多分な。



 剣王は構えない。自身に比べれば短刀にも見えるような木刀を握って、棒立ち。


 その剣王に、ネイキッドは、踏み込めないでいた。


 巨大化アズマを使っての強撃。それ以外に戦術の無い自分が迷う必要は無い。ただ飛び込めば良い。それだけだ。


 それだけ、なのに。


 勝ち目が、見えない。


 たかが棒きれを握った男に、本気の師にも似た威圧感を感じるだと・・。



「ふん」


 鼻息1つ。それだけくと、剣王は全く無造作に踏み込んで来た。


 だが、ネイキッドはその隙を見逃さなかった!


オ!!!


 歩み1つ、剣王の右足が上がったと見るや、全速力で右手刀を走らせた!今なら防御もカウンターも、力を入れられない!!左足一本で受けられるかあ!!!



「ほう?」


 だが。


 目の前の男は、剣王だった。



 巨大化アズマを用いて、力、硬度ともに強化されたネイキッドの右手刀が。





 完全に受け止められた。剣王は、それから右足をゆっくりと下ろし、ネイキッドの右手を軽く弾いた。


 ネイキッドの圧力の全てが、かき消されたのだ。



 ・・・馬鹿な。


 おれは手加減していない。


 ヴェルグ師匠じゃあるまいし、足場さえ崩せぬとは・・・・。



 受けられたショックにネイキッドが心を乱したのは、ほんの数瞬。2秒にはならなかっただろう。


 だが、それで。



コン


 ネイキッドの右手が、木刀で軽く打たれた。


「・・・!!」


 言葉にならない叫びを上げたネイキッドを見て、オウザはおおよそを察した。


 右手、こうが、折れたな。


 それも、巨大化アズマ行使中の右手が。



ギッ!!


 それでも、ネイキッドは、終わっていない。


 右に回り込んで来た剣王に対し、左後ろ回し蹴りで迎撃!蹴りを受けた事はあるかよお!!



 しかし。


 肥大化し、剣王を押し潰して余りあるはずのネイキッドの蹴りが、やはり当然のように、受け止められた。


 力を受け流すのではない。逸らすのでもない。


 そのまま、真正面から、止めた。剣場へ、一切の影響を与えず。


 ネイキッドなら一撃で消滅させられるはずの木刀に、ヒビ1つ入れさせぬまま。



 怪物が。


 ネイキッドは、1人ごちた。


 ヴェルグであろうが、メイストームであろうが、ここまでの真似をされた覚えは、無い。


 これが、剣王か。



 剣一本で国を守るとは、こういう事か。



「次だ」


 剣王はネイキッドから距離を取り、オウザに声をかけた。そのまま元の位置に戻り、棒立ちに。



 オウザは即興の治癒(物質変換ティアの応用)をネイキッドにかけ、一瞬で骨折を修復した後、剣場に進入した。


 得物は、師、メイストームより譲り受けた名剣。その名も。


水来子アクアストーム。確かに。お前があいつの弟子か」


「やっぱり分かるんすね。流石っす」


 オウザはこの剣を誰かに喧伝けんでんして回った覚えはない。そしてメイストームは、今は選剣以外を使わない。


 水来子アクアストームを知っているのは、若かった頃の勇者を知る者に限られる。それも、わずかにしか見た覚えもないだろうに。


 流石は、剣の王。言うだけの事はある。



 剣王は、オウザにわずかなりとも感心していた。


 水来子アクアストームは、世が世なら、国1つとさえ釣り合う名剣。いや、宝剣。


 それをこんな野試合で出すとは。あまつさえ、先ほど味方が惨敗した相手に。



 その思い切り。


 確かに奴に似ている。


 あの、バカに。



 オウザは、出すはずの無かった剣を握り締めつつ、眼前の相手を見極めようとしていた。



 旅に出る前。まさかもらえると思ってなかった出立しゅったつの祝い。それが、この水来子アクアストーム


 師、いわく。


「年季の入ったオンボロだが。今のお前には十分。旅の間に使いこなせるようになっとけ」


 オウザは水来子の詳細を知らない。それでも、持った瞬間に分かった。


 魔力量が、多すぎる。これを作ったのは、スガモ師匠以外には有り得ない。そう断言出来るほど、あまりにもハイレベルな魔法具だった。具体的には、スガモ師匠の所持していた杖に匹敵している。少なくとも今のオウザでは、ひっくり返っても作れない。


