勇者と王子様と魔法使い。
いつもの格好。勇者の鎧を身に付け、選剣を腰に帯びている。
スガモは疑問に思った。
「なんであんた武装してんの?」
「そりゃあ勇者様だからな」
「誰にも言われずにあんたが戦うわけないでしょ。てっきり裸で来ると思ってたのに」
「うるせえ」
メイストームは質問には答えず、襲撃者を見ていた。
「で?」
「見覚えは?」
「知るわけねえだろ。女ならともかく」
「役に立たないんだから」
「て言うか、なんでおれを呼んだんだよ。もう、「読んだ」んだろうが」
「そりゃそうよ。でも、あんたが知っているなら、手間も省けるでしょう」
拘束で身動き出来ぬ賊を目の前に、2人はゆったりとお喋りに興じていた。
「名前はユリスト。剣国ディオソアの・・・王子様ね。どうやら私の魔力で世界の不安定な状況を収めたいみたい」
「不安定な状況?なんだそりゃ」
実はメイストームはユリストと過去に会っているのだが。本人は全く覚えていなかった。
「魔王無き世界で、最も魔力量の高い私に、この世界の全ての魔力が集まろうとしている。それを防ぎ、世界の魔力を均等にしたかったらしいわ」
「じゃあ、それを言えってんだよなあ。てめえのおかげでこっちは呼び出されたんだぞ、こら」
メイストームがグルグル巻きにされているユリストを蹴り飛ばし、転がし回る。本気で蹴ると体がちぎれるので、かなり手加減している。
「・・・あ?剣国?そいつが、魔法使いも連れずにどうやってここまで」
「彼が、その魔法使いよ」
「んー?ディオソアの王族は例外なく剣士、戦士じゃなかったか」
「あんたの脳みそでも覚える事は出来るのね。そうよ。だから彼はそこにコンプレックスを抱えている。わざわざ私をたった1人で倒しに来たのも、それが原因ね」
この時、ユリストは心をズタズタに引き裂かれ、スガモもそれを知っていたが。放置。
「国をまとめるのも放棄。仲間もそろえられない。あまつさえ命を狙った相手に助命されているこのクソガキが、王子様ねえ。ディオソアも長くねえな」
スガモも、そう思わなくもない。
が、その動機にどのような不純物が混ざっていようと、彼は邪悪な存在ではない。
ゆえに、命だけは助ける。
「話を聞きましょう。もっと詳しく。あなたは何を知って、どうして、いきなり私の殺害を思い至ったのか。ああ、それと、次は殺すから」
スガモは拘束を解除、ユリストを自由の身にした。
手足が動くようになっても、ユリストの心はへし折れたままであった。
「話す事はない。殺せ」
抵抗も、諦めたようだ。
この時、メイストームはさっくりと殺すつもりになったが、スガモが止めた。
「なら、私はディオソアを焼く。ディオソアの王子のあなたが私を襲ったという事は、剣国ディオソアには、私に対する殺害行動の意思があると認める。私は死にたくない。ゆえに、ディオソアにこそ死んでもらう」
「おれも止めない」
当人の自覚はともかく。勇者の言葉は重い。
このままでは、真剣にディオソアは消される。
ことに、スガモに実際に国を滅ぼした過去があれば、なお。
ユリストは悩みながらも、話し始めた。
「・・・・私は、確かに剣国ディオソアの第一王子、ユリスト。生まれつき魔力があった私は、魔剣士の道を志し、実際に悪くない腕だったと自負している」
メイストームは嘘だと断じた。スガモには、それが本当だと分かっていた。
「だが、私は呪いを受けた。二度と剣を握れない身となってしまった。そしてその呪いを解いてもらうために、あなたを殺す約束をした。以上だ」
ユリストは、スガモを真っ直ぐに見てそう言った。
死ぬ気はあるようだ。
「おれは、そいつを探せば良いのか?」
メイストームはユリストではなく、スガモに聞いた。
「そう言う事ね」
