イルマとヴェルグ。ネイキッドとオウザの成長。
ネイキッドとオウザは、王都に無事の帰還を果たした。実に、3ヶ月ぶりの我が家だ。
「掃除っすねー」
「だな」
まず、掃除。3ヶ月分のホコリが積もり積もっている。旅支度として、家具一切に布をかけ、知り合いにも声をかけて来たから、そこまでひどくもないが。
ネイキッドは伸び放題の庭の草刈り。巨大化を用い、ほんの少しの力を入れると、簡単便利に草が薙げる。ただ、地面も削ってしまうので、やる前に窓を閉めておかないと、大変な事になる。
オウザは魔法掃除機を部屋という部屋にかけて行く。スガモとの共同開発で生まれた最新機器だ。
「あれー?帰ってたんだ。死んだかと思ってたわ」
「失礼な奴だな」
家の周囲を掃除し、近所の人間とも挨拶を交わしていた頃、話しかけて来た失礼な女。
「オウザも無事?」
「当然。今は部屋を掃除している。寄って行け、キンク」
髪を肩ほどで切りそろえた活動的な女。年はネイキッド達と同じくらい。
名はキンク。
この辺りの有力者の子で、近隣住民の問い合わせ窓口としても機能している。
「あたしも親父のお使いで忙しいのよ。今夜にでも、ウチに来なよ」
「今夜は、師匠達と食べるからダメだ」
「じゃあ、明日ね!」
そう言い放つと、キンクは走り去ってしまった。
全く、慌ただしい女だ。
「オウザ。ヨリエさんからおすそ分けをもらった。昼のおかずにしよう。後、キンクに明日の晩メシを誘われた」
「おっけー。なら、肉だけ焼いとくっす。キンクは何て?」
「死んだかと思ってた、と言っていた。あの女はスガモ師匠と同じくらいひどいな」
「そりゃ照れ隠しの意地悪っすよ。ほんとは嬉しいに決まってるっす」
オウザはさらりとそう言ってのけた。
そんなオウザだから、ネイキッドも背中を預けられる。
2人で昼食を片付け、ヴェルグに挨拶に向かう。
「旅に出てなきゃ良いけどな」
「大丈夫じゃないっすかね」
ヴェルグの住居は確かに王都にあるが。向かうのはそこではない。
兵の訓練場だ。
「フッ!!」
「ぬっ」
やはり。
ヴェルグが王都で手合わせ出来る数少ない人間の内の1人。
剣客イルマと戦っていた。
イルマの剣は完全な待ち。相手が間合いに踏み込むまで待つ、カウンタースタイルだ。
魔軍四天王級でもなければ、まともにやり合っても無敵ではあるが、ことに抜き打ちの腕前となれば、それはヴェルグをも上回る。
納刀状態から瞬時に斬り放つその様は、正に閃光。剣速は、天風で更に加速される。
ヴェルグでなければ、相対すると同時に真っ二つだ。
ギイイ
速い、だけではない。
王都で手に入る最高硬度の剛剣が、悲鳴を上げている。
受けた、完全に力を受け流したはずの剣に、ヒビが。
ヴェルグは、まざまざと見せ付けられたイルマの抜き打ちの威力に、感じ入った。
「流石は、イルマ」
「いいえ。流石は、戦士ヴェルグ」
イルマは先の剣に、己の全てを懸けていた。
今、この場で、ヴェルグの命をもらうつもりであった。
だが、弾かれた。こちらは天風を使っているのに、ヴェルグは、使っていない。素の状態で、こちらの全力より、上。
ここまで、差があったとは。
そしてヴェルグは背の剣に触れてもいない。
イルマでさえ、一度もその刀身を見た事がない。
いつか、抜かせたい。それがイルマの目標だ。
傷一つない名剣を鞘に収め、イルマはヴェルグに一礼した。
「お弟子さん達が来ていますよ」
イルマからは見えるが、ヴェルグの立ち位置では見えなかったろう。
ネイキッドとオウザの方に手を向けてやる。
「おお。イルマ、手合わせありがとう。楽しかった」
「いえいえ。また、お願いしますね」
「こちらこそだ」
パチパチパチパチ
修練場全体から拍手が巻き起こった。
この場に居た者達は、せっかくなので最強格の剣士と戦士の稽古を見学していたのだ。
美女と野獣。見た目は正反対ながら、どちらも人を超えた達人。
誰もがこの領域に到れるかと言われれば難しい。だが、見知っておく事は無駄ではない。