 なので、今の自分には十分、というのが、よく分からない。


 強すぎるのではないか。と、思う。



 だが。


 剣王が相手なら。


 この剣でさえ、足りないかも知れない。



「お願いします!」


「おう」


 オウザは、水来子を抜き放った。旅に出て、およそ2ヶ月。初めて振るうその感触に、オウザは身震いした。


 恐怖に、ではない。


 快楽に、だ。


 握った手から伝わるみずみずしい感触。触れただけで、握りから剣先までは言うに及ばず、この世の全てまでが把握出来ているような万能感。


 そして、空を斬るだけで分かる、絶対的な斬れ味。



 ・・・斬りたい。


 今すぐ、生き物を切り刻みたい。


 惨殺したい!!



 オウザは剣を抜いたその一瞬で、剣に取り込まれていた。


 もはや、剣の操り人形でしかない。


ゴッ!!


 ・・・操り人形でしかなかった。と、訂正しよう。



「へえ・・・」


 剣王は木刀を肩にかつぎつつ、ネイキッドの行動を賞賛した。



 試合を興味深く見ていたネイキッドは、オウザの様子がおかしくなったのを見て取り、即座に剣を叩き落とした。


 その剣をオウザが大事にしていたのは知っているが。


 オウザをおかしくするのであれば、そんなものは要らない。


 ネイキッドはオウザの剣を更に蹴り飛ばし、距離を取ってから、オウザの体を抱き留め、横たえた。


 オウザは、剣を手から離されるや否や、意識を失ったのだ。



「しばらく寝かしといてやれば、良くなる」


 剣王はそう言うと、参集していた兵を元の職務に戻らせた。


 残ったのはネイキッド、オウザ、剣王のみ。



 剣王をたった1人残すとは。何を考えているのだ、この国の人間は。


 ネイキッドは、オウザへ与えるべく、馬車の丸薬入れを漁りつつも、剣王の気配が遠ざからないのを不思議に思っていた。


 もちろん、放ったらかしでも、困るは困るが。


「で?」


「?」


 剣王は、水来子を鞘に収め、こちらに渡してくれた。当然のように水来子に触れているが、流石にこの男に心配は要らないか。


 が、ネイキッドには剣王の言葉の意味が分からない。


「イルマは、どんな様子だ」


「あ、ああ。イルマさんは、ご健在ですよ。律国でも、戦士ヴェルグ、将軍カザマに次ぐ実力者ともくされています。自分達も大変お世話になっています」


「ふん・・・。ヴェルグはともかく。それ以外の人間に遅れを取るとは。イルマを外に出すのは、まだ早かったか」


「い、いえ。直接勝負で、というのではなく。将軍の方が、経験が有りますし・・・」



 聞きしに勝る。


 これが、剣王。


 この世界で最も強い、親バカ。



 剣客イルマは、剣王の第八夫人から生まれた、何十人目かの子供に過ぎない。それで、この溺愛ぶり。


 ネイキッドは、剣王を見る目を改めた。



「・・・・ん」


 オウザが起きる。


 ネイキッドは水と丸薬を渡してやる。


「・・ふう。ありがとうっす」


 体調は、そこまで悪くはなさそうだが。


 精神は、大丈夫なのか。


「どうだった。初めての魔剣は」


「魔剣?」


 オウザは、ネイキッドの心配をよそに、自分でちゃんと立ち上がり、剣王に向き合った。


「そいつだよ」


 剣王が指差したのは、無論。


「水来子・・・!?これ、魔剣だったんすか!?」


 今分かったらしい。


「まさか、そいつがただ魔法強化されただけの剣だとは、思ってなかっただろ?」


「それは・・・。はいっす」