スガモの読心の魔法でも、当人の知らない事までは見通せない。
ユリストに呪いをかけた者。それが、真の犯人。
スガモの魔法でも、なんとなく程度の探りしか入れられない。
つまり、この犯人は、ユリストからバレる事も想定して、送り出している。
剣国関係者では、ないか。
「あんたはディオソアに戻っても問題無いの?」
「黙って出て来たので、お叱りは受けますが。なぜ出て来たのかは誰にも説明していないので、問題というほどの事は」
本当に、国に味方が居ないようだ。スガモですら、ちょっと同情した。
「メイストーム」
「あいよ」
ユリストは、意外な気持ち、あるいは裏切られたような気分であった。
勇者。
その称号を持つ者は、人類全てのために働く者。
いかにスガモが超越した魔法使いであろうが、たかが1人の魔法使いのために、勇者が動くのか。
ユリストは、ちょっとがっかりした。
そう。
勇者は、全ての人の希望。
何も間違ってはいない。
だから、動くのだ。
スガモは、ユリストの誤解をあえて解きもしなかった。
剣国の王子にして、事態の当事者ではあるが。
ユリストに、そこまでする価値は、まだ無かった。
「一応、ここの場所とかは口外しないで欲しいのだけれど」
「承知しました。あなたを殺せなかった以上、私にはもう、何もやるべき事は無い。黙っていましょう」
確かに。予想以上に、優しい。失敗すれば最低でも死。もしくは実験材料か何かに使われるのだと考えていた。
勇者であろうと、仲間のために戦ってはいけないルールも無い、か。
ユリストは考え直した。
「じゃーな」
「お邪魔しました」
メイストームは、今までにスガモが貯め込んだ霊薬一式を受け取って帰る。ユリストも帰るまでの間に必要になるだろう魔力結晶をいくつかもらった。
1人になったスガモは、これからの展開を考える。
どうやら、剣国を焼いて解決するほど簡単な話ではない。
自分に敵対する者が居るのは、問題ではない。恨まれる覚えは、星の数より多い。
だが、今回は事が大きすぎる。
剣国は、魔軍四天王が1人、魔剣士エリュティシオンからの侵攻を防ぎきった強国。あまり重用されていなかろうと、その懐の中に居る王子が操られた。
魔軍は、もう存在しない。
かと言って、生半な人間が入り込めるほど、ディオソアは甘くない。
敵の正体と勢力が不明。
しかし、最低でもスガモの魔法の一端を知っている。
今までスガモが関わって来た人間の中に居るのだろうか。
それとも、魔族の生き残りか。
スガモの死は、人間にも魔族にも意味のある事象だ。
しかし、魔族が犯行に及んだ可能性は、限りなくゼロに近い。
仮に、四天王級の者が、人知れず生きていたとしよう。
それでも、スガモだけは絶対に襲わない。やるなら、ヴェルグかヤヨイ。あるいは勇者。
魔族は生まれた瞬間から、魔力と共に行きている。
その魔力を、自分を遥かに超えた領域で操るスガモに、実は人間より魔族の方が敬意を抱いている。そして、恐怖も。
だから、歴代の魔王達はスガモを殺すのではなく、勧誘に来たのだ。
元々、スガモが魔族との敵対行動を積極的に取らなかったのもあり、穏やかな関係でさえあった。
魔王と戦いそして倒した今でも、スガモを襲う気配は無かったのだ。
一応、スガモは警戒して討伐後は結界を強化していたのだが。
だからと言って、人間の可能性も、かなり低い。
ネジの飛んだ人間がスガモを襲撃する事は有り得る。今までも何度かあった。
しかし、この規模の事態を動かせる人間には限りがある。
各国の有力者か、もしくは彼らに知られている存在。
・・・もしも。
それ以外の、全く知らない人間だったなら。
それは。面白いな。
スガモの顔には、かつてメイストームが恐れた笑みが現れていた。




