何から何まで頭が痛いです
色々と気になることが多いものの、今回の一連の事件は主に僕のやらかしからきているわけで。
僕は改めて居住まいを正し、丁寧に頭を下げた。
「僕の考えなしで、ご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」
目一杯誠意を込めてお詫びの言葉を口にすると、眞琴さんは何故かふっと笑った。
「うん、そうだね。私も最近忙しくて、涼平の面倒をあまり見られなかったから、おあいこってことにしておいて」
「ええ……いや、それはなんか……」
流石に気まずくないかと眉を下げる僕に、ノワールは溜息をついた。
「それはそうと、何故お前は道に落ちていた猫又を拾おうなどと思い至ったんだ」
「へ? ……あ」
なんで今更、と首を傾げかけて思い出した。そっか、あの鬼狩りの話をメインにしたもんだから、拾った経緯については省略したんだっけ。眞琴さんにはすでに話していたし。
「雑鬼たちが拾ってきたんです」
「……は?」
とても胡乱な相槌が返ってきた。わかる。
「雑鬼たちが親切のつもりで、僕が寝てる間に運び込んできました。一応説教はしたんですけど、どの程度あいつらの頭に残っているかは、ちょっと……」
僕は視線を泳がせながらも正直に答えると、ノワールはしばし沈黙し。
「……まず、そいつらを追い出すところからじゃないのか」
ど正論を吐いた。
「いやーなんか、最近すっかり居着いちゃって……ジャックの監視っていう大義名分も出来ちゃったからか、四六時中くつろいでて……僕も今更追い出しづらいというか……」
あははと笑って誤魔化すと、ノワールは静かに目を細めた。あっ知ってるこの顔、ちょっと前に鬼狩りにされた顔だ。あんまりそっくりな反応で、似てる顔でもないのに早々に連想してしまった。
『別に問題なかろうもん』
「「……は?」」
「あ、こら」
お口チャックって言ったでしょうと横目で睨むも、ジャックはどこ吹く風だ。ほらもう、お向いから綺麗にハモった疑問符が飛んできたじゃないか。
『あいつらはご主人の味方やし、特に鬼気が悪影響を及ぼしてる様子もないやんか。というかご主人の側にいることで抑えられてるけんが、追い出す理由もなかよ』
「……ちょっと待ってもらえるかな。涼平?」
「これについては僕のせいじゃないよ……?」
再び額を押さえつつ僕に目を向けてきた眞琴さんに弁明しつつ、僕は聞いたままを伝えた。
「ここ数百年は福岡の太宰府辺りにいたせいで、すっかり博多弁コテコテみたい。それまでは高千穂にいたらしいけど」
「……高千穂?」
「あれ言わなかったっけ。元々は鬼八? っていう鬼だったらしいよ」
魔女様が、再び顔を両手で覆ってしまわれた。
「……お前、魔女の心臓を止めたいのか」
「滅相もない」
「よりにもよって神話に残るクラスの鬼だと後から聞かされるのは、流石に俺でも同情するぞ」
なんとも言えない顔でノワールに指摘されて、僕は視線を泳がせる。
「いや……その、鬼狩りからは、さらっと教えられたし……この口調で、全てが飛んだというか……」
「……。あいつに詰められていた最中に、この方言が出たのか」
ノワールの含んだ口調に込められたものを理解して、しっかりと頷いた。
「空気が死にました」
「だろうな……」
ものすごく複雑そうな顔で相槌を打って、ノワールは溜息をついた。未だに顔を覆ったままの眞琴さんをチラッと見てから、僕に向き直る。
「まあ……今回の惨状を見るに、お前は道を誤る以前の問題という気もしないではないが」
「本当にごめんなさい」
「鬼の正体に気を取られたが、そいつが言っている事も大概だぞ。雑鬼が相手とはいえ、鬼気を抑えるというのは一体全体どういうことだ」
「僕が聞きたいんですけど……あ」
ふと思い出してしまったのは、梗平君が前に提唱していた「魔王の魔力砲によってばら撒かれた瘴気の影響を雑鬼が受けていないのは僕のせいかも」説だ。マッドサイエンティストの目になっていたくらいだし、今回のこととも関係があるの、かも、しれない。
「今度はなんだ」
「あー、いやー、僕の気のせいかな……?」
けど、この場では言えない。何せ僕は魔王の襲撃も百鬼夜行も無関係で逃げていたはずの一般人、というていで眞琴さんと接しているのである。百鬼夜行の話はまだジャックに聞いたで誤魔化せるけど、魔王襲撃については何故知ってるんだ案件になってしまう。まずい。
半笑いでどう誤魔化そうかと言葉を探す僕に、ノワールがすいっと目をすがめた。あ、これはやばい。剣呑な気配がするぞ。
ここ最近あんまり役に立っていない危機察知アラームが反応したのを感じて、僕は全力で頭と口を回転させた。
「いやさっきの帰り道でジャックに聞いたんですけど! 百鬼夜行の時って鬼と名前がつけばみんな殺気立って暴れるもんだよって話の割には、うちにいる雑鬼たちはいつも通りののんびりまったりくつろいでたのは何か関係あるかなあって思いました!」
「……ほお」
ものすごく胡乱な目で睨まれたものの、とりあえずそれ以上の追求をするつもりはないらしく、ノワールは剣呑な気配を引っ込めてくれた。よし、多分セーフ。
なんだかちょっと怪訝な視線を隣から感じるけど、ジャックには後でおやつと共に口止めをしておかねば。そう決意しつつ、僕はノワールの続く言葉に耳を傾けた。
「関係はありそうだな。鬼を使役する以上、鬼の力を増幅する一方で弱体化する術があって然るべきだ。無意識に使っているとすれば、それはそれで問題だが」
「問題?」
「無意識に増幅する可能性もあるということだろう」
「……なるほど」
厳かに頷いた上で、僕はぴっと手をあげた。
「その辺は、魔女様としっかり見直していきたいと思います」
僕一人で手に負えるわけがないので、悪いけど眞琴さんには全力で助けてもらおうと思う。本当に申し訳ないんだけど、背に腹は変えられないのだ。
僕のキッパリとした発言に微妙な顔をしつつも、ノワールもそれしかないと分かっているのだろう。なんとも言えない顔で頷くと、ソファから立ち上がった。
「……まあ、鬼狩りと魔女がいるならどうとでもするか。俺は関与しないから、人的被害を出さないよう注力するんだな」
「それはもう、何においても最優先で頑張ります」
僕だってそんなの冗談じゃない、と真剣に頷くも、ノワールは眉を寄せた。
「とりあえず、お前はその人を食ったような態度を改めた方がいい。よく奴に足蹴にされなかったな」
「土下座したら踏みたくなるからやめろって言われました」
「……そうか」
微妙に遠い目で相槌を打つと、ノワールは僕たちから数歩離れて、足元に魔法陣を浮かべた。転移魔術だ。なんか見慣れつつあるのが嫌だな……。
巻き込まれないようにちょっと体を引いた僕を横目に、ノワールは魔女に一声かける。
「依頼の魔道具についてはまた連絡する。それまではこっちに集中していろ」
「……うん。今後ともご贔屓に」
微妙に力のない返事になんともない表情を浮かべて、ノワールは去っていった。