「そいつは、そもそも人間が振るう事を想定した剣じゃない。メイストームゆえに許された剣だ。この意味を、分かれ」


「・・・・・分かりましたっす」


 オウザは、確かに、その意味を理解した。



 勇者メイストームは、自分を、後継者と見定めてくれている。間違いようもなく。


 そしてその目に適うためには、この魔剣を使いこなす事が必須課題。


 ・・・抜いた瞬間に意識を乗っ取られる超危険物。操る自信は、あんまりないけど。


 師が、おれを信じてくれている。


 やってみよう。出来る限りは。



「あれ・・?剣王様は、どうしてこの剣を使えるんすか?」


「あのなあ・・・・。おれは、剣王だぞ。おれが使えぬのは、勇者の剣だけだ」


「そ、その理由を教えて下さいっす」


「ん?勇者の剣、ってのはな・・・」


「そっちじゃないっす。剣王様は、いかにして様々な剣を使いこなしておられるんすか?」


「ああ。そりゃお前。おれが、強いからよ」


「それは知ってるっす」


「だから」



 剣を従わせりゃ、それで良いんだよ。



 剣王のその言葉に、オウザは考えこんでしまった。


 剣王の比類なき強さ。おそらく、ヴェルグに匹敵している。万が一、それが理由なら、ヴェルグ並みに強くなる必要があるのなら、この旅の最中では、とても時間が足りない。帰国までには、間に合わない。



「剣王様。お手間を取らせても構いませんか?」


「良いぜ」


 黙って聞いていたネイキッドは、おもむろに水来子を引き抜いた。


「えっ」


 オウザの呆然とした声を聞き流しながら、ネイキッドは水来子を正面に構え、突っ立ってみた。



・・・・


 何も、起きない。



「え?」


 今度はネイキッドが驚きの声を上げた。なぜ、操られない?


「・・・」


 オウザは、密かにネイキッドに嫉妬した。


 ネイキッドが水来子を使いこなせるのは、そう不思議ではない。


 ネイキッドの天風なら、資質なら、あるいはそういう事もあるだろう。


「斬ってみな」


 剣王はそう言うと、木刀を横に構えてくれた。


「行きます」


 ネイキッドは一切の戦術なく、ただ斬った。



カン



 魔剣、水来子は、木刀に当てた所で、弾かれた。



「え?」


 ネイキッドは再度驚いた。


 自身に剣の技量が全く無かろうと。魔剣と言うからには、たかが木刀1つ、花びらのように切り裂けるものではないのか。


「やっぱり、お前らには魔剣の知識が無いのか。メイストームもケチくせえ」


「ど、どういう事なんすか?」


 オウザの握った感触なら、木刀はおろか、その下の地面ごと両断しているはずだ。それもネイキッドの腕力で振るった以上、自分より破壊力は増していたはず。


 何が、どうなった?


「魔剣は、普通の剣ではない。使いこなすためには、魔力が必要。だが、魔剣はその魔力を介して、剣士を操ろうとする。ゆえに、魔剣士は魔力操作で魔剣を超えなければならない」


 そのために、ネイキッドが使っても、水来子は棒きれほどの威力にしかならない。


 もっと言うなら、魔剣士は常時魔力操作の修練をしているようなものだ。魔剣を握り締めつつ、自我を保っているというのは、それだけで一流の魔法使いの証明ですらある。


「それで、ネイキッドが振るっても、大丈夫なんすか?」


「それだけでも、ないがな」


 こればかりは、実は剣王にも不思議だった。



 ネイキッドが操られる前提で、剣王は居た。なぜ、ネイキッドは無事なのだ?剣王自身が水来子を握った時には、確かにこちらを操ろうとする意思を感じた。無論、屈服させたが。