知っていれば、どのように対応するかも決められる。目指すのも諦めるのも自由だ。
ヴェルグは弟子達との再会を喜び、夜の予定を決めた。
夜まで、ネイキッドとオウザは、修行の成果を見せる。
ちょうど、修練場だしな。
「さあ。来い」
「はい」
「はいっす!」
2人がスガモとの修行で得たものを、更に根付かせる。
周囲の兵は、イルマとの試合の時より更に距離を取る。
用意は出来た。
ヴェルグは新しい剣を構え、ネイキッドはいつものように素手。そしてオウザは、杖を構えている。
それを見て、ヴェルグは心を引き締めた。
ネイキッドとオウザは頷き合い、まず、ネイキッドに強固をかける。ゆっくり攻める。
いきなり突っかけるのは、愚策中の愚策。
素人相手ならともかく、ヴェルグなら見ていなくともカウンターを平気で取る。死ぬ可能性が高まってしまう。
これが実戦ではなく練習である以上、ヴェルグから攻め立てる事はない。慌てなくて良い。
巨大化。ネイキッドの使うそれを見て、ヴェルグは楽しみと同時に、違和感を感じた。
小さい。
普段のネイキッドなら、全身か身体の一部が極端に肥大化するはず。そして超常的な力や速度を得るのだ。
それが今は、通常時の2割増しと言った所か。
「フッ!」
呼吸1つで、ネイキッドは飛び込んで来た!
速度はそこまでではない。少なくとも、全速力のネイキッドには及ぶべくもない。
が、天風を使っていないヴェルグになら、相手にならなくもない。
キイ
本気ならともかく、普通に振るっている状態なら、ネイキッドはヴェルグの剣を受ける事が出来る。
もちろん、巨大化を使っていれば、だ。
動きに、柔らかさがある。
ヴェルグは一合で見極めた。
以前のネイキッドなら、巨大化の威力で以って、最高速度での殲滅を重んじていたはずだ。ヴェルグが、そう育てたのだから。
戦闘で余計な時間をかける事は、自らの勝率を著しく下げる事につながる。敵に増援が来る前に片を付けたい。
ゆえに、速攻を教え込んで来たのだが。
ネイキッドの右打ち込みを軽く左に逸らす。
キン
速い、が、甘くない。速さと鋭さが同居している。以前のネイキッドの打撃ではない。
ちゃんと鋭い。
イルマ並みとまでは言えないが。
もう、子供扱いは出来ないレベルだ。
イ
これも。
ヴェルグはオウザの走行を斬り払いながら、しみじみと成長を喜んでいた。
以前のオウザの走行は魔力こそあれど、集中が甘く、どっちつかずの密度だった。つまり、破壊するのか押し込むのか、この走行には何の意味があるのか。そこの詰めが甘かった。
メイストームは多分、魔力量の成長によって全てが解決すると思っていただろう。奴自身と同じように。
だが、スガモとの修行がオウザを変えた。
己を遥かに凌ぐ魔法使いとの出会いは、オウザに良い影響を与えたようだ。
ありがとうございます。師匠。
ヴェルグは心で師に、友に感謝を述べつつ、弟子達をブチのめして行った。
修練とは言え、訓練とは言え。
ネイキッドは全力でヴェルグを殺しにかかっていた。
のどもとを狙った貫き手、足を薙ぐ蹴り、そして巨大化で威力を集中したあらゆる打撃。
その全てを本気で打ち込んだ。
オウザも、そうだ。
鍛え上げた魔法をふんだんに使ったのは、見せるためではない。
倒すためだ。
それでも。
「良い攻めだ」
師、ヴェルグは苦も無くさばく。
まるで、3ヶ月の修行が何の意味も無かったかのように。
それで、2人の意気がくじけた、かと言うと。
まあ、それも、無い。
強い。
改めて分かる。
3ヶ月の間に倒した土人形の数は百を超える。
それでも、その全てを合わせたより。師の方が、強い。
ネイキッドはただ、憧憬と尊敬と好意を持って殺傷行為を繰り広げた。
己の全てを以って。
ネイキッドに釣られるように、オウザも魔力を高める。
魔法使いが最も警戒すべき敵、戦士のその頂点。その男が、目の前に居る。
これで勉強出来なければ嘘だ。
「オオ!!!」
オウザが大声を出すと同時に電撃を撃ち出す!
