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ドサからフイナ。剣国入り。

 近い、とは言え、ドサから剣国までは川を挟み、山を越える必要がある。アサギリへの遠路ほどではないにせよ。


 様々な食料を補給出来た2人は、ご機嫌でその道を進んだ。


 途中、魔獣もアサギリでのうっぷんを晴らすように出現して来たが、まるで問題なかった。



「さて・・・」


「流石、と言うべきっすかね」


 剣国とのさかい。いわゆる検問所。


 だが、そこは騒然としていた。


 喧騒、であっても、争いではない。


 あきないの声だ。


 剣国からも律国からも等距離にあるこの検問所。以前はまともな、規律正しい関所であったのだ。両国から均等に兵を差し出し、そこそこの緊張感を保っていた。


 ところが、魔王が倒れ、世界に平和が訪れると共に、両国は手を結ぶ選択をした。


 そうして生まれたのが、この検問街だ。


 人口、実に1万人を超え、街並みの豊かさだけならアサギリをも上回る。そして両国の物資が交じり合う最前線。


 ちなみに、ここを通り抜けるのに、許可証のようなものは必要無い。誰でもフリーだ。一応、緊急時、非常事態に備えた兵は置かれてはいるが。


 馬車から直接購入出来るようになっている土産物屋で、検問まんじゅうをゲットし、お腹を満たしながら、2人は何事もなく、普通に剣国に入った。


 再びの山越えを果たしたなら、いよいよ剣国の街だ。



「・・・ちょっと鋭い、かな」


「ふむ」


 ネイキッドが大ガラスをほふって放り投げた後、その感想を述べた。オウザもそれを大真面目に咀嚼そしゃくする。



 魔獣の能力の、地域差は存在するか?


 答え。


 なんとも言えない。


 アサギリのように、あるいはローネのように、はっきりと魔力が欠乏している土地ならともかく、通常エリアで明確な違いが分かるほどの差が出るかと言えば、専門家の間でも意見が別れる。


 つまり、よく分かってないのだ。


 そもそも魔獣という存在が、魔力をエネルギーに動いてはいても、生命体でないモノである以上、そこに動物や人間のような特性を見出みいだそうとする方が可笑しいのかも知れない。



 それでも、ネイキッドの感覚では、剣国の大ガラスの攻撃は、鋭かった。専門家の意見などより、オウザはその言葉を信じた。


 背中を預けている人間を信じられないのであれば、その旅路に安寧あんねいなど有り得ないのだから、これは当然か。



 検問所を出てから二日後。


 剣国最初の街、フイナに到着。


 ドサと同じ役割の、つまり律国への防御壁として機能していた街だが、ドサほどの発展はしていない。これは両国の特質の差と言って良いだろうか。


 律国側は、ドサに独自発展発達の可能性があるのなら、それを伸ばすために都市開発の専門家、あらゆる種類の産業の職人などをドサに向けて派遣していた。当然、豊かな街になれば、兵の士気も上がるからだ。そしてそこに家族も生まれるとなれば、兵は死に物狂いで街を守ろうとするだろう。最終的に、律国のためとなる。ゆえに王は、ドサの強化を進めた。


 だが、剣国はフイナにそこまで過度の期待はかけていなかった。


 と言って、剣王がフイナを見捨てたのでもない。


 剣王はあくまで平等に公平に、全ての剣国の民に対するのと同じ態度を取っているだけだ。剣を取れ、と。


 そしていくら剣王でも、危険地帯なら、もうちょっと兵をく。しかし、剣王は当時、自国戦力のみでの魔王討伐を目論もくろんでいたのだ。他国と足並みそろえての四ヶ国合同軍は、確かに強力だろう。だが、それを統率出来る人間は、居なかった。どこの国も、自国の防備をおろそかにしたくない。そのため、スケジュールが全く組み上がらなかったのだ。それゆえ、見切りをつけた剣王は、単独での作戦を思案していた。結果、フイナには、万が一律国とのいざこざが起きた時、全くどうしようもない程度の戦力しか置かれていなかった。はっきり言って、検問所の方がまだマシなレベルだ。


 そのフイナ。城門も、そこまで堅くはない。ここら辺もドサとは正反対か。まあ、簡単に入れるのは、旅人にはありがたい事だが。


 それでも2人は、若干緊張の面持おももちで城門をくぐった。


 二人旅、初めての他国。無事に歩めるか・・・?



 幸か不幸か。


 不安は半分、的中した。



「手合わせ願いたい」


「え・・・」


 宿を求めて門衛に話を聞いていると、門の近くで座り込んでいた男から、そう言われた。


 話しかけられたのは、当然オウザ。共振頼だけでなく、師から渡されたそれなりの剣を帯びているためだろう。ネイキッドも一応長剣をぶら下げてはいるが、正直、量産品でしかない。