「ユリスト!!」


 ネイキッドとオウザは、反射的に耳をふさいだ。恐らく、城中に響き渡っただろう剣王の大声。


「なんですか。お父様」


「こいつらに、魔剣のなんたるかを教えてやれ」


 現れたのは、やはりネイキッドより大きい男。城内なのに旅装束にも見えるローブを着ているのは不思議だが。お父様と言うからには、剣王の子供なのだろう。


「私は・・・」


「魔剣なら、使えるはずだろ」


 そう言って、剣王は去ってしまった。



 ・・・。



「ユリスト様?良ければ、魔剣の事を・・」


「あ、ああ」


 初対面同士。しかも、全く接点が無い。会話のいとぐちも見えないが、ネイキッドは遠慮しなかった。


 ネイキッドとしては、あまり無礼な真似は出来ないにせよ、剣王の許しを得ているのだ。魔剣の情報を教えてもらうのがお得だ。


「・・・そもそも、お主らは、魔法を使えるのか?」


「魔法使いはおれっす」


「そうか。では、魔法使いが体内の魔力回路を第二の心臓として生きているのは、知っているか」


「はいっす。師匠から、なんとなく教えてもらったっす」


「魔剣にも、その魔力回路が生きて存在しているのだ」


 オウザ、ネイキッド、共に驚いた。


 そうだったのか。


 魔剣もまた、魔法使いとして生きている。



 ユリストは城の者に命じて、2人の軽食を用意した。話が長くなるだろう、し。


 久しぶりに父から与えられた役目。この2人がどこの有力者の子弟なのかは知らないが、せめて頼まれ事ぐらい、こなしてみせよう。



 オウザは剣国にて、まさかこれほどの魔法使いと会えるとは思っていなかった。


 自分より、上。それも、剣の国で。イルマからの話と合わせると、この者の覚悟が分かる。この者の尋常でない意思が分かる。


 資質と気持ち。両方が備わっている。強い男だ。



「まず。私も、それほどの魔剣を持った事は無い。父ならばともかく、それ以外では、ヴェルグ様かメイストーム様でもなければ、とても操りきれるものではあるまい。オウザ。お主が使えぬでも、恥では全くないのだ」