発声はネイキッドに防御させるための合図だ。これで、ヴェルグのみが数百の電撃の閃光に目をやられる。
だが、もちろん、ヴェルグはそこまで甘くない。
良い戦術だ。
ヴェルグは手放しで褒めた。
目を閉じたまま、ネイキッドの打撃を打ち払いながら。
オ!
ネイキッドは目を閉じたヴェルグに全力の巨大化を食らわせた!
いかに師匠がケタの違う怪物だろうと!全て押し潰せば関係無い!!
先の左手のフェイントに続いてだから、ヴェルグさんが右を予想するのは当然。だが、そこで打ち込まれるのは、頭上からの全開。
オウザは直撃を予期したが。
キ
目を閉じたまま、ヴェルグは上方からの圧力に備えた。
周囲の空気が逃げる。ネイキッドの左腕からの攻撃以外での空気変動。上だ。
そしてそれは、決定的な一撃でなければいけない。
ここでフェイントを仕掛ければ、確かに意表を突く事が出来る。
しかし、それではオウザの魔法が全くの無意味になる。二重のフェイントの間に、こちらの目を開ける暇が出来るからだ。オウザは、もう撃てない。次が無い以上、ここで終わらせるしか、ない。
威が来る。
脅威ではない。怖くもない。
だが。
良い意思だ。
ヴェルグは、口元の笑みをこらえきれなかった。
キイイイイ、イ
全力で打ち込んだはずの右掌が、ヴェルグではなく、地面を叩いた。吸い込まれるように、腕が流されたのだ。右手に引きづられて、体も崩れる。
前のめりになった所で、腹を蹴られた。
「お・・・」
巨大化を使っていればともかく、巨大化は右腕に集中しきっていたのだ。
完全に意識の無かった腹筋は容赦なくえぐられ、ネイキッドはひたすらに嘔吐を抑えた。
そしてオウザが剣を向けられる。
が。
「お願いします!」
杖を持ったまま、突っ込んで来た!
杖の握りじゃない。ヴェルグは初見で見抜いた。
通常、杖術というものは、両手で用いる。杖は、棒にもハンマーにもなり得る接近戦用兵器。だが当然ながら、まともにやり合えば、最初からフルメタルの刀剣や、リーチに優れる槍には勝てない。
杖は携帯を想定して作られた道具だ。なんなら丸一日持ち歩くのだ。「軽く」て丈夫でなければならない。
ゆえに、杖単体ではどうしようもなくパワーを欠く。常人ならいざ知らず、戦士が、片手で持った木の棒で叩かれて意気をくじかれるものではない。しかも、軽いのだ。護身具としての意味合いの強い杖は、はっきり言ってナイフにも劣る殺傷能力しか持ち合わせていない。それを補うために金属加工した杖などもあるが、重量バランスから見て、オウザの杖はそういったものではない。
ならば普通の杖として、両手でのグリップが要求される。片手の腕力のみで鎧兜をまとった兵を止めるのは、それこそヴェルグでもなければ、無理だ。
そして今。
オウザは、右手一本で杖を握り、走っている。
仕込み杖か。
ヴェルグはそう結論付けた。
スガモからヒントを得たのか知らないが。悪くない。
オウザなら天風を用いれば、魔力回復の時間稼ぎくらいは容易にやってのけるだろう。
仕込み武器の常として、通常兵器より細くもろいという弱点もあるが、オウザには上手くやれる器用さがある。
ザ
オウザはヴェルグの攻撃範囲ギリギリで静止。この距離なら、ヴェルグが前に出なければ、お見合いだ。
そしてここで動く!
コ オ!!