「野試合は、剣場けんじょうでお願いします」


「はあ・・・」


 剣場?門衛に忠告されたものの、何か分からない。


「剣場って、なんです?」


「ああ。えーと、練武場みたいなもんです。いつでも審判役が居るはずなので、尋常じんじょうな勝負が出来るはずです。旅行者の方でも無料で使えるので、どうぞ」


「そうですか・・。ありがとうございます」


 なんだか分からんが。そういう事らしい。



 話しかけて来た男と3人で、くだんの剣場へ向かう。宿は後回しだ。


 ま、時間もかかるまい。



 確かに、剣場と呼ばれる場所には、審判役や練習中の剣士など、様々な人間達が居た。剣国ではメジャーな道場のようだ。


 屋根の無い50メートル四方のならされた土面。そして周囲には草木。


 その中で、剣士らは土足で打ち合っている。


 律国の人間からすると不思議な光景だが。これはこれで、理があるのだろう。他国の人間が一朝一夕いっちょういっせきに察する事が出来ずとも不思議ではない。


「場所を借りるぞ」


 男が言うと、周囲の人間がスペースを空けてくれた。どうやら、不審人物ではなさそうだ。


 オウザは腰の剣を置き、木刀を貸してもらった。ネイキッドは馬車の車上で待っている。


 悪いが。


 この男に、見るべき力量は感じ取れない。オウザが苦闘する事も、有り得ん。


 ゆえにネイキッドは、剣国の情景をただ眺めていた。剣士達の修行風景を。


「名乗っておこうか。おれは、シェルド。ここいらじゃあ、ちっとは名の知れた男だ」


「自分はオウザと言うっす。よろしくお願いしますっす!」


 オウザは、魔力が一切感じ取れない事から、相手を純粋な剣士と判断。その上で、歩み、立ち振舞ふるまいから、まあまあのレベルと認識。怪我をさせない、それだけを意識した。


 修行の過程で、自分がメイストームに挑むようなものだろう。たまには、こうした立場になる事もあろう。オウザは、そんな事を考えていた。



 シェルドの言葉に嘘は無い。彼はここフイナの城門近くに毎日粘り、強そうな相手と見るや勝負を挑む、剣国における極普通の剣士だ。たまに門衛に追い払われる事も含めて、ちょっとした有名人であるのも間違いない。


 では、腕前はどうか。




 靴を脱ぎ捨て、裸足になったシェルドが、木刀を正面に構え、オウザに近寄る。隙は無い。良い構えだ。


 オウザも裸足だが、特に動きは見せない。土の感触に、新鮮な気持ちになりながら、シェルドの動きを見ていた。


 軽鎧。獣皮と鉄線で編み上げた斬撃避けの鎧。完全に剣士と戦う事だけを想定した男。


 だが、残念ながら。



 オウザは一瞬でシェルドの真横に入ると、シェルドの木刀を叩き落としざま、返す刀を首筋にそっと近寄せた。


「・・・」


「決着、で良いっすかね?」


 呆然としているシェルドに、オウザが声をかける。オウザの声には、震えや強い語気などは無かった。完全な平常で、本気の剣客の剣を無力化してのけた。


 そのレベルに到達しているオウザにとって、シェルドとの対峙は、心躍るものではなく、旅先でのちょっとした触れ合いでしかなかった。



 ただ、その後の展開は、オウザにもネイキッドにも予想出来なかった。


 悪党というわけでもないが(それなら門衛なり兵なりに捕縛されている)、はなぱしらが強く、腕前もフイナでは上位に位置するシェルドが敗れたのは、剣場に集まっていた武芸者には衝撃だった。


 ゆえに、その場の全員がオウザに試合を申し入れて来た。


 結果、30人ほどの剣士を全員叩き伏せ、オウザとネイキッドはその場を後にした。


 無論、オウザは誰にも重傷を負わせていない。打撲、打ち身程度で済ませた。


「あの!どこかの師範さんなんですか?」


 と。オウザと似たような年頃の剣士に問われた。


「いえ。自分達も弟子の身分っす。今は武者修行の旅の途中っす」


「お弟子さんなんですか。失礼ですが、お師匠様のお名前を聞いても・・・」


「全然構わないっすよ。師はメイストームって言います」



オ オ


 どよめきが起きた。


 メイストーム??


 それは。その名は。


 我が国の剣王ユーベルをしのぐ、人類最高の男。人格はともかく。



 半信半疑。いくらなんでも、かたりか。直接オウザと手合わせした人間でさえ、その言葉は信じがたいものであった。


 まあ、オウザにはどうでもいい事だ。信じようが、信じるまいが。


 己には、なんらの影響も無いのだから。



 少し時間を取られたが、これもまた旅というものか。


 2人は今度こそ宿を求め、ゆっくりと眠りに付いた。



 翌日。


「・・・」


「・・・」


「頼もう!」


 宿の前には、剣をたずさえた男共が、何十人も立ち並んでいた。そして2人が馬車に乗り込まんとした時、声をかけられた。


 無論、勝負の申し込みである。


 師の名に釣られたのか。それともオウザの技量にか。


「・・・オウザに挑みたければ、まずおれに勝ってからにしろ」


 流石に面倒になったネイキッドが前に出て宣言した。


 無手がネイキッドの本義。とは言え、武器を全く使えないわけではない。物心付く前は、よくナイフを使っていたものだ。今でも、小刀は便利刀として重宝している。


 ゆえに、30人からの男を短い木の棒一本で、次々と叩き伏せた。全員まとめて、10分もかかってはいないだろう。


「オウザはもっと強い。お前達では、まだまだ相手にならん。徹底的に鍛え直してこい」


 と。フイナの街を出てからも挑まれても困るので、釘を差しておいた。



「さっきは助かったっす」


「おれも待つ事になるからな。それに昨日は、オウザにばかり働かせた。これで五分という所だろう」


「んー。じゃあ、そういう事で」



 剣国に入るなり色々あった2人だが。


 終わり良ければ全て良し。


 笑って歩める旅路なら、そう悪くもあるまい。



 剣国王都、ブレイズまで、馬車で1ヶ月と言った所か。


 1人なら退屈を持て余す時。


 2人なら。



「あっと言う間に着いた気がする」


「そうっすね」


 到着。



 剣の国で最も強い男が居る場所。


 王都ブレイズ。

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