「ありがとうございます。でも、おれは使えるようになりたいっす」


 ここで退けるのなら。オウザは勇者の弟子をしていない。



 ユリストも、オウザの目を見て、その意気を確認した。


 魔剣を使うにあたり、1つ、必要な条件が有る。


 命を賭ける必要が、有る。



 魔剣の魔力回路に、剣士の魔力回路が飲み込まれたなら。


 その剣士は、魔剣の付属物に成り下がる。


 剣士が魔剣を振るうのではない。魔剣に振るわれるようになるのだ。


 オウザには、その危険性がある。ユリストならば、いつでも剣王の称号を持つ父が守ってくれたが。オウザには、その守り手が居るのか。


 居なければ、失敗イコール人としての死だ。魔剣に取り込まれて、二度と人の世には戻れなくなる。肉体が滅ぶまで、魔剣の走狗そうくとして動く人形と成り果てる。



「少し、やってみるか」


 ユリストは、2人に少し待てと言って、城内に戻った。


「なんか。変な流れになったな」


「そうっすね。剣王様の御前に引き出された時は、正直困惑したっすけど。こうなれば、逆にラッキーっす。ネイキッドには退屈かも知れないっすけど」


「いや。魔剣と戦う時も来るだろう。勉強になる」


「それなら良いっす」


 茶菓子を頂きながら、待つ事しばし。誰も剣場を掃除しないんだな、とかお喋りしながら。


「実戦を想定した場所なのかな。それにしても、剣王様には関係無さそうだけど」


「あの人も、師匠達と同じぐらい無茶苦茶な人間っすよね」


「全くだ」


 と。


「待たせたな。では、オウザ。抜いてみろ」


 そう言って、城から戻ったユリストは、いくつかの剣をテーブルに載せた。全て、魔剣だ。


「魔国ルオボに無理を言って作ってもらった、練習用の魔剣だ。まともな魔法使いなら、誰でも使えるだろう」


「はいっす!」


 お辞儀をしたオウザは、魔剣の1つを触ってみた。最もこしらえの簡素な、魔力量もそこそこの物を。


 少し緊張しながら、抜く。


スラリ


 ・・・大丈夫。


 オウザの見立てでも、この魔剣の魔力量は、一般的な魔法使い以下。本当に誰でも使える前提で製作したのだろう。



 少し魔力を込める。オウザの全魔力量を注ぎ込むと崩壊するだろうから、少しだけだ。


オ オ


 魔剣が、輝く。


「これが、魔剣」


「そうだ。オウザ、試してみろ」


 ネイキッドの驚きの声に頷いたユリストは、自身の魔剣を構えた。先の剣王と同じ。的になってくれているのだ。



 そのオウザは、拍子抜けしていた。


 水来子と、全く違う。


 いや確かに、魔剣から伝わる魔力は感じている。感じては、いるが。


「行きます」


 オウザは、一応本気の速度で魔剣を振ってみた。横に構えてくれているユリスト自身には絶対に当てるまい、とは考えている。


カィン!


 斬れない。ユリストの剣に弾かれた。ただ、これは予定通りだ。オウザも持ってみて、この魔剣が練習刀だと完全に理解している。


「どうだ?分かったか?」


 跳ねた。それはネイキッドにも分かる。


 が、魔剣士には、それ以上の知覚領域がある。


「はいっす。これが、魔剣」



 魔剣と魔剣が打ち合わされた瞬間。


 オウザは、ユリストの魔力に触れた気がした。


 これは当然で、魔剣の魔力回路を魔剣士が完全に操っている以上、魔剣と剣士はつながっている。


 これを利用した戦術も、無論ある。



「打ち合った瞬間に、こちらの魔力を増幅する。すると、相手の魔力回路は予期せぬ負荷によって、魔力暴走を引き起こす。・・・筋肉の痙攣けいれんのようにな。それだけで倒すというわけにもいかぬが、一手有利を取れるのは間違いない」


 言うまでもない事だが、剣を斬り合わせた瞬間を捉えるなど、尋常な感覚ではない。化け物の世界の話だ。普通ならユリストだって、こんな話はしない。相手がオウザだから。父の客人であるから、話したのだ。


 父。剣王ユーベルは、弱者をもてなす趣味を持っていない。



 だから、私は父の側に居ない・・・。



 ユリストのわだかまりはともかく。


 オウザは、更なる魔剣の特性について、学習していた。


水庫ロトン・・・じゃ、ないんすね、この魔法」


「ああ。水庫ロトンでは、斬れないだろう?もちろん、圧倒的な魔力量でもあれば、話は違うが。魔剣の製作者によって趣味が異なるが、オーソドックスなのはやはり、強固ツモリイシだな。通常の硬度に加えての魔力強化が、魔力の続く限り可能。それも、魔法を意識する事なく、だ」


 当然ながら、魔剣士が魔剣を振るうのは、戦場。そこで、一々魔法を意識していては、眼前の剣士の速度に遅れを取ってしまう。相手は修練を積み重ねた思考と反射で最高速度を発揮出来るのに、こちらはそれに魔法の操作が加わる。まともにやり合えば、魔剣の威力を出しきる前に斬られてしまう。


 ゆえに、魔剣そのものに魔法が封じ込められている。かつてヴェルグが振るっていたような、魔力加工されているだけの剣でなく、魔力を込めるだけで魔法が発動するよう工夫されている。