ほう。
ヴェルグは冷や汗をかきつつも、なんでもないような顔でオウザの攻撃を受け止めた。
斬撃を予期したヴェルグは、斬り合いに身構えしていた。
だが、そこで撃ち込まれたのは、閃光。
電撃は使えなかったはず。オウザは先ほど、全力を出しきってしまっていた。
なら、これが、オウザの奥の手か。
共振頼。
オウザがスガモの教えを受ける中で覚えた技巧の1つ。
スガモは、オウザに実戦のテクニックだけではなく、パーティの役に立つための魔道具の作り方も教えてくれた。
これは、その中の1つ。魔力を使った武器だ。
オウザとネイキッドがスガモへの手土産として持ち込んだ雷王の死骸。その体から取り出した骨を用いて加工した仕込み杖。
杖本体は雷王の骨を使い、握りやすくするために布を巻いている。この布も魔力糸から編み上げた特別製だ。おかげでオウザは裁縫の腕前も向上した。
そして刀身もまた、かつてヴェルグがしてもらったように魔力加工を施している。これもオウザが自ら仕込んだ。
そして出来上がったのが、共振頼だ。
杖としてもオウザの魔力を強化可能。更に剣もヴェルグの使用していたものと同格。
これでオウザは魔力強化の手段と新武器の2つを手に入れた。
だが、ここまでが共振頼の全てではない。
強化した魔力は、共振頼に巻き付いている魔力布にも蓄えられている。
即ち、一発ぐらいなら、オウザ自身が魔力ゼロの状態でも、撃てるのだ。花蜜があるからな。
先の仕込み杖の抜き打ちと見せた攻撃は、実は電撃を至近距離で撃つための見せ技。
その直後、本命の抜き打ちがヴェルグを襲う手はずであった。
しかし、ヴェルグは、反応した。
確かに不意を突いた電撃は一瞬ヴェルグの目を潰した。
それでも、ヴェルグの剣は、オウザの剣を弾いた。
危なかった。
危うく、力を入れてしまう所だった。
ヴェルグは、ちょっと荒くなった呼吸を整えた。
愛弟子達を、自分の手で傷付けかけたのは、ヴェルグにとって、それなりにショックだった。
無論。己が傷付けられる事は、有り得ない。
弟子達には悪いが。
この身を壊せるのは、おれより強い者のみ。
まだまだだ。
「よく無事で戻った。2人とも、成長したな」
「はい!」
「はい!」
ホコリを払ったネイキッドと、剣をしまい元の杖に戻したオウザは、やっと帰還の挨拶が出来た。
「色々な話を聞いてみたいが。それは夜だな」
ヴェルグの言葉通り、夜を待つ。それまでは装備品、道具の新調だ。
オウザは新しい武器を手に入れたが、それだけを頼りにするのは怖い。
ヴェルグもさっき壊した剣を再利用に回したい。
ゆえに、武器屋に向かう。
場所は修練場の一角。武器庫前に販売所がある。
ヴェルグなら、なんなら武器庫から直接持ち出しても問題無いだろうが、あまり兵に良い影響を与えられない。
「これを」
普通、壊れた武器は回収箱に置いておけばそれで良い。だが、ヴェルグの使った物は、最高製品。扱いが違う。
「イルマとの試合で壊した。あいつの天風込みの抜き打ちを受け止めても、断ち切られはしていない。また同じ物が欲しい」
「はい!ありがとうございます!」
売り子から奥に連絡が行き、同じ剣が来た。
「ありがとう。バジンにも礼を言っておいてくれ」
剣の名は、バジー。製作者であるバジンが付けた。
ヴェルグとも、もう長い付き合いだ。
ネイキッドも武器を見てみる。まあ、いつものように、何も無い。巨大化が前提の戦法を取るネイキッドには、普通の剣は使えない。
ヴェルグの用いる最高の剣であっても、一撃で粉砕してしまう。
徒手空拳を専門的に鍛え上げて来たため、ネイキッドには剣の技量もない。
そして言うなら、剣を大事に優しく扱わねばならないようなら、そんな剣は要らない。
敵、それも最低でも鋼鉄を弾き返すような化け物との戦闘を想定しているネイキッドには、そのレベルが要求される。
オウザもズラリ並んでいる武器を品定めしている。
オウザの剣の腕前は、直接戦闘でネイキッドの素手を相手に、分が悪い、と言った所だ。
つまり、めちゃくちゃ使えるのだ。
巨大化を使ったネイキッドが相手で、剣のみで勝率を拾えるというのは、端的に言って達人級だ。
それでも、オウザが扱える剣もまた少ない。
これはオウザの天風、貫風の影響だ。貫風はその性質上、細い剣ほど有利に使える。ヴェルグの用いる剛剣などでは、貫風を十二分に発揮出来るかと言うと、難しい。
が、この国では、あまりにもヴェルグやメイストームの影響が強すぎ、そんなタイプの剣は少ない。多いのは、骨太の剛剣に、しっかりとした作りの長剣。重さと堅実さを優先している。
結局、剣を手に入れたのは、ヴェルグのみ。
それで各々帰宅し、夜を待つ。
街灯が明るく道路を照らし、ライトアップされた結界が天を照らす。
王都の夜が来たのだ。
「こんばんわ」
「こんばんわっす」
「いらっしゃい」
「よく来た」
夜会服に身を包んだネイキッドとオウザが、ヴェルグの家にやって来た。
料理を作ってくれたのは、ヴェルグの妻。イセだ。
牛肉のステーキ、季節の野菜のサラダ、季節の果物の盛り合わせ。そして菓子宮廷ソプルのチーズケーキ。
人里でしか得られない食べ物に舌鼓を打ち、2人はようやっと人心地ついた。
「しばらくは2人とも王都に留まるの?」
「はい。そのつもりです」
「しばらく剣術のトレーニングを怠ってましたっす。また師匠かヴェルグさんに鍛えてもらおうと思って」
「そうか・・・」
3人は、思案げなヴェルグを見て顔を見合わせた。
ヴェルグとイセは、2人の弟子の話を楽しく味わった。ただ、スガモの語ってくれたヴェルグとメイストームの思い出話の段になると、さしものヴェルグも苦笑いが精一杯であった。
「そういや、師匠はどこ行ったか知ってますか?」
「いや、分からんな」
このヴェルグの答えは、正しいが、全てを教えたわけではなかった。
「ただ、奴は奴で動いているようだ。フル装備を整えて王都を出て行ったからな」
「そう、なんすか」
極端な話。
魔王の倒れた今、勇者は昼寝でもして過ごしていて良い。死ぬまで働く必要は無い。
既に、一生分は働いた。
それでも、メイストームの勇者の称号はそのままにある。
ならば、まだこの世界は、勇者メイストームを必要としているのだ。
メイストームはそれを肌で感じていたし、仲間達も、なんとなく知っていた。本当に、なんとなくだが。
メイストームが意味もなく選剣を帯びるとは、仲間は誰も思っていない。
奴は、そんなまともな人間ではない。
料理が終わり、茶をすする時。
ヴェルグは言ってみた。
「お前達だけで、旅をしてみるか」
「おれ達だけで」
「マジっすか」
ネイキッドとオウザは並大抵の兵を超える腕前を持っていると、各々が自負している。
それでも自分達だけで旅した事はない。
「お前達の武器を手に入れるためには、剣国に向かうのが良いだろう」
剣国。
剣王ユーベル率いる世界最強の剣士隊を持つ強国、ディオソア。兵の斬り合いの実力に限るなら、本当に比類ない大国だ。
魔軍の侵略を防ぎきった実績も相まって、剣国には更に人が増えている。当然、より強靭な兵や強力な武器も。
「その後、勇国、魔国など巡ってみるのも良い」
「・・・かなり長い旅になりそうですね」
「世界一周っすね。物見遊山もして来て良いっすか」
「もちろんだ。旅を楽しんで来い」
そして、世界の現状を見て来い。
これが、ヴェルグの真意。
戦士ヴェルグが家庭の味を楽しめるほどには平和なこの世界だが。
心友が動いているのが、ヴェルグの心には引っかかっている。
魔法照明を消したオウザがベッドに潜り込んだ。
隣のベッドで既に寝ているネイキッドは、今日の事をまた話に出してみた。
「剣国には、良い武器があるかな」
「きっと、いっぱいあるっすよ。イルマさんの得物クラスは、ともかく」
そう、剣国は、剣客イルマの故郷。
「イルマさんに、武器屋の当てとか聞いてみるか」
「うん。明日にでも・・・」
「オウザ?」
返事はない。寝たらしい。
魔法掃除機をかけて、ずっと掃除をしていたから、疲れたのだろうか。
オウザは新たな力を得た。
それは、新しい杖という単純なものに留まらず、魔力布の作り方使い方、そして杖の作り方。
ネイキッドも多少は学んだが、主な作業は土人形の作り方だった。魔力布は、ネイキッドでは扱えない。
更に致命的なのは、ネイキッドは土人形の素体は作れるようになったが、結局はスガモかオウザに魔力を込めてもらわなければ完成させられない。
世界最強の魔法使いとの訓練は、とても素晴らしい経験を得られたが。それはオウザも全く同じ。
ちょっと、差が開いてしまった。