「そうだ。見て欲しい物があるっす」


 そう言ってオウザは、魔剣をテーブルに戻し、馬車に登った。


 持ち出したのは無論。


 オウザ自作の、共振頼ともふりのらい


「ほう。これは見事な」


 ユリストは丁寧な手つきで、共振頼を引き抜き、眺めた。


「刀は普通。だが、この杖は尋常な物ではないな。普通の杖と見せて、仕込み杖と見せかけて、実際の本命はやはり杖、か。中々の工夫だ」


 ユリストは当然のように、共振頼の意味も含めて、全て見透かしていた。その眼力に、オウザも嬉しくなって、ためらわず相談してみた。


「魔法の師匠に教えてもらって、なんとかかんとか作ったっす。刀身の魔力加工は通常のものでしかないんすけど、もっと強化した方が良いっすかね」


「いや。これは、このままで良いだろう。この杖に魔法を刻むのは、惜しい。このまま、魔力強化材として活用するのが良いと思うぞ」


「ユリスト様もそう思うっすか。流石っす。師匠と同じ答えっす」


 オウザは実は、もっと何か出来ないかと考えた。もっと工夫出来そうな気がしたのだ。しかし、己より上のユリスト、そしてスガモは、これで留め置いた。


 未熟を、知る。オウザは剣も天風も魔法も使える。けれど、上には上が居るのだ。


 その後。ユリストは昼までの時間を全て、オウザとの魔剣練習に費やしてくれた。



 そして昼食。


「律国から来たのか。そして、本当に勇者の弟子とは。しかも」


 スガモの、教え子か。とんだ奇縁だ。ユリストはどんな表情をして良いのか、迷った。


 オウザ、ネイキッドはそのような事情などつゆ知らず、剣国の王族の食べ物を遠慮なく頂戴していた。美味い、し、栄養たっぷり。しかも量が多い。


「ユリスト様は召し上がらないんすか?」


 カニのハサミをほじくりながら、オウザはユリストの少食っぷりが気になった。ネイキッドはひたすら寿司を腹に詰め込んでいる。


「私はあまり、食欲が無くてな」


 ネイキッドは、ちらりとユリストの様子をうかがった。


 肉と骨が太い。良い体だ。つまり、消費するエネルギーも大きいという事。更にユリストは、剣の国の王子。常人より遥かに膨大な食料を必要としているはずなのに。


 病か?それで、食欲が失せている。


「そっすか」


 オウザもそれ以上踏み込まず、食を再開した。



 結局。剣場間際に設置されたテーブルの上の食事は、ネイキッドとオウザがあらかた片付けてしまった。ユリストは、刺し身をいくつかと果物をつまんだのみ。


「お主らの旅は、魔国、勇国と続くのか。良いものだな」


「はい。2人なので、退屈もしませんし」


「律国内でさえ、ここに来るまで、また改めて知る事も多かったっすね。剣国での剣場の習いにはびっくりしましたし」


「そうか」


 2人の目から見て、ユリストは決して不機嫌ではなかった。微笑んでもいたし、終始リラックスしていたようだった。


 それでも食が進まぬという事はやはり。


「では。おれらはこれで失礼致しますっす。それで、これを」


 オウザは共振頼を馬車に戻すのと同時、薬入れの中から、秘薬の1つを取り出した。


「ドラゴンドリンク」


 手渡されたそれに、ユリストは目を見張った。


「もし良かったら、お礼として受け取って下さいっす。ユリスト様にも剣王様にも、お世話になりましたっす」


「良いのか?」


 ドラゴンドリンクは、いつでも補充出来る物ではない。ユリストですら、数を数えながら使わなければならない代物しろものだ。


「お礼っすから。大事な物じゃないと、礼にならないっす」


 自分とネイキッドの実力なら、補給の利く丸薬や飲み薬で十分だろうという計算もある。ドラゴンドリンクを必要とするほどの強敵に出会う予定も無いし。


「それに」


 オウザは、薬入れの中身をユリストに見せた。


「・・・・。お前達は、どこの戦場に行くつもりだったのだ」


 薬入れ・・縦横に30センチほどの箱の中には、丸薬飲み薬がぎっしり、ドラゴンドリンクすら4本も入っていた。都合つごう、5本持っていたのか。これだけの分量があれば、実戦の10回やそこらは持つだろう。例え世界旅行でも、この半分の量で十分だろうに。


「でも、これがあるから助かった事もありましたよ。雷王と戦った時には、ドラゴンドリンクが無ければ、全く余裕がありませんでしたし」


「らいおう・・?あの、雷王か・・」


 ユリストは、いい加減、驚き飽きて来た。


 雷王だと?


 炎王、氷王と並ぶ、人類の超えられない存在だぞ。


「本気の雷王じゃなくて、こちらをエサとしか見てなかった、舐めた雷王でしたけどね」


「本気か否かなど問題ではない。よく、生きて戻れたな」


 例えるなら、溶岩の中に突っ込んだけど、思ったよりヌルかったので平気でした、と言われたようなものだ。ユリストは、父王以外に、ここまで非常識な人間がまだ居る事に、世界の広さを知った。


「雷王と出会う縁。戦って生き残れる運。お前達が勇者の弟子だというのが、痛いほど理解出来たぞ」


 勇者の必須条件は色々あるが。


 その中でも最も必要なものは、実は強さではない。


 強敵に出会える、運だ。


 人類にとっての天敵。強大な魔獣、魔族を倒すためには、絶対的に運が必要。


 まず、敵に出会えるかどうかの運。


 そしてその時、万全の状態である運。赤ん坊の時に出会ったなら、こちらが死んでしまうからな。


 最後に、その勝負を誰かが見てくれている運。誰も知らない所で善行を働いた所で、そんな事は誰も知りはしないのだ。己以外に自分を勇者と認める者など居ないだろう。



 そして、絶対の運。


 勇者の称号を得る事。


 勇者はたった1つの天風てんぶしか使えない。が、その天風1つで、全てが叶う。剣王でも、ヴェルグでも、スガモさえも持ち合わせる事の適わなかった、メイストームだけの天風。



 それゆえ、直弟子じきでしであるオウザすら持っていない。無論、ネイキッドも。


 だからこそ、ユリストは2人の適正を認めた。


 勇者の称号を持っていない2人が、次代の勇者になる。


 雷王と出会ったのは、そのための吉兆と言えよう。オウザとネイキッドは、既にその実力と天運を証明出来たのだから。



「お主らの旅の幸運を」


 馬車に乗った2人を、ユリストが祝福して見送ってくれた。


「ユリスト様と剣王様に感謝をっす」


「次お会いする時には、もっと剣王様を楽しませられるよう、精進致します」


 オウザ、ネイキッドからも、心からの感謝を。



「一時はどうなる事かと思ったけど。良かったな」


「その通りっす。良い出会いだったっすね」


 2人はユリストに教えてもらった通りの道を行き、一路、剣客万来けんかくばんらいを目指していた。


 この旅の主目的の1つ。新たな武器との出会いが待っているか。


 剣客万来までは、城内からの直通ルートがあったので助かった。


 ・・・直通・・・?守りは・・・?


 剣国の非常識さに慣れて来た2人は、同時に頭をよぎった常識的な思考を捨てた。



 そして到着したのは、勇者大通りにも劣らない大通り。縦に400メートル以上はあるだろう、その道の左右に刀剣が並んでいる。


 400メートルに渡り、ずっとだ。


 合計で何十万本あるのか、数えるのも馬鹿らしいほどの大量の刃物がずううっと道を埋めている。


 その全ての刀剣が、購入可能。これが、剣客万来。


 駐車場に馬車を置いたネイキッドらも、その通りの中を無数の人波にまぎれながら、大いに楽しんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